校長室
早苗月のエメラルド
リアクション公開中!
For Your Eyes Only-2 「ごめんね、なまこさんは無かったの」 「そ、それはいらないですわ」 チェルシーはセリーナから魚を受け取ると、美麗の元へ持っていく。 「まぁ!これなら完璧な朝食になりますわね! 折角だからあちらで白花様に仕込んで頂いているスープに使いましょう。 匿名様、まだお塩はありますかしら?」 「あるよあるよー、売る程一杯ある」 「売るほどは要りませんわ」 「君、言うね……」 二人は料理をする白花達の所へ魚と塩を運んでいる。 彼女の隣では、リアトリス・ブルーウォーターとユウキ親子で楽しく料理を手伝っていた。 微笑ましい朝の光景に、さゆみとアデリーヌが寝不足の目を擦りながら入ってくる。 イリア・ヘラーがそれに気付いていた。 「さゆみん達眠そう。ちゃんと眠れなかったの?」 「そ、そんなことないわよ!ねえアデリーヌ」 「そ、そうですわねふふふおほほほ」 「あーあ、いいなーさゆみん達は仲良さそうで ね、ダーリン」 当てつけの様に向けられた視線に、ルファンは動揺している。 「そ、そうじゃな?」 「……イリアつまんない」 「……は?」 「だってイリアもダーリンと一緒に戦いたいんだもん! なのに待ってなきゃだめだなんて……つまんない!!」 弱り切っていたルファンを助けたのはジゼルだった。 「大丈夫よイリア、ルファン達の事は私がちゃんと歌で護るから ね、それより……」 ジゼルは小声でイリアに冗談っぽく言う。 「昨日はだーりんと海で遊んだり出来た?」 「ところがなぁ……俺が邪魔者だったんだよね。 おまけに俺、浮輪がねぇと泳げねぇんだわ」 頭をかくウォーレンに、ジゼルとイリア達は笑いだす。 明るく笑っているジゼルを遠くから見ていた火村 加夜は、昨晩の事を思い出していた。 ジゼルが彼女の元を去った後、二人の様子を見ていた雅羅が加夜の元へきていたのだ。 * 「雅羅ちゃん、教えてください。ジゼルちゃんは何を隠しているの? どうしてああまでして」 「生き急ぐ。みたいな事……?」 加夜もうすうす感じていたその指摘に、答えを聞こうと加夜はゆっくりと頷く。 「……私から話すのがいい事なのか分からないの。 でも、ジゼルは絶対に自分から言わないと思うから……。 加夜はセイレーンが短命だった事はもう知っているわよね」 そう前置きして、雅羅は話したから。感情を入れれば、苦しくなって言えなくなってしまうだろうから淡々と。 「あの城で、ヴァイスや裕樹が見つけた奴等の手記に書かれていた情報を組み合わせて分かった事なんだけど…… 元々セイレーンは複数の女性を元に作られた、クローンに近い存在だったの。 人間、ヴァルキリー、獣人、数限りない遺伝子と遺伝子の掛け合わせ。 その結果出来あがったのが5人のセイレーンだった。 ジゼルが姉と呼んでいた人達も、きっと本当の所は5人のうちの一人を元に……同じ遺伝子で作られた、という事でしょう。 けれどかつてのクローン技術が命の劣化コピーであったように、セイレーンもまたテロメアに異常を抱えていた。 セイレーン達が過度のストレス状態に陥る事で起こる、テロメアの異常収縮現象。 身体の内部機能はその急激な変化に耐えられずに、最終的に死に至ってしまう」 「そんな短命種であったなら何か対策は……」 「問題は無かったのよ、少なくとも”制作者達”にとっては。 水妖はファム・ファタール。 その美貌で人を騙し、海に引きずり込む為作られた存在には、衰えた肉体等必要無い」 雅羅の話に、加夜はかつて巻き込まれた事件で聞いた話しを思い出した。 ジゼルはセイレーンの成功体である、と。 「でもジゼルちゃんは成功体のはずじゃ――」 「言ってしまえば突然変異体よ。 アクアマリンを映したような藍緑色の瞳を持つ固体……”パルテノペー”と呼ばれていたそうよ。 けれどそれは偶然出来あがったものにすぎない。 テロメアの異常収縮現象を自体を無くす事は出来ず、抑えることしか出来なかった」 「抑える……ですか?」 「過度のストレス状態に陥った時、肉体を仮死状態にしてしまうの。 つまりコンピューターの電源を強制的に切ってしまうのと同じね。 後から機動させればその時は問題無く動かせるかもしれない。 けれど繰り返すうちにマシンに強い負担を掛けるように、肉体もまた同じく……」 加夜は息を飲んだ。 「じゃあ、ジゼルちゃんは……」 「私と出会ってから少なくとも三回、今日船で見つけた時に一回。 何度が限度なのかは分からない、でも――決して一度も無かった訳じゃない……」 暫く黙ったままだった二人だが、雅羅はもう一度重い口を開いた。 「あと一つ……教えておきたい事があるの……」