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過去という名の鎖を断って ―希望ヵ歌―

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過去という名の鎖を断って ―希望ヵ歌―

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     ◆

 先行していた彼等もまた、戦っていた。
「僕たちの事は良いから先に行って!」
 北都が叫んでいた。手にする銃を放ちながに叫び、機晶姫と対峙している。
「北都! 数が多い……下がってください!」
 詠唱を終えたリオンは辺りを照らす光をかざし、その光を放って数体の敵を穿つ。彼の隣に戻ってきた北都が肩で息をしながら、目前に控えている多くの敵を見据えていた。
「この数、何とかならないかな」
「流石にこれではちょっときついですね……」
 と二人の隣に鳳明がやってくる。敵をなぎ倒し、二人のいる地点までやってきた彼女とて、多すぎる敵を掻き分けてきたのだ。体力を消費していないと言えば嘘になるだろう。
隣にいる天樹共々、北都、リオンに並び、背後からやってくる彼等の道を強引にでもこじ開ける。
「大丈夫、なんとかなるよ。私たちは道を広げてあげればいいんだもの。敵を全員倒さなくったって、皆が此処から脱出出来ればいいんだもの!」
「(鳳明、後ろ――敵の攻撃!)」
 リオンが再び詠唱を唱え始め、それを中心として北都、鳳明、天樹が機晶姫を攻撃する。天樹が敵の攻撃をサイコキネシスで遮断し、鳳明は手にする六合大槍で近付く敵を突き、打ち払る。敵が距離をとったところを北都が撃ち抜き、リオンが魔法で数体の敵を光の槍で突き抜く。幾度となくそれを繰り返し、出入り口付近が随分とすいてきた頃、後ろからやってきた海たちが駆けつけてきた。
「すまないな、一応後ろの方も少しは数を減らしてきたが……」
 カイが四人にそう言うと、額の汗を拭いながら北都が笑顔で返事を返した。
「大丈夫。僕たちなら何とかなるから、まずは此処から抜け出す人を優先的に」
「あぁ。大丈夫だ。すぐそこまで高円寺たちがきている。お前たちがこうやって出入り口を確保してくれていると知れば、あいつらも恐らくはすんなり出て来れるだろう」
「先に行って、ドゥングって人、倒しちゃってよ!」
「任せろ。じゃあ、行くぞ!」
 鳳明の言葉に力強く頷き、言葉を交わしたカイは四人に背を向けると、そのまま一気に出入り口まで走って行った。
「頑張ろう。まずは一人目……一人が脱出できるって事は、後のみんなも出来るって事だよね! 私たちが頑張れば……!」
「えぇ。頑張りましょう。そして絶対、ドゥングさんを止めて貰うんです」
 再び攻撃を再開する四人。そしてカイが言った通り、彼等の元に海、柚、三月がやってくる。
「出入り口! 確保してくれたのか!」
「ありがとうございます! 怖かったぁ……」
「柚、海、まだ油断しちゃ駄目だよ。先ず一息つくのは此処から出てから! 僕たちが此処で止まってたら、北都君や鳳明さんが大変になってしまうから」
 四人の近くまで来た三人は簡単に彼等に声を掛けるとその場を後にする。
「よし……三人」
「これで四人が脱出出来たね」
 尚もやってくる敵を打ち倒しながら、しかしリズムを掴んできた彼等は幾らばかりか余裕をもってそう言うと、ただただひたすら敵の殲滅に当たっている。と、奥から手前にやってきていた彼等の元に、今度は背後から現れる人影。
「俺も助太刀しよう。氷藍殿に呼ばれはせ参じたは良いが、彼女がどこに居るかがわからん。出てくると言っていたから出入り口で待っていれば合流できるだろうしな」
 彼等の元、姿を現し、仁王立ちするは真田 幸村(さなだ・ゆきむら)
「ありがたいです。流石にこの数を私たちだけで相手にするのは体力的にきついですから」
 と。リオンがそう言い終った途端。今やってきた幸村が突然として徒手空拳のままに彼等の前にずいと出ると、ある一点を見つめながらに叫んだ。
「氷藍殿! 俺は此処です!」
 突然の事に驚き、戸惑っていた四人はそこで、何かが物凄い勢いで飛来してくるのを感じて思わず後退り、幸村の様子を見ている。と、飛んできたのは槍だった。何やら特殊な機構をした槍が、矛先を彼に向けて飛んできたのだ。彼はそれを自分に切っ先が当たる寸前で掴み、一度振り回してから構えるや、回転して敵を一斉に吹き飛ばした。
「さあ皆さん! 共に!」
 ぽかんと口をあけながらもしかし、その姿を見て彼等は前へと足を踏みしめ、再び敵を殲滅する。
「何だか派手な登場だったけど――助かるには助かる、よね」
「えぇ。一人でも戦ってくれる人がいると助かりますよ」
「……天樹」
「(なんだろうあの人のあの槍! なんかこう変形しそうな接合部があって――いいなぁ、みたいな…ちょっと一回触らせてくれないかなぁ)」
「天樹!」
「(あ、はいはいごめん、ごめんね……ごめん、ちょっと良いなぁって思っただけだから)」
 天樹が慌てて我に返ると彼女に謝り幸村を入れた五人で敵をなぎ倒していく。
「幸村! すまんな、待たせた!」
「氷藍殿! ご無事でしたか」
「早速だが幸村、手をつなぐぞ」
「!?」
 敵が埋め尽くすそのフロア。敵に包囲されている中で、突然何を言い出すのか思わず顔を赤らめる一同を余所に、氷藍が幸村の脛を蹴りあげた。
「馬鹿者が! 御託宣だよ! まぁ手を繋いで出ても良いが………うん、それは後でで良いから」
「あ、あははは………」
「ちょっとでいいから」
 謎の念押しを入れながら、しかし氷藍が彼と手をつなぐと、ぼんやりと辺りを柔らかな光が包む。
「成る程。そのような事が。承知仕った。大助、俺たちでこの出入り口、死守するぞ」
「はい! 父上!」
 氷藍、大助と幸村が加わり、北都、鳳明らを含めた七人は辺りに残る機晶姫に改めて対峙した。
「よし、いくぞ!」
 大助が斬りかかり、その横では幸村が数体の敵を纏めて薙ぎ払う。
「私たちも負けられないもんね!」
 鳳明たちも負けじと敵を打ち倒し、辺りにいた機晶姫たちがみるみるうちにその数を減らしていく。
次に彼等の元にやってきたのは司たち。全力で彼等の元に走ってくると、肩で息をしながらそこで停止する。
「ちょ……ちょっと、ツカサ! ワタシたちも、攻撃すれば、いいじゃない……!」
「そうなんですけど……なんか急いだ方がいいかと思って……!」
「どっちにしても、お二人とも早いですよぅ………はぁはぁ、って、あれ?」
 多分、気付いていなかったのか。
「みなさん何をしてるですかぁ? こんなところで」
「ん?あ、ほんと。何やってるの?」
「何だかやけに此処だけ敵の数がいないと思ったら……みなさんのおかげでしたか。いや、ありがとうございます」
 呼吸を整えた三人を唖然と見ながらも、しかし彼等が思わず笑った。
「もう、此処出口だよ」
「一先ずお疲れ様。さ、三人とも此処を抜ければ外だから、行きなよ」
 北都と鳳明の言葉を聞いた三人は、はじめは聞き間違えかと互いの頬を叩いたり、つねったりするが、どうやら痛かったらしく、大喜びし始めた。
「やった! 出れる!」
「これでこのジメジメした空気ともおさらばよ!」
「えと、なんだかよくわからないけど、やったぁ!」
「では皆さん、後で会いましょう!」
 嬉々として彼等に挨拶すると、司たちは出口を潜って遺跡を後にした。
「何だか凄いテンションだったけど……大丈夫かな」
 苦笑する彼女は、六合大槍を一度地面に打ち付けると敵に向かって突撃していく。
「あ、鳳明さん!? ちょっと、どうしたのさぁ……あぁ、行っちゃった」
『奥の方』
 彼女の後ろ姿を見送った北都の前、天樹の持つホワイトボードに目を落とす彼は、よくよく目を凝らして奥の方を見やると、このフロアへと入ってくる出入り口の前に機晶姫の残骸がある事を確認した。
「あぁ、成程。此処に来るまでの人たちがあそこで倒して、道が塞がっちゃってたんだね」
「それを彼女、見てたんですかね」
「知らんが、だとしたら随分目が良いな」
「母上……着眼点はそこじゃないですよ」
 その間も、敵を倒している彼等。と、奥へと言った鳳明が慌てて走ってやってきた。
「お帰りなさい。良く気が――」
 リオンが言いかけて言葉を止める。
「わっわっ!? ちょ、タイムタイム!」
 何かから追われるようにして走ってきた彼女は、慌てて彼等のところに戻ってくると身を屈めた。するとそこを、彼女の頭上を、何かが通過する。その何かは定かではない。
随分と早い速度で抜けて行ったそれを、一同が首を傾げながらに見送っていると、奥から大吾、コア、馬超が走ってやってきた。
「すまない皆。って、あれ……セイルは――」
「セイルさん? セイルさんはまだ来てないけど……」
 北都が辺りを見回すが、そこにセイルの姿はない。と、地面に突っ伏していた鳳明が顔を上げて、指を指す。
「いやいや、此処通って行ったじゃない」
「何だって!? 全くあいつは勝手に……いや、本当にすまなかった鳳明さん。怪我はなかったかな?」
「大丈夫、うん。大丈夫。ちょっとビックリしただけだよ」
「それよりハーティオン。皆がこうしてこの場を守ってくれているんだ。早い所出るとしよう」
「そうだな。それでは皆、私たちは先に行くぞ。くれぐれも気をつけてくれ!」
 大吾、コア、馬超が出口へと走っていき、彼等はそれを見送った。
「さて――此処までは順調だね。このまま一気に倒せるところまで倒しちゃおう。それこそ、彼女たちが外に出ない様に」
「同感です。彼女たちが外に出てしまったら、それこそ騒ぎになりかねませんから」
 北都、リオンが構えて言った。
「まずはみんなの脱出最優先。全てはそれからって訳ね」
『頑張ろう』
 鳳明も構えを取り、天樹はホワイトボードを持っている。
「俺たちも、出来るだけ手伝うとするか。なぁ? 幸村、大助」
「そうですね。さすがに此処にずっとはいれませんけど、数が減れば」
「氷藍殿の御意のままに――」
 氷藍、大助、幸村も同じく構え――そして再び、彼等は敵を倒し始めた。





     ◆

 未散とレティシア、ミスティは、機晶姫の群れに捕まっていた。故に彼女はイラつき、彼女は疲れをみせ、彼女は困惑している。
「困りましたねぇ……」
 レティシアが疲れ切った様子で辺りを見回す。もう何も手につかない、とでも言いたげに、同時に目の前に居る敵を「鬱陶しい」とでも言いたげに、彼女はそう呟き、辛うじて握るヴァジュラを振った。
「レティ……大丈夫?」
「あはは、そこまで大丈夫じゃない気がしてきましたねぇ……どうも、さっき元気になりすぎちゃったみたいで」
 会話する二人の僅かばかり前方、苛立ちが頂点になっている未散が数体の機晶姫の首へと暗器を巻きつける。暗器は彼女が印を結ぶことによりその姿を替え、今はワイヤーの様な形状をとっていた。
「もういい加減くどいんだよ!! 私は早くあのドゥングとかってやろーのとこに行かなきゃなんねぇのによ!!」
 勢いよく暗器を手繰ると、彼女の前にいた機晶姫数体の首が鈍い音と共に地面へと落下する。
「早く、早く早く!!」
 素早く印を結ぶ彼女はしかし、焦りが故に印を間違え始める。間違えれば初めからやり直し、再び印を結ぶために結果としては時間がかかった。普段ならば造作ない事のはずが、しかし焦っていて、尚且つ頭に血が昇っている為にすぐさま思った形に暗器を変化させられずにいた。故に隙は大きくなり――攻撃の対象となる。
「ちっ!」
「未散さん!!」
 未散の前方に現れた機晶姫の一体が、手に手榴弾を持ち自爆しに未散目指してやってくる。慌ててミスティが向かおうとするが、しかしレティシアが疲れ切っている為に一人にする事も出来ず、困り果てているその最中――。

 銃声が聞こえた。

銃声が聞こえたのにもかかわらず、未散の前にいた敵の腕が地面に落ちる。落下した手が握りしめていた手榴弾が転がってくると、彼はそれを思い切り蹴飛ばして機晶姫の群れの中へと放る。起爆と同時に多くの機晶姫の体の部位が辺りに散らばった。
「お待たせいたしましたぞ、未散君、お二人とも!」
「なっ!? 何でお前が――」
「ハルさん!」
 その片腕には疲れ切ったレティシアを抱きかかえ、抱えている方の手には銃が握られ、反対には剣が携えれている。
「ミスティさん、レティシアさんを――」
 すっくと立ち上がった彼は、その背中を三人に向けて叫ぶ。
「さぁ! 三人とも、走りなされ! 此処はわたくしが、何から何まで引き受けましょう! あなた方のお相手は、彼女たちではないのですぞ! そうでしょう? 未散君」
 銃を向け、剣を構え、彼は言う。
「でも……それじゃああなたが」
「わたくしの事は心配せずともいいのです。わたくしならば、いつも未散君にド突かれ――突っ込まれているので頑丈ですからなっ!」
「ちょ、馬鹿っ! わけわかんねぇ事言うんじゃねぇよ!」
「さぁ早く! いくら頑丈なわたくしと言えど、さすがにこの数は辛いでしょう。三人が無事に逃げ延びれたら、わたくしも退散しますのでご安心を」
 襲い掛かる機晶姫に銃弾を見舞い、剣を振って敵を払って、三人が進むべき道を開け始めた彼。小切れのいい音が辺りに響き、鋼が風に叩かれて鳴り響く涼やかな音色が響いて、そして彼は一度、大きく大きく片手を上に向けるや、その手を振り下ろして『敵の攻撃を』切り落とす。

 「いってらっしゃいませ、皆々様」

 お辞儀だった。その攻撃の最後の動作は――綺麗な、まるで良家に仕える執事が如く綺麗なそれ。

思わず声を失い、息を呑む三人はしかし、くすりと笑って踵を返す。
「出口は此処の隣を抜ければあるからな、適当なところで逃げて来いよ、ハル」
「承知いたしましたぞ、未散君」
 二人の会話はそこで終了した。三人が部屋から出るのを見送った彼は、その後体をしっかりと伸ばし、今度は軍人の様に踵を返すと、ようやっとそこで体の力を抜いて構えを取った。
「そうですな。もって五分――。最後の最後ぐらいは、せめて良い恰好が出来たでしょうか」
 自嘲気味に笑った。その五分。意味合いは随分と重たい。彼は剣で敵を撫で、弾丸で敵を穿つ。その自己完結した戦闘スタイルは、強弱を関わらずに見栄えのいいものだった。
優雅に社交界でダンスを踊る紳士が如きふるまいに、見る者がいるなれば目を奪われたであろう。
「さて、そろそろ未散君たちは脱出したでしょうな。それでは、駄目でもともとわたくしも――」
「諦めるのは、まだ早いんじゃないの?」
 薄ら笑みを含んだ声。彼女たちはそこにいる。
「格好良かったじゃん。ハル」
「えぇ、本当に」
 朱里と衿栖の声だった。
「助太刀するぜ、なぁ?」
「勿論ですわ」
 アキュートと、元に戻ったラナロックの声。
「皆さん……」
「出る時はみんな一緒が一番だよね」
「うむ。どれ、それがしが今回復を――」
 言いかけたウーマは、そこでまたもや気絶した。