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リアクション
「まだまだ時間はたっぷりとありますし、次は……」
テレサ達と別れてから佐那はコスプレ関連の店巡りに精を出していた。
店から出た佐那は予定する店へと行こうとした時、止まってしまった。目の前に驚きの人物が立ちはだかっていたのだ。
「あ、朝……」
佐那がその人物の名前を言い切る前に唇が塞がれてしまった。
キスをし終わったその人物、キス魔なあさにゃんはにっこりと佐那に笑いかけた。
「ふふふふふ……そうですか。遂に、遂に決心してくれたのですね!」
分身だと知らない佐那は企みの笑みを浮かべ始めた。
「これは前々から誘っていた一緒にコスプレOKのサインでしょうか? ですよね? そうに決まってます!」
すっかり佐那は自分の世界に入ってしまっていた。
「そうと決まれば……」
そう言いつつ佐那はあさにゃんの腕を掴んだ。掴まれたあさにゃんはきょろりと次のターゲットを目で追い、佐那から顔を背けていた。
「……緊張しなくても大丈夫ですよ。私が手伝ってあげますから」
勘違いしている佐那はあさにゃんの腕を掴んだまま店内に引き返した。
「あさにゃん、待ってて下さいね」
そう言って佐那は試着室に消え、常に持ち歩いているブルーのウィッグとグリーンのカラーコンタクトを装着し、ブルーの衣装を身に着け海音☆シャナに変身完了。
「お待たせしました、あさにゃん!」
がらりと試着室から華麗に登場し、挨拶代わりと言わんばかりにハグと頬ずりをして、デジカメでツーショットをぱちりと。
「ん? 先ほどいた店員さんは」
ハグをしながら海音☆シャナはふとレジの方に視線を向けたが、いたはずの女性店員が消えていた。実は、レジにいた女性店員はあさにゃんの餌食となり、恥ずかしさのあまり店の奥に引っ込んでしまったのだ。
「そんな事よりもまずは基本中の基本、メイド服からです☆」
手近のゴシックなメイド服を手に取り、にっこりと笑った。
キス魔なあさにゃんは愛らしく笑い返し、キスをした。
「気に入ってくれて嬉しいです。さぁ、手伝いますよ☆」
メイド服を持ったままあさにゃんを試着室に連れ込み、着替えを手伝う。その間もキス魔なあさにゃんは執拗にキスを繰り返し、海音☆シャナは本望と言わんばかりに嬉しそうだった。
「可愛いですよ。はい、笑って下さい♪」
試着室から出るなり、素早くデジカメに納めていく。
これで終わりと思いきや
「次はこれです。まだまだあさにゃんに似合う服はたくさんあります☆」
そう言って手近の衣装を持ってあさにゃんを試着室に連れて行った。再び試着室でキャッキャとキス魔なあさにゃんの着替えを手伝っては様々な服装に着替えさせていく。
兎耳のナースさんにネコ耳の純白の花嫁さんに狐耳の巫女さん。
「あさにゃん、最高です☆」
パシャパシャとデジカメに納めていく。
しかし、その幸せにも終わりがやって来た。
海音☆シャナとあさにゃんが騒ぐ店前、
「……朝斗、すごい有様です」
「早く止めなきゃ、ルシェン?」
「……あぁ、あさにゃん。狐耳も可愛いです」
ルシェンはべったりと窓ガラスに張り付き、狐耳の巫女姿のあさにゃんを熱く見つめていた。朝斗の声なんぞ聞こえていない。
「ルシェンはこのままにして行こう、アイビス」
「……はい」
動きそうにもないルシェンを置いて朝斗はアイビスと共に店に乗り込んだ。
「ここまでだよ」
「大人しくして下さい」
店に登場した朝斗とアイビス。
「えっ、二人!?」
海音☆シャナは二人の朝斗に驚きの声を上げ、新たな女の子の登場にキス魔なあさにゃんは活動を始めた。一直線にアイビスに襲いかかる。
「分身とはいえ、その様な行為許すわけにはいきません」
アイビスが『歴戦の武術』で返り討ちにしようとした瞬間、
「あさにゃん!!!」
もの凄い勢いでルシェンが登場した。
「ルシェン?」
ただ事ではない様子に思わず振り向く朝斗。
「……次はこれを着てみて下さい」
一緒に捕獲をすると思いきや近くにあったセーラー服を取ってあさにゃんとアイビスの間に割り込んだ。
「その次はこれです☆」
海音☆シャナは猫の可愛らしい着ぐるみを手に取った。コスプレ関係の店なので何でも揃っている。
「……二人共違うよ。捕獲だよ」
「……ネコに猫の着ぐるみですか。何ともシュールです」
非協力的な二人に焦る朝斗と真面目につっこむアイビス。
「……私の心のシャッターは準備万端です。さぁ、あさにゃん」
訳の分からない事を言い出すルシェンが突きつけたセーラー服を受け取ると思いきやあさにゃんは、笑顔と共にキスをした。
「……あぁ、あさにゃんの唇が、唇がぁぁぁ」
あまりの幸せさに鼻血を吹き出し、そのまま床に倒れてしまった。
「……キス? ルシェンに……キス。ルシェンにキスをした報い、しっかりと受けてもらうぞ?」
ルシェンとあさにゃんのキスシーンを目撃した朝斗は怒りのこもった『サンダークラップ』であさにゃんをあっという間に気絶させた。店に迷惑をかけないようにと『真空波』を使うのは忘れていなかった。
「あの朝……斗……?」
憤怒の顔になっている朝斗にあっけにとられるアイビス。
「ルシェンの唇は僕のもんだっ!!」
気絶しているあさにゃんに言い捨て、気を失っているルシェンの元に行った。
「ルシェン、起きて、行くよ」
「あぁぁ、あさにゃん……あ、朝斗」
何とかルシェンを起こして、店を出た。
「待って下さい」
アイビスは気絶したあさにゃんを連れ、二人について行った。
「……私も一緒に」
いつの間にかコスプレを解除した佐那も一緒について来た。
みんなが辿り着いたのは店の向かいにあるベンチだった。気絶したあさにゃんを寝かせ、解除薬を待つ事にした。
「……なかなか見つからないな」
「そうですな」
散々、探し回るも見つける事ができないでいた廉、公台とネヴィメール。
「どうした、メール?」
廉はネヴィメールが何かを見ている事に気付き、視線の先を辿ると分身との戦いを終えた朝斗達がいた。
「俺と陳宮の分身を知らないか?」
ネヴィメールの言いたい事を察した廉は朝斗達に分身の事を訊ねた。
「……分身? ごめんね、知らないんだ」
「先ほどまで私達、店内で分身を相手にしていましたから」
朝斗は申し訳なさそうに答え、アイビスが知らない理由を伝えた。
「……そうか」
『大丈夫ですか?』
二人の言葉にうなずく廉と気絶しているあさにゃんを心配そうにするネヴィメール。
「……大丈夫だよ、ありがとう」
朝斗は笑顔でネヴィメールに答えた。
「あさにゃん、あさにゃん」
「気絶している姿も可愛い」
ルシェンはあさにゃんの手を握り、佐那はデジカメで写真を撮り続けていた。
「……邪魔をしたな。行くぞ」
「近くにいればよいのですが」
『ありがとうございます』
三人は再び分身捜索に戻った。
エッツェルの話が終わった病院の中庭、
「もう、美絵華ちゃんも説教や励ましもよく分かっただろうからここまでにしようぜ」
ウォーレンが区切りよく話の切り替えを入れた。これ以上、美絵華にこちらの思いを詰め込まない方がいいだろうと。何よりせっかく会ったのにこれだけで時間を潰すのは面白くない。
その途端、美絵華のお腹が軽く声を上げた。
「……あ」
思わずお腹を押さえて恥ずかしそうにする。
「あらあら、お腹が空いちゃったのね」
零がくすりと笑いながら言った。
「忙しかったから空腹を感じても仕方無かろう」
ルファンが言った。先ほどから泣いたり怒ったりとかなりエネルギーを使っていたので空腹になっても仕方が無いと。
「それなら、はい!」
「一緒にオヤツを食べよう!」
ルカルカはチョコバーやすあまチョコにマカダミアナッツチョコ、ショコラティエのチョコを取り出し、分身がチョコバーを美絵華に差し出した。
「ありがとう」
受け取り、ぱくりと食べる。
「おいしい!! このチョコおいしいね」
食べた途端、幸せそうな顔になった。
「当然!!」
「チョコレートは正義だもん♪」
ルカルカは力強くうなずき、分身は一緒にチョコをほおばった。
「美絵華ちゃんは走るのが好きなんだよね。ルカも体を動かすの好きだよ」
「走るのって気持ちいいよね」
ただ食べるだけではつまらないので適当に話しかける。
「……うん。風になった感じでずっと走ってても飽きないんだよ」
美絵華はうなずきながらぼんやりと周りを眺めた。
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