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リアクション
第二章 地獄のクッキングファイト 1
「それではっ! ただいまより、『天下一料理武闘会』、予選ラウンドを開始いたしますっ!!」
いつもの調子……をだいぶオーバーランして、もう完全に開き直った様子で泪が声を張り上げる。
すでに各チームの戦闘を担当する選手は準備万端といった様子で、特に士気の高い数人などはいつでも飛び出せる態勢を整えていた。
「クッキングファイトッ! レディィィィィ・ゴオオオォォォォォッ!!」
その合図とともに、あちこちで早速戦いが開始されたのであった。
「こ、こんな恐ろしいもの食わされてたまるか!」
必死の形相を浮かべているのは、無限 大吾(むげん・だいご)。
まさかこんな料理ばかりだとはつゆ知らずに地獄の一丁目に足を踏み入れてしまった彼にとって、もはや生き残るためには勝ち続ける以外に手段がなかったのである。
だが、今回ばかりは相手がまずかった。
「勝負あり、ですね」
セイル・ウィルテンバーグ(せいる・うぃるてんばーぐ)の攻撃をものともせず、そして大吾の鉄壁の防御をも打ち砕いたのは、「闇鍋奉行」のクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)である。
タイラントシリーズの装備で身を固めた彼の猛攻は、いかな大吾にも防ぎ切ることはできなかったのである。
「さあ、ではこれを食べていただきましょう」
その言葉とともに差し出されたのは、どこかで見たようなラーメンにカレー、そして焼きそば。
ここではないどこかで見たような気がする、ということは、少なくとも見た目やにおいからはさしたる異常は感じられない品である。
もちろんそれで安全が保証されたわけではないが、ことここに至っては食べるより他になく、大吾はおそるおそるカレーを口にした。
「感想は?」
「何と言うか……普通にマズい」
その言葉に、クロセルは満足そうに頷く。
彼の用意したこれらの料理のテーマは「海の家の風物詩」。
海の家にとっては海水浴シーズンが短い稼ぎ時であり、従ってその間にどんどん稼がねばならない。
故に、のんびり味わって食事などされていては、客の回転率が落ちてしまうのである。
心配せずとも、近くにライバル店がない限りは多少味が悪い程度で客が来なくなる心配もない。
そういった緻密な論理にもとづいて計算されたマズさの結晶が、これらの料理なのである。
「なんですかこのラーメン……完全にのびてますね」
「うわ、この焼きそば粉っぽいな……」
期待通りの二人のリアクションに満足しつつ、クロセルは次の獲物を求めて去って行った。
……とはいえ、一撃必殺料理が渦巻く中、いかにガチ装備と手数で勝負とはいえ、この料理で勝ち抜いて行くことはさすがに厳しいだろう。
そして大吾とセイルはといえば、クロセルの料理がそういった「一撃必殺料理」でなかったことが幸いして、この場でのリタイヤを免れることが出来たのであった。
「綺麗なお嬢さんと戦うのはあまり気が進まないんだけれど、よろしくね」
そう言いながら、そっとガーベラの花を差し出したのはエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ) 。
「き、綺麗って……そう言ってもらえるのは嬉しいけど、勝負は手加減しないからな!」
どぎまぎしつつもその花を受け取って、椿は気合いを入れ直した。
もともとは「イケ面はイケメンに食べさせてこそ絵になる」という理由だけで勝負を挑んでみたのだが、見た目だけでなく性格も紳士的なエースはよく考えるまでもなく椿にとってはストライクゾーンど真ん中である。
とはいえ勝負は勝負、軽身功で身を軽くすると、一気に飛び込んで得意の体術による決着を狙った。
……が、いくら素早さを上げてみても、技量で勝るエースに直撃させることは難しい。
怒濤のラッシュを仕掛けるもうまくいなされ、攻め疲れた形になったところで不意にエースの姿が目の前から消える。
気がついた時には、身体のすぐ横にエースの剣があった。
「勝負あり、だね」
彼が止めていなければ強烈な一撃を受けていたはずだし、そうなっていればその隙に畳み掛けるという選択肢も彼にはあっただろう。
「だな。あたしの負けだ」
潔く負けを認めた椿のところに、エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)が手のひらサイズのミートパイを運んでくる。
「どうぞ。食べやすいようにと思って作ってみました」
このエオリアもエースとはタイプの違う美形であり、勝負に負けたことを差し引いてもテンションの上がる状況であることは言うまでもない。
「ああ。それじゃありがたくいただくぜ」
これはこれでいいかな、と思いつつ、椿はミートパイを受け取った。
さて、この予選会場には、ぱいんちゃんによって魔法がかけられており、最後のとどめは料理のマズさでささなければならないシステムになっている。
ところが、てっきり普通の料理大会だと思ってきたエースとエオリアの二人は、普通に「おいしい料理」を作ってしまっていたのである。
もっとも、もしルールを知っていたとしても、誇り高き料理人であるエオリアは決して意図的に不味いものなど作ろうとしなかったはずだが。
ともあれ、そうして「マズい料理」でトドメを刺すべき場面で、「おいしい料理」を食べさせてしまった場合、どうなってしまうのか、というと。
「こ……こいつはうめえっ!!」
そう叫びながら、椿は自分の身体中にエネルギーが満ちて行くのをはっきりと感じた。
「喜んでもらえたなら何よりです」
にこりと笑うエオリアに、椿はぐっと親指を立ててみせる。
「ああ、なんだかまだまだやれる気がしてきた! 二人とも本当ありがとうな!」
そう言いながらどさくさにまぎれて二人の手を一度ずつ堅く握ると、椿は次の相手を求めて威勢よく駆け出して行ったのだった。
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