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【2021ハロウィン】空京コスプレコンテスト

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【2021ハロウィン】空京コスプレコンテスト

リアクション

「………いやぁ、迫真の演技でしたねぇ!」
 少しの余韻の後、北都とノリコはコメントと共に舞台中央へ現れた。
「うん、本物の団長みたいでしたねー。あたし、ちょっと緊張しちゃいました」
「さあ、どんどん行きましょう。続いてはエントリーナンバー三番、藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)さん!」
 北都の声とともに舞台裏から出てきたのは、なにやら……変な物体だった。
 木やツタの様なものでざっくり編まれた、人がひとりすっぽり収まる程度の大きさの人形の中に、優梨子が入っていて、網目の隙間には、牛や馬のぬいぐるみがいくつか詰め込まれている。歩けるようには出来ていないので、移動は空飛ぶ魔法↑↑を使っている。
「え、ええっと……これは、何のコスプレでしょう?」
 変なモノを見る目で――いや、確かに異様なのだけど――ノリコが問いかけた。
「これはウィッカーマンという、ケルトの人々が祭祀の際、生け贄を捧げるのに使ったとされる座でございます。本来はもっと大きな物だったと考えられていますが、コスプレということで小さめに」
「た、確かにハロウィンも本来はケルトのお祭り、主旨としてはピッタリですねぇ」
 「生け贄の座」という単語にはなんだか恐い物しか感じないけれど、それでも北都は持ち前の知識をフルに活用してなんとか舞台を盛り上げようとする。
「で、ではパフォーマンスをお願いしましょう……」
 ちょっと嫌な予感を覚えながら、北都とノリコは舞台を優梨子に譲る。
「ケルトには首狩り戦士の風習もございまして、そちらをフィーチャーしようかとも思ったのですが……」
 ふふふ、と愉しそうに笑う優梨子が口にした「首狩り」の一言に客席、ちょっと引き気味。
 では、と優梨子が合図すると、ケルトの祭司であるドルイドの衣装を着せた茶運び人形が舞台袖からトコトコと現れた。その手には、電球にセロハンを被せて作ったたいまつのおもちゃ。
 ドルイドがカタコトと気味悪くさえ聞こえる音を立てて優梨子の詰まったウィッカーマンの元へやってくる。
 そして、ドルイドの持つたいまつがウィッカーマンに触れた瞬間。
 優梨子は、仕込んでおいたラジカセのスイッチを、サイコキネシスで入れる。すると、ゴオオと炎が燃えさかる音が響き渡る。
 と同時に煙幕ファンデーションが爆発する。濛々と煙がたちこめ、一瞬、優梨子の姿が客席から見えなくなる。
 あああああ、と悲鳴を演出しながら光学迷彩を展開すると、優梨子とウィッカーマンの姿は虚空に溶けて消える。後に残ったのは、煙幕ファンデーションが舞い落ちた灰状のものだけ――

 客席がシン、と静まりかえる。あ、子供の泣き声。

 ぴぴっ、と一分のタイマーが鳴って、北都はハッと我に返った。
「あっ、ありがとうございましたー!!」
 あまりの完成度に感嘆している、というよりは、反応に困って沈黙している客席を打ち破るように、頑張って出来るだけ明るい声を上げる。
「い、いやぁ、ハロウィンムードたっぷりのパフォーマンスでしたねぇー」
「し、審査員の皆さんはどうでしたでしょうか!」
 突然ノリコに振られ、審査員達も審査員達で言葉に詰まる。
「は、はっはっは、些かブラックジョークが過ぎたようですなお嬢さん!」
 その沈黙を打ち破ったのは変熊仮面だった。少々強がっているような節がないではないが、変熊が笑い飛ばしてくれたお陰で少し会場の雰囲気が明るくなる。ノリコはこのときばかりは変熊に感謝した。
「さ……さて、では、次の方に登場して頂きましょうか」
「そうですね……エントリーナンバー四番、シャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)さんです」
 北都の声に応じて、シャーロットは山猫の様な軽い、しかしどこか威厳のある足取りで舞台中央まで歩み出てきた。
 この日のためにわざわざ金色に染めた髪はツインテールに結われ、黄色とオレンジのコントラストが鮮やかなホットパンツとブラキャミ。革のグローブにロングブーツ。そう、十二星華がひとり、{SNL9998933#セイニィ・アルギエバ}のコスプレだ。
 衣装は全てセイニィが実際に身につけている物のレプリカ。武器に至るまで、こだわり抜いている。
「おお、これは十二星華の、セイニィ・アルギエバさんですねぇ」
「そうだけど、悪いっ?」
 普段の丁寧な言葉遣いとは打って変わって、なりきっているシャーロットは、既にセイニィの様なツンデレ口調全開だ。
 おおお、と客席の一部が盛り上がる。ツンデレ属性らしい。
「では、早速アピールをお願いします!」
 わああと盛り上がる客席に、ツンとした表情で向かい合う。
 ツンデレキター! と会場の其処此処から歓声が上がった。
「誰がツンデレよっ!」
 その声が聞こえた方に向かってツンを振りまくと、おおお、と客席が盛り上がりを見せ、シャッターを切る音も次々響く。
「べ、別に好きでツンデレやってるわけじゃないんだからぁっ!」
 顔を真っ赤にするシャーロットに、会場中からツンデレ萌ー! とコールが上がる。
「萌っ? だ、誰が萌キャラよ、そんなんじゃないんだから!」
 そう言って反論する仕草はまるきりセイニィそのものだ。
 ポーズ決めてー! とカメラを握る男性陣からの要望が響く。
「ポーズなんて、あ、あなたたちの為にやって上げるんじゃないから! ちょっと、写真撮らないでよっ!」
 そう言いながら、片方の腰に手を当て、客席を指さすツンデレポーズを決めるシャーロット。
 内心とても恥ずかしいのだが、しかし愛するセイニィの姿かたちを借りる以上、中途半端なことは出来ない。
「もうっ、帰るんだから!」
 じゃあねっ、とそれでも律儀に客席に手を振って、シャーロットは時間ぴったり、舞台から退場した。
 わああああ、と客席には拍手と歓声が入り乱れる。

「これは、素晴らしいパフォーマンスでしたねぇ」
「会場との息もピッタリでした! そして衣装がまた凝ってますねー」
 シャーロットが退場した舞台上に、司会と解説がまた顔を出す。
「さあ、次々ハイレベルなコスプレイヤーさんたちが登場しますが、続いてはお二人での登場、エントリーナンバー五番、フォルテッシモ・グランド(ふぉるてっしも・ぐらんど)さんとアシュリー・クインテット(あしゅりー・くいんてっと)さんです!」
 コールに合わせて、軽い足取りで飛び出してきたのはフォルテッシモとアシュリーの二人だ。揃いの、セクシーなワンピースを着ている。フォルテッシモが情熱的な赤、アシュリーはクールな青で、対比が美しい。胸元が大きくあいて、スカート部分に大胆なスリットが入ったワンピースは、スカートの正面中央部分だけがミニスカートという特徴的な形で、レースのガーターベルトとストッキングが惜しみなく見えている。胸元には本格的なロザリオ。
 今若者に密かな人気を誇るオンラインRPG「神々の黄昏・オンライン」に登場する、僧侶の格好だ。僧侶にしては些かセクシーが過ぎるが、そこが人気を呼んでいるらしい。
「おおお、二人ともいいぞー!」
 フォルテッシモのパートナーである如月 正悟(きさらぎ・しょうご)神無月 桔夜(かんなづき・きつや)のふたりが客席から手を振っている。正悟は大きく、桔夜は控えめに。
「セクシーな衣装ですねぇ」
「はい、セクシーさを追求して制作しました」
「手作りですか?」
「ええ、二人で一生懸命作りました」
 二人が纏っている衣装は、上から下までファッションに造詣の深いフォルテッシモと、裁縫の得意なアシュリーが協力して制作したものだ。しかし、アシュリーがまだコスプレイヤーとしての経験も浅い為、既成の洋服の接ぎ合わせ。ふんわりとしたパフスリーブはアシュリーの努力のたまものだが、パーツ同士を繋いだ部分などは、よく見ると荒さも目立つ。
 本当に一生懸命作ったんだなぁ、と言うことが伝わってくる作りだ。
「それでは、アピールタイム、お願いします!」
 北都は合図をすると、進行役の二人はいつも通り脇へと捌けて気配を消す。
 舞台中央に残ったフォルテッシモとアシュリーは、せーの、と声を合わせて、
『こんにちは、たそがれ★ツインズです!』
ポーズと共に、自分たちのユニット名を名乗る。おおお、と客席からは歓声が上がる。
 手にしているのは、密度の高いスチロールを削った物に布を被せ、塗装を施した見せかけの鈍器。メイスと呼ばれる、聖職者が手にする武器を模した物だ。
 可愛らしい衣装と手にしている武器が些かミスマッチだが、それがまたアンバランスな萌を演出している。
 ポーズや表情はどことなくぎこちない。なりきる事に慣れていないのが見て取れる。
「うん、可愛いぞーフォルテ。アシュリー、こっち向いてくれー!」
 正悟は、フォルテッシモからコンテスト中の写真を撮っておいてと頼まれている。そのためせっせとカメラのシャッターを押している。
「……正悟、少し落ち着け」
 座席から立ち上がる勢いの正悟を、パートナーのチェリー・メーヴィス(ちぇりー・めーう゛ぃす)が呆れ気味に窘めた。
 舞台上の二人は、何度か姿勢を変えながら、次々とポーズを決めていく。
 どうやら、小細工は無し、ポージングで勝負という魂胆のようだ。
 ポーズを決めているコスプレイヤーが居ればシャッターを下ろさずには居られない、そういうカメラ小僧達がついつい釣られてシャッターを下ろしている。
 やがて、ぴぴ、と北都が持っているタイマーが鳴った。
「はい、アピールタイム終了です! ありがとうございましたー」
『ありがとうございました!』
 二人は再び声を揃えて挨拶すると、舞台を降りていった。