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リアクション
「おいしいもの、たーくさん持って来たよ」
「どうぞ、食べて下さい」
美味しい料理を手にイリアと加夜が部屋に戻って来た。安宿の部屋に香ばしい匂いが充満する。
「うわぁ、いただきます」
「私達にも? ありがとう」
「ありがとう」
「俺も腹が減ってたんだよ」
絵音だけではなく三人組にも用意された。四人は本当に美味しそうに料理を口に運んでいく。
楽しそうに食事をする絵音を見て説得のチャンスだと感じたイリアは話しかけた。
「絵音ちゃん、幼稚園は楽しい? お友達はいる?」
「楽しいよ。お友達もたーくさんいるよ。ロロミちゃんにキリスちゃんに。……スノハちゃん」
元気に答えるも声はどんどん小さくなっていく。スノハと喧嘩したことをよほど後悔しているようで。つまりは本当に嫌いという訳ではないという。
そこでイリアは
「お友達ってね、すっごく大事だよ。小さい頃からね、繋がりが持てるって本当はすごく素敵なことなんだよ。これだってお友達と食べたら何百倍もおいしくなるんだからね」
イリアは、友達というものを語り、少しでも前へ進むように促していく。
「うん」
絵音はこくりと頷きながら食事を続けた。イリアの言葉がすこく心に響いている様子だった。
少しだけ重くなった空気がノーンの言葉で癒された。
「あー、材料があれば私も何か作ったのに」
食事をする四人を見ながら思わず声を上げてしまった。
「お姉ちゃん、何か作れるの?」
少しだけ食事の手を止めて食べている様子を眺めているノーンに質問した。
「作れるよ。そうだ、今度お菓子を焼いてあげるね。みんなで食べるときっと美味しいよ」
絵音に答え、にっこりと彼女と約束しながら「みんな」と言うところで三姉弟の方に顔を向けていた。
「本当に!?」
絵音は嬉しそうに声を上げた。
絵音や三姉弟の空腹はあっという間に満たされた。
「ごちそうさま。おいしかったよ」
絵音は幼稚園でもしているようにきっちりと手を合わせてごちそうさまをした。
食べ終わった食器も片付き、賑やかさが落ち着いたところで帰る頃合いだと読んだ陽一が動き出した。
「それじゃ、絵音ちゃん帰ろうか」
「……でも」
陽一の言葉は分かるし、気持ちも帰りたがっているがもう一歩が踏み出せない。
「このままずっとここにいる訳にはいかないよ。スノハちゃんや幼稚園のみんなや両親と過ごす時間はとても大切なんだ。今日、遊べても明日は遊べないかもしれない。難しくて分からないかもしれないけど、大切な人と別れる時は必ず来てどんなに願ってもその人は戻っては来ないんだ」
絵音が動き出す後押しなればとゆっくりと言葉を選びながら説得を始める。
「……うん」
何となく分かる絵音はこくりと頷いて陽一の話を静かに聞いている。
「もしかしたらこのままスノハちゃんとお別れになってしまうかもしれない。そんなの嫌だろう?」
「うん、嫌。スノハちゃんと遊びたい。先生に会いたい」
陽一の最後の言葉に絵音は、ようやく動き出した。このままここにいたらずっと会えなくなるような気がしたのだ。早く、会いたいと。
「……帰って仲直りじゃな。きっとスノハちゃんも同じ気持ちじゃよ。そして、ナコ先生にも謝らないといけないのう」
「うん」
ようやく動き出した絵音にルファンは一安心した。
「最後に両親に気持ちを言うだけですわね。何かひどいことを言われたら戻ればいいですわ」
綾瀬は、無茶苦茶なことをわめいていた絵音の両親を思い出していた。
「急いで戻ろう。大騒ぎにならないうちにさ」
「あら。四人目の誘拐犯はどこの誰かしらね、セレン」
セレンフィリティは事件が解決しつつあることに喜ぶもセレアナのツッコミが入る。ここにいる仲間の内、三人はセレンフィリティを追って来たのだから。ツッコミをせずにはいられない。
「もう、セレアナは!」
セレンフィリティはツッコミに顔全部で文句を表現した。
この後、賑やかな様子を呈した部屋を片付けてから絵音は、たくさんの味方と共に安宿を出て公園へ向かった。当然、三人組もちびっこのまま一緒に。
「和輝、良かったね〜。これで仲直りだよ」
「そうだな。平和的に解決しそうだな」
見守り組の二人も絵音達をこっそり見送ってからゆっくりと公園に戻った。武力で解決しようとする者よりも心配になるぐらい賑やかで優しい人達ばかりにほっと安心した。