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オオカミさんにご用心

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オオカミさんにご用心
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リアクション

 3人でやってきた東雲 いちる(しののめ・いちる)たちだったが、部屋の空気は重い。
 先ほどからいちるもギルベルト・アークウェイ(ぎるべると・あーくうぇい)エヴェレット 『多世界解釈』(えう゛ぇれっと・たせかいかいしゃく)としか会話をしていない。
 いちるもギルベルトもここに来るまでの間、会話もしていなければ目も合わせていないし、目が合いそうになると、どちらからともなく顔を背ける。
「……」
 しばらくすると会話もなくなり、ただただ沈黙が続く。
「温泉に行ってくる」
 とうとう耐え切れなくなったギルベルトは立ち上がった。
 行こうとするギルベルトの裾を掴みそうになったいちるだったが、その手をひっこめてしまった。
「……」
 ギルベルトはその仕草に気が付いていたが、気付かないフリをして部屋を出てしまった。
「シュバルツ今日は一緒に付いてきてくれてありがとう……まだ、ギルさんと2人きりになるのは怖くて……」
「何言ってるのよ。そんなの気にしなくて良いの」
 いちるは悲しそうに笑う。
「私の事を思ってやってくれたのはわかっているの……でも、どうしても……」
 瞳に涙をいっぱいためているいちる。
 エヴェレットはそんないちるの頭をぽんぽんと優しく叩く。
「本当はあんな奴誘わないで2人きりで温泉旅行〜! にしちゃえば良かったわね。そしたらあ〜んな事やこ〜んな事していちるを慰めてあげるのに」
 冗談っぽく笑うエヴェレットを見て、いちるも少しだけ気持ちが持ち直した。
(……本当は冗談なんかじゃなく、キスしたり、甘やかしたりしたいんだけど……ね)
 エヴェレットは自分の気持ちを抑え込み、いちるの肩をたたいた。
「本当は話したいんでしょ? 触れたいんでしょ? 素直にならないとあとで後悔しちゃうわよ」
「うん、そうだね。ありがとう」
 いちるは少し元気になったのか、ほほ笑んだ。
 そこへ突然、温泉に行ったはずのギルベルトが戻ってきた。
「……少しだけ2人きりにしてほしい」
 そうギルベルトに言われ、エヴェレットは悩んだが、いちるを見ると、いちるも頷いたので部屋をあとにすることを決めた。
「これ以上泣かしたらたたじゃおかないんだから……覚悟しておきなさいよね」
 エヴェレットはすれ違いざまギルベルトにそう囁いた。
 2人きりになると落ち着かないいちる。
「えっと……お茶いれますね」
 ギルベルトはいちるがお茶を入れようとポットに伸ばした手を掴む。
 そこでやっといちるはギルベルトの目を見る。
 いちるはその必死な顔にどうして良いのかわからなくなってしまう。
「ちゃんと話がしたいんだ……」
「私も……私もちゃんと話がしたいです。この間のことはやっぱりどうしても悲しくて……でも、ギルさんが大好きで……ギルさんといっぱい話したいし、いっぱい触れたい……こんな状態は嫌です……」
 いちるは潤んだ瞳でギルベルトに自分の気持ちを素直に伝える。
 ギルベルトは掴んでいたいちるの手を引き、自分の方へと抱き寄せた。
「俺もいちるのことが好きだ……」
 そう言うと、いちるを抱きしめる手の力を強める。
 それを受けていちるもギルベルトを抱きしめ返した。
 部屋の外ではちゃんと話し合えるようになった2人を確認したエヴェレットがちょっとさびしそうな笑顔をしていた。
(良かったね、いちる)
 邪魔しないようにとエヴェレットは温泉へと向かって行ったのだった。