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 第三章:種もみフェスタ!

 
 さらに数日後……。
 ヒラニプラに程近い貧村にみすみともみワゴンは滞在していた。
 ここは、水すら少ない荒地で田畑も枯れ果てている。少ない食料とわずかな家屋に身を寄せ合って村人たちは細々と暮らしている。そんな村だった。
 こんなところに大人数で押しかけてもかえって迷惑なだけ……。そのため、乗り合いの客のほとんどは隣の裕福な村で降りてもらって、きれいな宿に泊りつつゆっくりとくつろいでもらっている。
 きっと向こうは向こうで新たな展開が進んでいるだろうが、みすみには興味のないことだった。
「ふむ。強力な仲間を外してこんな辺境にまで乗り込むとは、さすがハンパないであるな」
 途中で仲間に加わった種もみ剣士のホー・アー(ほー・あー)は、今にもモヒカンがやってきそうな雰囲気に気合を入れた。
 彼は、みすみの種もみ配りを手伝って一緒にやってきたのだ。
「確かにこの村は救う価値がある。村人たちはみなオレたちの持ってくる種もみを待ち望んでいるのだ。それを見逃さないみすみには感服する次第」
「種もみを配るのは私たち種もみ剣士の仕事だから。他の人たちに手伝ってもらうのは、ちょっと筋が違うでしょう?」
 とみすみ。
「だ、だからってぇ……、ぜ、全員種もみ剣士のみって、どんな罰ゲームですかぁ!? 死んじゃいます、いやこれ……モヒカンに襲われたら、全滅しますって」
 強き領主たれ! とパートナーの提案で修行に連れ出された種もみ剣士のネギオ・モヤシモ(ねぎお・もやしも)はガクガク震えながら辺りを見回す。
「種もみ剣士さんたちだけじゃないわ。私もいるもの」
 しょんぼり気味ながらも口を開いたのは、吉井真理子だ。
 彼女は、あの事件のあと、みんなと顔をあわせづらくなってこっそりと抜け出してきたのだ。
 悪いのはわかっている。みんなに心配をかけていることも。そして、危険なことも。
 でも、いたたまれなかったのだ。
 せっかく忠告してもらったのにまんまと危ない目に遭って、みんなの手を煩わせた。
 にもかかわらず、誰も彼女を責めなかった。むしろ丁重に扱われたのだ。
 みんなが、いい人すぎて辛かったのだ。
「ただでご飯食べるわけには行かないからね。種配りや農作業くらいは手伝うわ」
「あああ、終わりましたぁ! なんですか、このメンバー!? 自殺志願者の集まりですかぁ?」
「吉井さんには、みんなと一緒に向こうの村で待っていてほしかったんだけど」
 みすみの台詞に真理子はつとめて明るく微笑んで。
「今は、あまり多くの人たちと接したくないの。みんなとてもいい人たちだけど、それだけに負担になるでしょ? むしろ大自然に接して癒し効果よ」
「大自然というか、ワイルドすぎるんだが。まあいい、作業を始めようか」
 種もみ袋を抱えて、ホー・アーは歩き出す。
 真理子は付き従いながら言った。
「それに、お連れの冥土院 兵聞(めいどいん・へぶん)さんがネギオさんのこと、『いやこいつマジ超強いし頼りになるんで守ってもらえ』って言ってたわよ?」
「ああああ……どこかで見守ってくれているんでしょうね!? ヤバくなったらきっと助けてくれるんですよね!?」
 半泣きになりながら、ネギオは兵聞の姿を捜し求めるが、誰もいそうになかった。
「よ、ヨロシクオネガイシマス、ヨシイさn……」
 立ったまま白目をむいて動かなくなるネギオ。
「みすみちゃん、おひさー。種もみいっぱいもってきたッスよー」
 向こうから種もみ袋満載の荷車を引いてやってきたのは、同じく種もみ剣士のノエル・マスターシード(のえる・ますたーしーど)だった。
「途中で姉御まいてきたんで、今日は僕一人ッスよ」
「え? セシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)さん、置いてきちゃったの? それは、怒られるんじゃぁ……」
「僕だって一人でやってみたいッスよ! そうでないとみすみちゃんに肩を並べられないッス」
 真剣な表情でノエルは言う。
「じゃあ行くッスよ。腹をすかせた子供たちが待ってるッス」
 みすみたちは、村で種もみを配り始めた。老人や子供たちが寄ってくる。
「種もみじゃぁ、種もみが来てくれたぞ」
「ありがたやありがたや」
 多くの村人に歓迎を受け感謝されるみすみたち。自分の運んできた種もみで貧しい人々が救われる。それだけで、種もみ剣士をやっている甲斐もあるというものだ。
 もちろん種もみをただ置いていくだけじゃなく、井戸を復活させ荒れ果てた田畑を蘇らせる。そうやって初めて村も生き返るのだ。
 真理子も手伝い農作業。これはこれで楽しそうだ。
 一日目は何もなかった。
 ところが二日目……。
「……来たわね」
 暗雲立ち込める彼方を振り返って、みすみは呟く。明らかに周囲が殺気立ってきたのがわかった。
 ドドドドドド……、という地を振るわせる独特の爆音が聞こえてきた。モヒカンの操るバイクの音だ。
「一緒に戦うッスよ、みすみちゃん。姉御がいなくてもやれるってとこ見せるッス」
 種もみ配りをしていたノエルが駆け寄ってくる。
「くぇr注意おp@あsdfghjkl;:」
 ネギオもやる気満々のようだ。口から泡を吹いているのは気負っているせいでガクガク震えているのは武者震いのせいだろう。
 そんな時……。
 村はずれからよろよろと歩いて姿を現したのは、一人の種もみ剣士だった。モヒカンに追われてここまで落ち延びてきたらしい。
「……すまないねぇ、モヒカンをおびき寄せるような感じになってしまったよ」
 息を切らせながらも、ヘッと自嘲気味に笑ったのは、またたび 明日風(またたび・あすか)だ。一人旅をしている途中、モヒカンに狙われたのだ。
「生きているだけで上等ってもんよ。なぁに、このオレがいっちょモヒカンどもを追っ払ってやるとするかな」
 ホー・アーはもみワゴンの上で種もみ袋を抱えて待機。
 真理子は、村人たちとともに小屋の中に避難している。
 そこへモヒカンの大群が現れた。
 ヒャアッッハァァァァァッッ!!と聞き覚えのある声には、エコーがかかっていた。
「この間はよくもやってくれたなぁぁぁっっ!」 
 七色モヒカンのレインボーが先頭になって、モヒカン軍団を引き連れてやってきた。その数、百人くらいだろうか。
 全員、バイクにまたがったまま突撃してくる。
「あ、あなた、生きていたの!?」
 みすみは驚きに目を見開いた。レインボーはところどころつぎはぎになっており、改造されたような姿に変貌していた。
「やっぱり旅はヒッチハイクより、バイクだろ! メカ・レインボーさまパワーアップして登場だぜ、ヒャッハー!」
「知り合いッスか?」
「事情は後よ。まずは、こいつからっ……!」
 みすみはノエルとともに、レインボーを迎え撃つ。
「もちろん、助太刀するぜぇ。火の粉くらいは払わないとな」
 ともに攻撃に加わってくれるのは、またたび 明日風だ。
「やああああああっっ!!」
「ヒャッハーッッ!」
 種もみ剣士とモヒカンがぶつかり合った。
「わああああっっ」
 衝撃をくらい、みすみは吹っ飛んだ。
「みすみちゃんっ!」
 それを支えて受け止めるノエル。返す刀でモヒカンに攻撃するのはまたたび 明日風だが。
「効かねえなぁ! はああっっ!」
 レインボーは笑みを浮かべたまま、反撃してきた。
 ドガガガガガッッ!
 ものすごい連続攻撃だ。
「ぐあああっっ!」
 またたび 明日風は全身で攻撃を受け、その場に倒れた。傷つきつつも顔を上げ立ち上がろうとしている。
「ま、まだだ。みんなを巻き込んでおいて、こんなに簡単には死ねんぜ!」
「いや、死ぬんだ。今楽にしてやるぜ、とどめだ、ゲハー!」
 レインボーはまたたび 明日風に容赦なく巨大な斧を振り下ろす。
 ガシィッ!
 それを受け止めたのは、みすみの種籾戟だった。ノエルに支えられ転がり起きた後、すぐさま突進してきたのだ。
「あなたの相手は、私のはずよ!」
「ハッハァ! 俺さまと力比べしようってのかぁ!? 押しつぶしてやるぜぇ!」
 レインボーは、巨大な斧に力を込める。
「……くっ!」
「相手は一人じゃないッスよ! 喰らえ、種もみビーム!」
 剣の花嫁ノエルの光条兵器、星種シャイニングシードから光が迸りレインボーの顔面に命中する。それは、モヒカンの一部をえぐりダメージを与えた。
「おのれいっ、俺さまのお気に入りモヒカンをっ!」
 ぐおおおっっ! と激怒の声を上げながら、レインボーは体勢を立て直そうとする。
「いや、あんたこそ死ぬんだ!」
 またたび 明日風はグレイシャルハザードを発動させる。ほんのわずかの間に、釣り竿の糸をサイコキネシスで操り相手を囲んでいたのだ。動きの制限されたレインボーに氷が襲いかかった。氷に包まれ、敵がわずかに動きを止める。
 同時にみすみが地を蹴ってレインボーに飛びかかる。種籾戟が銀光を放った。
「どこを狙ってるんだ? 当たらねえぜ!」
 相手はみすみの攻撃をひょいを交わして、ニヤリと笑った。
「当たってるわ!」
 みすみの攻撃は、モヒカンにではなく乗っていたバイクに命中していた。ガソリン満タンのタンクに……。ボトボトとガソリンが流れ落ち始める。
「私がどうしてモヒカン相手に今まで生き残ってこれたか、わかる? モヒカンはね、バイクで登場するからよ」
「……な、なあああっっ!?」
「はっきり言ってあなた、最初に登場したときのほうが手強かったわ。徒歩だと、攻撃できるのは本人の身体だけなんだもの」
 その言葉が終るより先に、ノエルとまたたび 明日風の放ったビームがモヒカンのまたがるバイクのタンクに命中していた。ガソリンに、引火する……!
「次に生まれ変わったら、旅はやっぱりバイクよりヒッチハイクにしなさい!」
「ちくしょおおおおおっっ!」
 レインボーは血の涙を流しながら最期の言葉を叫ぶ。
「一度でいいから、みっしり詰まった豪勢なおせちを食べたかったぜ……!」
 ドッカーン!!と轟音を立てて、レインボーはバイクごと炎に包まれ爆発した。爆風に煽られ地面をゴロゴロ転がるみすみの身体をノエルが受け止める。
「やった!」
「やったッスね!」
 半身だけ起こしたみすみとノエルはパンと手を叩き合わせる。
「救世主がいなくても、モヒカンを倒せるのよ」
「姉御なしで、モヒカンのリーダー倒したッスよ!」
「喜んでいる場合じゃねえよ。子分どもが暴れまわってるぜ」
 またたび 明日風は指差す。
「ヒャッハー!」
 リーダーのレインボーは死んだものの、残ったモヒカンたちが村を無差別に襲い始めている。
「よくがんばりましたね。みすみ、そしてノエル君。あとは私に任せておきなさい」
 少し離れたところで様子を見ていたセシルは、喜び合うみすみたちを尻目にモヒカンたちを迎え撃つ。今回はノエルが主役なので、彼女の出番は控えめだ。
 というか、この程度の連中など時間をかけるまでもない。
「お疲れ様でした。よい子は帰って寝ましょう」
 ノエルはモヒカンたちを追い返す……。