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リアクション
第2章 アイデア術を考えてみようStory1
「さて…前回の授業は上手く行ったが…今回はどうでしょうねぇ?」
チームを組んで術を考えるといっても、どのようなものがよいか分からず、ガイ・アントゥルース(がい・あんとぅるーす)は腕組をしながら考え込む。
「次はアイデア術か…中々難しいな…」
術を考えるにしても力加減が大変そうだと、ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)はスペルブックを見つめながら悩む。
「強い魔性に対抗する強力な術っていうのはどうだ?俺たちが扱える力はまだ小さいだろうが、集めれば強くなるだろ?」
「パラミタ式の祓魔術とは…。地上のエクソシストの手段や、普段パラミタで使っているスキルなどでは対処出来ない魔性を祓ったりする術ですよね?悪さをやめさせるために説得するにしても、ラルクが言うようにそのような術も必要でしょうね」
「強力なヤツを祓うのが難しくっても、動きを止めたり…じわじわと追い詰めたりするとかなら、いけそうじゃないか?」
「ほほう。それはよいアイデアかもしれませんね、ラルク。滅されると誤解されては困りますから」
徐々にダメージを与えるなら、相手をあまり傷つけることもなそうだと頷く。
「威力とかは、他の魔道具と合わせるしかないけどな」
「うーむ…。協力してくれる方がいればよいのですけどね」
「俺のイメージとしては、集めた力を広げて波動にする感じなんだよな。章はコレっていうのは決めてるんだが、問題は他の魔道具だ。なんでもいいってわけにもいかないからな…」
話し合うだけでは試すことも完成させることも出来ないが、適当に声をかけるわけにもいかない。
「ホーリーソウルはどうだろう?同じ光輝属性の術だしな」
「いやいや、波動のようなものを考えるなら、使い魔の力も捨てがたいですよ」
哀切の章以外に、どのような魔道具が2人で意見を出し合う。
彼らがいる位置から、数メートルしか離れていない場所でエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)も、使い魔と他の魔道具の力を、どう組み合わせようか考えている。
「私とノーンのクローリスと宝石のホーリーソウル、哀切の章のパワーを集約した術なんてどうですの?」
「ん、どういう感じの術なの?」
ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)は興味津々に目を輝かせて聞く。
「それぞれの力を合わせ、威力を増した術…ということは分かりますわね?」
「うん、なんとなく!」
「章と宝石の力をクローリスに与えてもらい、たくさんの花が咲き、舞飛ぶ花びらでダメージを与えるんですのよ」
「光輝系の術ってことだよね?」
「そうなりますわね」
「花びらが、ぱぁあ〜っと飛んじゃうとこ見てみたいっ」
きっとキレイなんだろうね、と術が成功した時の様子を想像してみる。
「術名は花嵐で決まりですわね!」
「おにーちゃん…、今頃どうしてるかな?最近、忙しいみたいだし…」
御神楽 陽太(みかぐら・ようた)に授業を受けにきていることは伝えているが、ちゃんとご飯を食べているのか、きちんと睡眠をとっているか…などと気になったノーンが呟く。
「その辺は妻が管理しているのでしょう。毎朝、陽太にお弁当を持たせていますわ」
彼は愛妻弁当を食べて頑張っているはず、とエリシアが言う。
「そっか!じゃあ心配ないね」
労をねぎらう存在が傍にいるならきっと大丈夫!と思い、にんまりと微笑む。
「私たちが今やらなければならないのは、この授業でアイデア術を完成させることですのよ、ノーン。さぁ、哀切の章とホーリーソウルを使える者たちを探しに行きますわよ!」
一刻も早く呼び集めなければ、術を試すことすら出来ない。
椅子代わりにしている石の上から立ち上がり、拳をぎゅっと握り締める。
「まずは哀切の章を扱える者から見つけますわっ」
「おや、その章なら俺たちのスペルブックに記されていますよ?」
気合マックスのエリシアの声を聞き、彼女たちの方へガイが振り返る。
「ねぇねぇ、わたしたちとチーム組もうよ」
エリシアの後ろからノーンがひょっこりと顔を出す。
「そちらの魔道具は何ですか?」
「ニュンフェグラールだよ。わたしもおねーちゃんも、花の使い魔を呼べるよ!」
「ふむ…。さきほどラルクが提案してくれた集めた力を広げる役割とかによさそうですね。ラルク、どうしますか?」
「俺のイメージと合いそうだな。てことは、最低でも後1人は必要か」
術を試すには5人くらいの力がいるため、人数が足りないと威力不足になってしまう。
「宝石か哀切の章が使えるやつがいいんだけどな…」
「ところでそちらもアイデア術と、私たちの考えたものは同じようなものですの?」
「さっきガイが言ったことの続きを話すか…。魔性の抵抗力が俺らの力よりも上だったり、敵が複数いたりすることもあるだろ。そいつらの動きを止めたりとか、追い詰めたりとかな…」
「ふむふむ、なるほどですね…。2組の考えが似ているからこそ、組んだというわけなのですか」
チームを組んでくれそうな者を探しているテスタメントが、木陰で頷きながら4人を観察している。
「―…何でそんなところにいるんだ?」
彼女の視線には気づいていたものの、見学者か魔性が見ているのだろうと思い、あえて声をかけなかった。
「話の腰を折るわけにはいきませんからね。いつ話しかけようかと、考えていたのですよ」
「私たちも混ぜて!」
アイデア術に自分たちも参加しようと、美羽とベアトリーチェが駆け寄る。
「おう、いいぜ」
「ありがとう!」
美羽たちが加わったことで、術者の人数は7人となった。
「術のネーミングは考えているのですか?」
無名なままというわけじゃないだろうと、テスタメントが聞く。
「確かに、術名が必要ですわね…。ここは花嵐で決まりですわ!」
「ホーリー・エクソシズムっていうのはどうだ?」
ほぼ同時に提案してしまい、ほんの一瞬…彼らの思考が停止する。
「この術には、花嵐の名のほうが似合いますわよっ」
「いや…ホーリー・エクソシズムだろ」
「いいえ、花嵐っ」
「うーんやっぱホーリー・エクソシズムじゃないか?」
互いに一歩も譲らす、名前を決めるべく…花嵐!ホーリー・エクソシズム!と叫び合う。
「―…負けませんわよっ」
「おねーちゃん…。こっちの考えたものだと魔道具が足りないし、譲ったほうがいいよ?」
「うっ、…仕方ありませんわね」
「んじゃ、こうしないか?術名をホーリー・エクソシズムとして、和名を花嵐とかどうだ?」
「ラルク、日本語に訳してもそういう意味にはなりませんよ」
「分かってるって。向こうのを一方的に却下するのは可哀想だろ…」
和名にした理由を、エリシアたちに聞こえないように、小声でガイに言う。
「ぁー…そういうことですか」
彼なりの気遣いだと分かり、小さく頷いて納得する。
「そこのやつは参加するのか?」
「わたくしが使える魔道具はペンダントと宝石よ。だから無理ね」
いつの間にかテスタメントについてきている真宵はかぶりを振り、食べ残しているメロンパンを食べきる。
「真宵の分も頑張りますから安心してください!」
2種類の章が記されたスペルブックをラルクに見せる。
「んじゃ裁きの章を唱えてもらうのは、テスタメントとガイだな」
2人分の効力があれば、これならいけるかもな、と考える。
「ノーン、クローリスを呼び出しますわよ」
「うん、おねーちゃん」
「使い魔の召喚するのか?」
前回はわけあって教室に戻って来れなかった紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は、魔道具を使う様子を見学させてもらおうと、エリシアたちに声をかける。
「えぇ、そうですわ。器を扱えても、幻獣の主のスキルがないと呼べませんの。一般的な使い魔ではないから、相応の能力がいるのでしょう」
相手は魔性なのだからやはり、相応のスキルを習得していないと扱うのが無理なのだろうと、エリシアが説明する。
「クローリスを呼び出すのですねぇ。フィーアは、使い魔にキョーミシンシンなのですぅ」
「花の魔性か、俺たちも見ておくか?」
「はいっ、見たいですぅ」
「呼び出した後にアイデア術を試すようだから、少し離れておこうな」
「ぇー…」
「召喚を終える間でしたらいいですわよ」
「わーい、うれしいですぅ。ツバメちゃんもこっちに来て一緒に見るですぅ」
術の邪魔にならないように、離れて見学しようとする新風 燕馬(にいかぜ・えんま)を手招きする。
「召喚するまでの間だけだよ」
「分かってますよぉ」
「まず、聖杯を掲げて祈りを捧げるんですの。すると…祈りに応じてくれた魔性の涙が、この中に落ちますわ。私の1滴と涙を混ぜて、花のイメージの魔方陣を描いたところへ落とすと、その陣の中心から魔性が現れますわ。今から私がやることを、しっかりと見ているんですのよ」
「はぁい」
「描く場所は紙や地面でもよいのですけど…。地面の場合は、なるべく平なところを選ぶといいですわね」
エリシアは小枝を拾い、平らな土に魔方陣を描く。
「(さて…習った通りにやれば、基本的に召喚の失敗はないはずですわ…)」
ふぅ…っと深呼吸をし、気分を落ち着かせる。
木の聖杯を掲げて祈りを捧げ、虚空から零れ落ちる魔性の涙をそれで受けとめる。
自分の血、1滴分と混ぜて魔方陣に落とす。
その中心から植物の茎が伸び、先端に赤い色の花のつぼみが現れ、それは徐々に人のような姿へ変わっていく。
つぼみと同じ色のフリージアのように裾が開いた、鮮やかな赤色のドレスを身に纏っている。
細身の身体で、女性の姿をした花の魔性の外見年齢は、20前後という感じだ。
ノーンも彼女の手順を見ながら、クローリスを呼び出した。
彼女が呼び出した使い魔は、淡く清楚な白色ドレスを纏い、薄青色の髪の15歳くらいの姿の少女。
「あなたが私の主…、ノーンですね」
「うん、そうだよ!」
「よろしく…」
元気なノーンとは違い、物静な口調で話す少女は、花で例えるなら桔梗のような雰囲気だ。
「わぁー、こっちの使い魔はとってもキレイな感じですぅ。でもそっちは、大人しい子ですねぇ?」
「なぁ。使い魔の同じタイプでも、雰囲気は異なるってことなのか?」
「えぇ、そのようですわ」
「―…へぇー。いろんな性格のやつがいるんだろうなぁ」
「基本的に、この聖杯で呼び出す使い魔は、主に従順に従ってくれますわ。ただし、術者が悪事を働くようなことを手伝ったりすることなどは、拒否されるようですわ」
呼び出せないパターンも教えておこうと、燕馬たちにエリシアが説明する。
「よい子に悪いことさせてはいけないのですよぉ」
「世の中には、とんでもないことをしでかすヤツらがいるからな。使い魔に限らず、そういうヤツは魔道具を使えないのか?」
ほとんど何も知識を得られないまま、1時間目の授業中に教室からいなくなった唯斗はエリシアに聞く、
「他の授業のことは知りませんわ」
「よくないことに使おうとすると、スペルブックや章もそうよ。ひょっとしたら、通常のスキルよりも弱まるかもね」
かぶりを振るエリシアの代わりに、美羽が唯斗に教える。
「ただ倒したいとか…不の感情のような精神も、影響するみたいよ」
「通常のスキルじゃ、対処しきれないやつがいるからっていうのもあるが。なるべく滅さないようにって作られたものだからな」
これも扱う時に大切なことだと、ラルクは美羽の言葉につなげるように言う。
「ペンダントも同じようなもんじゃないか?」
「ほぅ、なるほどな」
「基礎的なことは授業で覚えたし、今日はアイデア術を成功させるために来たんだからな。そろそろ始めるか」
「俺たちも離れて見ような」
場内にいる魔性に協力してもらうなら、離れて見たほうがいいだろうと、燕馬は林の方へ顔を向ける。
「ツバメちゃん、面白い形したものがいっぱい歩いてしますぅ」
「湯沸かし器に憑いているのか」
適当な家庭用品を器にしている魔性を見下ろしてため息をつく。
唯斗の方はというと…。
「今回は見学だからな。これだけ距離があれば大丈夫だろう」
ラルクたちからすでに数メートル離れた草むらにいる。
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