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【なななにおまかせ☆】あばよ! 今年の汚れ

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【なななにおまかせ☆】あばよ! 今年の汚れ
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リアクション

 作業をしながらも、数人が集まれば自然と話に花が咲く。
 特に今日は正真正銘サンタクロース――の孫娘がいるのだから、さもありなん。
 面識のある正悟にとっては、この驚きは数年前に体験したものだが、勇刃たちは違う。
 初めて会うサンタクロースの少女に興味深々。色々な質問が飛び出した。

「サンタクロースは恰幅の良い髭を蓄えた老人とばかり思っていたが――」
 幼い頃のイメージを浮かべたのだろう司の呟きにフレデリカは笑いながら答える。
「それはお爺ちゃん。あたしはその孫娘なんだよ。シャンバラでプレゼントを配るのに泥棒に間違えられちゃうと困るから、
 毎年、金団長から直々に通行許可証をもらってるんだ」
「なるほど。サンタも色々と大変なのだな」
「それの代わりが掃除なのか?」
 勇刃が会話に口を挟む。フレデリカは慌てて首を横に振った。
「違う、違う。掃除は私が好きでやってるの。だって、貰うだけじゃ悪いし。良くしてもらってるお礼だよ。
 お陰で今日はみんなにも会えたし。大変なことばかりじゃないよ」
「へぇ。じゃあ、サンタの仕事で一番面白かったことって何だ?」
 勇刃の問いかけにフレデリカは少し考え込む。
 その横顔をじっと見つめていた咲夜が、絶えかねたのか、つと頬に手を伸ばした。
 ――ふに
「え?」
「は? さ、咲夜?」
「やっぱり――素敵なお肌ですね~。きめ細かいし、潤ってるし……お手入れの秘訣はなんですか?」
 ――カッ!!
 咲夜の真剣な眼差しに気圧される。
「え、えぇと……適度な運動とバランスの取れた食事。野菜と果物は多目が基本、かな? 特別なことはしてないよ」
 返ってきた答えは拍子抜けするほど、当たり前の普通なものだ。 
 瑞々しく、透き通る肌は乙女の憧れ。それは意外に簡単な方法で保てるらしい。が、それを実践し続けるのは難しいようだ。
「それでは――フレデリカさん。フランス料理はお好きでいらっしゃいますか?」
「はい?」
 いきなり明々後日の質問を投げかけるのは友見だ。料理の話がでたせいかもしれない。ちなみにフランス料理は友見の十八番である。
「うちはイタ飯が基本だけど、嫌いじゃないよ」
「なるほど。サンタさんのお郷はイタリアなのでございますね」
「うん。そうなんだ。あ、えーと……勇刃さんは何でしたっけ?」
「あぁ。サンタの仕事で一番面白かったこととかってあるのか?」
 少し、考えてフレデリカは誇らしげに答えた。
「子供達たち気付かれずに部屋に忍び込むことだよ! ゲームみたいでいつもドキドキする。でも、上手くと、嬉しいな」

  * * * 

 一方――カードロボから離れた校舎に近い側。
「さー。サンタちゃんの許可証のために頑張るよー」
 ゴミ袋とゴミバサミを振り上げる美羽をふわりと七色が包む。
 隣で掃き掃除を始めたパートナーのコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)の手にした【虹を架ける箒】の効果だ。
 箒が左右に揺れるたびにきらきらと小さな虹がかかる。
「粗方はボクが集めておくから。美羽は大きなゴミをよろしくね」
「まっかせてー!! さぁーレッツゴミ集め。塵一つ残さず掃除して、団長から許可証を貰うよ!」
 自分を彩る虹色にご満悦な美羽は機嫌よく、ゴミを摘んでは、ゴミ袋に放り込んでいく。
 コハクは小さく笑うと再び箒を動かし始めた。
「おーすげーな。虹だ」
「あら。良いわね。楽しみながら、お掃除が出来るのも悪くないわ」
 その隣で掃き掃除を進めるのは大地と紗紗だ。
 背中を合わて、奥から手前へ。それぞれに箒を動かす。
 大地は花屋を営むリュースの手伝いをしているし、紗紗は元々自身も花屋である。
 掃除はお手もので、馴れた手つきでどんどんと掃き清めていく。
「大地、ゴミは後から一箇所に集めるからね」
「わかってるって、紗紗姉」
 集まってきたゴミを分別するのはリュースと珍しく鎧から人の姿に戻った彼の魔鎧・ロイだ。
 砂埃、砂利、空缶、空瓶、何かの部品や紙屑。大きなものはないが何せ一年分の汚れだ。
 こちらも慣れたもので、次々と的確に分類して、ゴミ袋に放り込んでいく。
「――凄い量だな」
「――凄い量だね」
 ぼそりと呟いたロイの言葉に少女の声が重なる。
 顔をあげれば、フレデリカが笑顔で立っていた。

  * * * 

「去年はともかく一昨年は凄かったよねぇ。サンタちゃん」
「やだ。美羽さん。恥ずかしいから昔の話はやめようよ~」
 顔なじみの少女たちは思い出話をしながら、集めたゴミを仕分けしていく。
「ねぇ、フレデリカさん。一つ聞いてもいいかしら?」
 話に一段落ついたところで、紗紗が切り出した。
「何かな?」
「あ。答えたくないなら、いいのよ」
 前置きしてから話し出す。
 パートナーにフレデリカというサンタの孫娘の話を聞いた時から気になっていたのだ。
「誰かと契約しないの? ……リュースは今は誰とも契約する気はないみたいって言ってたんだけど」
「契約、かぁ」
 傍でゴミをそりに乗せていた正悟はその言葉に思わず振り返った。
 以前、フレデリカに契約を持ちかけたことがある。その時は「今は一人でやってみたい」と断られた。
 あれから時間がたった。彼女はなんと返事をするのだろう。同じか、違うのか。気になった。
「うーん……今のところは誰かと契約する気はないかな。……いい人がいれば考えるけど」
「どうなの。それはちょっと残念ね。いい人っていうのは難しいものね。
 ――あ! 別にリュースがどうのってわけじゃないから、気にしないでね」
 慌てて言い添える紗紗にフレデリカは分かっていると答えた。
「終わったよ~。さーゴミ捨てに行こう」
 いつの間には大量のゴミは綺麗に仕分けされていた。
 プレゼントの前にゴミを積み込む羽目になった二つのトナカイの前で美羽と大地がジャーンとポーズを取る。
 綺麗に掃除された入口は塵一つ、埃一つ落ちていない。
 遠目に見える二体のロボも心なしか、艶と輝きを増したようだ。
 後はゴミを捨てるだけ。一行は連れ立ってゴミ集積所のある本部に向って歩き出す。
 が、美羽の引くそりだけが明後日の方向を向いた。
「美羽。ゴミ捨て場はそっちじゃないよ?」
 コハクが慌てて引き止める。
「え? 学生寮はこっちの方角であってるもん」
 学生寮という単語にコハクの頭に嫌な考えが浮かんだ。そうだ。ここには彼女がいたのだ。
 互いに犬猿――かたや顔を鞭で引っ叩き、かたやペイント弾を撃ち込む――そんな子供の喧嘩じみたやりとりをする相手が。
「だ、駄目だよ!?」
「まだ何も言ってないよ。――どうせなら、メルメルの部屋にぶち込もうと思ってたのに」
 勝手に愛称で呼ぶ様は親密さの現れにも思えなくないが、やらかそうとしていることはどう考えても嫌がらせの類だ。
「言った! 今言ってるじゃないか!? 駄目だよ。メルヴィア大尉にまた怒られるよ」
 ポーズだけだったのか。慌てふためくパートナーを他所に美羽はトナカイの舵をゴミ集積所にあっさり戻した。

  * * * 

 そう言えば――と、久しぶりに会う顔馴染みにフレデリカは問いかけた。
「正悟さんは今日はどうして? 手伝いに来てたの?」
「いや、手伝いというか、知り合いに届けものに来てたんだが、なんとなく成り行きで
 ……それに、フレデリカさんの姿が見えたから」
 思わず声をかけたのだと言えば、サンタの少女はくすぐったそうに笑った。
「ありがと。わたしは転校したのかと思ったよ。ね? 今はどうしてるの?」
 わたしは相変わらずだよと言うフレデリカに促されるように、正悟はぽつりぽつりと今までの出来事を話す。
「――天学に転校したり、ロイヤルガードになったり……大勢の人に会ったな……うん。なんていうか、色々あったよ」
「そっかぁ……」
「…うん…。あ。そうだ。フレデリカさん――久しぶり。夏の登山以来だから半年振りだね。元気そうでよかったよ」
「そっか。――まだちゃんと挨拶してなかったね。正悟さんも変わりがなくて何よりだよ!」
 近況を語り終えた二人は改めて、再会を喜ぶ。
 と、二人の思い出話を聞いていたリュースは素朴な疑問を口にした。
「……夏……フレデリカさんはお仕事がない時季は何を?」
「うん? そうだね。シーズン外は仕事はお休みだけど、色々やってるよ」
「夏には登山、とか?」
「そうそう。まぁ、修行ってほどでもないけど、立派にサンタクロースになるために色々とやってるんだ」
「――なるほど。サンタも大変なのですね」
「修行、か。それはいいな。己を磨き、高めることは尊い行為だ。
 腕を磨き合い、己を高められる――そんな相手がいれば尚更だ
 フレデリカ、と言ったな? お前には互いに切磋琢磨できる、そんな相手が存在があるか?」
 感心したように頷くリュースの隣で低い声が淀みなく滔々と語った。
 声の方を見れば、どこか不機嫌そうな鋭い眼光と目があう。
「あ……え、と?……」
「ロイ。フレデリカさんが怖がってますよ? こいつの紹介はまだでしたね。オレの――」
「…目つきは元からだ…。ロイ・ウィナー(ろい・うぃなー)だ。リュースがいつも世話になっている。突然、すまない」
 頭を押すパートナーの手を払いのけ、常になく饒舌な己を恥じるようにロイは深々と頭を下げた。
「あ。ううん。気にしないで。ロイさんは、リュースさんのパートナーなんだね。よろしくね」
「……パートナーというよりはライバルだな。互いに高め合える……励みになる存在だ」
「お花の?」
 掃除道具を返しにいくと別れた着物姿を思い出して首を傾げるフレデリカ。
 ロイは接客に出た日、数人の少女に怖がられたことを思い出しながら、首を横に振った。
 花自体を美しいと思う気持ちはあってもリュースや紗沙のようにそれの良し悪し、まして芸術品に仕立てる腕はない。
「……いや。俺は……花には詳しくはない。その、武術の方だ」
「あ。そうなんだ。ごめんなさい。――ライバル、かぁ」
 フレデリカはそう言うと空を仰ぐ。
「うん。いるよ。あの子が、わたしのライバル」
 名前はスネグーラチカ 。ロシアのサンタクロース、ジェド・マロースの孫娘。
 奇しくも自分と同じ立場にある、サンタ少女だ。
「あたしがシャンバラ。スネグーラチカはカナン。きっと、向こうも準備してる頃だよ」
「――そうか。それはいいな」
「今まで、そんな風には考えてことなかったけど。……あの子がいつも張り合ってくるのってそういうことかな?
 そう思うと、仕事が終わった後に会う日が少し楽しみなったな」
 言い終えるとフレデリカは歩みを止めて、全員の顔を見回す。
「今日は本当にありがとう! 思ったより早く終わったから、少し早いけど団長のところに行ってくるね」
「ああ。手伝えることがあれば声をかけてくれよ」と正悟。
「その時にはオレのことも忘れないください。大地や紗沙も喜ぶと思います」とリュース。
「俺も力を手伝おう。サンタの仕事は――その、興味深い」とロイ。
「私はもちろん一緒にくばるよ! サンタちゃん」と美羽。
 ここに居れば、和輝とクレア、稔もきっと、再度の手伝いを申し出るだろう。
 口々に手伝いを申し出る友人にサンタクロースの孫娘は今日一番の笑顔で答えた。
「うん。ありがとう。みんな。――じゃあ、またあとで!」

  * * * 

「ロイ」
 フレデリカが消えた校舎を、まだ感慨深げに見つめる背中を呼べば、一呼吸遅れて返事があった。
「――今日はどうしたんですか? 珍しいこともありますね」
 リュースは首を傾げる。そう言えば、今日はいつになく饒舌だった。
「……そうか?」
「何かいいことでもありましたか?」
「……いや……あぁ……その、なんだ。どうも――俺はサンタというもの存在を喜んでいるらしい……」
 そう呟く表情はいつもと同じ相変わらずの仏頂面。けれど、少しだけ綻んで見えた。