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平安屋敷の赤い目

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平安屋敷の赤い目

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【第二章】


 企画展示室。
 鬼が現れ、美緒が消えた場所。
 事件の前は沢山の客で賑わっていたそこにいる人間は、今は三人しかいない。
 リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)マーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)桐条 隆元(きりじょう・たかもと)
「じっジロジロ見るな!
 集中できんだろうが!!」
「これはこれはすいませんでした桐条サン!」
「おぬし……わしを馬鹿にしておるのか?」
「べっつにー」
「むぅ!」
「むきぃい!」
 マーガレットと隆元がやや低レベルな争いをしている中、リースだけが黙々と本のページをめくっていた。
 企画展示室に置いてある文献に赤い目の鬼と陰陽師に関係してる内容が書いてあるか、展示室の文献をのページを
1ページづつ急いで捲って、速読しているのだ。
 身につけて居る司書のケープの付属スキル資料検索により、リースの読書は戦うように激しさを増している。
 先程マーガレットが積み上げた本も後数冊しか残っていない。
「ふんっ!」
 マーガレットは隆元との争いを切り上げると、アクリルケースの短剣で鍵の部分を破壊し、新しい本を取り出す。
「これって泥棒サンしてるみたいであんま気持ち良くないよね」
 本をリースの横に新しく積み上げるが、返事は無い。
「よっぽど集中してるんだね。
 ちょっと静かにしとこーかな」
「わしにもそのくらい気を使って欲しいものだな」
「あら、桐条サンも何かしてるんですか?」
「おぬしこそ」
「あたしはジャパンの文化とかよく分からないし手伝える事だけしてるの!」
「……ふん。
 わしはただ近づいてくる気配を読んでおるだけ」
「……ふーん。まぁ、お互い出来る事をしてるって事ね」



 その頃、受付から校内に逃げ込んだマリカとテレサは成す術無く校内を逃げ惑っていた。
 テレサはマリカを護ろうと必死で怖がる暇は無かったが、マリカの方はというと、
特技の柔道が通じず、怪談等が苦手な事もありすっかり怯え足が竦んでいる。
 二人は廊下の真ん中で足を止めて居た。
 何処へ逃げても同じなら、餓鬼がこない間だけでも休んで体力を回復しなくてはならない。
「帰りたい、帰りたいよぉ」
「きっともう少しですわ。
 先程アクリト先生の放送で解決策を探しているって。それに特別なお豆のお話もありましたわ。
 高円寺様を探しましょう。それでその特別なお豆を手に入れて……マリカ!!」
 テレサはマリカの腕を思い切り引っ張る。
 倒れたマリカがよろよろ上半身を起こすと、目の前でテレサが鬼に噛まれているのが見えた。
「あ……テレ……サ……?」
 鬼に肩口を噛まれたままのテレサの目は白眼も黒目も一緒に赤黒く濁って行く。
 やっと鬼がテレサを離したかと思うと、だらりと身体を曲げたテレサの額から押し出されるように
ふたつの角だ生えてきた。
 マリカは余りの事に状況を把握出来ない。
「え? え??」
 一呼吸した後テレサはぼそぼそと喋り出した。
 無事だったのか? とマリカが安堵したのもつかの間だった。
「……躾の……なっていない子供はどこかしらぁ〜」
 テレサの顔から明らかな敵意が感じられる。
 分からない。何が何だか理解できない。マリカの恐怖は絶頂に達した。
「いゃああああああああああああああああ」
 絶叫したまま自分を捕まえようとするテレサの股の下をかいくぐり、四つん這いのまま走って行く。
 その先はガラス張りの壁で行き止まりだ。
「ああああああああ」
 マリカはデリンジャーをガラスに押しつけて射撃する。
 兆弾等構ってはいられない。
 飛び散るガラスも、ガラスの壁の先にどの位下に床があるのかも確認せずマリカはそこへ飛び込んで行く。
 身体には無数の傷が出来たが、すぐに立ち上がり当ても無く駆け出した。
「廊下を走るなんて躾がなっていませんわぁ〜」
 餓鬼は巻いたようだが未だにテレサが追ってくる。
「いやああ逃げる逃げるます逃げろ逃げ逃げ逃げ逃げるのおおお」
 混乱で自分で何を言っているのかすらわからない。
 躓いて転んで、そのうちにテレサが近づいてきているのでもう分かるとかそういう状況じゃ無かった。
 由緒正しき百合園女学院の乙女が、失禁しそうだとかそういう問題なのだ。
「ごめん!!」
 マリカはテレサを蹴りのけると、もう一度走り出し女子トイレへと逃げ込んだ。
 個室に飛び込むと、そのまま鍵をかけ空けられない様に全体重をかける。
「こないでこないでこないでこないで」
 祈る気持ちで、そして本当に祈っていた。
「こないでこないで」
 しかしマリカの祈りも空しく、扉に大きな音が響いた。

 ドンドン!

「きゃああああああああやああああ」

 ドンドンドン!!

「入ってます! 入ってます!」

 ドンドンドンドン!!!

「入ってます!!!!!」
 マリカの切実な声に、思いが通じたのか沈黙が訪れる。
 安堵し、便器の上にへたり込むと扉がバンっという音を立てて開く。
 マリカは失神しそうな所で、とどまった。
 扉を開けてきたのがテレサでも、餓鬼でも無く、人間の男だったからだ。
「立てるかい?」
 マリカに向かって手を伸ばしてきたのは椎名 真(しいな・まこと)だった。
「俺は蒼空学園の生徒で、椎名 真っていうんだ。
 大丈夫君の味方だよ」
「……み……かた?」
「そう、もう大丈夫だよ」
 真に手を引かれ、歩き出すと大きな音にマリカはまた叫ぶ。
「大丈夫、彼女だ」
 真がそう言って開いたのはトイレの掃除用具入れだ。
「さっき一部始終が見えたんで追ってきたんだよ。
 ごめん、彼女は君のパートナーなんだよね?
 少し手荒だったかもしれないけれど拘束させて貰ったんだ」
「あ、ありがとう」
「無事に解決出来たら助けに戻ろう。
 こんな所に閉じ込めたって怒られちゃうかもしれないけど」
 冗談めかした真の言葉に、マリカの表情が和らいでいく。
「さっきの放送で言ってた静香校長の居るところまで送るよ」
 真の提案に、マリカは小さく頷く。
 それを返事として受け取って真は何処にあるのかも分からない食堂を目指して歩き出した。
 後ろから小さく、マリカの声が聞こえる。
「あたし達……生きて帰れるのかな?」
「大丈夫、きっと助かるよ」
 マリカの為に確信を持ったように、呟いた言葉はもしかしたら自分を鼓舞する為だったのかもしれない。
 真はマリカの目を見る事が出来なかった。