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平安屋敷の赤い目

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平安屋敷の赤い目

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「小夜子!!」
 彼女の最期を見て居たのは崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)、と崩城 理紗(くずしろ・りさ)
そして如月 正悟(きさらぎ・しょうご)らだ。
 彼等も小夜子と同じく美緒を思う気持ちを利用され、この場に誘導されてきたのだ。
 勿論正悟にも現れては消える美緒の影が、怪しいのは分かっていた。
 でも以前正悟どんなに犠牲を払っても、彼女を護ると美緒に自身に誓っていた。
 彼女だけを見て行く事。それを美緒に証明出来るのは今は己の行動のみだ。
 罠かもしれないのも承知の上で、ふたつの剣を手に正悟はここまできていた。
 ある程度の予想通り彼を待っていたのは美緒ではなく餓鬼の群れだったが。
 予想通りなら予想通りで直ぐに対応することもできる。
 正悟はファイアストームを放ち、餓鬼を薙ぎ払う。
「あなた、美緒の姿を見まして?」
 戦いの隙をついて彼に話しかけてきたのは亜璃珠だった。
 向う側で戦っているパートナーにしばしを任せ、攻撃を受け流しながら正悟の近くまでやってきていた。
 蒼空学園の校舎内で時には生き残った生徒を護りながら戦っていた彼女だったが、際限無く現れる餓鬼達に
根元を断たなければと思っていたところへ、美緒の影が現れたのだ。
 美緒のお姉様たる彼女がその姿を追わない訳はない。
 こうして誘導されてきたが、ある意味これは彼女の本意でもあったのだ。
「ああ、一瞬だが見えたよ」
「あれは本物なのかしら?
 憑かれているのか、姿を真似ただけの別物か……。
 私、光条兵器の攻撃対象から美緒を外してやれば、あれがどういうものか少しは分かると思ったんですのよ。
でも……これじゃあたったの一太刀すら届かないですわね」
 亜璃珠は悔しそうに屋敷の方を一瞥する。
 そこには何時の間にか現れて居た美緒の姿があった。
「一太刀……」
 亜璃珠の考えを反芻しながら美緒の姿を見て、正悟は違和感を覚えた。
「あの頬の傷……」
 正悟は思い出す。
 事件直後、実行委員だった美緒はここにいるのでは。と直感的に展示室へ入った時。
 床に散らばっていたアクリルケースの破片を。
 あれがもし美緒に当たっていたとしたら。
 美緒の頬に流れる血は、正悟に一つの確信をもたらした。
「あれは……やっぱり美緒だ……」
 正悟の剣筋が鈍る。
「だからと言って手加減する事はできませんわ」
「ああ、でも下手に傷付けるのは」
「したくありませんわね」
 決めてに掛ける戦いの向う、声が聞こえてきた。
「……帰シテヨ、元ノ……元ノ世界ニ……」
 大助だ。
 後ろから追ってくる彼の仲間も気にせず、変異した瞳は虚ろなまま、美緒の姿に向かっていく。
 美緒の口が開いた。
 最も声は彼女のものでは無かったが。
「男……」
 美緒と大助が対峙する。
「男は許さぬ。
 私を裏切る男、封印する男。全て男」
「オ前ノ怒リナンテ……知ラナイ
 奪ッテヤル…ソノ怒リモ、憎シミモ……全部……全部……!」
 大助は四足のように身体を曲げ、勢いよくバネのように跳ね上がると上から斬りかかった。
 本来の二人を感じさせない、モノノケ同士の戦いが始まった。
「彼、大丈夫なんですの!?」
 亜璃珠の声に、丁は冷静に反応した。
「あのままの方がいいだろう」
 手にした「魑魅魍魎之絵巻」に同じような鬼をを描き、餓鬼を撃退していく。
 しかし数が余りに多いので描くのを「ぬりかべ」にかえると、道を塞いで亜璃珠達と合流する。
「ここはあの鬼の巣とも言うべき場所か。埒が明かんな」
 言いつつ氷藍は弓から矢を飛ばし続ける。
 その矢の一つが擦りぬけて行くのを、亜璃珠は見つけた。
「あれは……」
 小夜子を襲ったあの攻撃が効かない黒い悪霊が再びここに現れて居たのだ。
 ただでさえ美緒を身体護る為にこちらは決めてにかけるのに。
 ――もはや万事休するか。
 亜璃珠は溜息を吐いて、それからそのまま呼吸を整える。
「おねーさま? 何を!!」
 彼女の行動にいち早く気付いたパートナーの理紗が彼女を止めようとしたが、既に遅く術は放たれた後だった。
 
 風術。
 
 亜璃珠の力は風となり、理紗、正悟、氷藍、丁、そして美緒と闘っていた大助を巻き上げていく。
「安心なさいな、美緒がアレなんだから私もきっと心配要りませんわ」
 不安そうなパートナーに笑顔を見せてやると、亜璃珠は思う。

 ――でも……なるべく早くもとに戻してね?

 亜璃珠は正面を向き直り、美緒に。鬼に向かって高飛車に言い放つ。
「まったく昔の男の事でうじうじと情けない。
虎でも鬼でも、大人しく絵の中に篭もっていればいいものを」
 美しくにやりと歪む唇に美緒の顔が彼女のものからまさしく鬼の形相へと変わって行く。
「きなさい美緒! 私が相手ですわよ!!」