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亡き城主のための叙事詩 後編

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亡き城主のための叙事詩 後編

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 十九章 エピローグ

 刻命城の事件が終わり、数ヵ月後。
 蒼空劇場で一つの劇が行われようとしていた。
 その劇の名前は『亡き城主のための叙事詩』。刻命城の顛末を題材として、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が書き上げたお話だ。
 開演時間も迫り、その劇を見ようと、多くの観客が長蛇の列を成して蒼空劇場に集まる。そのなかの一人に和輝とアニスがいた。

「ねぇねぇ、和輝。あの本来の『刻命城の歴史記録』っていう出来上がったやつ、公開するの?」

 順番待ちがつまらないのだろうか、アニスが和輝に問いかけた。

「さぁ? 依頼主の山葉涼司に完成品の模写を渡してあるから、彼に聞いてくれ」
「……ぶー、教えてくれたっていいじゃない」

 子供のようにばたばたと両腕を動かして抗議するアニスを見て、和輝が苦笑いを浮かべる。
 しばらくするとアニスは疲れたのだろうか、手を動かすのを止めて頬を膨らましながら和輝に声をかけた。

「もう、いいよーだ。……そういえば、和輝。招待状持ってきてる? 忘れてない?」
「ん? ああ」

 和輝はポケットに手を入れて、一枚の招待状を取り出した。
 
「しかし、フェルマータも随分と粋なことをしてくれる」

 和輝は目を細め微笑を浮かべながら、取り出した招待状を見つめた。
 そのなかには今日の劇のチケットが封入されている。リカインがあの刻命城の事件に参加した者全てに送ったらしい。
 まるであの愚者のようだな、と和輝は小さく笑う。

「……まあ、今回は役者ではなく、観客としてだけどな」

 そう和輝が呟くと同時に長蛇の列が動き出した。
 どうやら入場が始まったらしい。和輝は前の観客についていきながら、これから起こる劇に思いを馳せて胸を躍らせた。

 ――――――――――

 幕が上がり、劇が始まる。
 真っ黒に塗りつぶされた仮面を被り、闇に溶け込むかのような黒いローブに身を包むのはリカインだ。
 
「ある男のお話を致しましょう――」

 その言葉と共に舞台の中央に立つリカインは、愚者を迫真の演技で演じ始めた。
 ただ一人舞台に現れ導入を文字通り芝居がかって伝えるストーリーテラー……かと思いきや、そのまま物語の中にも現れる謎の人物、『愚者』。
 端役なのか主役なのかも分からない彼を中心に、亡き城主のための叙事詩は進んでいく。

 ある者は激しい戦闘を行い。
 ある者は愚者の謎を解明するために動き。
 そして、ある者は愚者に代わり傍観者であり続ける。

 そして劇もエピローグに差し掛かったころ、舞台の上で立っているのは愚者一人になっていた。
 同時に劇場の照明がぱっと消え、舞台の上の愚者のみがスポットライトに照らされる。愚者はよく響く透明な声で呟いた。

「死した者に何としても会いたいというその想い、誰にどうして止めることが出来ましょう。……しかし、くれぐれもお忘れなきよう」

 愚者は劇場の観客に向けて丁寧にお辞儀をして、言葉を紡いでいく。

「――たとえいかなる犠牲を払い死者を蘇らせられたとて、向こうもそれを望んでいるとは限らぬことを。
 一度経験した喪失の記憶が消えるわけではないことを。そして何より生きている限りいずれまたその別れがやってくるのだということを――」

 愚者がそう言い終えるやいな、スポットライトの光も消え、劇場は真っ暗となった。
 照明は点灯するが、灯りが点いたころには、舞台の上にいた愚者は消えていた。
 そして最後にスピーカーを通して、愚者の声のみが劇場に響きわたった。

「私は愚者、愚かの仮面を被りてしかし真実を告げるもの。どうか、どうか私の言葉が皆様の光明たらんことを」

 そして空白となった舞台に幕が降りていく。
 と、共に嵐のような拍手が巻き起こった。それは喝采と一緒に。

 全ての拍手は愚者を演じた主演女優に。
 そして刻命城に関わった者達の拍手は、この場にいない、愚者を演じたもう一人の名優にも。

 拍手につぐ拍手は幕が下りきっても、しばらく続いたのだった――。

担当マスターより

▼担当マスター

小川大流

▼マスターコメント

 最後まで読んで頂きありがとうございます。マスターの小川大流と申します。
 この度は「亡き城主のための叙事詩 後編」にご参加頂きありがとうございました。

 今回の物語は如何でしたでしたでしょうか。
 少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。

 それでは、また皆様にお会いできる時を楽しみにしております。

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 今回、シナリオの結果、テラー・ダイノサウルス(SFM0051666)様に「征服の従士」が付いていくことになりましたが、
 こちらの設定を自由設定に用いたLC化につきましては、テラー様に自由に行っていただいて良いですし、もちろん、行われなくても問題ございません。

※今後のシナリオにおいて、こちらのLCを連れているために判定が有利になる、といったことなどは一切ございません。