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早苗月のエメラルド

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早苗月のエメラルド
早苗月のエメラルド 早苗月のエメラルド

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The Castle of Sand-2


 皆が船の前から解散した時、匿名 某は張り切って作業を始めていた。
 そう、白花達が言っていたあの”塩づくり”をしていたのである。
「よーし俺が本場の男の塩の作り方を見せてやる!」
 張り切って言う某に、暇を持て余してそれを見学していたもの達は「おおおお」と反応してくれた。
「缶詰何でもいいって言ってたけど……これでいいかな?」
 パートナーの康之が放った缶詰を「おー、さんきゅーな」と受け取ると、某は蓋部分をぺろっとはがした。
「では、まずこの缶詰を」
「缶詰を?」
「……

 食う!」
 言うが早いか、某は缶詰の中身を逆さにして飲むようにかっ込む。
「……まさかの展開」
 若干引いているギャラリーを気にせずに、某は海へ入ると、空になった缶詰に水をくみ上げた。
「その中に海水を入れまーす。
 そして……」
 掌から火術で出すと、缶詰を温め始めた。
「それでどうするんだ?」
「ある程度まで足したら海水が白く濁る迄につめて、一旦薄い布で濾過するだろ。
 それを更ににて、シャーベット状のものが出来たら再び濾過。
 最後に濾過した物体を熱したら……塩の完成だ!」
 暫しの沈黙の後口を開いたのは、ルファン・グルーガとウォーレン・シュトロン(うぉーれん・しゅとろん)とギャラリーをしていた
イリア・ヘラーである。
「ねーねー塩の達人さん」
「あぃ?」
「それってすごーーく、時間かかる?」
「……まあ、それなりに」
「そか、じゃあ頑張ってね!
 ダーリン行こっ」
「森の中探検でもすっかー」
 歩き出したウォーレンと、自分の腕を引くイリアに、ルファンは某に丁寧にお辞儀をして去って行く。
「お、おう」
「妬みの対象が居なくなったからもう行くわ、ほな」
 瀬山 裕輝も行ってしまった。
「お、おう?」
「じゃあ頑張って下さいね」
「後でそのお塩料理に使わせてね」
 白花と月夜も何処かへ去って行く。
「おう」 
 此処へ来ての最大の誤算は、康之までもが「後でな」と去って行ってしまった事だ。
「…………作るか」
 某は一人座り込むと、用意していた簡易の缶詰温め具で塩を作り始めた。
 黙々と。
 黙々と。
 黙々と、ただ一人で。
 なんて言うか傍目からも寂しい。
「こうなったらあり得ないくらい塩作ってやる。
 皆で塩パーティー出来るぐらい作ってやる!!!」


「と、言う訳で出来たのがこれだ!」
 こんもりとした、山盛りの塩を前に腰に手をあててエヘンと鼻を鳴らす某に、皆は何と言ったらいいものかという顔で塩を見つめていた。
「これだ! って何よこれ。
 ちょっとした丘作ってどうすんのよ。バカ? バカなの?」
 怒涛の如く突っ込みを入れた雅羅の後ろで、ウォーレンは塩を一つまみし、考えた。
「料理以外なんかに使えないのこれ」
「持って帰って塩サウナにでもするってどうかな、ダーリン」
 呑気な事を言うパートナーの二人に、ルファンは笑う事しか出来なかった。





 で、その後。
 塩は有効活用され――勿論山の頂上を崩した程度で余りまくったが――、トゥマスによって捌かれた肉に振り掛けられた。
「康之、言われた通り塩ふりかけといたぜ。そっちはどうだ?」
 某が歩いて行った先に、康之が土台を組んでいる。
「っしゃ出来た!」
 完成したのは先程裕樹らが起こした火を利用した装置だ。
「某、ここに肉のっけて」
「こうか?」
「そうそう、そんでこれをね、まわす。と。」
 康之は言いながら、取っ手らしきものを握りぐるぐると回し始めた。
 その動きに合わせて炎の上にある肉が炙られる。
「おーまんべんなく焼ける訳ね」
「そーいう事」
 こうして康之は肉を炙り続け……

 ちゃららんちゃららんちゃららんちゃららん ちゃっちゃっちゃらちゃん♪

 『じょうずにやけましたー!』

「出来たー! 焼けたー!!」
「えっ、今の声何!? 何処から聞こえてきたんだ!?」
 動揺する某だが、康之は焼き上がったばかりの肉を思い切り振り上げてやりきった顔をしていた。
「さあ皆の所に持ってくか!
 じゃんじゃん食って明日に備えて英気を養ってくれよな!!」
 康之が肉を大きな葉にのせて運ぶのを遠くから見ていたミア・マハは、レキ・フォートアウフに向かって小声で話し掛ける。
「あれは……さっきの目玉イノシシの……」
「しっ! ミア、こういう時は黙っておいた方がいいんだよ。きっと。」
 夕食の間レキとミアは、どんなに薦められてもこの肉には一切手を付けなかったという……。