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早苗月のエメラルド

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早苗月のエメラルド
早苗月のエメラルド 早苗月のエメラルド

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One Fine day


 ある日の午後。
 授業を終えた加夜が中庭に出ると、そこへ少し疲れた顔の雅羅がやってきた。
 蒼空学園近くの病院で未だに眠り続けているというジゼルの容態を見てきた雅羅に、加夜は急かす様に状況を聞く。
「んーよく分からない」
「え?」
「時間無くてジゼル自身には会えなかったし、難しいのよ。お医者さん? 研究者? ってたまーに専門用語ぼろぼろ出てきて……」
 苦笑する加夜。雅羅は頭の中で整理を終えたのか改めて話しだした。
「要するに――地上で、人の姿で人の生活を送るうちに、身体の異常を克服するだけの力を身につけつつある。って
 今の状況では根本解決には至らないかもしれないけど、このまま経過を見ましょう、だそうです」
 加夜はそこまで聞いてぱっと顔を明るくする。雅羅は続けた。
「ちょっと難しい方の話はね、えーっと……
 遺伝子異常を起こした原因は、様々な生物を無理に掛け合わせた結果。
 セイレーンを作った時、ベースにしたのは人間の女性。だから、海で生きる事は無理だった。
 ジゼルが今意識を失ったままなのは、三ヶ月もこちらに居て身体が慣れていった所で、
 久しぶりにセイレーンの姿に戻ったからだって言われたわ」
「それって海での生活を捨てて、地上を選べば良いという事でしょうか」
「それを選択するのはジゼルよ。
 でも私は、あの船での戦いの時にジゼルが私達と生きる事を選んでくれたって思ってる」

「あれー、雅羅。
 雅羅も一緒に行くの?」
 理沙が雅羅達の座るベンチに向かってくる。
 どうやら授業を全て終えた所らしく、手には鞄をぶら下げていた。
「え、理沙……加夜とどこか行くの?」
「ジゼルちゃんのお見舞いです、授業が終わったら皆で行きましょうってお話ししてたんです」
「そろそろ皆来る頃でしょ。
 雅羅はいつも見にいってたみたいだから誘わなくていいかと思った」
「えーーーーー何それ、私も行くわよ」
「とんぼ返りですね」
 加夜はそう言って微笑んだ。




 病院に辿り着いて、雅羅達蒼空学園の生徒を待ち構えていたのは驚愕の事実だった。
 何故か病院の入り口に集まっていた鯨退治の仲間に、雅羅が話し掛けて帰ってきた言葉。
「何ってジゼルの退院祝いに決まってるじゃない」と、ルカルカ。
「結構盛大にやったのよ」と、月夜。
「我ながら。ん?我々ながら?素敵なお祝いになりました!」と、姫星。
「ボクはお祝いのお花を渡したですよぉ」と、ヴァーナー。
「可憐な花があの服に映えていたな」と、エース。
「お菓子も喜んでもらえたようでよかったです」と、大地。
「だいぶ悩みましたが、あれを選んで正解でしたね」と、フレンディス。
「女の子にあのお菓子はやっぱり鉄板だよね」と、陽。
「なのに肝心のあんた達がこないんだもん」と、ローザマリア。
「そうそう、キミ達は真っ先にくると思ってたのに」と、レキ。

「ちょっとそれどういうこと……」
 と慌てる雅羅に、

「どういうって……」と、永夜が言うと、鉄心も顔を見合わせ頷く。
「ジゼルなら蒼空学園に行ったぞ」裕樹の声に雅羅達は声を合わせて「え、ええええ?」と叫んだ。
「結構前だよ?15分くらいかな」東雲が院内の時計を見て言う。
「わ、私たち、もう帰るところでした。瀬山さんはもう先にお帰りになられて……」リースが付け足す。
「カガチ君と美羽君が迎えにきていたが」リカインは首を捻る。
「だからてっきりあっちで待ってるのかって思ってたんだぜ?」武尊は蒼空学園の面子を見た。
「な、なによそれ……」
「あらーこれは……」ターラの言葉に続いて、夢悠は最も言ってはならない言葉を言った。

「もしかして皆、知らなかったの?」

「だめよそんな事いっちゃ。可哀想だわ」留めを刺したのは祥子の笑う声だ。
「はああああ?」
「ってことは学園に向かったってことでしょうか?」
「何でもいいけど走るわよ!」
 こうして雅羅は本日二度目のとんぼ返りをすることになった。





 雅羅らが学園の中庭を駆けている中、七ツ音が吹くクラリネットの軽快な音が流れている。
 大吾は猛ダッシュしている彼女達に驚いて、苦笑した。

「三月ちゃん、これってどういう事?」
「僕等ハメられたんだよ。からかわれてるの」
「会長か副会長か……校長の可能性もあるわね」
 雅羅は走りながら知り合いを見つけると、片っぱしから三人の行き先を聞いている。
 しかしヴァイスには「うーん? どうだったかな」とはぐらかされるし、ユピリアは妄想し続けて話自体聞いて無いし――いつもです――貴仁と切札には笑われるしと誰も答えをくれない。
 縁に至っては「どうしよっかなー……苺サンド奢ってくれるなら考えてもいいなー」と言う始末だ。
 校内の隅から隅まで走り回らされて、最終的に見つけたイリアだけがまともに答えてくれた。
「ジゼルんと会長と副会長?
 ちょっと前に校長室に行ったみたいよ」


 こうして皆肩でぜいぜいと息をしながら、校長室の前へ辿り着いた。
「失礼します!!」
 やけくそのような声を上げる雅羅に続いて、皆が部屋へ入る。
 校長室の机の前に、カガチと美羽が立っていた。
「あらま、やっときたわ」
「遅かったじゃない」
 二人が笑いながら左右に道を開いた。

 彼等の後ろから、真新しい蒼空学園の制服に身を包んだ少女が現れる。
 頬を上気させ、プラチナブロンドの髪を揺らして、
 藍緑色の目が微笑んだ。


「皆、ただいま!」

担当マスターより

▼担当マスター

東安曇

▼マスターコメント

 はい、終わりました。
 読んで下さって有難うございます。
 参加して下さった皆様につきましては、アクションが掛け辛い構成だったかと思いますが、とても素敵なアクションを有難うございました。
 そして三本も長々とお付き合い頂きました皆様、本当に有難うございます。
 ちょこちょこご質問をいただいているジゼルさんの今後の進退については、後日マスターページにてお知らせさせて頂ければと思います。
 ではまた次のシナリオでお会い出来ると嬉しいです。