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THE RPG ~導かれちまった者たち~

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THE RPG ~導かれちまった者たち~

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第一章:勇者たちの旅立ち


――それは、勇者が25歳になった朝のことでした。
「起きなさい、勇者よ……」
「……ちょっと待ってください。年齢はそのままなのですか。この状況ではっきり言われるとこれまでニートだったみたいで傷つくんですけど」
 母の声で目を覚ましたのは、勇者の東 朱鷺(あずま・とき)です。
 とうとう勇者として旅立つ日がやってきたのです。
 朱鷺の父は、囚われし姫を助けるために旅立ち、命を落としたようなそうでないような気がします。
 だから、彼女は勇者として龍の洞窟へ向かい、龍を倒し、姫を取り戻さないといけません。
「しかも紹介文の導入と違うような気もしますし」
 そんな朱鷺の危惧を母は一掃してくれます。
「おお、朱鷺よ。今日のこの日のために、母はお前を力強く育てたつもりです」
「いやまあ、ありがとうございます」
「お小遣いをあげます。装備もこの家で整えていきなさい」
 母は、餞別をくれます。どこぞの王様なみのハシタ金ですが、夜なべをして作ってくれたお金。ありがたさが違います。

 朱鷺は、50VG(ヴァーチャゴルダ)を手に入れた。
 棍棒を手に入れた。
 母の指輪を手に入れた。

「……いやあの。25歳になって母からお小遣いって。それに武器が棍棒って……」
 なんということでしょうか。ゲームの中とはいえ、これまでの朱鷺の威厳が台無しです。
「その棍棒はね、樹齢千年の聖なる木からあなたの父が勝手に切り取って作った“聖なる棍棒”なのですよ。きっとあなたの役にたってくれるでしょう」
 父親、不法伐採をしていたようです。
「その指輪はね。『俺は勇者になってドラゴンを倒す!』と働きもせずぶらぶらしていたあなたの父が唯一私にくれた婚約指輪です。あなたにご加護があるでしょう」
「……なんか、もう最初から挫けそうな話なんですけど」
 どこからどう突っ込んでいいのやらわからなくなった朱鷺は少し気落ちしてしまいます。
 まあ、きっとこれもバグの仕業なのでしょう。彼女はそう思ってすぐに気を取り直すことにしました。
「では、まず王様に挨拶をしてきなさい。気をつけていくのですよ、私のかわいい朱鷺よ」
「あの……、一人で行けますからついてこなくていいですよ」
 装備を整えた朱鷺は、母親に見送られて王城へと向かうことになります。
 おっと。言い忘れていましたが、ここはサイショの村。
 朱鷺はこの村で生まれ育った少女(?)で、勇者となるために訓練を重ねていたのです。
 なんでも、魔王は勇者の血を引く者の存在を恐れ、勇者となる子供を殺すために探し回っているとかいないとか。
 きっとそのうちこの村も魔王の手下によって発見され滅ぼされたりするのでしょう。
 そうなる前に脱出するのが賢い人生ってもんです。
「王様って……。王城はどちらでしたっけ……?」
 朱鷺は周辺を見渡します。
 村には何人かの一般モブがいて、勇者に話しかけられるのをいまかいまかと待っています。
 誰に話しかけたら王城のありかを教えてくれるのでしょうか。と……。
「いよいよ、旅立ちですか、勇者さん。私もお供いたします」
 向こうから声をかけてきました。
 赤毛の吸血鬼ルビー・フェルニアス(るびー・ふぇるにあす)です。朱鷺の姿を見て待ちに待った日がやってきたとばかりに会心の笑みをこぼします。
 ルビーと朱鷺は勇者友達で、大きくなったらドラゴンとか倒しに行こうと誓い合っていた仲です。
 二人ともすでに大きいですが、気にしてはいけません。
「魔王を倒すには多くの仲間が必要です。私の持っている馬車も一緒に連れて行きましょう」
「その棒読みみたいな喋り方は何とかならないのですか?」
「魔王を倒すには多くの仲間が必要です。私の持っている馬車も一緒に連れて行きましょう」
 ルビーは同じことしかいいません。ゲーム内のマナーを忠実に守っているようです。
「……」
 朱鷺はルビーの薦めてくる巨大な馬に引かれた馬車に目を遣りました。
 いきなり馬車ですか? 至れり尽くせりですね。
「ヒヒ〜ン!」
 仲間を十人くらい乗せれそうな力強いいななきでアピールしてきたのは、第七式・シュバルツヴァルド(まーくずぃーべん・しゅばるつう゛ぁるど)ではありませんか。
 どうやら、ゲーム内でバグにより馬車馬にされてしまったようです。
「ヒヒヒ〜ン! (我は馬車扱いでありますか!? あれほど一緒に勇者になろうと誓ったのに!)」
「馬車だって、大切な勇者の仲間です。よろしくお願いしますよ」
 朱鷺は、実もふたもなく決定してしまいました。
 第七式・シュバルツヴァルドの引く馬車内部では、勇者の仲間たちが控えることになるでしょう。これは使えます。
 満を持して仲間集めが出来そうです。
 改めて見回してみるに、このサイショの村は小さく、建物もあまりありません。コツコツと情報収集をしていくとしましょう。ちなみに馬車は村の外で待機です。
「ブヒヒ〜ン! (そんな殺生な、であります! おのれバグ、許すまじであります!)」
 さあ、冒険に出発です。
 勇者たちにどんな仲間が、そしてどんな困難が待ち受けているのでしょうか。

 
 朱鷺たちがまず向かったのは、村はずれにある酒場です。
 きっといい情報とか仲間とかが待ち構えていることでしょう。楽しみです。
「こんにちは、勇者さん。酒場へようこそ。ゆっくりしていってね」
 出迎えてくれたのは、バーのカウンターの向こうで酒場を切り盛りしているらしい少女です。
「マスターは留守なので、僕がこの酒場を続けているんだ。でも、いつ閉めてもいいんだよ」
 そんなことを言いながらお水を振舞ってくれたのは、フラメンコドレスを纏った踊り子風の少女リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー) です。
 酒を飲んでいるばかりの客は「どうせ魔王が世界を滅ぼすんだ。飲まずにいられるか、うぃ〜っく」とか、「はぁぁ、酒うめぇ」くらいしか喋りません。
 後いるのは、ステージの上で歌っている歌姫くらいでしょうか……。
 と、その歌姫がこちらに気づいたように歌を中断してやってきます。
「え、なになに、勇者が来たって? 噂で聞いてるよ、ドラゴンとか倒しに行くんでしょ?」
 なんかやる気で鼻息を荒くしているのは、この空間に取り込まれ酒場の歌姫として配置されてしまっていた綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)です。
「歌っているだけなのも飽きてきてきたし、冒険に同行させてもらうわね」
「あ、それでしたら、私もです」
 さゆみの影に隠れるようにおずおずと同調してきたのは、同じく酒場に飛ばされてしまっていたアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)です。
 大人しそうな雰囲気の少女ですが、こういう娘も冒険には欠かせないスパイスでしょう。
「あの、よろしくお願いします……」
「ちょっと待ってよ。それじゃ、酒場に誰もいなくなるじゃない」
 リアトリスは口を挟みますが、それは酒場の経営を心配してのことではありません。先を越されてしまったようで少し悔しかったのです。
「なら、僕も同行するよ。改めて自己紹介をしておくと、名前はリトアリス、職業は踊り子。これでもちょっとは腕に覚えもあるんだ」
「いや、それはありがたいんですが、酒場は……?」
「こうしておけば一安心」
 朱鷺の突っ込みに、リアトリスはカウンターの上に『セルフサービス』と立て札を立てて、こちらにやってきました。
 武器も道具も一通り揃っていて旅の準備は万全のようです。
「この空間に取り込まれた人たちを助けるのに、モタモタしていられないよ。そうでしょ?」
「いやいや、安心できないんですけど。この村、色々と大丈夫なんでしょうか?」
「何かが起こる前に、事件を解決してあげればいいじゃない。そのために僕たちが旅立つんだから」
 リアトリスはニッコリと微笑みます。

 さゆみが仲間に加わった。
 アデリーユが仲間に加わった。
 リアトリスが仲間に加わった。
 タラリラッタリ〜ン。とBGMが流れます。
 なんとも爽快な空気を読んだようなサクサク感です。余計な回り道は不要です。
 朱鷺たちは、新たな仲間を迎えて戦力を増強させました。
「では、出発しましょう。第一の秘宝を求めてドラゴンの洞窟へ」
 さゆみが仕切り始めます。
「ちょっと待ってください。まだ村人全員の話を聞いていませんので」
「几帳面な勇者さんね」とさゆみ。
 その通りです。コツコツと解いていくのが一番です。
 民家のタンスをあさりつぼの中を覗き込み、仕掛けがないか地面を探してみます。
 すると。
「きゃああああっっ!」
 森の向こうから悲鳴が聞こえてきました。
 待ってましたとばかりに向かう勇者一行。
「グゲゲゲゲッッ! 俺たちは魔王様の使い。秘密を知られたからには生かして返すわけにはいかねぇなぁ」
「ヒャッハー! この娘っ子、縛り上げておっぱい揉んでやるぜ!」
 駆けつけてみると、一人の村娘がモンスターの群れに襲われているようでした。
 典型的なザコモンスターの一種のゴブリンたちが暴れているようです。
 なんか、モヒカンも混ざっていますが、波羅蜜多実業高等学校辺りから飛ばされてきたのでしょう。一緒に倒してしまいましょう。
 おっと、ちょっと待ってください。
 その傍らで、モンスターに襲われている少女を助け出そうとしている人物の姿も見えます。会話してみます。
「ああ、なんということでしょう。私は村の兵士なのですが、これは多勢に無勢ですわ。誰か加勢してくれる者はいないのでしょうか」
 説明口調で話してくれるのは、この村の兵士として配置されてしまったらしい冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)です。
 どこからどう見てもゴブリンたちよりはるかに強そうなのになぜか苦戦しています。
 そもそも、チャイナドレスを着ている兵士がどこにいるのでしょう。ですが、彼女がそう主張するのです。尊重しましょう。
「いやーっ! 誰か助けて! 魔王の秘密を聞き出してしまったために魔物たちに襲われて……」
 こちらの丁寧な説明は、悲鳴を上げていた村娘役の紅護 理依(こうご・りい)です。
 どうやら何かの秘密情報を教えてくれる模様。やはり人の話は聞いておくものです。
「さて状況もわかったし、やっつけちゃおっか!」
 さゆみの号令の元、初めての戦闘が始まります。
「だから、仕切らないでくださいって!」

 モンスターが現れた!

 ゴブリンリーダー 1匹
 ゴブリン     4匹
 モヒカン     2匹
 コマンド?
 →たたかう
  にげる
  じゅもん
  どうぐ

「え? コマンド、ひらがななんですか?」
 言いながら朱鷺はゴブリンの一匹に攻撃をしてみます。
 朱鷺の攻撃。
 ゴブリンAに49ポイントのダメージ。
 ゴブリンAを倒した。
「棍棒……微妙な強さですね。本来ならもっとダメージを与えれるのですが」
 もちろん、生身の彼女らならそうでしょう。
 ですが、これがゲームバランスというものです。
 続いて、アデリーヌも魔法使いとして火術を唱えてみます。
 アデリーヌはじゅもんをとなえた。
 ゴブリンBに42ポイントのダメージ。
 ゴブリンBを倒した。
「やはりこれくらいのもののようです。ゲーム世界内では色々と調整されているみたいですね」
 ゴブリンリーダーの攻撃。
 ルビーは3ポイントのダメージを受けた。
「ふふん。そんなダメージでは相手にもならないのですよ。私のHP表示されてませんけど」
 ルビーは毒を受けた。
「……え?」
「なんか、画面の色変わっちゃったね。まあ、大丈夫、あとで教会にいけばいいから」
 さゆみも攻撃します。
 ……。
 なんだかんだで、あっという間に戦闘は終わってしまいました。
 少々のダメージはあったようですが、元々やられ役専門のザコキャラなのでこんなものでしょう。
「ありがとうございました。助かりました」
 戦闘が終わると、理依がお礼を言ってきます。
「聞いた話ですが……」
 理依が村娘として重要な情報を教えてくれます。
「魔王は四人いるそうです。ですが、それぞれの力はさほど強くなく気ままに暮らしているだけ……。彼らも私たちと同じ契約者なのですよ。なにとぞお手柔らかに」
「なるほど、必ずしも倒す必要はないってことですか」
「もうひとつ……。あなたたちが出会うであろう最後のクリスタルですが、暴走中のコアそのものはとても脆いものです。簡単に壊せるでしょう。ただし、強力な防御システムをかいくぐりさえすれば」
 これは覚えておくといいでしょう。他の人たちにも教えておきましょう。
「はやり貴女が勇者さまですね。予言にあったとおりです」
 村の兵士の小夜子も台詞を喋ります。
「私は夢に見ていました。勇者さまたちと冒険をすることを。是非、私も仲間に加えてください。必ずやお役に立ちましょう」
「いいと思います。ちょうどパーティーに剣士がいなかったところですし」
「それはありがたいです」
 
 小夜子が仲間に加わった。

「心なしか頼りない感じですね」
 小夜子は、普段よりも身体の動きが鈍くなっていることに困惑しながらも、出発の準備を整えます。
「では、パーティーが揃ったところで、出発しましょうか」
「……その前に教会へ……」
 ……そうでしたね。

「おぅ、迷える子羊共。アタシの教会に何か用?」
「……」
 村にある教会にいってみると、ずいぶんと目つきの悪い神父さんが出迎えてくれました。
 由緒正しいヤンキー座りで、朱鷺たちをじろじろと睨みまわしてくれます。
「ん、毒の治療? まずはカネだカネ。勇者だからって甘えちゃいけない。世の中金だ。蘇生や治癒をしたかったら装備を売ってでも金作ってきなさい」
 丁寧に助言してくれたのは、ヴァーチャル空間内で教会の神父として赴任したグラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)です。
 どうやら、このグラルダ神父の話によると、ヴァーチャ空間内にはこういう教会がいくつかあって、勇者のパーティーを手助けしてくれる施設として認知されているようです。
 死んだり呪われたりしたら来てみるといいらしいとのことです。
 乱暴そうな割にはずいぶんと親切です。おまけに腰も低いです。ヤンキー座りですし。きっとツンデレなのでしょう。
「復活は対象者のLV×20VG。状態異常の解除は一律50VG。神はいつだって狭量だ。寄付金がないと力を貸さないぞ」
「……」
 ちょうどゴブリンたちをやっつけたときに手に入ったお金があります。
 それを払って治療してもらいましょう。
「あ〜、神よ。カネなら貰った。さっさと直してくれないと信仰捨てるぞ」
 グラルダ神父の信心深い祈りにより、ルビィの毒は消え去りました。
「後の手続きは横のシスターが全部やってくれるから、そっちに言ってくれ。まあ、困ったらいつでも来な。教会はいつだって冒険者の味方だ」
「……」
 グラルダ神父の言葉通り隣に視線をやると、無表情なシスターが佇んでいるではありませんか。
 彼女は、シスター役のシィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)です。
「冒険を中断しますか? ならば復活の呪文をお教えしましょう」
「……はい?」
「一度しか言いませんので、あしからず」
「メモメモ!」
「ほぴぽ うぱま ゆゆもほ ゆぬは ろこて きいしふ むはた じぞぶ ぺざふめ いにわ くべお さぽうべ そびば ねれず ぬ」
「……って、このゲームはバックアップ方式だよっ! しかも、僕たち冒険中断しないし!」
 リアトリスが突っ込むも、シスター・シィシャには聞こえないようです。
「ちなみに、復活の呪文作成のためのツールをZipでアップしてあります。どうぞ使ってみてくださいね」
「シスターというよりも、復活の呪文ジェネレーターですよ、彼女」
「以上です。では、行きなさい。神はいつも貴方達を見守っておられます」
「……はい、行ってきます」
 色々と疲れてしまった勇者たちは、理依に見送られながら、村を旅立ちます。
 もちろん、馬車の第七式・シュバルツヴァルドも忘れてはいけません。
 さあ、竜の洞窟へ。
 その前にLVアップですね。