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Blutvergeltung…導が示す末路

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Blutvergeltung…導が示す末路

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第13章 “欲”が示す末路か story4

「天さん、まさか病原体に!?」
 自分が傍にいない間にやられてしまったのかと、真言が言う。
「気にするな・・・。頭から被ったわけではないっ。私が倒れるよりも先に、・・・やつを倒したいのだろう?」
「えぇ・・・」
 鬼目でフラワシの位置を教えようと、彼らのサポートをしようと下がる。
「こうしている間にも、妖精に逃げられちまう。やれ、ハツネ!」
「分かったの・・・。(殺気看破でハツネが見えてるみたい・・・)」
 王天君を護ると少女はどこから壊そうかと考える。
「フラワシが天さんの後ろにいます!」
「死角ばかり狙うとは・・・っ」
 彼女の声に黒々とした粘体をかわす。
「(あの女の人には見えているの?でも、他の人には見えていないみたい・・・)」
 先に真言を仕留めようかとも思ったが、王天君の傍を離れるのは得策ではない。
「(完全に離れるのを待つ余裕もなさそうだね)」
 ハツネが3人の相手で手一杯なったところを狙い、敦はふわふわ気分で足取り軽く、ふわりふわりと舞い蹴ろうとする。
 血溜まりのような水面から、人の手の形をしたものが少年を捕らえるべく、ぬぅっと伸びる。
 それに触れないようにかわすものの、王天君に傷をつけられず、眉を潜める。
 直実はアルティマ・トゥーレの冷気を鏃に集中させ、王天君の顔面目掛けて放つ。
「オレ様をやりたければ、もっといい手を考えてきな!」
 王天君は刀を鞘から抜き放ち、矢を弾き飛ばす。
「ククク・・・」
 紅水陣の本来の能力を発動するべく、赤々とした人の手のようなものを出現させ、敦たちを沈めようとする。
「うぁああっ!?」
 無数の手に捕縛された少年はドボンッと落ち、水しぶきを被り・・・。
「僕は生ゴミだ・・・残飯以下だよ・・・」
 ボソボソとネガティブな言葉を呟き始める。
「くぅ〜〜っ、何言わせるんだよっ、もう!!」
 だが、予めセルフモニタリングでテンションを上げていたおかげで、すぐに気力を取り戻した。
「蓮生・・・いや、おっさん!その手に捕まらないように気をつけて!」
 うっかり彼の名を呼んでしまった少年はハッとし、慌てて言い直す。
「さっき見たからどうなるか分かっているが、こう数が多いと・・・ぐぁあっ」
「―・・・おっさん!!」
「ナメクジ並みの戦力ですまない・・・」
「しっかりしてよ、おっさん、おっさんは塩かけても死なないじゃないか!」
「そういう問題でもないぞ・・・、弥十郎」
 ネガティブな言葉に呆れ果てた黒龍が嘆息する。
「何だ・・・葛葉。―・・・アレに捕まったらそうなる・・・って、そんなことは分かっているっ」
 惨めな主を見たくないがために、メモ帳に書いた言葉だが、改めて注意されるとなぜか腹立たしく思えた。
「俺たちに逆らってすまないとか言う姿も面白そうだぜ?」
 ネガティブに堕ちた2人に失笑した鍬次郎は、刀の切先を鞘につけて滑らせる。
 シュッ・・・。
 その摩擦で切先が燃え、黒龍に斬りかかる。
「まさかお前まで、紅水陣に入ってくるとは・・・」
「計算外だったか?戦いというものは、あらゆる状況を想定して行動するものだぜ」
 温室育ちのお坊ちゃんでも見るかのように見下す。
「その様子からすると、何かを護るために、1度でも必死になったこともなさそうだな」
 槍でガードされつつも、相手の神経をイラつかせる言葉をわざとらしく言う。
「よせ・・・、マーリン!」
 凍てつく炎で金属疲労を起こさせようと、黒刀を狙っている彼に向って、黒龍が声を上げる。
 一度刀身を燃え上がらせてしまったら、魔法で止めきれる前に仲間の誰かが、刃の刃と炎の餌食になってしまうかもしれないからだ。
「斬ると焼く・・・これを同時にくらったことがあるか?」
「私の槍が・・・!!」
 持ち手の部分を、黒刀のギザギザした刃で擦られ、その刃が通った後を這うように炎が燃え上がる。
 得物を落とすものかと炎を振り払ったが、手に火傷を負ってしまう。
「だいぶ分が悪いようですね。手を貸してやりましょうか」
 いつ陣の中へ巻き込まれたのか、玄秀はどこから攻め落とそうかと王天君の周囲を見る。
 正面突破や奈落の鉄鎖で得物を落とさせる策などもあったが、それらを実行させてくれる状況はなかった。
 止むを得なく彼らに注意を向けさせ、戦況を見ていた。
「(あの侍を引き離さないといけませんね)」
 氷雪比翼で飛びながら、捕らえるようとする手を悪霊狩の刀で斬り払う。
 刃を着火させるものがほとんどない空間だが、王天君の傍にいられては厄介だと、ティアンの方に視線を向ける。
 陣の中に入る前に作戦を彼に立ててもらったティアンは、空飛ぶ箒スパロウに乗り、女王のバックラーで彼を守る。
「わざわざ着火元からきてくれるとはな」
「なっ!」
 ガガガ・・・ガリガリリ・・・・・・シュボォオッ。
 女王のバックラーに切先を滑らせると、鍬次郎の得物の刀身が赤々と燃える。
「スキルではないみたいね?それくらいじゃ、私は退かないわよ」
 黒刀の炎に襲われたティアンは、ファイアプロテクトで痛みを和らげるが・・・・・・。
「ほう、そうか」
 なおさら王天君の傍を離れるべきではないな、と刀を構える男をターゲットから引き離せなくなる。
「どうしよう、シュウ。あいつ離れない気よ」
「あの女の子の姿もフラワシも見破られているから・・・というこですか」
 このままでは策が破綻してしまうからと、隙が出来るのを待つしかなさそうだ。



「てめぇら、オレ様に斬られたいのか?」
 諦めの悪い連中の相手をしてやろうと、王天君は鍔に指をかける。
「悪いが・・・私はそんな変態ではないぞっ」
 黒龍は眉を吊り上げて怒り、王天君の右腕を狙う。
「斬り刻まれなっ!」
 刀を抜き放った王天君は低く屈み、片足を軸にギュルギュルと回転する。
「(―・・・くっ)」
 主を守るため、紫煙が盾でガードしようとするが、共に吹っ飛ばされてしまう。
「余計なマネを・・・」
「(無理をしろと、・・・言っただろう?)」
 そうメモ帳に書き彼に見せる。
「さっさとかかってきな?このオレ様が相手をしてやるって言っているんだぜ。怖いんだったら、さっさと便所に行って眠れ」
 幼い少女のような風体の女は挑発するように言う。
「―・・・きっ、貴様!」
 これ以上バカにされてたまるかと、得物を握り締めて駆ける。
「あのバカをやれ、ハツネ」
「もう・・・バラバラにしてあげるの」
「卑怯なヤツめ・・・っ」
「ハツネたちの前から、消えてなくなってほしいの・・・」
 ダガー・タランチュラの猛毒の刃を深々と刺し、そのままギュリッと捻る。
「ちゃんと壊れるように、毒をもっと染み込ませてあげる・・・」
「くぅ、ぁあぁああ!!」
「(主を・・・、黒龍を・・・失うわけにはっ)」
 紫煙はハツネの腕を掴み、無理やり刃を抜かせる。
 当然、少女は気分を害され、もっとほめてもらえるところだったのにと、怒りの眼差しを向ける。
「―・・・邪魔、邪魔なのっ」
 まずは盾を無くしてやろうと、力いっぱい引っ張り、放り投げる。
「退いて・・・・・・」
 もう1度刺してやろうと、今度は黒龍の顔を狙う。
「―・・・・・・く、葛葉!」
「(主さえ無事なら・・・俺は・・・・・・)」
 盾を失い自ら盾代わりとなった紫煙は、足元をふらつかせる。
 彼の背に猛毒の凶器が突き刺さり、じわじわと壊そうと毒が身体に侵入する。
 紫煙は彼を傷付ける全てを退けると、『主』に誓った。
「(黒龍の命令だから死んでやるわけにはいかんが・・・必ず守る)」
 死から守ることは出来たが、誓の通りにまだ退けられたわけじゃない。
「そんなに毒が好きならもっとあげるの」
 ハツネはフラワシを呼び寄せ、彼らの上にふわりと浮かび上がらせる。
「天さん、上にフラワシが!」
「紫煙!?」
「(たとえ果てようとも・・・、死なせるわけにはいかない)」
 お互い立っているのがやっとな状態だが、痛みに耐えながら、主の手を引きハツネから離れようとする。
「また邪魔するの?」
 真煙幕ファンデーションを2人へ投げ、病原体から救った真言を忌々しそうに睨む。
「えぇ、しますよ!何度でもっ」
 今度は真言が王天君の傍から引き離そうと、ハツネに飛びかかり、聖化した糸で少女を縛る。
「何・・・この糸、斬れないの・・・」
「あいつを討つんだ、ティア!」
「了解よ!」
 僅かな隙を狙い、ランスバレストで相手を仕留めようと、両手でシュトラールの柄を握り締める。
 しかし、容易く王天君と鍬次郎に弾かれてしまう。
「・・・まだ!終わりだと思うな!」
 彼の声に応じるかのように、召喚された式神 広目天王(しきがみ・こうもくてんおう)が王天君の背後に現れる。
 広目天王は隠れ身で姿を隠し、ブラインドナイブスで背を狙う。
「この期に及んで、まだ手があるというのか?」
「(やつらが狙うとしたら・・・。そうかっ)」
 人斬り殺すだけでなく、確実に始末するための手を思い出した鍬次郎は、王天君の背を守るとするが・・・。
「おい、どうした。そんなツラして・・・」
 何事かと、必死な形相をする彼へ寄ろうとした時。
 背を三尖両刃刀で裂かれる。
 ティアンに姿を見られないように、広目天王は再び姿を隠す。
 殺されはしなかったが、かなり傷が深く、すぐにでも治療しないと本当に封神台へ送られてしまいそうなほど重傷だ。
「壊れちゃえ・・・皆、皆壊れちゃえ!王天君お姉ちゃんを傷つけたやつ、皆お人形さん以下なのっ!!」
 それを見たハツネは全て壊してやろうと怒り狂うが、糸に身体を拘束されて身動きが出来ない。
 十天君のリーダーは、陣を維持出来るほどの力を失い、紅水陣が消え去る。
「退くしかないようだな」
 鍬次郎が王天君を守ろうと抱える。
「お嬢・・・!!」
 拘束されているハツネを見た新兵衛は、真言に弾幕援護を放ち少女の元へ駆け寄る。
 彼女の身体に絡みついている糸を取ってやると放り投げ、封神台の外へ走る。
「葛葉、撤退するぞ」
 鍬次郎は機体の下敷きになっている彼女を引きずり出し、擲弾銃バルバロスを動かすように指示する。
「トウゾクハシネッ!」
「何言ってるんだ?さっさと正気に戻れ!」
「―・・・えっ」
 彼が怒鳴るとハッと我にかえった葛葉が起き上がる。
「さっさとここから出るぞ」
「は、はい!」
 新兵衛たちも擲弾銃バルバロスに乗ったのを確認すると、全速力で出口を目指す。
「逃げすものかっ」
 玄秀たちは逃げようとする彼らの後を追う。