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第三章:修羅パンツ!



「全てめちゃくちゃにしてやる」
 三つ編みお下げのメガネ娘、茂手乃 乙女(もてない・おとめ)は、その日ツァンダへやってきたのでありました。スカートめくりの騒動が沸き起こっているというのに、誰も近寄ってきてくれません。地味で真面目な腐通、もとい普通の女の子の自分には……、もうやることは決まっているのです。
 彼女は、えいやっ、と一歩を踏み出します。

 
「まずいじゃない……。チョコ余っちゃったわ……」
 ツァンダの繁華街の昼下がりのこと。
 どこかで見たことのあるベンチに腰掛けて、がっくりとうなだれているのはあの小谷愛美(こたに・まなみ)でありました。
 今年こそ運命の人に出会えると信じて、もう何年たったでしょうか? ルックスは抜群で性格だって悪くないのに、どうして素敵な王子様と出会えないのでしょうか? そもそも王子様っているのでしょうか? そんなに見つけにくいものですか? カバンの中も机の中も探したけれど見つかりませんかそうですか。それでもまだ探す気ですか? それより僕と踊りませんか?
「はい、王子様、喜んで……」
 エア王子様と踊りそうになって、ハッと気がついた愛美は、やや赤面しながらベンチに座りなおします。
「めぼしい相手にチョコ配っても余って、さらには夢の中へ逝ってみたい思いませんかって、いよいよ私も終わったかも……」
「元気出してください、先輩。私なんか、チョコ買った量より増えてるんだけど、どういうことなの?」
 デパートの紙袋を提げて疲れた表情でやってきたのは雅羅です。
 あの後、お茶会から抜け出して一息つきに来たのです。何故か、皆が彼女が外を出歩くのを懸命に止めていた気がしますが、きっと心配性なのでしょう。
「なんか、私たちって実はすごくモテないのかも……」
 誰かが聞いたら刺されそうな台詞を平然と吐いて、雅羅もベンチに腰掛けます。
「友達って言ってくれる人もたくさんいるし、みんな親切で色々と助けてくれるけど、チョコあげる本命がいないのよ」
「ねえ、今街中で噂になってるんだけどさ、このベンチってモテない二人組み御用達らしいわよ? 案外、テロリストたちもここに座って街並みを眺めていたのかも……」
「なんか、テロリストの気持ちがわからないでもなくなってくるわよね、同情も共感もしないけど」
 リア充たちが我が物顔で練り歩く光景をぼんやりと見つめながら、雅羅は溜息をつきます。
「私、義理チョコ配ってる最中にも、テロリストにすら狙われなかったわ……せっかくタイツやめてニーソックスはいてきたのに……」
 まぶしい絶対領域を晒しながらうつろな瞳で愛美が言ったときでした。
「ちょっと目を放した隙にいなくなって、一人で勝手に落ち込まないでほしいわ。私がいるじゃない」
 向こうからやってきたのは、愛美を親友と認める朝野 未沙(あさの・みさ)です。彼女、愛美にチョコレートを渡す機会を待っていたのですが、愛美自身が義理チョコ配りをしていたので渡しそびれていたのです。
 さらには、泣くまで殴るのをやめないといわれている少女、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)とその大切なパートナーのコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)も愛美を探しに来ました。この二人も、愛美と仲がよいようです。
「まなみん、武器持ってないとだめよ。外はテロリストがうろうろしているんだから」
 美羽は、『フロンティアの木刀』を貸してくれます。表面にびっしりと可愛らしいキャラクターイラストが書き込まれた“痛木刀”で、いろんな意味で痛そうです。
「わざわざありがとう。……で、これでリア充を泣くまで殴ってよかったんだっけ?」
「リア充じゃなくて、テロリストよ。って、どうしてまなみんってば殺気立ってるのよ」
「いや、なんか美羽さんたちってリア充っぽいし……」
「まなみん、目つきがテロリストみたいになってきてるわよ。気をしっかり持ってよ」 
「ねえ、マナ。私たち恋人同士ってわけじゃないんだけど、大切に想っているのは確かなんだからね。悲しいこと言わないでよ。別にオトコなんかいなくてもいいじゃない」
 未沙は、ちょっとふくれつつもしらっと言い放って、愛美の隣に座ります。
「あ……、私お邪魔みたいね。そろそろ行くわ、みんな待ってるし」
 立ち上がりかけた雅羅に、未沙はニッコリと微笑みます。
「あら、雅羅さんも一緒にいいじゃない。こんな機会じゃないとなかなかお話する機会もないんだしさ」
「あ〜、そう言われればそうかもしれないわね。私たち、普段からなにやってんだろ……あ、チョコいります?」
 座りなおした雅羅はゴソゴソと紙袋から板チョコを取り出しました。
「じゃあ、私も……、ってどうして二人とも渡す相手が女の子なのよ?」
 愛美も木刀を傍らに立てかけてチョコレートを未沙に手渡します。あと、美羽とコハクにも。
「ふふ……、ありがとう二人とも。私もマナにはチョコレート用意してあるのよ。あ、雅羅さんは予定外だったから」
「ええ、気持ちだけで十分よ。私、あげるよりもたくさんもらっちゃったから……しかもほとんどが女の子……」
 そんな台詞を呟きながら、雅羅は美羽たちにもチョコを配ります。女の子たち同士の微笑ましいチョコレート交換ですが、雅羅は目つきが真剣です。
「やったわ、これで少し減ったわ。よかった……本当によかった……」
「私も。もらってくれてありがとう……」
 そんな雅羅と愛美です。
「いや、ノルマじゃないんだからさ……」
 未沙は微笑を浮かべながらも、愛美に心のこもった友チョコを渡します。
「よかったね、まなみん。……これで私も安心してチョコレートあげられるわ」
 さっきまでちょっと壊れかかっていた愛美に遠慮していた美羽も、チョコレートを取り出し、隣でおずおずと所在なさげに佇んでいたコハクに手渡します。
「今年も頑張って作ったんだから、ちゃんと味わって食べてね」
「うん、ありがとう。嬉しいよ、美羽」
 手と手が重なり合い見詰め合う二人。ほわんとした、甘い空間が広がります。
「え?」
 と……、不意に、美羽が短く声を上げます。何の気配もなく物音もなく、突然背後から強烈な風を感じたのです。
「なにこれっ、風が……きゃあああっっ!?」
 ぶわり! と美羽のやたらと短いスカートがツインテイルの髪とともに派手に翻ります。 
 美羽もうかつでした。チョコを渡した手を離せなくて、スカートの裾を押さえられません……! 
 美羽の清楚な真っ白いパンツが、バレンタインデーの快晴の元、美しく御開帳します。

 はい、皆さま。長らくお待たせいたしました。
 これより、スーパー・パンツタイムの始まりです。


「……っ!」
 雅羅と愛美、それに未沙は運良くベンチに腰掛けています。それでも前の裾を押さえるので精一杯です。ほどなく……吹き荒れていた風は収まります。
「爆! 破! 完! 了!」
 美羽の純白のパンツを目に焼き付けたテロリストたちは、満足げ笑みを浮かべに四方八方に散ります。
「待ちなさいっ! 絶対に逃がさないんだからっ!」
 ちょっぴり涙目になりながらも美羽は木刀を手にテロリストたちを追撃します。
「ちょっとっ、コハクなにをやっているの!?」
「え? 僕、目を閉じているからよくわからないよ? 何も見ていない、何も見ていないよ?」
 そんなコハクを引き連れて、美羽はテロリストに迫ります。
「ただ黙々と打つべし、打つべし!」
 美羽は『フロンティアの木刀』でテロリストの一人をバシバシとしばき始めます。もちろん泣くまでやめません。
「……あんっ! ……ああんっ!」
 テロリストは鳴き出しました。とてもいい声で。気持ちよさそうに身もだえしながらさらにおねだりしてきます。
「もっと〜ん」
「ヘンタイじゃない、何よこいつら? 腹立つわね〜。……ええいっ、ビシバシ!」
「ああ、いいっ! いいよ〜んっ!」
 美羽は怖気立ちます。これは、想像以上に危険な連中かもしれません。殴り続けている内に愛が芽生えてきたようです。
「結婚してください、美羽さん。もっとぶって……」
 美羽は全力で逃げます。想定の範囲外です。今日はもう、帰って寝ましょう……。ついてきました。奴らはまた後日性根から叩き直すことにします。
 それはさておき。
「……ちょっと、聞いてないわよ。テロリストに風使いがいるの?」
 未沙は半ば唖然としながらヘンタイたちから目を逸らしつつ……、同じく条件反射的に立ち上がって呆然と見つめる愛美に向き直ります。
「でも、よかった。マナが無事で」
「うん、ちょっとびっくりしたけど。……えっ!?」
 頷きかけた愛美は、下半身に違和感を覚えて目を丸くします。
「だって、マナのパンツは私だけのものなんだもの。あんな連中に見せてあげないわ」
 未沙は、一難去って完全に油断していた愛美の制服のスカートをめくり上げていました。
「白のニーソ。絶対領域の上部に位置するピンクと白の縞パンツを確認。とてもきれいで眩暈がしそうよ……」
「……」
 愛美は口をパクパクさせていましたが、やがて目元にじわりと涙を浮かび上がらせます。
「……え? ごめん、そんなにショックだった?」
 未沙は驚いて、慌てて愛美のスカートの裾を下ろしますが、愛美は緩やかに未沙に抱きつくようにもたれかかって首を小さく横に振ります。
「違うの……。私でも……やっとパンツ見てもらえた……。よかったわ、まだまだ捨てたもんじゃないんだ……ありがとう未沙……おめでとう私……」
「そっちの反応なの? そんなのおかしいわよ。なんかこっちがダメージくらったわよ……。王子様が現れないくらいでどれだけ追い詰められてるのよ、マナ……」
 なんか色々といたたまれなくなった未沙は愛美を労わるように抱擁します。
「よく頑張ったわマナ。でももういいの、もういいのよ……」
「私、休んでいいのね……」
「さ、帰ろ。きっとそのうちいいこと……あるよ……」
「うん」
 やがて、愛美は未沙の肩を借りて、木刀を杖代わりによろよろと立ち去っていきます。
「……あわわわ、な、なにあれ……?」
 雅羅は顔を両手で隠していましたが、指の隙間から恐る恐る見やって息を呑みました。気が強そうに見えて根は純情な雅羅、心臓ドキドキいってます。
「ふ〜っ、凄いの見ちゃったわ……。女の子同士、かあ……」
 顔から手を離すと、雅羅はのぼせたようにぐったりとベンチに身を沈めました。顔を赤くしながら、何やら悶々と考え込んでいましたが、やがて何を思いついたのか、ゴクリと唾を飲み込みます。
「テロリストといい、さっきの二人といい、……そんなにいいものなのかな、パンツって……?」
 そろり……と、雅羅は自分のスカートの裾をつまみ上げ、ちょっとだけ……確認してみます。
「……」
 カツン! と、近くで何かが当たったような物音がしました。
「きゃっ!?」
 雅羅は慌てて裾を押さえつけます。目がぐるぐるの渦巻き状態になっています、戯画的に。あわあわと周りを見渡すと、向こうから蒼空学園の先輩がやってくるではありませんか。
「やっ」
 にこやかに手を振ってきたのは、永井 託(ながい・たく)でした。
「……あ、ああああ、あのっ、こ、これは、その……っ。ち、違うんだから、違うんだからねっ」
 もはやどう言い繕うかとすら頭が回らなくなってしまっている雅羅に、託は何気ない様子で隣に座ります。
「あ、あああああ、あのっ、……見た?」
「何が?」
 彼は、雅羅がずいぶんと取り乱している事に気づき、一つ錠剤を取り出します。
「気付け薬だよ。色々巻き込まれたり、愛情に翻弄されたり、大変だねぇ……」
 その薬を飲んだ雅羅は、すーはーすーはと深呼吸します。
 なんだか、頭がぼんやりしてきて、いい気分になってきました。
「色々と大変だと思うけど、ま頑張って……」
 それだけ言うと、託は雅羅の視界に入らないように、そそくさと姿を消してしまいます。
「?」
 ひっく、とちょっと酔っ払ったような酩酊観に支配されている雅羅。
 託が渡したのは、有名な惚れ薬、『どぎ☆マギノコ』です。普通ならこんなもの飲まないでしょうが、ちょっと混乱していた雅羅なら簡単に引っかかってしまいました。
「……」 
 ぼんやりと前を見ていると、見覚えのある少年がやってきます。
「……何かあったの、雅羅? ただ事じゃない様子だけど」
 お茶会から姿を消した雅羅が心配で様子を見に来た四谷 大助(しや・だいすけ)は、怪訝そうに苦笑を浮かべます。
「風使いのテロリストが出現したらしいけど、大丈夫だった?」
「……」
 雅羅は、ぼんやりと大介を見つめて、顔を赤くします。
「!」
 大介は、何が起こっているのか即座に理解しました。 
 これはフェアではありません。嬉しいですけど、いいようになったら。でも薬効果で恋愛なんかしたくないのです。
 パンッ! と雅羅の頬を張ります。
「……!」
 程なく、雅羅の目の焦点が合ってきます。
「なにするのよ!?」
「はは……、いやごめん」
 体勢を取り戻した雅羅はすごい睨んできますが、こちらのほうがいいです。
「もう、女の子をいきなり叩くなんて最低よ」
 しばらく怒っていましたが、それでも何とか心を落ち着けたようです。
「え、ええっと、それで何の話だったっけ……?」
「あ、ああ。雅羅がお茶会から突然いなくなったんで心配になってね」
「……ごめんね。ちょっと色々と苦しくなって空気を変えたかったから。逆に、息荒くなったけど……」
「そうなの? ……あ、隣いいよね?」
 気を使うように、大介は雅羅の隣に少し離れて腰掛けます。
「ボクも隣に掛けるのだー」
 大介の影に隠れていた白麻 戌子(しろま・いぬこ)は、言い終わるより先に座っています。
「……まあなんというか……その、この間はどうも……」
 雅羅が黙ったままだったので、大介は苦笑まじりに切り出します。
「言い訳はしないよ。旅の途中で想いがいっぱいになったんだ」
「いいわ。ゴチャゴチャ内に隠したまま寄ってこられるよりも、はっきりと言ってくれたほうがよほど好感がもてるもの」
 ポツリと呟くように言ってから、雅羅は思い出したように足元の紙袋を掴み上げます。
「そうだ、これあげるわ。あなた、さっき私がチョコ配っていたときに取りに来なかったわよね?」
「はは……、雅羅の大量のチョコを見てちょっとショックを受けていたんだ。もらうのもあげるのも引く手あまたなんだな、って」
「引く手あまたなもんですか、ご覧の通り、緊張してあまり渡せなかったわ。もらった分は当然私がおいしく食べるけど……、余ったチョコレートは全部あげるわ、市販モノだし」
「ちょっと待ってよ、こんなにたくさん……」
「あくまでも義理なんだからね。ま、せいぜい虫歯にでもなりなさい」
 大介と喋っているうちに気分が戻ってきたのか、雅羅はいつもの表情で笑います。
「そうはいかないね。一日に十回くらい歯を磨いてやる」
 大介も笑い返して、袋ごと大量のチョコレートを受け取ります。
「ありがとう。義理でも何でも嬉しいよ。俺……家宝にして床の間にでも飾っておこうかな」
「バカ」
 クスクスと雅羅は楽しそうに答えました。
「どうだい、大介。バレンタインとは素晴らしいものであるとわかっていただけだだろうかー」
 戌子は大介に視線をやってから、隠し持っていた手作りチョコレートを大介に手渡します。
「雅羅のは義理チョコなのかい? ふーん……あぁ大助、ちなみにボクのは本命だから安心したまえー」
「え? ワンコ、お前の手作りだって? ハッ……これっぽっちもいらんわ」
 大介は雅羅からもらったチョコの袋を抱きしめながら、あざ笑うようにつき返します。
「なんだ、本命チョコくれる相手いるじゃない? あーあ、気を使って損したわ。私ってば完全にピエロよね」
 やれやれ、と呆れたように肩をすくめる素振りの雅羅。
「……消えろワンコ、三秒以内にだ!」
 大介、激怒です。その表情にさしもの戌子も目を丸くして慌てて走り去って行きます。
「彼女、あなたの大切な相棒でしょ? ちょっと可哀想だったんじゃない?」
「いや、あいつはまあ……ちょっと困ったやつだから」
「……ふ〜ん。ま、いずれにしてもまだまだってことか……」
 ふうっ、と溜息をついて、雅羅は立ち上がろうとします。
「……あっ、ちょっと待って、雅羅!」
 先に立ち上がった大介は、雅羅を呼び止めます。それは、テロリストの気配を察知したからではありません。絶対に言っておきたいことがあったからです。
「あ、あのさ! 前にも言ったけど、オレは本気だから! 絶対振り向かせてみせるから! だから、それまで……!」
「……!」
 雅羅は両手を口元に当て驚いたように目を見開きます。彼の言葉に感銘を受けたというよりも……ですね、その……。
 ズルリ……、といやな音がして、大介は言葉をとめたまま視線を下にやります。じっとりと脂汗が滲んでいます。足元がスースーしています。
「リア充め……! 爆! 破! 完! 了!」
 こっそりとベンチの影まで迫ってきていたテロリストが、鋭利な刃物で大介のズボンのベルトを切り、ファスナーごとズボンをかかとまでずり下ろしていました。
 カッコイイ告白ポーズのまま、大介は白いトランクスを微風にはためかせその場に硬直します。もうダメです、終了です。
「……ぐはっ!」
 大介は再起不能になり、何故か口から血を吐きながらその場にバタリと倒れ動かなくなりました。雅羅からもらったチョコレートの袋が無事だったことだけがせめてもの救いかもしれません。
 いや、むしろですね、身を挺して雅羅をテロリストから守った勇者と呼ぶべきです、好きな女の子の前でパンツ丸出しですけど。彼の再起を期待しましょう。
「なんだ、自分から倒れたのか。これは奪いやすいな」
 テロリストは容赦なしに、大介からズボンを剥ぎ取ります。雅羅と目が合うと、猛禽のように威嚇してそのまますごい勢いで走り去っていきました。
「え〜っと、パンツが一枚、パンツが二枚……、ってハッ……!?」
 目の前で、父親以外のリアル男子ナマ出しパンツを見た雅羅は、ぼんっと頭に血を上らせたまま少しの間その場に立ち尽くしていましたが、程なく再起動します。
「……。パンツが……うううっっ」
 完全にズボンを剥ぎ取られ放置されたままの大介をちらちらと見やりながら、放っておくわけにもいかず雅羅はうろうろと歩き回ります。
「こんなことではなかろうかと戻ってきて正解であったー。そこの小汚い“死体”は当方で処分しておくゆえ、雅羅は行くとよいぞー」
 戌子が帰ってきました。大介とチョコの入った袋をずりずりと引きずりながらさっさと行ってしまいます。他には何も言わずに。
「うん。……じゃあ、またね」
 それだけ答えると、雅羅は身を翻しました。
「だからね、私は誰とも付き合っちゃだめなのよ。傍にいる人にまで災厄が降りかかるんだから……」