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【2021ハロウィン】空京コスプレコンテスト

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【2021ハロウィン】空京コスプレコンテスト

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■■更衣室を覗いてみれば……■■

 女子更衣室。
 普段、男子諸君は決して覗くことが叶わない夢の空間をちょっとだけ、覗いてみるとしよう。

 
 女子更衣室内とは言え見ず知らずの人間も多い公共の場。そうあけすけに着替えは出来ない。そこんとこは乙女の恥じらい。
 ……まあ、そうは言っても例えば男装する人は胸を潰さねばならず、自然下着は取らねばならず、そうなればいわゆる「ぽろり★」が全く発生しない訳ではない(のでくれぐれも男子諸君は覗こう等と思わないように)。
 しかし残念ながら、女子更衣室内では「ぽろり★」しても「キャー! イヤーン!」という反応はほぼ無いのが現実だ。「わー、ナントカちゃん胸おっきいー、触っても良いー?」なんていうのも、無い。誰も特に何も反応しないまま、ぽろりしたものは静かに衣装の下へとしまわれていくだけだ。
 そんなちょっとした混沌の中で、ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)は、見るとなく、しかしチラチラと周囲を伺っていた。
 だって、周囲には着替えている女性がいっぱい居て。
 そうしたら、嫌でも見えてしまうのだ。胸が。
――比べちゃうじゃん。
――ちっぱいじゃん。
 ミーナは自分の、お世辞にもあまり豊かとは言えない胸部に手を遣って肩を落とした。
 頑張れミーナ、つるぺたは正義という言説もある。
「みーなー、なにしてるの?」
 そんなミーナの足元で、パートナーのフランカ・マキャフリー(ふらんか・まきゃふりー)がくりんとした瞳でミーナを見上げていた。
「なっ、なんでもないよ! さ、着替え着替えっ!」
 ミーナは荷物から、今日のためにせっせと準備したお手製の衣装を取り出す。フランカの分も勿論ミーナが用意した。裁縫は得意という程ではないので、ちょっと見栄えは劣るけど、立派に『魔法少女豊美ちゃん』――終身名誉魔法少女・飛鳥 豊美(あすかの・とよみ)をモデルにしたテレビアニメだ――の豊美ちゃんのワンピースだ。ちゃんとフランカのサイズに合わせて縮小されている。
「今日は豊美ちゃんに変身して遊ぶんだよー!」
「わぁいー! とよみちゃん!」
 コスプレのなんたるかを理解していないフランカは、ミーナの説明に無邪気に喜んでいる。まあ、外れてはいないし。
 フランカにワンピースを着せ付けたミーナは、自分もまた敵役のお色気衣装にお着替えする。
 スクール水着風の土台にはお情け程度のフリフリスカートが付いていて、それにマントを羽織る。立派な、悪の魔法少女のできあがり、だ。
「ううっ……」
 が、着てみたら、ちょっぴりイメージと違ったらしい。……胸の所とか。
 零れそうになる涙を飲み込んで、楽しければいいんだからぁ、と自分を元気づけるミーナだった。
 
 さて同じ屋根の下では、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)の二人もまた、衣装へと着替えていた。
 が。
「え、ちょっと待ってセレン……これだけ?」
「そうだよ?」
 唖然とするセレアナの声をサラリと流すと、セレンフィリティは手にした包帯をちょろちょろっと腰周りに巻き付ける。因みに下着は限りなく紐に近いTバック一枚。胸は素肌に直接包帯を巻いただけ。一応、本当の本当にぽろっといったらヤバイ箇所はしっかりと巻いてあるけれど、それ以外はわざとルーズに緩ませている始末。露出狂と呼ばれても反論出来ない程度の布面積だ。
「本気なの?! ……覗き対策はキチンとするよう、受付で言われたでしょ」
「そーだっけ? まあ良いから良いから」
 るんるんと顔の横に音符を飛ばしているセレンフィリティには逆らえない。セレアナは泣く泣く、腰回りと胸元に包帯を巻き付けた。万が一にも大事なところが露出しないよう、何重か回して厳重に。
「さっ、行くわよ」
「……で、コレは何のコスプレな訳?」
「んー、ミイラ女?」
 露出したいだけじゃないのぉ、と涙目のセレアナを尻目に、セレンフィリティは足取りも軽く更衣室を後にした。

 また、こちらでは。
「おねーちゃん、かわいいー!」
 マリア・伊礼(まりあ・いらい)の黄色い声が響いた。
 その視線の先では、マリアのパートナーである伊礼 悠(いらい・ゆう)が顔を真っ赤にして、少し丈の短い魔女服の裾を必死に引っ張っている。
「や、や、やっぱり恥ずかしいよ……」
 普段は地味な洋服ばかり着ている悠に取って、コスプレ用にアレンジされた魔女の装束は、確かに色こそ黒いけど、露出度も高い(悠基準)し、装飾も派手だしで、非常に恥ずかしい。
「そんなことないって、すっごく似合ってるよ、おねーちゃん!」
 しかし、嬉しそうなマリアが腕にぎゅっと抱きついてくると、もうそれ以上文句も言えない。
 折角今日の為に、わざわざ首領・鬼鳳帝で用意してきてくれたのだ。しかもパートナー達全員分。
 悠は、せめて露出を減らそうと、自分の肩を抱きかかえるようにして、マリアの着替えが終わるのを待つ。

 一方、悠のもう二人のパートナーであるディートハルト・ゾルガー(でぃーとはると・ぞるがー)著者不明 『或る争いの記録』(ちょしゃふめい・あるあらそいのきろく)のふたりは男子更衣室で着替えをしようとしていた。
 しかし。
「……やはり、私は遠慮する」
 ディートハルトはあまり乗り気ではなかった。実際の年齢は良く覚えていないけれど、もう「若者」と呼べる年でないことだけは、その年齢を刻んだ外見が証明している。仮装だコスプレだとはしゃげるような年ではない――と、本人が固くそう思っている。要するに、そう言う性格なのだ。恥ずかしがり屋さんなのだ。
「どうしてです、折角此処まで来たのに」
 それを知っていて、しかし『或る争いの記録』はわざと少々大袈裟に驚いてみせる。
「それに、この状況で一人だけ私服というのは逆に目立ちますよ?」
 それから『或る争いの…………通称:ルアラは周囲に視線を遣る。二人の周囲では、女子更衣室ほどの人数はいないものの、それでもそう少なくない数の人々が思い思いの衣装へ着替えている。まだ着替えていないディートハルトは、やはり浮いている感が否めない。
「む……むう……」
「それにきっと、悠さんもディートハルトさんの海賊姿、楽しみにしていると思いますよ?」
 ルアラがくすりと含み笑い一つ。
 ぐ、と唸ったディートハルトは、やおら荷物から海賊風の衣装を取り出すと、渋々、という顔で着替えを始める。
 悠たち女性陣とは、着替えが終わった後、更衣室の外で待ち合わせをしている。待たせては悪い。二人は手早く着替えると、荷物を持って外へと出た。

 果たして二人はまだ来ていなくて、暫く外で待ちぼうけ。
 ディートハルトが着ているのは、海賊の船長衣装。臙脂の、ベルベットを模しているがちょっと薄い生地に金の縁取りがされている高襟のコートに、黒のベスト。首領・鬼鳳帝製の衣装はちょっと安っぽいけれど、ディートハルトの渋い外見がそれを補って、なかなか様になっている。
 ルアラは同じく首領・鬼鳳帝製のキョンシーの衣装だ。左右にスリットの大きく入った、男物のチャイナ服に共布のズボンと帽子、額にはお札も付いている。チャイナ服はシルクではなくポリエステルサテン、模様も刺繍ではなくプリントだが、遠目で見れば大差ない。
 二人とも地がなかなかの色男だ、前を通りすがる女性参加者達がチラチラと視線を寄越している。それがディートハルトには居心地が悪いらしい。
「お待たせー!」
 とそこへ、マリアの明るい声。
 女子更衣室の方から駆けてきたマリアは、赤紫のとんがり帽子とミニ丈ワンピース+オレンジのチラ見せパニエ、オレンジ×紫ボーダーのニーハイ、それから尖った爪先がくるんと丸まった魔女靴という、ハロウィン仕様の魔女衣装に身を包んでいた。そして、その後には。
「ど……どうでしょう……」
 深い紫のとんがり帽子に、同じ色の、三段フリルのキャミワンピと膝丈ブーツ、グローブという姿の悠の姿。恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めている。
 ディートハルトは一瞬言葉に詰まる。
 それからあ、と口を開き掛けては閉ざし、また息を吸っては無駄に吐き、を暫く繰り返してから漸く、
「……とても、良く似合っているぞ……その、いつもと違う姿も、良い」
と、呟く。普段肩を出すような服装はまずしない悠の珍しい姿に、視線のやり場に困っているようだ。
「あ、ありがとうございます……ディートさん」
 言われた方も恥ずかしかったらしく、悠は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「本当に、素敵ですよ悠さん」
「でしょー、あたしの見立ては間違ってなかった!」
 顔を上げて、と悠を勇気づけようとするルアラの隣で、みんなでコスプレがしたいー! と言い出した張本人であるマリアがえっへん、と胸を張る。
「さっ、繰り出すぞー!」
「はいはい、行きましょう」
 デジカメ片手に元気に歩き出すマリアの後にルアラが続き、相変わらず恥ずかしそうにしている二人は顔を見合わせてから、無言でその後に従った。