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リアクション
実のところ、彼らがこうやってそこそこのんきにやっていられるのは、縁の下の力持ちのごとく、影で奮闘している人たちがいるからです。
みなが浮かれて油断気味になる中、目を光らせている警備のメンバー。彼らは、まだ被害が大きくなる前から次々にテロリストたちを捕らえていきます。
バラエティに富んだ戦いっぷり、見ていきましょう。
「あ、あの……、ずっと前からあなたのこと好きでした。これ……受け取ってください」
「ああっ!?」
チョコレートを手に近寄ってきた女子生徒を非好意的な目で睨み返したのは、ツァンダの街を巡回しながら取り締まっていた戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)です。
彼は、このイベントを通じて女の子が信じられなくなりそうでした。
さっきからこの手で近寄ってきては、小次郎のズボンを持っていこうと狙っているのです。つい先ほども同じ手口で近づいてきた女子生徒が、小次郎のベルトを切り裂いてズボンを持っていこうと手を伸ばしていましたし。パンツ丸出しにして追い返しましたけどね。
「私は、生まれてこの方非リアです! そんなにたやすく女の子にモテる理由がありません! どうせテロリストでしょう。さあ頬をだしなさい、左右好きなほうから殴ってあげましょう」
「ひっ……!?」
ぽきぽき拳をならしながら威嚇してやると、その女の子は泣きながら走り去っていきました。
「テロリストが狙うのは、リア充だけでしょう? どうして私が狙われなければならないのですか」
「便乗組みの愉快犯もいることを忘れてはいけない。狙われるのはリア充だけではない。明日は我が身だな」
去っていく女子生徒を鋭い視線だけで見送っていたマクスウェル・ウォーバーグ(まくすうぇる・うぉーばーぐ)は、振り返りざま容赦なく発砲します。背後からゴム弾が命中した女子生徒はキャッとか悲鳴を上げて転倒し、動かなくなります。
「見ろ、ハサミを隠し持っていた、ズボンのベルトを切れそうな強力なやつ。……こいつら自覚があるのか、武器にもなるし結構危険だぞ」
女子生徒のスカートの裏からハサミやこまごました小道具を見つけて取り出したマクスウェルは、小次郎に向き直ります。
「泥棒が警察を挑発したくなるような気分と同じだ。やつら、俺たちをからかってるんだ。もう、知人を除いて近寄ってくる人物は全て敵と思ってもいいだろう」
「自分が満たされないから満たされた者達を襲う、そういった連中も許せませんが、遊び半分で襲い掛かってくる連中はもっと悪質ですね、心情的に」
小次郎は難しい顔をします。
「次のポイントは“告白の木”とか言う、カップルが集まる場所なのですが」
「あそこはさっき行ったがシーンと静まり返って無人だった。デパートのパラソルの下もボート乗り場も誰もいない。みなフリーテロリストの噂を知っていて警戒しているようだな」
マクスウェルがそういった時、向こうから涙目の女の子が走りよってきます。
「あ、あの、助けてください! 私の恋人がパンツ丸出しになって」
パンッ! と助けを求めてくる女子生徒を問答無用で撃ったマクスウェルが彼女の持ち物を調べますと、スカートめくりに使うと思しきマジックハンドを隠し持っています。もう、誰も信用できません。
同じ目にあってもらうために、パンツ丸出しで晒しておきます。反省することひとしおでしょう。
「でも、結構アイデアマンよね。色々考えてるし、面白そう……」
サーバル・フォルトロス(さーばる・ふぉるとろす)は言いますが、マクスウェルに銃を突きつけられ冷や汗ながら笑って弁明します。
「い、いやだなウェル? 私そんなことしないよ?」
「だといいんだが。ところで、サーバスは本物のサーバスだよな?」
「ちょっと、疑いすぎでしょ。いつすりかわったって言うの?」
ええええっっ!? と両手を挙げるサーバス。
「シッ……! リア充が来ましたよ。その後ろにピタリと尾行している人影が」
小次郎は、小さな中学生らしいカップルの後をつけていた丸坊主の男を後ろから羽交い絞めにします。
「こんにちは、どこに行くんですか? あの二人をつけていますよね?」
「ちょっとこっちへ来ようか」
マクスウェルは反対側の角刈りにすでに銃を突きつけています。
場所を変えたのは、あの二人が静かなムードで本当の恋愛を楽しんでもらうためです。いいバレンタインデーはきっと一生の思い出に残るでしょう。
こうして、テロリストたちは制裁を受け、パンツ一枚で放り出されたりしていくため、どんどん数が減っていくのです。
「さあ、次だ」
マクスウェルと小次郎は、狩りを続けます……。
○
「ああ、どうしましょうかしら。こんなにいっぱいチョコレート買ってしまいましたわ」
周囲に聞こえるようにため息をついているのはセシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)です。
彼女、なるべく見えやすい位置に大きな箱を抱えまして、テロリストたちに見えやすいようにしています。
パートナーのグラハム・エイブラムス(ぐらはむ・えいぶらむす)がギンギンの視線で周囲を探っていますと、セシルがたしなめてきます。
「もっと仲良さげにしないと、テロリストたちよってきませんわよ」
「ようよう、俺にチョコくれよ」
「なんですか、そのチンピラっぽい要求の仕方。全然リア充に見えませんわ」
「セシルが色っぽく渡してくれよ」
「……ねえ、私の愛を受け取ってくださらない?」
「……ぷっくく……」
「……私ごと、食べてくださいませんか……?」
「……ちょ、ひっひひひっっ、俺を笑い殺す気か……」
「グラハムさんやる気あるのですか?」
「もうさ、ご自由にお取りくださいって箱に書いておいておこうぜ。寄ってきた奴がモテないテロリストだろ」
「スカートご自由におめくりくださいって、そばで私が立っていましょうか。寄ってきた奴がモテないテロリストですわ」
二人がつつきあいながら笑っていると、背後に気配を感じます。そうです、別に構えなくてもこういう自然な仲のよさがカップルなのです。
「女の子みたいですわね。挟み持ってグラハムさんのお尻狙ってますわ」
「大胆だな、おい。……ちょっと取りやすいようにズボンずらしてやろうかな?」
グラハム、挑発するように尻を振ってみます。
「おお、なんてこったー、ベルトが切れてしまったぞー、これはズボン取られたらたいへんだー」
「なんですか、その不自然なしゃべり方は。って、半分ずり落ちかけてるじゃないですか?」
「心配ねえよ、ほらかかった」
ひょい、とグラハムはその女子生徒の襟首を捕まえます。
「おっと嬢ちゃん、行儀の悪いこった。そんなだから、チョコやる相手がいなくて、ズボン狩りするハメになるんだぜ?」
「うううううっっ」
挟みをチョキチョキしながら、その女子生徒は涙目でぷくうと膨れます。
「どうする、セシル。こいつ踏むか、馬乗りになるか? 男かかるまで待つか? ちなみに、俺なら余裕だけど……パンパン、オラオラ」
「……ってすでに頬張った上で本当に踏みつけてどうするんですか?」
「テロリストに情けは無用。油断してたら、俺パンツになってたからな。女だろうが容赦しねえぜ、ゲラゲラゲラ」
「グラハムさんって結構鬼ですわね……」
「よ〜し、嬢ちゃん。そこのコンビニでチョコ買ってきな。俺が受け取ってやるぜ……、オラ、ダッシュだ!」
「うわああああんっ」
その女子生徒、本当にダッシュで買ってきました。息を切らせながら差し出してきます。
「是非もらってくださいっ」
「おうよ」
受け取ったグラハム、チョコをパキッと食べてニカッと笑います。
「うめぇ……、もうやるんじゃねえぞ」
「うん、ごめんなさい」
「……」
セシル、半眼でぽつりと言います。
「なんか、今すごく腹立ちそうですわ」
「大丈夫だ、次は男かかるって」
ケータイでやり取り撮影していたグラハム、テロリストたちに送信して女子生徒送り出します。
「ゲラゲラゲラ! よし、次いこうぜ!」
「……潜んでいるの、グラハム狙いの女の子ばかりみたいですわね」
「グッジョブ!」
分布に偏りありそうですが、それでもテロリスト減っていくのはいいことです。
「よし、ようやく男のテロリストゲット〜」
○
ヒャッハー! これはやばいぜ!
いや、普段は「ヒャッハー!」なんてパラ実生みたいなこと言いませんけどね、無限 大吾(むげん・だいご)の場合。
このバレンタインデーは特別の日なのであります。何しろ、アイツが追ってくるのですから。
「あんなの食ったら死んじまう」
彼のパートナーのセイル・ウィルテンバーグ(せいる・うぃるてんばーぐ)が、渾身の手作りチョコを食べさせるために、向こうから迫ってきています。もう逃げるしかありません。
このセシルってのが、【料理界の破壊女王】ってイカした称号持ってまして、それが全力でチョコレートを作ったわけですよ。大吾のために愛を込めて……。
「……」
愛以外に何が込められているのでしょうか、考えたくもありません。
ややあって、大吾は一息つきます。どうやらまくのに成功した模様です。
「ふう、助かったぜ……」
「あ、大吾ちゃん、こんなところに隠れていたわ」
あっさり見つかりました、と思ったらもう一人のパートナー廿日 千結(はつか・ちゆ)でありました。魔法少女のように箒に乗ってこっちにやってきます。
「ん? 千結か、どうしたんだ?」
「チョコレートもってきたよ。あげるから休憩しよう」
「お、サンキュー。千結のなら安心して食べられる。セイルのは、アレだ。あんなの料理じゃない、何か別の何かだ」
「でも、昨夜徹夜で作っていたねぇ、すごい出来だって言っていたっけ」
「だから怖ええんだよ。……ん?」
千結からもらったチョコを食べようとして、大吾は半眼になります。
すぐ横の大木が枝をたわめかせて枝で千結のスカートをめくろうとしているのですけど、こいつ明らかにテロリストが中に入っているのがわかります。
「……」
あまりに馬鹿ばかし過ぎて、黙って見ていますと、よせばいいのに大木型テロリストが千結の裾をピランとめくりました。
「!」
千結は一瞬驚いた顔をしましたけど、実のところこんなの何でもありません。別に減るものじゃないですし。
「でも、やっておいてタダで済ます気はないんだよ〜」
千結は木の造型をバリバリ突き破り、中から潜んでいたテロリストを引っ張り出してきますと、、奈落の鉄鎖で拘束します。
「さて、どうしようかな〜」
アボミネーションを込めた鋭い目つきで睨んでやると、テロリストはひぃっと震え上がります。
テロリストを縛り上げていた大吾は嫌な予感がして千結に声をかけます。
「……場所を移動したほうがよさそうだな。セイルの気配が……」
「運がよかったね、テロリストさん。そこで待ってるとチョコくれる人がくるよ」
「……何気にひどいことを言うな」
そんなことを言いながら、大吾と千結は行ってしまいます。
「……」
やがて、セイルが姿を現しました。
「むぅ、手作りチョコ作ったのに大吾に逃げられました。たっぷり破壊力を注いで、隠し味に殲滅力まで入れた自信作なんですが」
自信作を確認するように、セイルはちらりと中を覗きます。おや、意外とおいしそうですよ。こんなきれいなチョコレートから逃げるなんて、大吾ってば何をやっているのでしょう。
「ん、あなた誰?」
セイルはぐるぐるに縛り上げられたテロリストに気づきます。
「くっくっく……」
「まあ、誰でもいいや。ねえ聞いてくださいよ。折角徹夜してチョコ作ったのに、食べてくれないんですよ。酷いと思いませんか?」
「……」
「あ、良ければ食べます?ちゃんと食べてくれる人に渡した方が私としても作った甲斐がありますし」
「おおっっ」
チョコレートがもらえる! テロリストは感動の涙に暮れかけましたが、ふと動物的本能から嫌な予感を覚えて、躊躇します。おや、そのままミノ虫みたいに逃げ始めましたよ。
セイルは、ガシリと捕まえます。すごい力です。
「くくく……、せっかくの実験台を逃がすと思っているのですか?」
「今、実験台って言わなかった!?」
「いいから食べるのです、はい、あ〜ん」
「ぎゃあああああっっ」
……。
真っ白になったテロリストが発見されたのは三日後のことといいます。
○
そのころ。
空京大学に所属するアキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)は、その日、バレンタインテロの跋扈する、ツァンダへやってきていたのでありました。
実際のところ、信仰を捨てた彼にとって、聖バレンティヌスの祭日など今更さほど興味もなくて、2/14日というただのカレンダー上の一日に過ぎないわけです。
どうして来たのかって、それはこのツァンダのとある施設で手作りチョコレートの教室が開催されているからなのですよ。聞くところによると、無料で初心者でも心のこもったチョコレートが作れるとか。
「……」
アキュートは特にやることもなく、通行人を眺めながら教室の外で待っていますと、ややあって中から、花妖精のペト・ペト(ぺと・ぺと)が、手作りのチョコレートを抱えてこちらにやってくるのが見えました。
どうやら、できたチョコをくれるようです。実際のところ微妙なイベントなのですが、快く受け取って上げましょう。
「アキュート、チョコできたのです。ばれんたいんでーなので受け取るのです」
「……!?」
アキュートはそのチョコを見て、一瞬目を見開きました。なんと大型のハチの姿なのです。以前、ペト・ペトから虫をもらった記憶が脳裏に蘇ります。その再現でしょうか……?
「……まあ、いいか」
それでも心のこもった贈り物です。素直に喜んでもらいましょう。
アキュートが手を伸ばしかけたときでした。
ヒュウウウウッッ! と疾風のごとく向こうからやってきた数人の男たちが、ペト・ペトのスカートを捲り上げ中身だけ確認すると、去っていきます。
「ふふふ……、ハチのプリントか。GJ、オレたち」
「……速っ、なんだあれ?」
アキュートが目を見張った時でした。
「わあああああっっ……なのです……」
ペト・ペトは、風にあおられハチ柄のパンツを盛大に披露しながら反対側まで飛んで行ってしまっており、バラバラになったハチの前で呆然と座り込んでいました。
やがて、ペト・ペトは泣き出してしまいます。
「ペト……ペト……のハチさんチョコが」
どうやら大型のハチはチョコレートだったようです。
「ん? 何事ですか?」
ペト・ペトを手伝っていたクリビア・ソウル(くりびあ・そうる)が片づけを終えて出てきて、すぐに状況を察します。
「ぺトちゃんを泣かしたのは、誰ですか?」
「いや、今ものすごいスピードで通り過ぎて行ったテロリストがいたんだが」
「――――!」
声にならない怒りの声を上げながら、クビリアは目を血走らせ、その後を追います。
「……」
まあ確かに酷いが、ペト・ペトを放ってもいけません。あの速さだとクビリアも追いつかないだろう……。そんなことを思いながら、アキュートがペト・ペトを助け上げ、なだめ始めた時でした。
「ぎゃああああああっっ!」
向こうから物凄い悲鳴が聞こえてきます。
「やばい、やりすぎたか?」
アキュートが向かった先には、すでにさっきのテロリストを捕まえたクビリアが、手にしていた死神の鎌をすれすれで後ろの壁に突き立てていたところでした。
「ペトちゃんを……、泣かせましたね?」 ユラリと鎌を構えて迫ります。「あなた達は、あの小さなチョコレートに、どれだけの想いが詰まっていたか解りますか?」
「ひいいいいいいっっ!?」「人の想いを踏みにじり、ペトちゃんを泣かせた。その行動、万死に値します」
「いやおい、ちょっと待てクビリア」
アキュートが声をかけるより先に、光の翼を展開し鎌振りかざして、襲いかかります。
「怖えええええええっっ!?」
アキュート自身がちょっぴりビビったくらいです。
「ま、まあ待て待て待てってクビリア、殺しちまう」
もうすでにその迫力だけで泣いているテロリストを見て、アキュートはクビリアを羽交い絞めにします。
「フーッフーッ!」
「いや、獣じゃないんだから……、お前らももう謝れ」
「ひ、ひいいい、すいませんでしたぁっっ!」
テロリストたちは、地面にぺったんぺったん頭を押し付けて土下座します。
「クビリア、ペトはもう大丈夫なのです」
ペト・ペトが予備のチョコを持ってやってきます。
「もうやっちゃだめなのですよ」
そういってチョコレートを配ると、テロリストたちは感謝の涙に暮れながら、去っていきました。
あれだけの恐怖を味わえば、もうしないでしょう……。
さて、今日一日、楽しみましょうか……。
○
「……」
白雪 魔姫(しらゆき・まき)は、デートコースに指定されている綺麗な池のほとりで、気まずい思いになっていました。テロリストを捕らえるために、カップルが多数出現するデートコースを巡回しているのですが、少々目に毒といいますか、心に毒です。
周りにはすでに数組のカップルが“できあがっちゃって”ます。
チョコ渡したりなんだのだけじゃなく、その後、イチャイチャとなにやらコミュニケーションをとっているカップルたち。ちょっと隣に視線をやって見ますと、キスする直前ではないですか。
早くテロリストたちは出現しないものでしょうか?
向こう側の茂みの中では、魔姫のパートナーの白雪 妃華琉(しらゆき・ひかる)が潜んでいます。すごく息苦しそうです。彼女が窒息する前にテロリストたちが現れないと大変です。
「俺たちも仲良く、手でもつないだほうがいいのか?」
魔姫の隣で、正面を向いたまま如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)が聞いてきます。彼、校内の見回りをしていたのですが、こちらにまで手伝いに来てくれたのです。
「学校内は、山葉くんや高円寺くんたちが守ってる。こっちのほうが忙しいと思ったんだが」
「私たちって、もしかして殺気とか出しちゃってる? それに気づいて警戒してテロリストたちは、こんないいスポットを狙わないのかな?」
「そんなことはないと思う。むしろ、なんというか甘ったるい雰囲気が充満しすぎていて頭がくらくらしそうだ」
佑也はじっとりと汗をかきながら言います。すごく居心地悪いです。
イチャイチャイチャイチャ……。
黙って立ってますと、また隣のカップルがキスしてますよ。ああ、そうこう言っているうちに、また新しいカップルが来て、あろうことか魔姫の視界の正面の木の下で抱きしめあったりしています。
「だ、大体風紀が乱れすぎじゃないの、蒼空学園って。何よ、誰も彼もベタベタして」
「一人で立っていたら、もっと辛いぞ。すごく浮く。逆に、ああこいつモテないテロリストなんじゃないかって勘ぐられそうだ。一発でわかる」
「だとしたら、もしかしてテロリストたちもカップルでここに来るのかな?」
「多分……。なんでそのまま付き合ってしまわないんだ? スカートめくったりズボン取ったりしている暇があったら、そのまま口説けよ」
「そうやって、また新たなリア充がうまれるのであった……、って、あ、またあの子キスしたわ……」
「お、おいおい、あそこの奴、そのなんだ……相手の服の中に手を突っ込み始めたぞ。風紀乱れすぎだろ、誰か止めろよ……」
イチャイチャイチャイチャ……。
「リア充、爆発しろ」
「リア充、爆発しろ」
二人がギンギンした目でカップルたちを睨んでいますと、向こうから一人きりという命知らずな人数でやってくる娘さんがいます。きっとモテないのでしょう、テロリストでしょうか? と思ったら、佑也のパートナーの神威 由乃羽(かむい・ゆのは)でありました。なんかこの娘、賽銭箱抱えてますよ。それを佑也に差し出してきます。
「あ、モテない二人組み発見。チョコレートでも食べて縁起つけたらいいわ」
「なんだ、これ。中に入ってるのお守りじゃないか。入れたものくらい覚えておけよ」
受け取った中身を確認した佑也がため息をついたときでした。
「……?」
ふと気配を感じて佑也と魔姫が同時に池を振り返りますと、水の中からちょうど魔姫のスカートのすそ辺りに、マジックハンドが伸びてきているところでした。このくそ寒い中、水中から攻撃ですよ。どれだけパンツみたいんだよ、って話です。
「ああ、ありがとうテロリストさん、やっときてくれたわ」
「お礼に、股間のチョコバット使い物にならなくしてやろうかな」
魔姫と佑也が優しげな笑みを浮かべてテロリストをボコボコにしてあげます。しかも複数人いるようなので、甘い空間で窒息寸前の妃華琉にもおすそ分けです。彼女も、とてもいい笑顔で両手を広げてこちらに走ってきました。
ボコボコボコボコボコ。
戦闘が始まっても、まだ気にせずキスしているカップルいます。もう、どうでもいいです。
やがて、水中に潜んでいた数人のテロリストたちは、池に死んだ魚のようにぷっかり浮かび上がります。
「何回これを繰り返せばいいんだ?」
佑也がポツリとつぶやきます。
外の警備のメンバーは、こんな苦労をしているのです。
中の人たちは感謝するように!
○
一方、こんな人たちもいるんです……。
その日、桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)はパートナーのエリス・クロフォード(えりす・くろふぉーど)とエヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)を連れて街に買い物に来ていたのですよ。
楽しいバレンタインデーです。テロの噂は聞き及んでいますけど、それでも街は活気にあふれ男女たちがウキウキしています。
そりゃ、危険が潜んでいることくらいはわかってますよ。でも、買い物中まで神経をピリピリさせたくないじゃないですか。リラックスしてゆったりと時を過ごしたいじゃないですか。
それが煉にとってはうかつでしたし、悲劇の始まりだったのです。
食事を終え、衣装売り場に行った時です。可愛い衣類を物色しているエヴァとエリスの真後ろのマネキンが動いたんです。それも二体も。どうやらマネキンに化けていたテロリストたちだったようなんですけど、それが、後ろからエヴァとエリスのスカートを大きくめくり上げ、黒と白の下着を披露してくれました。
煉がとっさに(テロリストたちの身の安全のために)助けに入れなかったのは、荷物をいっぱい持たされていたからなんです。本当なんですって。
さすがにエヴァとエリスも、一瞬可愛い悲鳴を上げたりしましたが、微笑ましかったのはそこまでだったんです。
≪ ただいま非常に残忍なシーンが繰り広げられておりますので、お見せできません ≫
さて、荷物を放り出し慌てて街に飛び出した煉は、取りあえずですね、カップルたちの集まる場所へ急行します。テロリストたちも待ち構えているでしょうからね。
あの二人の性格は煉はよく知っています。気が治まるまで手を止めないんです。
いました。元々けんかも弱くてアホだからこそ女の子にももてなくてスカートめくりなんざやらかそうって連中です。特技の武術とスキルのアイアンフィストを生かし素手で簡単に捕まえてきます。
えさのように与えると、
≪ ただいま非常に残忍なシーンが繰り広げられておりますので、お見せできません ≫
……。
夕方まで続きましたよ、ええ。街中を走り回り、おかげでフリー・テロリストを名乗る連中は、ほとんど見かけることはなくなりました。絶滅種に指定します。
いい運動になった煉にとりまして、食後に二人からもらったチョコレートは格別でした。
そんな一日のお話……。
○
「ちくしょう……」
敗れたテロリストたちはうなだれ、とぼとぼと家路についていました。全員ボコボコです。
「たかが、スカートめくりに大人気なくねえか? 本気出すことないだろう……」
「ちくしょう、チョコレートほしかったな……」
「もういいよ、帰ってギャルゲーでもやるよ……」
彼らがそんなことを言っているときでした。
ちょうど向こうから、小さな女の子たちがやってきました。耳ついていてとても可愛い上に仲良さげです。
それは、斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)と天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)、それに天神山 保名(てんじんやま・やすな)と斎藤 時尾(さいとう・ときお)でした。
特に前の二人が可愛いです。いやもちろん、後ろもいいんですけどね、ちっちゃい子好きなんですよ非リアはフフフフ。それに耳が……じゅるり……。
とても楽しそうに談笑しています。
なんか、無性にイライラします。敗れたとはいえ、やはり非リアの性は抑えられそうにありません。かなり邪魔したいです。といいますか、妬ましいですなんであんなに仲がいいんでしょうか世の中間違っていますやっぱりリア充爆発しろ!
「……」
通り過ぎざま、ちょっとのぞいてみようぜ……。彼らは目配せ会います。
3・2.1.0……、バッとハツネと葛葉の裾をめくって中味を確認したテロリストたちは脱兎のごとく逃げ出します。モタモタしてたらさらに返り討ちにあいますからね。
「フ、フフフッ! 保名様の前でパンツ見られた……よーし、僕の禍津殺生石の餌食になりたい奴はどこですか?」
葛葉の威嚇に、テロリストたちは震え上がります、が。
「あー、待って」
ハツネが呼び止めます。
「チョコ欲しいの?」
テロリストたちは、最初は裾をめくった事を殴られたりするんじゃないか、と警戒していましたが、ハツネが微笑むと帰ってきました。
「私、渡しそびれちゃってさ。本命チョコ、あげるよ」
「ちょ、ま、まじか?」
「うん。本命手に入れたから、これであんたたちもリア充だね?」
「あ、ああ、ありがとうよ」
「ねぇ、ハツネ偉い? 褒めてくれる?」
「ああ、すげえよあんた。俺たちを労わってくれてよ、ありがとうよ」
「じゃあ、家でゆっくり食べてね。バイバイ……」
「ああ、バイバイ」
敗れたテロリストたちは喜んで去っていきました。
「いいことしたねぇ」
時尾がその光景を眺めていて、ハツネをほめてくれました。嬉しそうなハツネ。
「あううう、あいつら許せません。どうして止めたんですか」
「パンチラされたか……クハハ、嘆くでない、葛葉! 儒子共にパンツ見られたくらい何でもない! ワシなんてホレ!」
チラチラしながら 保名が葛葉をなだめます。
しばらく膨れていた葛葉でしたが、やがて収まります。葛葉はチョコレートを取り出してきて恐る恐る保名に渡します。
「あの……保名様、これ……保名様へのバレンタインチョコです! 受取ってください」
「うむ、いただいておくぞ」
保名が受け取ったときでした。
彼方で、ボ〜ンと何かが破裂する音が聞こえました。
「ああ、彼ら我慢できなかったみたいだねぇ。帰り道の途中で開けちゃったか……」
そちらのほうに視線をやって時尾はポツリと言います。
爆弾入りのチョコ。大して危険はありません。
5分後、数百メートル先で真っ黒こげになったテロリストたちが発見されました。ですが、彼らの笑みは満足げだったといいます……。
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