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【ダークサイズ】捨て台詞選手権

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【ダークサイズ】捨て台詞選手権

リアクション

8.大総統の館 最上階ダイソウトウの間

「次は、私の出番のようだな」

 ダイソウは審査員長席から立ち上がり、ようやく混乱の収まった5階フロアを見渡す。

「ようやくダイソウトウと戦うってわけね……」

 向日葵たちは、腕を組んでダイソウと対峙する。
 少ないメンバーの中、多くの戦いを乗り越えてきた対ダークサイズ。
 さすがに少し疲れが見えてきている。
 ダイソウはそれを見て、

「覚悟するがよい、正義の戦士たちよ……この後も、けっこう長いぞ!」

 と、宣言し、

「では、最上階・ダイソウトウの間で会おう」

 と残して、淳二を連れて最上階へ向かう。
 ダイソウは一人ぽつねんとしていた淳二に、

「淳二よ。一人ぼっちだったようだが、大丈夫か」
「い、いやー。さすがにちょっと、辛かったかなー、なんて。はは」
「仕方がない。私のところで応募作品を発表するがよい」
「じゃあ何か、ダイソウトウ向けのカッコイイやつを考えよう」
「うーむ。ガーディアンの再構成も考えねばならぬな……」

 と、つぶやきながら、ダイソウトウの間へと向かう。

「ダイソウトウの準備があるみたいなので、差し入れです」

 一方、翡翠、クロス、終夏たちから、向日葵たちにスイーツやコーヒー紅茶が振る舞われ、対ダークサイズもわずかな休息を得た。


☆★☆★☆


 ダイソウが最上階に上がり、秘書の間を抜けてダイソウトウの間に到着すると、行き場をなくした円が、新人研修の続きをやっている。
 さらに、隅の畳間では、アルテミスが一人お茶を飲みながら、窓から景色を見てくつろいでいる。

「円よ……何をしておるのだ」
「あーもう、だから見ちゃダメだってば!」
「くわー!」
「これから私の捨て台詞選手権なのだぞ」
「そんなの知らないよ」
「……これが終わったら使わせてやるから」

 と、ダイソウは妥協案を出し、円と新人のDSペンギンをどうにか追い出す。

「でもってアルテミス。お前は何を……」
「これからダイソウトウ様の捨て台詞選手権でしょう? 我は当然、あなたと共に闘うことになるのですから、体力の温存を。神である我が負けるなどと言うことはありませぬが、数も多いようですので」
「そうか。何だかんだでおまえもマイペースなのだな……ところで、ようやく出番だ。待たせたなお前達!」

 ダイソウがマントを翻して振り返ると、そこにはダイソウの捨て台詞の応募者たちが、今や遅しと揃っている。
 アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)が進み出て、恭しく膝をつく。

「お帰りなさいませ、ダイソウトウ閣下。閣下の招集命令を受け、ここに推参いたしました」

 珍しくダイソウに礼を尽くす幹部の姿を見て、ダイソウも少し嬉しそうに、

「うむ。よく来たな、『秘密の抜け穴は悪党のロマン』!」

 と、アキラを幹部名で呼ぶ。
 するとアキラはすっと立ち上がり、

「なーんて堅苦しいのはさておき、ホント久しぶりだな、ダイソウトウ。元気してたー?」

 と、ダイソウの肩をバンバン叩く。

「うむ……」

 アキラの罠にはまった気分になり、ダイソウは今度は少し悔しそうな顔。
 アキラは連れてきたパートナーをダイソウに紹介する。

「ハァイ☆ 初めましてダイソウトウ。ワタシはアリス。アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)ヨ☆」

 身長28センチのアリスは、アキラの肩から降りて、スカートをつまんでちょこんとお辞儀。

「アリスも幹部になりたいっつーんで、何か幹部名つけてやってくんない?」
「ワタシもステキな幹部名を名乗ってみたいワ」

 と、無茶ぶりするが、ダイソウにはお手の物。

「よかろう。楽しみにするがよい。アリス・ドロワーズヨ、だったな」
「違うワ、ドロワーズ、ヨ☆」
「幹部名は今日のお前の活躍次第だ。期待しているぞ、ドロワーズヨ、よ!」
「ドロワーズ、ヨ……」

 仕返しのようにアリスの名前を早速いじるダイソウ。

「よお、戻ってきたな、ダイソウトウ」

 3メートルの巨体を揺らしてジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)が、ダイソウを見下ろす。
 ダイソウも胸を張ってジャジラッドを見上げる。

「うむ。今後はちゃんと定期的にがんばるつもりだ」
「定期的って……何をだよ?」

 ジャジラッドはダイソウの謎の発言に戸惑うが、サルガタナス・ドルドフェリオン(さるがたなす・どるどふぇりおん)はそれにお構いなく、いつの間にかダイソウの隣にいるアルテミスの元へ。

「初めまして、アルテミス。あなたのような、神がダークサイズにいるのは実に心強いですわ」
「フ……心強い? 我の存在が心強い程度で収まるはずがなかろう」

 ダイソウに対するのと一転して、他の者にはエリュシオンの選定神らしく悠然と振る舞うアルテミス。

「アルテミス。今後の勢力拡大のための戦力調査で、失礼ですが戦闘中にあなたの力を測ろうと思うのですが」

 と、サルガタナスはハイドシーカーを手に取るが、アルテミスは、

「好きにするがいい……が、我の力を人間の利器ごときで測れるのかのう?」

 と、余裕の発言。
 さらにダイソウは、隅の方で一人ポツンとしている七瀬 歩(ななせ・あゆむ)のもとへ。
 スケッチブックを抱えて座り込んでいるので、どうしたのかと思っていると、

「えーっと、えーっと……くくく……久しく忘れていましたよ。この屈辱が、ぶつぶつ……ぶつぶつ……」

 と、歩は何やら妄想の世界に没頭している。
 スケッチブックには、歩の妄想世界の悪役イメージだろうか、マントとアイマスクをつけたイケメンのイラストが。
 ダイソウは、一応恐る恐る声をかけてみる。

「歩よ」
「あ、ダイソウトウさん、こんにちはー。捨て台詞なんて物語の世界みたいだね! は! もしかしてダークサイズアニメ化決定!? そのためのアイデア集めなのかなぁー?」

 と、ダークサイズの存在意義を勘違いしている歩は、アイデア採用に向け、彼女なりに自信満々だ。
 そんな中、リアトリスが一足先にダイソウトウの間に入ってくる。

「ダイソウトウさん、そろそろいいかな?」
「うむ。かまわん」

 ダイソウのゴーサインが出たところで、リアトリスは黒豹のヴァルヴァラ・カーネーション(ばるばら・かーねしょん)を連れてくる。
 リアトリスはダイソウを、玉座に座らせ、ヴァルヴァラを彼の足もとに座らせる。
 さらにダイソウにワインを持たせ、

「ダイソウトウさんは、こういう感じでカッコよく迎えてみては?」

 と、珍しく演出の提案をする。
 ダイソウも以外に決まっているのを気に入り、

「おお、今回は乗り物がなくて足が辛かったのだ。どうして早く提案してくれなかったのだ」

 と、早速ヴァルヴァラを乗り物扱い。
 それを知ってか知らずか、ヴァルヴァラもダイソウの脚に頬ずりしたり、胴体を前足で撫でたりしている。
 あっという間にヴァルヴァラはダイソウになついたようだが、リアトリスはそれを見て、不敵な笑みを浮かべている。


☆★☆★☆


 一同最上階に上がり、秘書室を抜けてダイソウトウの間へ。
 いよいよ捨て台詞選手権も最終戦である。
 向日葵たち対ダークサイズも、

「あわよくばダイソウトウを倒してしまおう」

 という当初の目的を再確認し(思い出し)、ダイソウトウの間の扉をあける。

ごごごごご……

 扉を開けた先には、椅子に悠然と座り、ワインを右手に持つダイソウ。左手ではヴァルヴァラを撫でている。
 その傍らにはアルテミスが立ち、さらに幹部たちがその両脇を固める。

「待たせたな、戦士たちよ。我がダイソウトウの間によくぞ辿り着いた!」
「ぬおお! か、かっこいではないかー!」

 いかにも悪のラスボスな構図に、思わず叫ぶハデス。

「この準備のために時間かけてたのか……」
「なんかすげームカツクぜ!」

 向日葵たちは、ダイソウに一層腹を立てる。
 リアトリスは最終戦と言うことで、改めて、

「開会式で挨拶ができなかったので、ダイソウトウさん、一言どうぞ」

 と促す。
 ダイソウはこくりと頷き、

「今回は捨て台詞選手権! その趣旨から、我々ダークサイズは本来の力をギリギリまで抑え、あえて負ける戦を幹部たちに強いてきた。だが、最後はそうはいかぬぞ。私の隣には選定神アル、ぐむ……」
「グルル……クワーォ♪」

 彼の話の途中で、ヴァルヴァラがダイソウの身体にのしかかり、前足で顔をぺたぺたしはじめる。
 ダイソウはヴァルヴァラの前足を顔からどけ、

「この選定神アルテミスの、ぐむ……」
「グクク、ピアーオ♪」

 今度はヴァルヴァラがダイソウの顔を舐め出す。

「うむ、よしよし。さがっておれ……でだ、私とアルテミスがいるからには、おま、ぐむ」
「クアァー。はぐはぐ」
「うむ、よし、あまがみするでない……」

 こんな調子で、なつきすぎたヴァルヴァラが延々とじゃれて、ダイソウの話を遮る。

「グルル♪ クアアー(ああ〜、渋くてイイ男だわ〜。こういうおじ様、弄びたいのよね〜)」

 動物がじゃれているように見えるが、実はメスの黒豹ヴァルヴァラの心情はそんなところ。
 ヴァルヴァラの様子を見るアルテミスも、

(この黒豹め……ダイソウトウさまになれなれしすぎるぞ……)

 と若干の嫉妬を感じるが、さすがに動物相手では咎めるわけにもいかない。

「だから最後は、ぐむ、座るのだ。全力で来なければ、ぐむ、やめるのだ。我々に捨て台詞な、ぐむ、わかったわか、ぐむ、おすわり!」
(うん、で、何が言いたいんだよ……)

 というのが全員の感想となる。
 リアトリスの確信犯的演出で、せっかく良かった構図もぐだぐだになったまま、戦闘開始となる。

「さーて。ダイソウトウの捨て台詞なら、俺にまかしとき! とびきりのヤツ持ってきたでー。他の奴の応募をやるまでもなく、俺ので決まりや!」

 と、日下部 社(くさかべ・やしろ)が意気揚々と前に出る。

「きたー、やっしー! がんばれー!」

 終夏が声援を送り、お祭り感覚で社も手を振る。
 対ダークサイズは、

「よし、ここはダイソウトウに我々の存在を完膚なきまでにアピールするのだ! 行け、改造人間サクヤ!」
「だから、改造人間はやめてくださいっ」

 と言いつつ、ハデスが咲耶を前に出す。
 咲耶は対峙するダイソウに、

「あの、私は参加する気はなかったんですが、兄が勝手に申し込んでしまったもので……でもやるからには一生懸命戦いますので、よろしくお願いします!」

 と、律義に敵にお辞儀をする。

「うむ。どこからでも来るがよい」

 ダイソウも正面から受けて立つ。
 社は少し離れてダイソウを応援する。

「さー、久しぶりやからって、油断せんと気張っていきやー!」
「お前は戦わぬのか……」
「俺はダークサイズの構成作家やで。前線になんか立つかいなー」

 社は戦闘をする気は毛頭ないようだ。
 咲耶は得意の魔法でダイソウと距離を置いて攻める。
 『氷術』で床を凍らせて、ダイソウの機動力を奪い、すかさず『ファイヤーストーム』を放つ。
 ダイソウは身体を伏せるものの、足場を失って攻めあぐねる。
 彼は早速、

「来い、セキトバ!」

 と、ヴァルヴァラに勝手に名をつけ、彼女に飛び乗る。

「グルルァ♪(上に乗せるのも悪くないわ〜)」

 ヴァルヴァラは顔を上気させながら、フロアを自由に走り回る。
 結果的に咲耶は魔法の標準を合わせづらくなるが、ダイソウもなかなかセキトバ(ヴァルヴァラ)を制御できない。

「むむ、これはとんだじゃじゃ馬だ……」

 セキトバは今後調教しなければと考えつつ、壁を蹴ってヴァルヴァラから飛び降り、そのまま咲耶に蹴りを離す。

「きゃっ!」

 咲耶はどうにかかわすものの、続いてダイソウが着地からの回し蹴り、手刀、拳で追い込む。

「おおお!? ダイソウトウが体術だと!?」
「もしかして、初めてじゃないか?」

 と、観客もわっと盛り上がる。
ダイソウの連続攻撃から、咲耶はついに掌底で吹き飛ばされる。

「うっ!」
「何をしている改造人間サクヤ! しっかりせんかーい!」

 ハデスは後ろで叱りながら、助けには入ってあげない。
 ダイソウはふっと息をつき、

「さすがに運動不足がたたったようだな」

 と、少し息が上げながら咲耶に迫る。
 咲耶も悪のボスのプレッシャーに、さすがに後ずさる。
 それを見た社が、拳を握る。

「よーし、そこで追い込みの台詞やー!」
「ハァ……ハァ……お、おじさんと良い事しないかね……ハァ……ハァ……」
「い、いやあーんっ」

 悲鳴を上げる咲耶。
 そして社は爆笑しながら、

「だーはははは! あんた最高や、ダイソウトウ!」

 と、大喜び。
 ダイソウは社に向き直り、

「社よ……分かってはいたが、わざとだな……」
「いやいや、ちゃうねんちゃうねん! 今のはあくまでフリ! 捨て台詞をカッコ良く引き立たせるためのな!」
「こんのぉーっ、変態さあーん!!」

 勢いに任せて咲耶の『サンダーブラスト』。
 至近距離の上にそっぽを向いていたダイソウは、それをまともにくらう。

「うぬっ」

 そして綺麗にフロアに背中から落ちる。

「わ、私を倒すとは流石だ……だが私を倒しても、この世に『ダイソウトウの好きなものを入れていいよ♪』がある限り、ダークサイズは不滅なりーっ!」

キュンッ! チュドーン!

 そこにまたしてもジュレールのレールガンが炸裂。
 悪役らしく爆発する。

「あーん、怖かったよぅ〜」

 咲耶は泣きながらノーンに抱きつく。

「よしよし〜」

 と、ノーンは咲耶を撫でながら回復してあげている。
 一方ダイソウも、ジュレールに文句を言う。

「ジュレール、何故爆発させる……」
「なんとなく、いいかなって」

 ダイソウとの初戦を制した(?)対ダークサイズは、咲耶の功績を讃える。

「よくやったぞ、改造人間サクヤ! ダイソウトウを倒すとは!」
「あの、オリュンポスはダークサイズと同盟を組むんですよね? やっつけちゃってよかったんでしょうか……?」

 やたら喜ぶハデスに、逆に戸惑う咲耶。
 続いて、今度が本番とばかりに、クロセルが、

「さあ、刮目してください! お茶の間のヒーローが通りますよ!」

 と気合い充分に前に出る。
 翡翠とルーツの治療を受けたダイソウと一緒に出てくるのは、ジャジラッドとさらに加えてアルテミス。

(げっ、でかいですね……)

 巨体のジャジラッドと選定神を前に、クロセルは後ずさりながら、

「お、おのれダークサイズ! そんな多勢に無勢では、俺の本来の力も出せませんので……」

 と戻ろうとすると、

「心配いらん。このブリッツフォーゲルが助成する!」

 と、涼介もといブリッツフォーゲルがクロセルに加勢。
 クロセルは、

(ぬ……余計なことを……)

 と後に引けなくなる。
 これには自分も参戦しようと、さらに向日葵が加勢する。

「ここで会ったがダイソウトウ! ここまで全員で戦い抜いてきたんだから、今日であんたの野望を打ち砕いてやるわ!」
「ほう、魔女っ子サンフラワーちゃんも来るか。敵に不足なし!」
「だからその呼び方やめなさいってば!」

 と、ようやく向日葵は、その不本意なあだ名を否定する。
 涼介もといブリッツフォーゲルは冷静に、

「それにそっちには選定神がいるのだ。こちらは全員でかかってもいいくらいだな」

 とアルテミスを警戒する。
 アルテミスも、

「そうしたほうがよかろう。我もお遊びとタカをくくっておったが、我がダイソウトウさまを傷つけたとあらば、黙ってはおらぬぞ?」

 と、容赦はしないつもりだ。

「こら改造人間サクヤ! 選定神を怒らせてしまったではないか!」
「さっきは褒めてくれたのにー!」

 ハデスは咲耶を理不尽に叱る。
 向日葵は、積もり積もったダークサイズとの戦いの歴史を思い返しながら、

「今日で、悪の組織は壊滅だよ! そして空京放送局の平和を取り戻す!」

 と、カッコよく決めてダイソウを指さす。
 そこにジャジラッドとダイソウがフフッと笑い、口を開く。

『では聞こう。貴様の考える悪の定義とは何だ?』
「な……えっ?」

 ぎくりとする向日葵。
 悪役は常に、正義に対して『善悪とは何か』を問う精神攻撃を仕掛けるのは必須事項。
 体格的にもジャジラッドのことだから力技で来ると思っていたので、向日葵は不意打ちを食らってしまう。
 ダイソウはさらに追い打ちをかける。

「今までの戦いの中でも、我が幹部たちが何度も問うてきたはずだ。お前達の言う正義とは何なのかを。我々ダークサイズは、悪を冠していても誰にも迷惑をかけていないことを。それがお前達の中で定まらぬ限り、お前達にはダークサイズと戦う資格すらないのだ!」
「そんな逃げ口上……」
「そしてサンフラワーちゃん。忘れてはおらぬだろうな。お前がつけている『ダークサイズ仮幹部カード』のことを!」

 ダイソウは、以前幹部が向日葵に強引につけた、胸元の仮幹部カードを指さす。

「うううっ!」

 一気に泣きそうになる向日葵だが、涼介もといブリッツフォーゲルが、

「ダイソウトウ、卑怯だぞ!」

 と、義憤にかられて叫ぶが、それをクロセルが制する。

(一時はどうなる事かと思いましたが、禅問答なら安心です。それならば!)
「あなたたち悪役は、いつもその論理をかざして免罪符にしたがりますが、そんな道理は通じません。はるか古代の失楽園の時代から決まっていること。秩序への挑戦! それが悪なのです!」

 クロセルはポーズを決めて天を指す。

「く、クロセル! どうしたんだ! 何かすげえカッコいいぞー!」
「おかしいぞ! クロセルがかっこいいなんて!」

 盛り上がる観客の反応に、返って顔が赤くなるクロセル。

(思いつきで言ったのに、異様に決まってしまいましたね……)

 と、動揺しながらも止めの台詞。

「パラミタ大陸という体勢に抗う限り、あなたたちは悪の汚名を受け続けなければならないのでゅしゅ!」

……

「ああああ!」
「か、かんだー!」
「もったいねえー!」

 観客の悲嘆を受け、

「ぐはあっ!」

 と、倒れるクロセル。
 しかし、その反論にほう、とほほ笑むジャジラッド。
 そして勇気をもらった向日葵たち。

「よく言ったクロセル!」

 はじかれたように全員飛び出し、ジャジラッドも、

「一発ドンパチやらかすか?」

 と、体勢を整える。
 隣では、アルテミスが急激に魔力を膨張させ、

「フ、戯言……この世には、絶対悪も絶対の正義も存在せぬ。存在するのは『絶対の愛』のみ!

 と、魔法陣を周囲に展開させる。

「はっ、いけない!」

 と、サルガタナスが言うが早いか、

ばきんっ!

 彼女の持っていたハイドシーカーがはじけ飛ぶ。

「予想はしていましたが……この程度では選定神の力は測定不能、ですわね」

 アルテミスの発する魔力は風となり、ダイソウトウの間は荒れ狂う。

「なんということでしょう! 選定神の魔力とはこれほどまでのものなのか! この力を前にして、サンフラワーたち、そして私たち観客は生き残れるのか!?」

 終夏の実況ノリは、ほぼジャーナリスト魂の域に達している。

「むちゃくちゃだぜーっ! こんなおっぱいちゃんとどうやって闘えっつーんだ!」
「こんなの有りなのか、向日葵!?」
「だから何であたしに聞くのよ」

 ゲブーや類は、規格外の力に文句を言うが、それはダークサイズ歴のある永谷たちも同じこと。
 選定神の魔力解放を前にして、対ダークサイズは本当にピンチを迎える。
 膨大な魔力を操るアルテミスの瞳が深い闇のような漆黒に染まる。

「来ぬのか? では、我からナラカへの餞別をくれてやろうか……!」
「おーい、まだやってんのかー? メシ作ったんだけど……ってうわーお、すごい風!」

 手持ちぶさただった椎名とナギが、ケータリングを乗せた台車を押して、ダイソウトウの間の扉を開ける。
 当然、魔力の風に飛ばされて、エニグマ特製のアツアツの食事が、おいしそうな香りをまきちらしながらフロアに舞う。

「あー! オレのケータリングがー!」
「何だこの匂い!?」
「匂いにつられてる場合か!」
「アルテミスをどうやって攻略するかが先決……」

ぐうー……

 と、くぐもっているのに大きく響く妙な音が、フロアに響く。
 それとともに突如風が止み、料理たちが落ちてくる。

「わったったった!」

 椎名とナギ、そして観戦中だったソーマも加わり、落ちてくる料理をきれいに受け止めていく。
 風を止めた音は、アルテミスのお腹の方から聞こえてきたとしか思えず、みんなアルテミスのお腹を見る。
 アルテミスは一瞬、しまった、という顔をして頬を赤くしたまま平静に戻り、

「くくく……久しく忘れておった。この屈辱が勝利の美酒を極上の味とする……我に敗北(空腹)の苦渋を思い出させてくれるとは……この礼は後日必ず。おぬしらにもこの屈辱を思い出させてやろう!」

 と、歩の台詞を強引に盗み、胸を張る。
 胸を張ったせいでまた、

ぐうー……

と、アルテミスのお腹から止めの一音。

「さ、さらばだ諸君……!」

 しーんと静まる場の中、アルテミスは少しだけ頬を赤く染め、ツツツ、と椎名達の元へ。

「食べてもよいか……?」
「お腹が減っただとおーっ!?」

 全員、選定神の中断要求に大騒ぎ。
 流れを見失った一同は、ダイソウを見るが、

「よし。食事にしよう」

 と、平気でアルテミスに同意する。
 俄然向日葵たちは抗議をはじめる。

「ごはん程度で止まるあたしたちだと思ってんのかー!」
「アルテミスが抜けたから有利になったぜ。戦闘再開だ!」
「そうだそうだ。アルテミスが戻る前に再開を要求する!」

 そんな彼らに、ダイソウの殺し文句。

「ほう、再開してよいのか? 今ならエニグマのご飯がタダで食べられるというのに……!」
「はうっ! ま、まじでか……!」

 急に迷いが生まれる対ダークサイズ。
 ダイソウはさらに、

「腹が減っては戦は出来ぬ。空腹に弱った相手を倒して何とする? それで正義の面目が立つのか? 我々は逃げはしない。この後も戦うのみだ。何のために戦うか。明日を生きるために今日戦うのだ!」

 そして、淳二の肩に手を置き、二人で窓の外の景色をまぶしそうに眺めながら、

『ダークサイズに敗走は無い。あるのは明日への糧(ご飯)だ!!』

 と、太陽を指さす。
 青春ドラマ見たいでカッコいい気分になるが、

(あれ? 捨て台詞になって、る……?)

 と、首をかしげる淳二であった。