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ア・マ・エ・タ・イ

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「よーぅ。陽ってば。どこ行ったのさー」
 テディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)は愛する皆川 陽(みなかわ・よう)の姿を探していた。
(せっかく、『恋が叶うおまじない』の場所だっていうこのロックが丘に花見に誘ってみたのになぁ)
 足元の石をひとつ、蹴飛ばす。
 上手くすれば、彼との仲が進展してあまあまラブラブ展開に持っていくこともできるんじゃないか……そんな妄想爆発の下心で誘ってみたものの、肝心な相手があまり乗り気でないなら意味がなく。
(どこにいるんだろう)
 何故か意味もなく湧き上がってくる、心の奥底の衝動。
(陽に、会いたい。会って、抱きしめて……)
 いつの間にかそれしか考えられなくなったテディは、虚ろな瞳で陽を探す。

「あ……いぃ。いいかも。さすが世界最弱のモンスター!」
 当の陽は、一人不定形物体を前に興奮していた。
 おそる、おそるとでもいう具合に、そっと青い柔肌に手を伸ばす。
「んっ」
 ぷにょん。
 たっぷりとした弾力が、陽の指を受け止める。
「そうだよ……ボクは、ボクなんか、スライムさんみたいなモンスターを目の前にこんな気持ちになっちゃうような駄目な奴なんだよ」
「にょ」
「ボク、スライムさんに甘えたくてすりすりしたくって仕方ないんだ……!」
「にょにょー」
 どぷり。
 スライムに抱き着こうとした陽の体が、沈む。
 すぐに弾力で浮かび上がった陽だが、次第にずぶずぶとスライムの中に。
「にょー」
 スライムは体内の異物を排除しようと、ぐにゃぐにゃと吸い付き、形を変え、陽の体に様々な感触を与える。
「あぁ……んっ。スライムさん……」
 その未知の感触に、陽の体は思わぬ反応を示す。
「や……こんな、こんなのっ、はじめて……っ!」
 スライムから与えられる感覚に夢中になっている陽。
 いつの間にか心の奥底にくすぶっている気持ちが唇から零れ出していた。
「……ゴミで屑で最底辺なボクが、あんなお坊ちゃんな典型的薔薇学美少年と上手くいくはずないんだ……!」
「にょにょ」
「っていうかあんな綺麗な奴、大嫌いだよ! ボクは……ボクは、自分が大嫌いなんだから」
「にょー」
「陽……」
「んぅ?」
 瞳を閉じてスライムに溺れていた陽は、聞き覚えのある声に目を開ける。
 テディだ。
 真っ直ぐな瞳で陽を見て、今にも抱き着かんがばかりに両手を広げている。
「陽、陽……見つけた。大丈夫? 今助けてあげるよ。僕は今陽のために何かしてあげたくってたまらないんだ!」
「いらない」
「え?」
「ふぁんっ……見て、わかんない? ボクはねえ、今、とおっても幸せなんだ。邪魔しないで」
「陽……」
「はぐっ、す、スライムさぁん。ボク、スライムさんがいればもぅ何もぉ……っ。んんんっ」
「陽ぅ……」
 愛おしそうなテディの目前で。
 陽は、いつまでもいつまでも甘い声を出し続けていた。