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【●】歪な天使の群れ

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【●】歪な天使の群れ

リアクション


第一章

「久し振りに飛空艇で一緒になったので暫くのんびり話しでもしようと思ったんだが……こんな事になるとはな」
 大型飛空挺に乗り合わせていた早川 呼雪(はやかわ・こゆき)が、苦虫を噛み潰したような表情で呟く。
「また十二星華の力が悪用されるのかー。やだなーもー」
 呼雪の横でそうぼやいたヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)は、ちらりと斜め後ろを見るとさらに苦い顔をして見せる。
「しかもこんな時に限って君、なんでいるんだよ」
「冷たい事言わないで仲良くしてよ、お兄ちゃん」
「ほんっとその呼び方やめてよねー。鳥肌立つんだよ」
 ゴスロリ姿のラファ・フェルメール(らふぁ・ふぇるめーる)がにっこりと笑いながら返した言葉に、ヘルは両腕を抱えた。
「今直ぐ行くでござるッ如何な時でも助けに行くと約束したでござろう」
「必ず、助けますわ……!」
 目の前でエメネア・ゴアドー(えめねあ・ごあどー)を連れ去られた坂下 鹿次郎(さかのした・しかじろう)姉ヶ崎 雪(あねがさき・ゆき)はそれぞれに決意を固めた。
 
 地割れの底に引き込まれた飛空艇の中は大混乱を極めている。
 その中で、エメネアからの連絡を受けた者たちが、次々に飛空挺から脱出すると、エメネアが連れ去られた洞窟の入口を睨む。
「はじめから目的はエメネアだったわけか」
 レン・オズワルド(れん・おずわるど)が、電話の内容から静かに分析する。
「彼女の連絡でコアと言っていたな……。古王国時代の遺物には「剣の花嫁」や「光条兵器」を動力にしているものが多いからな。おそらく今回の件も無尽蔵とまで言われている十二星華の力を見越してのことなんだろう。だとすると今回の件は偶発的なものではなく計画的なもの。何か大きな組織が噛んでいるのかもしれない。気を引き締めていくぞ」
「ああ」
 ザミエル・カスパール(さみえる・かすぱーる)が表情を変えぬまま返した。
「救助が来たね。あとは任せて、エメネアのところに行こう」
 地割れに引き込まれる際に、飛空艇は大きな衝撃により部分部分でひどく損傷を受けていた。
 崩れる可能性のある場所から、安全な場所へと乗客の誘導を行っていたルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、駆け付けた救助隊のメンバーに一通りの情報の引継ぎを行うと、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)を振り返る。
 引継ぎの際に洞窟の情報についても確認したが、どうやら今回の事件で初めて見つかった洞窟のようだった。
「実際に飛び込んでみるしかないわけだな」
 ダリルの言葉に頷くと、獅子の光翼を広げ、相乗りで洞窟へと向かう。
 他の面々も次々に洞窟の入り口を目指した。

「いたた……」
「おい、大丈夫か!?」
 飛空挺から振り落とされた天禰 薫(あまね・かおる)に、うまいこと着地をしてのけた後藤 又兵衛(ごとう・またべえ)が心配そうに声をかける。
「大丈夫なのだ」
「突然落ちたからな」
「しかもなんだか長かったのだ。 いたたたたた……」
 背中をさすりながら答える薫の背後を指差し、又兵衛が叫んだ。
「おい、天禰!!」
「っとと、エメネアさんが連れ去られちゃったのだ! 大変なのだ、助けなくちゃなのだ!」
 洞窟の入り口付近に落下した二人の横を、エメネアを抱えた天使たちが飛び去っていく。
 驚いて洞窟の奥を見つめる二人から少し離れた地点では、瀬乃 和深(せの・かずみ)がきょろきょろと周囲を見回していた。
「えっと、何がどうなってんだ?」
「光の触手によって墜落しました。あと、その前に窓から羽根の生えた人が現れて、だれか連れ去っていきました。まあ、今あちらを通過しましたが」
 爆睡中の状態で飛空艇が底に落ちた衝撃により窓から洞窟に放り出された和深。
 洞窟付近に落下した和深を助けるべく、窓から飛び出した上守 流(かみもり・ながれ)は見たままを説明した。
「えーっと……とりあえず、すごい洞窟だな!」
「そうですね」
「お宝とか眠ってそうだし。奥まで行ってみようぜ!」
「はい」

 それぞれの方法で洞窟へとたどり着いた一同は、真っ暗で数メートル先も見えない様子を見つつも、エメネアのためにまずはとにかく進もうと話をまとめた。
「つくづく彼女も攫われ属性だねぇ……僕も奥を目指す人達と一緒に進むよ」
「ふむ…そういえば、エメネアの今の姿はどんなものなのだ?」
 黒崎 天音(くろさき・あまね)の言葉に頷きながら、ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)がふとした疑問を口にした。
(今行くからね。あ、周りどんな感じ?)
 それを聞いたルカルカがエメネアにテレパシーを送る。
「洞窟の奥、床が一面装置みたいになってて光ってるみたいだね。その中央で拘束されてるって」
 苦々しげに情報を伝えると、光源と攻撃補助のために指輪の精霊を飛ばした。
 一歩中に入ると、突然凄まじい音が響いた。
 皆がとっさに壁側に避けると、地面に銃撃の痕のような穴がいくつも空く。
 暗がりをよくよく見ると、天使のような姿をした異形のものたちがこちらに向かってくるのが分かった。
「これは……」
 攻撃を加えてくる天使たちの嘆きに共鳴した五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)は辛そうに目を伏せる。
「東雲……」
 そんな姿を見たリキュカリア・ルノ(りきゅかりあ・るの)は東雲に寄り添うように立つ。
「この人達、元は私と同じ守護天使……その人達の願いが、嘆きが私に教えてくれました。でも、私、殺せませんよ……それしか方法なくても無理ですよ」
「こいつら全員守護天使だった、だと……」
 悲しそうに首を振る結崎 綾耶(ゆうざき・あや)の言葉に、匿名 某(とくな・なにがし)は驚いたように天使を見つめた。
 天使たちが、まるで案内するかのように再び洞窟の奥へと消えてゆく。
 思わず俯き黙り込んでしまった一同の中で、クナイ・アヤシ(くない・あやし)が声を上げた。
「元守護天使が相手ですか。複雑な気持ちですね。声を聴くに、彼等は死ぬことでしか解放されないようです。同じ守護天使として、解放してあげたいです。それに彼等を倒す事で、洞窟の奥に居る元凶に辿り着けるのですから、ここは進むしかないですね。望みを叶える為にも」
「そうだね。とにかく、行こうか」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)が一同を促す。パートナーのクナイが同じように利用されたら、と考えると、決して許すことなどできない。
「まさかこんなことになるなんて思いもしなかったけれど、エメネアさんを放ってはおけないし。どのみち天使とやらを倒さない事には脱出なんておぼつかないわね」
「そうですわね。わたくしたちも参りましょう」
 綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)の言葉に頷きながら、アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)はなんとしてでもさゆみを護ろうと、さゆみと自分とに死角ができない体制を取る。
 洞窟の奥からは、天使たちのものと思われる声ともつかない叫びが響いてくる。
「全く……こうも五月蝿いとまるで夜泣きじゃな。自分ではどうする事も出来ぬ赤子が、親に助けを乞う為に発する声……ふむ、あながち外れてもおらぬな。良いじゃろう、親など知らぬ身じゃが、手厚く寝かし付けてやるとしよう」
「夜泣きですか……まぁ、確かにそれに近いものがありますね。本当はもう眠りたいのに、どうしても眠れない。どうしようもなくなって……どうすることも出来なくて、癇癪を起こしたように騒いでは周りにあたる。そう思うと、天使も可愛いものですね」
 迷わず奥へと進んでいくシュリュズベリィ著 『手記』(しゅりゅずべりぃちょ・しゅき)の後をラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)はやれやれといった風でついていく。
「おい、携帯電話の操作が得意な奴に俺がエメネアがいる位置を割り出す作業を早く終わらせる為の手伝いをしてもらえねぇか確認できるか。天使共が何処から襲ってくるか分からない状態でちんたら作業なんてしてらんねぇからな」
「すみません、携帯電話の操作が得意な方がいらっしゃいましたら、エメネアさんが連れて行かれた場所を探すお手伝いをしていただけませんか? GPS情報を取得して、おおよその位置を割り出せないかと思うのですが」
 笹野 朔夜(ささの・さくや)難波 朔夜(なんば・さくや)からの指示を伝えると、何人かが協力を申し出た。
 皆それぞれの方法で周囲に気を配りつつ、効率良くエメネアの居場所が分かる方法を探りながら奥へと進んでいく。
 天使たちの悲鳴にも似た絶叫が聞こえるたびに、心を痛めながら。

 そんな彼らのはるか先では、すでに洞窟の奥へと進んでいたゼブル・ナウレィージ(ぜぶる・なうれぃーじ)が興奮気味に天使を探し回っていた。
「天使達の嘆きは脳にガンガン響いてますよぉ……その叫びに、涙がっ止まらない! 涙腺・崩壊! 醜き姿を晒し、他者に解放を願うその姿! そんな境遇に同情! なんと悲しき運命! だぁぁが! とぉぉっくの昔に役割を既に終了しているガァァラクタに変わりなし! 故に、醜い欠陥ボディを、再利用させてもらいましょう! ただ死ぬだけよりも、後の世のために貢献できたほうが、彼らにとっても幸福というものでしょう!」