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我が子と!

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我が子と!

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 「……そろそろ廻りも動き始めたかな……」

外から微かに流れる緊急ニュースをじっと聞きながら匿名 某(とくな・なにがし)はベンチから身を起した
場所は遊園地、ニュースの内容を耳を集中させて確認しながら、周囲の様子を確かめ一人呟く

 「あんな放送があってもここは変わらないんだな。いや、変わらないようになってるのか」

そんな彼の前に、喧騒と共にどうやら遊びに出ていた集団が帰ってきたようだ

 「……あら、某さん。もう大丈夫なんですか?」

起き上がった某の様子をみて、パートナーの結崎 綾耶(ゆうざき・あや)が声をかける
続いて後ろから息子の轟がからかう様に続く

 「だっせぇな父ちゃん。乗り物でダウンなんてそれでも大人かよ〜?」
 「……乗り物にも限度があってだな……」

頭にのっかっていた塗れたハンカチを取りながら、某が息子に抗議する

 「高速縦回転しながら落下するフリーフォールなんて人の乗るもんじゃないだろう?
  お化け屋敷に行けば何故かトラップ式で失敗すると電撃だし
  コーヒーカップはリニア仕様で超回転だし一体誰得なんだよ、この遊園地はっ……!」
 「でも勇平さんは全部付き合ってくれたぜ?」
 「……あれは娘とカミさんに気に入られたくて頑張ってるだけだ」

そういって父子で見つめる先には、顔面蒼白で果敢に微笑んでいる父親の姿があった
そんな勇者の名は猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)という
それでも一見すれば判る人にはアカラサマに解る彼の体調の様子に
パートナーのウイシア・レイニア(ういしあ・れいにあ)が心配そうに声をかける

 「大丈夫ですか勇平君?大分お顔がすぐれませんけど?」
 「ああいや、来慣れない場所に着てるからちょっと戸惑ってるだけだよ!疲れてなんかいないよ?」
 「本当に?熱は無いようですが子供の為にも無理しないで下さいね?」

顔を近づけ、額をあわせて熱を測るウイシアの姿に勇平の顔色が白から赤に変わり
それを不振に思ったウイシアが不安そうに声を出す

 「やっぱり様子が変ですわ……ひょっとして、私達といてつまらないのですか?楽しくない……とか?」
 「……そうなの?パパ」
 「は、ははは、ぱぱ、トッテモタノシンデルヨ?」

ウイシアと子供の問いかけに立ち上がり、腕をぐるんぐるん回して元気を主張する勇平
仕方ないので某は助け舟を出してやる事にする

 「男ってのはこういう場所に慣れて無いから疲れるもんなんだ。俺達はちょっと休んでるよ」
 「そうですか、では私達はアイスでも買いに行きましょう」

子供の手を取りウイシアが売店の方に向かっていく
ベンチを勇平に譲り、某はいつの間にか肩に乗っている轟に声をかけた

 「で、お前はどうするんだ?轟」
 「あれ乗りたい!『超突破!螺旋ジェットコースター』」
 「……散々遊び倒して最後はアレか……俺は遠慮するぞ、綾耶も……」
 「わかってるよ。一人で行けるって!シメは絶対アレがいい!」

某の肩から飛び降りた轟に綾耶が心配そうに歩み寄る

 「大丈夫?あなたに何かあったらお母さん心配なんですからね?」
 「大丈夫だって!母ちゃんは心配性なんだよ!俺もう10歳だぜ!じゃあ行ってくる!」

綾耶に帽子を渡して轟は元気に遠くからでも見える巨大螺旋レールの方に走って行った

 「あの子ったらあんなに喜んで……でも本当に一人で大丈夫かしら?」
 「大丈夫だよ。そういう風に出来ているんだからな」
 「……出来ている?」

某の言葉にベンチで横になっていた勇平が反応する、そんな彼に某の言葉は続く

 「あんたもどうしたらいいか迷っているんだろ?
  先程から流れているニュース……突然のバグトラブルがこのエリアに起こっている
  その影響か、何でか俺達はこの世界を長く積み重ねてきた現実だと思っているんだ
  もちろん、影響の有無はあるらしいが……自分はともかく、パートナーがどうなのか?
  ……あんたはそれを確かめられずにずっと彼女に付き合っている、そうなんだろう」

某の言葉に勇平の顔つきが変った
そんな二人の様子に、不思議そうに綾耶が某に質問をした

 「さっきから妙な事を言ってますけど……本当の現実じゃない?何を言ってるんですか?某さ…」

言葉途中で綾耶の口が止まる
自分を見つめる真っ直ぐなパートナーの瞳に何も言えなくなる
  
 「……ゴメン、俺にはわかってるんだよ。この際ごまかしはなしだ
  綾耶、ホントはこれが本当の現実じゃないってわかってるんだろ?」

……はっきりと言われてしまった現実
その逃れようも無い言葉に、観念したように目を伏せ
そして悲しそうに、儚げに……綾耶が再び口を開く

 「何言ってるのかわかりません……なんて、誤魔化してもダメ……ですよね」


そんな己が両親の姿を見つめる影がある
先程一人で遊びに行くと走り去っていた息子の轟だ
聞き取れない距離でありながら、おおよそ何の会話をしてるかわかってしまっている
そんな彼の表情は10歳とは程遠く、はるかに大人びていた

(『……やっぱり、父ちゃんも母ちゃんも最初から気づいてたみたいだ
  あ〜ぁ。せっかくずっといられるって思ってたのに、そう上手くいかねえか
  な……そろそろ時間切れだぜ、どうするんだ?………アダム?』)


 各エリアにてサンプルの空間認識に乱れ発生
 設定を修復……不可能、認識の書き換えを受け付けず
 各マテリアルのリンクにより接触中のサンプルへの影響が拡大
 マテリアルの自律思考により修正情報の統合は不可能と判断
 管理局からのワクチンプログラム確認!
 仮想空間のリカバリの開始を確認

 空間認識維持率低下中!……最低ライン10パーセント
 これよりコアの環境と当プログラムの生存維持にシステムを集中
 空間認識プログラムを解除……実行まで3……2……1


一瞬のフラッシュバックと共にセントラルビルを中心に光の輪が広がる
仮初の天空に広がったそれは、血管のような、電子回路のような細かい模様の残像を天に残し
青空だった空間を夕暮れの空に一瞬で書き換えていく

それはこの仮初の幸せの終わりを告げるかのような光景

……そうして束の間の幸せは幕を下ろす
それぞれに残酷な現実を突きつけながら……