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第五章:そして再び! 種もみ剣士最強伝説!


 もみワゴンは、ジャンバラ大荒野を走りぬけ、まもなく目的地のヴァイシャリーにたどり着こうとしていた。
 この気ままな旅はまもなく終わる。
 長いようで、そして短い旅だった。乗客の全員が充実した心地よい疲労感にとらわれていた。
 もう誰も、あまり話そうとはしない。そんなことをしなくても、しっかりと語り合い遊びつくした。
 後は到着するだけ。
 うつらうつらとまろやかな眠りに包まれるようにワゴンは進む。
 それを小高い丘の上から見下ろす、数人の影が……。
「さて、行こうか。最強を、見に……」
 最後の戦いへといざなう。

「よーしストップよ。あなたたち、いいえ、みすみのお待ちかね。ラスボスたちの登場よ」
 砂埃の舞う砂漠のど真ん中で、伏見 明子(ふしみ・めいこ)は、もみワゴンの進路上に立ちふさがり、みすみたちを止まらせる。
 その背後には、これまでとは比べ物にならないほどの数のモヒカンたちが待ち構えていた。
 どいつも、これまでに戦ったモヒカンたちとは一味もふた味も違いそうな、面構えをしている。
「はろーぅ皆の衆。本格派種もみゲッターよ。ここから先を通るなら種もみを全部置いてきなさい」 
 明子の台詞に、もみワゴンはしばらくその場に止まったまま沈黙していた。作戦会議でもしているのか、誰が戦うか相談でもしているのか。
 ややあって、みすみが種籾戟を携え、姿を現す。
「明子さん……」
「久しぶりー、いい面構えになったね、みすみん。打倒英雄なのよね? だったら手っ取り早くラヴェイジャー一人倒して行きなさいってことよ!」
 明子は、種もみ剣士相手に、とても大人気なく梟雄剣ヴァルザドーンを持ち出してきていた。
 そして、まずは……。
「救世主を呼べよ、みすみ。俺は英雄クラスじゃねえがな、喧嘩なら最強なんだぜ」
 最強番長姫宮 和希(ひめみや・かずき)は飽きていた。たかが山賊やモヒカンどもを蹴散らすことに。
 群れてヒャッハー暴れまわるだけ。あんな連中に彼女は戦う価値すら見出さない。
 とっくに潰しつくした。とっくに退治しつくした。そして、たどり着いたのが、もうひとつの最強と戦うこと。
 かつてトーナメントを制した、最強の種もみ剣士、千種 みすみと戦うこと。そのために、和希はここへやってきたのだ。とはいえ……。
「お前一人だけじゃ、戦う価値すらねえ。それはただのイジメだぜ。お前の本当の強さは、救世主との絆だろ。見せてみろよ、そいつを」
「それはどうかしら」
 みすみは、種籾戟を構え正面から和希に飛びかかる。
「ふっ……」
 和希は腕を組んだまま身体の軸を少しずらしただけで、攻撃をたやすくかわした。
「まあいい、稽古をつけてやるぜ。俺はここから動かない。待っていてやるから存分に打ち込んでこいよ」
「やああああっっ!」
 種籾戟をぶんぶんと振り回すみすみ。
「違う、そうじゃない」
 和希は種籾戟を片手で受け止めると、ヒュンッと凪いだ。
「わあああっっ!」
 みすみは勢いで後方に吹っ飛ばされ、地面をごろごろと転がる。
「お返しだ」
 和希は手でつかんでいた種籾戟を投げ返す。それは、地面に倒れたみすみの顔のすぐ真横に突き刺さった。
「ゲラゲラゲラゲラ! ヒャッハー! 弱ぇぇぇぇっっ!」
 眺めていた周りのモヒカンたちが笑い声を上げた。
「笑うんじゃねぇぇぇぇっっ!」
 怒声を上げながら前列のモヒカンを殴り飛ばしたのは、モヒカンたちが勝負に乱入してこないよう前に立ちはだかっていた夢野 久(ゆめの・ひさし)だった。
「おまえら、たった一度でも一人で戦ったことがあったか!? 強敵に臆さず立ち向かったことが、一度でもあったか!? ねえだろうがぁぁぁっっ!」
 久はボロボロ泣いていた。みすみの勇気と根性に。
 この旅に同行し、ほぼ全ての戦いに身を投じてきた彼は、感極まっていたのだ。
「立てみすみ。まだこんなもんじゃないんだろ?」
「……うん」
 久の声に、みすみは立ち上がった。
 再び、和希に向けて攻撃を繰り返す。
「違う、こうだ」
 和希はそのたびに、みすみの攻撃を見抜き悪い癖や隙をピシピシはたきながら指摘していく。
「……うん」
 そのたびにそれを少しずつ直していくみすみ。
 しばらく後に……。
 ヒュンッ! とわずかながらにみすみの種籾戟が和希の学帽をかすった。
「……ほう」
 ニヤリと笑う和希。
「よくやったな、みすみ。お前の勝ちだ」
「え、どうして? あなたまだ全然何もしていないわ」
「学帽は俺の命みたいなものだ。その命が切られたんだから、俺はここで死んだのさ」
 和希は身を翻すと、小さく手を振りながらその場から立ち去る。
「やれやれ……。ま、たまにはこんなのもいいだろうさ。困ったらまたいつでも来いよ、相手してやるから」
「うん。ありがとう」
 みすみは頷いた。
「準備運動は終わった? そろそろ本気で行こうよ。ちまちまやらずに、一気にね」
 明子は不敵に笑い、身構える。
「今度こそ、本当に救世主を呼んだほうがいいわ。私はあなたのために、一切の手を抜かないわ」
 ゴオオオオオッッ、とすさまじいオーラが彼女の身をまとい始める。
「そちらこそ、覚悟しておいたほうがいいわね」
 答えたのはみすみではなかった。
「彼女の戦いに救世主は必要ないわ。種もみ剣士最強を証明するために、種もみ剣士が相手するんだから」
 みすみ以外にも存在するLV100種もみ剣士ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が満を持して登場する。
「ルカ!」
 見物を決め込むなななが声をかけてきた。
「若さってなに?」
「振り向かないことよ!」
「愛ってなに?」
「ためらわないことよ!」
「よし、合格。ルカもこれで宇宙刑事よっ。心置きなく逝ってきなさい!」
「いつまでも遊んでないで、ここくらいはまじめにやろうぜ」
 さらにはカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)。彼もLV100種もみ剣士だった。
 みすみと違うところは、ルカルカたちには他に豊富な技を習得していること。
 カルキノスは、気合の入った真剣な目で敵を見据えみすみと並んで立つ。
「お前らはまだ、種もみ剣士の本当の強さを知っていない。それを見せてやろう」
「ありがとう、二人ともつきあってくれて。命預けるよ……」
「モヒカンどもは、俺たちが引き受ける。安心して勝負に集中しろ、みすみ」
 久は、疲れた身体に鞭打って、彼なりの最後の戦いに挑む。
「ヒャッハー!」
「彼女はなぜかたくなに救世主を呼ぼうとしないのか、それとももしかしたら、呼べないのだろうか。その理由がわかるかもしれないね」
 久のパートナーの佐野 豊実(さの・とよみ)は、モヒカンがみすみたちの邪魔をしないよう、確実に狩りとっていく。
 さらに。
「残念ながら、その要望にはこたえられないよ、みすみ。あなたがどう言おうと私は助太刀させてもらうよ。あの梟雄は、強い」
 七瀬 雫(ななせ・しずく)は、みすみの隣に並び立つ。
「私を盾に使うといい。モヒカンども相手の戦いなら手出しはしないつもりだったし、実際にしなかったけど、今回は違うから」
 雫の言葉が終わるより先に、明子の攻撃が始まった。剣の一薙ぎで辺りの空気が震える。
「さあ、いってみようかぁ!」
 皆が見守る中、種もみ剣士たちの戦いが始まった。



「……さすがにこれはキツいわね」
 ルカルカたちは苦戦していた。というか、結構ヤバい。
 普段の彼女なら、一人で十分に相手できるだろう。だが、種もみ剣士は別格だ。弱すぎる。能力値とはまた別のところで何か不思議な力が足を引っ張っているとしか思えない。
「あいたたたたっっ。ルカとしたことが、結構なダメージ食らってるよね、これ」
「ルカ、“あれ”をやろう……。オレはいいが、彼女らはもう限界だ」
 カルキルスは、ボロボロのみすみに視線をやって言う。
「なんだか立っているのだけで精一杯、っていうかよく立ってるわよね。……仕方ないか……じゃあまず私から。……ちょっとやられてくる」
 彼女は技能を駆使しながらも、コツコツダメージを与え続ける。が……。
 すでに大ダメージを受けていた上、明子の剣をまともにくらいバタリと倒れた。
「……」
 そこから、小さな植物が芽を生やした。
 種もみ剣士の特技、『苗床』。 ルカルカ以外の全員の傷が回復する。
 元気になったみすみと雫が、明子に攻撃する。またちょっとづつダメージ。
 更に数ターン後……。
「無駄よ。もうそろそろ終わりにしよう。よく頑張ったよ、みすみん」
 またしてもボロボロになったみすみに止めをさそうとする明子。それを変わりにカルキルスがまともに食らった。
「……」
 そこから小さな植物が芽を生やし、カルキルス以外の全員の傷が回復する。
「あれ?」 
 明子は気づいた。これ、結構ヤバくない? ちょっとづつだがすでにダメージが蓄積されていてHPは残りわずか。
 種もみ剣士同士がつないだ命。
「みすみ、これが最後だよっ!」
 雫が攻撃を加える。それを何とかしのぐ明子。
 だがその真後ろから。みすみの種籾戟が明子にまともに命中していた。
「なんてこと。まさかこんなことが……」
 明子は目を見開く。HPは0になっていた。
「……よくぞ私を倒したわ。でも、すぐ第二第三のラスボスが……いないし……ぐはっ!」
 そんな台詞を残して、LV100ラヴェイジャーは倒れた。
「……」
 濃厚な戦闘に、自分の勝利を認識することも忘れて朦朧としたみすみが立ち尽くしていた……。
 おおおおっっ! と歓声が沸き起こる。
 戦いは終わった。



「また種もみ剣士最強ですか……」
 フマナ平原の洞窟の精 ちゃぷら(ふまなへいげんのどうくつのせい・ちゃぷら)は今の戦闘の映像を一部始終撮影していた。後は、改変して動画サイトへ流すだけ……。
 噂は広まり、みすみの戦いはまだ続くだろう。
「新英雄クラスを倒したわけではありませんが、十分でしょう。といいますか、意志の強さだけでは、すでに最強だと思いますけどね」
 モヒカンの残党も退治されていくのを見やりながら、ちゃぷらは言う。
 いつしか、あの種もみの歌の合唱が始まっているのがわかった……。