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リアクション
次々と写る映像の数々……
そこには公園で戯れる桜葉 忍(さくらば・しのぶ)と娘の春香の姿があった
忍に肩車してもらい、巣から落ちた小鳥を戻してあげた所だった
肩から降りた娘を東峰院 香奈(とうほういん・かな)がしっかり抱きしめる
二人はバグの影響を最初から受けていなかったのだ
春香の事は絶対忘れやしない、子供の事を忘れる親は絶対いない、そうだろう?香奈
ええ……だって私達の大切な子供なんだから
そんな想いの眼差しを受け、春香は精一杯の笑顔を向ける
別の映像にはクナイ・アヤシ(くない・あやし) の耳を触って笑う娘の月の姿がある
それを見て大笑いしながら清泉 北都(いずみ・ほくと)の願いの声が聞こえる
これは仮想だけど、本当にいつか……いつか本当に出来たらいいね……月
もう一つには天神山 保名(てんじんやま・やすな)に見守られ
天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)に抱きついている息子の清明の姿があった
別の映像では誕生日ケーキの光景
大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)と鮎川 望美(あゆかわ・のぞみ)に挟まれ
目を輝かせてケーキを見つめている子供の姿が見える
様々な眩しく、切ない光景のなか……
気がつけば最初に映し出された映像のひとつ
俯いている綾耶を抱きしめる某の姿が映っていた
……綾耶の言いたい事もよくわかる
けど、この『仮初めの日常』がずっと続くってわけじゃない
いくら生活に困らない施設があろうと、それは全部仮想だ
現実の俺達は放っておけば死ぬ……これは変わらない事実だ
だから、いつまでもここに逃げ続けようって考えはやめよう
ここにいたってただ立ち止まってるだけだ
綾耶の身体の事だって絶対なんとかなる
だから……ここから出て現実を……未来を行こうぜ?
「おとうさんもおかあさんも本当にキミに会いたかったから忘れるわけがないよ
詩音のおかあさんも何か難しいみたいだけど…とにかく詩音に会うことが願いだったんだって
そうやって願ってくれたから、詩音も…みんなも…アダムくんも生まれてこれたんだよ?」
詩音がそっとアダムの手を取る
「それに、アダムくんは一人じゃないよ……詩音たちがいるよ?」
心の鍵が解き放たれるように、封印していた部屋の扉が開く
そこには、自分の誕生を望んだ両親の姿があった
多分、自分達と同じ様に、様々な感情を共有していたのだろう
言葉なく、二人はそっとアダムを抱きしめる
「よかったら、写真を……とりませんか?」
そんな親子の姿に、【ティ=フォン】を手にした詩穂が歩み寄る
「親子で一緒でアダムさんとの写真を収めましょう
このデータを持ち帰って下さい
そして何よりも今は…いっぱいアダムさんを抱きしめてあげて下さい」
仮染めの終幕の時は近づく
蒼也は娘と顔を見合わせ、頷くとアダムの傍に寄り、声をかけた
「両親は、おまえを忘れたりしない。子供は親を選んで生まれてくるんだ
時間はかかっても、きっと会える。信じて待つんだよ」
そして、娘のティナと蒼也は歌い始める……その歌に詩音が続く
それは確かに安らかな眠りの【ヒプノシス】そして幸福を願う【幸せの歌】
だが願う心は同じなのか……3人が選んだ歌は子守唄と呼ばれる親子の歌
しかしそのメロディが過去に何と呼ばれていたのかを誰も知らない
それは全てを許す神への祝福の歌……忘れ去られたその名は【Amazing grace】という
「……親らしい事ができず、すまなかったな…」
まどろんでいく子供を抱き上げながらエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が呟く
満足そうに、腕の中で子供は眠りに付いていく
「がんばったね。今度は…僕達の子として必ず生まれておいで」
「おうよ!もし、みんなが危ない目にあったら俺が体はって助けてやるんだ!
とーちゃんみたいに、背がでっかく…なれるといいな」
全てが終わり、辿りついた息子の元で緒方 章(おがた・あきら)は息子の頭をなでる
歌程度で眠りにつきそうもない、やんちゃな仮初のわが子は歯を見せて笑い、元気に応える
それを聞きながら、背後で林田 樹(はやしだ・いつき)が言った呟きを章は聞き逃さない
「子供、か…私にも得ることは出来るだろうかな?」
リンクを通じて鳴り響く歌に眠気を誘われながら、轟は親の元に引き返す
この現実としっかりと向き合ってくれた二人と最後までいるために
匿名 某(とくな・なにがし)と結崎 綾耶(ゆうざき・あや)の元へ
「なぁ、アダム。俺、この人達信じてみる事にした
あの人達なら俺らの事忘れないって……だって親だしな!……って、ここからじゃ聞こえるわけないか」
別れと祝福の歌を聴きながらも、それに動じず親に背を向け佇む息子を
ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)とキリカ・キリルク(きりか・きりるく)は静かに見送る
もはや父の背は十分に見た、だから言葉など無用
ただ父は願う…例え俺がいなくなろうと、この帝王の子であれば、己の道を進め
俺を求めず、俺の求めた道を往け。
今の俺がそうであるように。これからのお前がそうであるように
母は祈る…愛しい子。これは別れじゃなくて、貴方の旅立ち
往きなさい。貴方の道を
その眼差しを背に息子は誓う……誰にでも、旅立ちの時は来る、それが、今日だ
全ての生には、人それぞれの出会いと別れがある。寂しくないわけなんかない
それでも、新たな友と共に、行こうぜ!
そしてアダムの下に歩みを進める
アダムの孤独に気付けるのは、同じこの世界に生まれた自分達
だから、手を差し伸べよう!俺達がいるさ、と
「俺達で、俺達の楽園を作ればいいのさ!」
全てが終わり月美 あゆみ(つきみ・あゆみ)との抱擁の中で、愛もまどろんでいく
鳴り響く歌にあわせ、あゆみも歌ってはいるが涙で声にならない
それでも一緒に戦ってくれた娘に歌い続ける
愛、お別れね
いつかママに本当に好きな人が出来た時に、ママのお腹においで
……大丈夫、ママと愛はレンズで繋がってる
約束だよ………クリア・エーテル
その姿をひっつきむし おなもみ(ひっつきむし・おなもみ)はじっと見続ける
瞼に焼き付けるように、そしていつか自分の一番の力で絵にしてあげられるように
愛は機械が作った子供……もちろんただのデータ
ごめん、ここであゆみと別れて、未来であゆみの子として再会するなんて…無理だと思える
けど…その再会の約束は私も覚えとく
否定する人と議論する気はないよ……私の中の神秘な部分で認めたげる
愛とあゆみの再会を……ね?
「7歳の分際で無理しすぎなんですよ……父より格好良すぎです、全く……」
「すきでこうなったわけではないわ、ばか父が……」
六鶯 鼎(ろくおう・かなめ)の膝に頭を乗せて休みながら、輪子は父の文句を甘んじて受ける
あまりに天井の光が眩しいのか、目を手で覆って彼女は父に呟く
「さて父上。これで……終わりじゃな……」
「……ええ」
「……生意気を言うが……父としては父上はいまいちじゃった!」
「ははは、締まらないなぁ」
「じゃから、最後に……さ、ざいごに……」
手の下から何やら溢れてる涙を見て、鼎は軽くため息をつく
(「……まったく、最後の最後まで甘えきれないんだから」)
そうして彼は泣き寝入りのようにまどろんで行く束の間の娘に望んでいた言葉を送る
「……うん。おやすみ、輪子。また明日」
その光景を見ながら……
九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)もわが子をその手に抱きしめる
束の間の親子を、そして父の思いに気づかせてくれたロビンという子に感謝を込めて
そして、鼎と輪子達と出会えて良かったと本当に思う
何故ならそこには、自分が望んだ父と子の姿が少しだけでも会ったから……
3人の歌はどこまでも続く
透き通っていく我が身を顧みず、歌い続ける詩音の背中を騎沙良 詩穂(きさら・しほ)はただ抱きしめる
消え行くそのときまで、自分にはもうそれしかできないから……と
現実では叶わなかった夢の結晶に出会えたこと
あなたに触れたときの安らぎ、幸せは幼い手に、ただそれだけを胸に抱いて…
そうすれば詩音……あなたの事をきっと忘れない
ねぇ、ありがとう……おかあさんと呼んでくれて
歌の最後の詠唱が終わる
歌いながら、まどろみに付いたアダムの首の蜘蛛……バグのコアを取り除き
システムが修復されていくのを確認しながら七尾 蒼也(ななお・そうや)は娘を見つめる
システムがリセットされれば、現在の状況は修正される
だから娘が消えるのは動じようもない事実……せめて最後にこうやって共に歌えて良かった
ジーナ・ユキノシタ(じーな・ゆきのした)は歌い続けるティナを抱きしめる
その身が透明になっていくのを感じながら、シュミレーションに参加したときの事を思い出す
魔術師としてのジーナには最初大きな疑問があった
……「魂と器」の関係。実体が伴わないとはいえ、高度な分析をもとに生成されるデータとアルゴリズムが
一種の召喚魔法のように作用してしまうこともあるのではとの不安を感じて少し懐疑的だった
……しかしティナを目の当りにしたときにそんな些細な事は消えてしまった
本当に楽しかった
自分がいて、先輩がいて……そしてティナがいて
「……ありがとう、ティナ」
歌が終わる。多くの親子が別れを告げる中
ティナが光に包まれながら、元気に二人に言葉を継げた
「パパ、ママ、本当に会える日を楽しみにしてる
パパ、さぼらないでちゃんと勉強してね?
あとね……あたし弟や妹もほしいな」
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