First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last
リアクション
江戸城よりやや離れた場所に位置するエリア。
ここは他のエリアより完成が遅れていたのか、店構えや乗り物の入り口等まだ殆ど手付かずの状態で放置されていた。
館内の殆どがホストコンピュータの使用した予備機晶石で明るく照らされた中、このエリアだけは点てんと灯りがあるだけでうす暗く、
掃除用の機晶町人ロボットも少ないのか、マーガレット達が綺麗だと関心していたプロップ等も他のエリアと比べ埃がつもったままに汚れている。
恐怖系のライドや店が立ち並ぶ予定だったそこは、悪窟国というエリアだった。
多くの悪党が棲む天下の往来と呼べない程に雰囲気が悪く荒れ果てたそこで、二人の男(とは言っても片方はロボットだが)がすれ違う。
「おい」
ふと、ロボットの方が動きを止める。
「兄ちゃん、肩当たってるんダヨ。 痛ぇじゃネェカ!」
「……」
「おいおい、無視してんじゃねぇヨ!」
男は動かない。
そしてそのうち
「てめぇ兄貴に何してくれてンダ!」「調子に乗ってんじゃネェ!」「ギッタンギッタンのメッタンメッタンにシテヤル!」
と、ぞろぞろ悪党機晶ロボット達に囲まれてしまう。
「さぁて、こんくらいかね」
男……東條 カガチはそこそこの台数が集まった事が確認出来ると、反対側へ走り出した。
しかし走ると言ってもスピードはかなり遅く、早歩き程度だ。
カガチはただ早く見えるような雰囲気で、つまり役者のように逃走する者を演じているだけなのだ。
そうして彼が逃走する間、どこでカガチの顔を見知ったのかは分からないが、「見つけたゾ!」「奴ダ!出あえ出あえ! 」等と言いながら悪党ロボットの数は
あれよあれよという間に増え、優に五十人を超える集団になっている。
そのうちカガチはある場所までやってくると、動き続けていた脚を止めた。
「行き止まりだ、逃げられネェゾ!」
彼の目の前には大木戸が立ちふさがり、ここを破らねば先に進めなくなってしまったのだ。
関係者入口……、勿論横の扉を開ければ裏に逃げ込む事も可能だろうが、その前には既に悪党ロボが居るため簡単に抜ける事は不可能だ。
逃げ回っていたカガチが、ここへ来て遂に追いつめられてしまったのだ。
「いやー……まずった。助けがこねぇ。早すぎたかな」
「なんダト!?」
「いやさ、俺ぁ実はある人の命で人集めてんだけどよ。
腕の立つ奴なら身の上は問わねえってのさ。いっちょ暴れてみねぇかィ?」
「うるせーヤッチマエ!!」
「あ。 話し聞いてくれませんか、そうですか」
カガチが戦いを覚悟したその時だった。
「うわああああああ」
大声と共にカガチと悪党衆の前に一台の自転車がよろけながら割って入って来る。
運転しているのは樹月 刀真。
背中に”庵”と書かれた半被を羽織り、片手には何段も重ねた桶を持っていた。
後ろに座っているのは彼のパートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)で、華奢な体を可愛らしい町娘の扮装に包み、女の子らしくちょこんと横座りしている姿は可愛らしいものの、
矢張り不自然な程に両手いっぱいに、束ねた薪の如き量の模造刀を抱えていた。
「駄目だあああ倒れるううう」
普段の物静かな印象を受けるキャラクターをぶち壊す勢いで、刀真は間抜けな叫び声をあげ自転車ごと倒れてしまう。
重ねていた桶は無残に崩れ落ち、悪党衆の頭の上に雨のように降り注ぐ。
幸い? 中身は入っていなかったものの、突然の事態にロボット達は対応しきれない。
「こっちよ! 見なさい!!」
月夜の声に瞬間「ヤバいな」と悟ったカガチは、目をつぶり着物の袖で顔を隠した。
目を開けると、案の定彼の前に居たロボット達は処理能力の限界を超えた為、全く動かなくなってしまっている。
月夜の持つ目くらましのスキル、バニッシュが放たれたのだ。
ロボット達が半フリーズ状態に陥っている間に、カガチの前に月夜が抱えていた刀の一本を差し出した。
「おお、あんがとよ。しかし……あんたら蕎麦屋に自転車に……、時代考証めちゃくちゃだねぇ」
「お蕎麦ってだめなの?」
「いやぁ……駄目って程じゃないと思うけどよ、そこじゃなくて。めちゃくちゃなのはママチャリの方」
「自転車はあの二人に貰ったの。ここまでずっと乗ってきたから大丈夫だと思うって」
月夜がおもむろに指さす先に、着流し思い切り割って後ろに引っかけ着股を晒しながら走る国頭 武尊とパートナーの猫井 又吉(ねこい・またきち)の姿が見える。
「あの子達も乗ってても何も言われなかったから大丈夫っぽいね、って乗ってきた。
あ、あと武器は刀真が”イイものを選んでおいたけど、やっぱニセモノだから余り……”って。
でも代わりは沢山あるから」
「了解!」
ロボット達がフリーズから元に戻ろうとしている間に、刀真は懐から懐刀を取り出し、既に三台破壊している。
「俺も負けてらんないねぇ!」
カガチは腰を落とすと、刀を鞘から抜くのとほぼ同時に(見えるようだが、実際は間髪入れずに次の瞬間)上段から目の前のロボットの頭に振り落とす。
「抜刀術か……凄いな。
……だが……」
「あああ! へし折れた!?」
カガチの力の強さに耐え切れず、模造品の刀はたった一撃打っただけで壊れてしまった
仕方なく横っ腹部分に蹴りを入れると、ロボットは煙をモクモク上げた。
「しゃーないか。でも俺は物を無駄にしないエコ社会の男なので……
魚の骨まで喰うけどね!」
思い切り振りかぶり辛うじて残っていた残骸のような刀身と、鞘をブーメランのように投げて新たな一台に当てる。
よろけているロボットを見たところかなりのダメージだが、破壊には程遠い。
「もう一本頼む!」
言うが早いか月夜がすかさず投げてきた新しい一本を受け取り、完全に使い物にならなくなった一本目を打ち棄てると、
それを横目でみていた刀真が、ロボットを二台纏めて体当たりで地面に沈める。
「カガチ! 刃の部分はかなり弱い!」
言いながら二台のロボットに馬乗りになると、頭上振り上げた手には月夜が投げた脇差風の刀が収まった。
「こちら側を使って」
手をしならせてくるっと刃の方向を反対側に回転させると、
「腹を狙え!!」
云いながら倒れていたロボットの腹に、刀の柄の部分を突き刺し串刺しにしてしまった。
「やるねぇ」
カガチは刀真の戦いのレベルの高さに心底関心していたが、いくらレベルが高かろうとこの人数をさばき切るのは少し骨が折れそうだ。
館内に入ってすぐアルツール達と立てた”救出組が動き易いよう警備ロボットをこちらの都合良く誘導する作戦”で、
カガチは悪党ロボットを集め騒ぎを起こす事になっていた。
”悪党ロボットが集まるであろうこの悪窟国エリアでロボット相手にあちこちで当たり屋行為等のイベントを起こさせ一か所に集める”
その作戦自体は頭脳明晰なアルツールや、その手に詳しいヴァイスの想定以上に上手くいき、こうして集めた数57人。
(恐らくパークにあるほぼ全員の悪党ロボットだろう)その中から既に10人程倒したというのに、残った数は40人は居るだろう。これでは数が違いすぎる。
事前に”悪党ロボットを倒しても警備ロボットに見られていなければ平気なのか”を調べていたアルツール達のグループからこちらへ来る予定だった刀真が、
こうして武器を持って戦っている以上破壊することには問題はないようだが、果たしてこの数を倒し切れるか。
すでにバニッシュの効果は切れ、ロボット達はフリーズ状態から元の状態に復旧している。
「どうする、全部叩くか!?」
二人が動きを止めずに大声で話し合っていた時だった。
カッ!!
という音と一緒にピンスポットライトが彼らの頭上、作りかけのコースターのレールの高い部分に当たり、暗闇に一人の人物のシルエットが映し出される。
「フ、フフフフハハハハハ――キーーーーーーーーーン――げふんげふん……ハハハハハハ」
高笑いがその場に木霊する。というかマイクを付けていて、更にエフェクトが掛けられているらしい。木霊というよりエコーしている。
ついでにハウリングもしている。
「だ、誰だ?」「刀真、今あの声咳してたね。ハウリングしてびっくりしたのかな」「つーか高すぎてぶっちゃけ見えねぇや」
「何ヤツ!?」「何が目的ダ!」「名を名乗レ!」
皆の視線が十二分に集まった所で、シルエットは次のセリフをつづけた。
「フハハハ!我が名は、悪の秘密結社オリュンポスの天才科学者ドクター・ハデス!!
……で、ではなくて……
悪徳秘密問屋オリュンポス屋の店主、マスター・ハデス!!」
「間違えたな」「刀真、あの人今間違えたね」「ちょっと恥ずかしそうだったなオイ」
刀真と月夜、カガチらが律儀に突っ込みを入れている間に、マスターハデスことドクター・ハデス(どくたー・はです)はコースターのレールから下りてくる。
わざわざ「とう!!」と飛び降りたが、その下にクッション材が準備されていたのを刀真は見逃さなかった。
敢えて突っ込まないが。
歩いてくるハデスの口からは、
「ククク、この姿なら、悪代官に自然に近づくことができるというもの!」
という彼の作戦……考えが思い切り漏れていた。
まあ相手がロボット、しかもテーマパークのゲスト向けにプログラムされたノリの良いロボットだから、作戦自体に問題は無いらしく、
ハデスが(いまいち格好は付かないが)幼稚園生のそれのように横がけ鞄から取り出した箱を、
「お代官様、こちらが黄金色の菓子にございます。
さあ、こちらをお納めいただき、江戸城の上様へのお目通りをお口添えください」
と悪党衆の中でも上等な着物を着ていたロボット、権力者役らしきロボットに差し出すと、
実際は小判どころか何の中身も入っていない空の箱を
「これはこれは……
ソチも悪よノゥ」
と受け取ってくれる。
「お代官って江戸時代に……あれ?」「刀真、あれが有名な金色のお菓子だね!!」「つーか俺のはダメで、今のは良いのかよ!」
三人の突っ込みを無視して、すっかり話しは纏まったようだ。
「それからあちらの三人はハデスの部下にございます。一刻も早くお代官様にお会いしたく騒ぎを起こさせました。どうぞお許しください」
「フン、全く、面倒な事ヲ」
「ハハハハハハ本当に失礼を。
……もし、先ほどの菓子で不足でしたら、別の趣向もご用意してございます故どうかこの場はお納めを……」
「悪い奴ジャ」
ニンマリする悪代官をみて、更に悪い笑顔を浮かべるハデス。
すっかり彼の口車にのせられた悪代官と率いる悪党衆達は歩き出していた。
半ばあきれたようにそれを見ていた刀真ら三人。
「無茶苦茶だな」
「無茶苦茶と言えば、さっき悪党ロボット何台か倒しちまったけど良かったのかい?」
「ああ、あれはな……」
刀真が言うには、こうである。
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last