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リアクション
ララ・サーズデイ(らら・さーずでい) クド・ストレイフ(くど・すとれいふ)
探偵稼業というものは、世の中の隠された面に土足で踏み込むような仕事だとつくづく思うのだが、どんなに暗い場所へゆき、汚れた人物と会ったとしても、私自身がけがれなければ問題は、ない。
私の内なる光がそんな暗所を照らし、闇に蠢くものどもを蹴散らすことができればなおよいな。
更生不可能な囚人たちが収容された、コリィベルは、まさに世の暗部の集合体だ。
だからこそ、私はいつもよりもさらに華麗に優美に輝いていたいと考える。
薔薇のように生きてこその人生だ。
そうだろう?
メメント・森の独房で目的のものを入手した私は、さらに情報を得ようと、周囲の牢に聞き込みを行った。
「やあ。君は契約者らしいな。探偵の私と話をしてくれないか。
話題はそう、メメント・森についてなんだが、それ以外にもおもしろい話があれば、極力歓迎するつもりだ」
通路からの、私の友好的な呼びかけに牢内の青年は、なぜか、ズボンを脱ぎはじめた。
「君はそういう性癖の持ち主なのかい。
君の下半身にとりたてて興味はないが、ここでは私は部外者だ。君の流儀を尊重しよう。
自由にしてくれたまえ」
「お兄さんのあいさつを気に入っていただけてうれしいです。ええ。好きなようにさせてもらいますよ。
マジェで、英国趣味のお姉さんたち相手に楽しくやっていたつもりなんですがね、気がつくとこんなところに放りこまれていたんですよ。
いいですけどね。人生、山あり谷ありですから。お兄さんは多少のことではくじけない由緒正しき(変態)紳士ですんで」
「ふむ。
紳士にもさまざまな御仁がいるのは、私も知っているさ。
名乗るのが遅れたが、私はララ・サーズデイ(らら・さーずでい)。
薔薇十字社の探偵だ。格子の中の紳士殿。以後、お見知りおきを願いたい」
胸の前に片腕を置いて、私は一礼した。
儀礼とは自らを装う衣服のようなものだ。だからして、私はどんな時にも、礼儀をまとわずに人と会ったりはしない。
「こちらこそ、よろしくですよ。お兄さんは守備範囲の広さもウリですから、男装の麗人のララさんも、もちろんバッチリ好みです。
お兄さんは、クド・ストレイフ(くど・すとれいふ)と言います。(変態)紳士が必要な時はいつでも呼んでください。
遠慮はいりませんからね。はい」
「悪いが顔をそむけたまま、話をさせてもらうよ。紳士殿。
客人の前でその身のすべてをさらけだす君の作法は、私にはどうにも馴染みのないものなのでね。
刺激が強すぎるんだ」
「どうぞ。楽になさってください。
お兄さんはいつでもマイペースなんですよ。すいませんねぇ」
彼は、ズボンを膝までおろし、下着をだした格好で、今度はシャツを脱ぎ捨てた。
「ところで、失礼かもしれないが、なぜ、君はそんなことをするんだい。
牢の中でのストリップは、ララには意図が不明すぎる」
「いやぁ、お兄さん自身の趣味でもあるんですけど、お姉さんにも喜んでもらえるかと思いましてね」
体のむきをかえ、彼は私に裸の背中みせる。
意外にも、かなり鍛えられた感じの、いくつかの古傷のある、引きしまった背には、メメント・森の背にあったのと同じく、植物性の染料で描く、時間の経過とともに自然に消えてゆく刺青、ヘナタトゥーがあった。
『セレマ団に近寄るな』
「これは、誰に彫られたんだい」
「さっぱり記憶にないんですよ。いつの間にか彫られていたんです。
自分では手の届かない背中ですからね。どなたかがご親切にやってくれたと思うんですが、お兄さんもつい先日、人から教えていただくまでは知らなかったんです。
たまたまお兄さんの牢屋の前を通りかかったお姉様だったんですけど、お兄さんはすべての女性の方に常にサービス全開ですからねぇ、ええ、とりあえず、上着を脱いでオープンハートなところをみせようとしたわけです」
つまり、私に限らず、君は誰にでも裸体を披露しているのか。
愉快な人だ。
「黒のゴシックロリータのドレスで、カカトの高い靴を履いたそのお姉さんは、整ったきれいなお顔をしてました。
青白い肌とショートの黒髪、小柄ながらも均整のとれた肢体。
みてて、ゾゾゾゾゾっとなんだか寒気がしてくるような美人さんでしたね。
Sっぽい意地悪そうな赤い瞳で、お兄さんを眺めると、彼女は言いました。
わざわざメッセージを残すとは、キミは魔女に目をつけられたらしい。
近く、ここを訪れるはずの探偵諸君にそれをみせれば、素敵な冒険に参加させてもらえるはずだ。
キミが生き残っていれば。
お兄さんが話しかけても、こたえずに行ってしまいましたから、彼女は急いでいたんでしょうねぇ。
というわけもあって、お兄さんは、ララさんに背中をおみせしたんです」
その女? が何者なのかも気にかかるところだが、それよりも私はクド・ストレイフに興味を持った。
森同様にセレマ団とかかわりのあるらしい彼に。
「君の部屋を調べたいな。お邪魔させてもらうよ」
事件はまだ終わっていない、躊躇しているヒマはない。
義手として装着している機晶姫の腕で鍵を叩き壊して、私は独房へと足を踏み入れた。
「おやおや。ララさんは大胆ですねぇ。お兄さんは積極的な女性はもちろん大好きですよ。
お兄さんのなにに興味があるんです」
「さてね、君の背中の文字とくだんの美女の言葉から推察するに、ここには、隠されているはずだ」
「お兄さんの秘密が、ですか」
彼に口で説明しようとしても、話はおかしな方向へいってしまうようだな。
先ほど、森の独房で入手した封筒を私はクドにみせた。
「変哲のない茶封筒ではないですか。中身はなんなんですか」
「魔法の薬さ。
封を開けて、鼻をつけ、思い切り吸い込んでごらん。
ほら、別の世界に行けるだろ。
君の房も、部屋の主が知らないうちに、この薬の取引場所になっているんじゃないか」
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