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少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 3/3

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少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 3/3

リアクション

ページ3

3−1

いや、やはり、あんな怪しげなやつの誘いにのって、部屋をでるのはやめよう。あなたはベットに横になってまぶたを閉じた。当然、パソコンの電源を落としてから。
END

3−2

(することがないのなら、死体でも眺めていた方がいい)

くらいの意味で口にしたあなたの言葉を素直に受け取り、真琴とクリスチーナは床に横になった天ヶ原明に近づく。
彼の横には白衣の女性がいて、聴診器などで診察をしている。

「九条さん。天ヶ原さんは」

「わからない。☆の光をあびたせいか、いまは、普通に寝ているのと同じ状態なんだけど、起きないんだ」

「起きない」

真琴は心配げに天ヶ原をみおろす。メガネをしていなければ、かなり幼くみえるであろう、真琴の顔には、泣き出しそうな表情が浮かんでいる。

「揺すってもダメか」

手をのばしかけたクリスチーナを九条という女医がとめた。
「そういう物理的なショックはよくないな。
実は、私はいま、ある装置を試そうとしていたんだが、長谷川さん、やってみるかい」

九条は、直径30〜40センチくらいのリングを真琴に渡した。

「それを頭につけてくれ。ほら、天ヶ原さんもかぶってるだろう。
お互いの意識を共有させる機械なんだ。
安全は保障するよ。
きみがこなければ、私がつけようとしていたところさ」

真琴はためらいなくリングをかぶる。
九条が二人のリングのスイッチを入れた。

「彼と気持ちがつながったら、起きるように伝えてくれ」

「はい」

天ヶ原の隣にしゃがんで、真琴は目を閉じた。
直後、天ヶ原の腕が動き、真琴の手首をつかんだ。真琴は彼を抱きおこし、二人は優しく抱き合う。

「大成功だね」

二人の様子に九条が拍手をした。
まぶたを開けた天ヶ原は周囲を見回し、

「僕は、僕の体は、ずっと、神様に支配されていたけど、心は起きていてから、すべては知っている。
とりあえず、管制室へ急ごう。それと、ありがとう。長谷川真琴(はせがわ・まこと)

真琴は外したリングを九条に返した。

「天ヶ原さんが、私の知っている天ヶ原さんの心が、透明な檻に閉じ込められていたんです。
だから、私はその扉を壊しました」

「心象風景ってやつだね。暗示か、薬物か知らないけど、彼の自我は封じこめられていたらしい」

「まだらっこしい説明は後だよ。
あんたは天ヶ原であっても、さっきまでの天ヶ原じゃないんだろ。なら、あたいはあんたにはうらみはない。
管制室へ行けばいいんだね」

天ヶ原、真琴、クリスチーナ。それに九条も走りだした。

(心を失っていた少年を少女が救うだと、麗しい友情物語か。興味はないな)

あなたは彼らの後は追わず、その場を去って行った。

END

3−3

「間違っていたら、申し訳ありません。
もしかして、あなたは、記憶を失っておられるんじゃありませんか」

両腕に人形を抱えた少女は、あなたに尋ねてきた。

「きみが言うように僕が記憶喪失だとして、外見だけで僕の素性をあてたきみは、おそらくは人形遣い。
そのうえ、探偵なんじゃないかな」

「正解です。
いきなり、失礼しました。
周囲を見回しながら、少しずつ歩を進めるあなたの姿が以前、慰問に訪れた施設でみた記憶障害の方の仕草とよく似ていたので、そうではないかと思ったんです。
が」

楽しげに彼女は微笑みながら、少しだけ首を傾げた。

「残念なことに、あなたの推理は、まだ百点ではありませんね」

「ふぅん。
探偵なんてものは、猜疑心と好奇心の強すぎる精神病の患者で、しかも反社会的な犯罪者の資質も十二分に持っていると思うから、少女探偵のきみが他にいくつの職業は兼業していようと僕は、まったく驚かないよ。
きみが首を突っ込んでるであろう諸々を調査もせずに、僕がすべて当てられるわけはないし、調べる気もないね。
自分自身のこともわからないこんな状態なのに」

あなたは少女に興味と反感を抱く。
なぜだかわからないが、あなたは探偵が気になるらしい。

「どうやら探偵は、あなた自身を知るためのキーワードなのかもしれません。
私の名前は、茅野瀬衿栖(ちのせ・えりす)
人形師にして探偵助手、846プロ所属のアイドルでもあります」

人形を抱いたまま、衿栖はスカートの裾をあげ、かわいらしく頭をさげる。
衿栖の隣にいた羽織袴姿の少女も、軽く会釈してきた。

「私は、衿栖と同じプロダクションに所属してる落語家の若松未散(わかまつ・みちる)だ。
ちなみに私は探偵じゃないぞ。
で、おまえさんは、こんなところでなにしてるんだ。
私たちはこいつと一緒に、こんがらがった謎を一つでも解こうとしてるとこなんだけどよ」

こいつとは、彼女らの背後であなたに鋭い視線を送っている痩身長躯のメガネの男性をさすのだろう。

「落語家というのは、たしか日本のトラデショナルなスタンダップコメディアンだったね。
とすると、キモノは、ステージ衣装なのかい。
きみもかわいらしい顔をしているけど、お友達みたいにアイドル業はしていないのかな」

「あ、ああ。アイドル的なこともしてるよ。ちょっとはな」

恥ずかしげに未散は、頬をわずかに紅潮させた。

「んな話よりもいま大事なのは、コリィベル全体を巻き込んでる事件だろ。
おまえは、そこらへんの事情もわかんないまま、ゆりかごを歩き回ってるのか」

「きみたちはすべてを把握して、事件解決の糸口を掴んで、ここにきたわけだね」

未散の言葉通り、たしかに事情を把握しない状態で、ゆりかご内をさまよってはいるのだが、あっさり認めるのもなんだか腹が立つので、あなたはあえて憎まれ口を叩いてみた。

「つぅか、それはだなぁ、まぁ、そうと言い切れないこともないわけで、でも、私の口からはまだなんとも」

「…みっちーをいぢめるなら、おまえをまず殺してやるよ。はぁはぁはぁはぁ」

少女二人の間をかき分け、あなたの前にでてこようとした男を衿栖と未散が、彼の腕を片方ずつつかんで、強引に再び、自分たちの背後のポジションに戻す。

「BB。てめぇ、おとなしくしてろよ。
私たちが側にいてやってる間は、物騒なマネはしねぇって約束したろ」

「そうですね。
私も事件が無事解決したら、BBさんにプレゼントしたいものがあるんですけど、調査の途中でBBさんが暴れてしまったら、もう全部おしまいで、悲しいけれど、BBさんともここでさよならですね」

「わ、わ、わ、わかってるよ。
俺は、ミッチーもエリエリも裏切ったりなんか絶対にしない。
ただ、俺は、そいつがみっちーにひどいことを、はぁはぁはぁはぁ。
そいつが、そいつが悪いんだ。俺の子猫ちゃんに近づくな薄汚い泥棒野郎め!
いまは我慢してやるけど、今度、別の場所であったら、最期だぞっ。
特性の溶解液で意識を残したまま、おまえを溶かしてやる、ククククク」

男、BBは、あなたを指さし、罵声をあびせてきた。

「おい。BB。いいか。
わ、わ、私はおまえにこれ以上罪を重ねて欲しくない…ていうかまともになってくれ。
頼む。私からのお願いだ。
だから相手が誰であれ、殺しとかそういうのはナシだ。
いいな。
なにより、おまえがしようとするような陰惨な人殺しは、まったく笑えないしな」

未散になだめられ、BBは頷き、ようやくあなたから視線をそらした。
やれやれだ。
彼は、彼女らの熱狂的ファンなのだろうか。こんなやつの面倒をみなくてはならないとは、アイドルも大変だな。

「ここにいてはお邪魔なようだし、僕は余所へ行くとするよ」

立ち去ろとしたあなたを呼び止めたのは、BBだった。

「まてまてまてまてまてまて。
おまえだ。おまえ。ミッチーとエリエリに迷惑をかけて調査を中断させたんだから、お詫びにお手伝いをしろ。
おまえがこなかったらなぁー、よけいなおしゃべりをしなかったらなぁー、調査はいまごろ、もっと、ずっと、さらにずぅーっと先まで進んでたんだ。責任をとれ」

下をむいたまま、BBは怒鳴る。
いやいや、きみに溶かされたくはないから、失礼するよ。
黙って歩きだそうとしたあなたのズボンの袖を今度は、小さな手が掴んだ。
衿栖の操る二体の人形が、床に降り立ち、その体には不似合いな強い力で、裾を引っ張り、あなたをいかせまいとしている。
「すいません。
私の人形たちもあなたに行って欲しくないようです。
お手数ですけれども、ちょっとだけ、私たちの調査に協力していただけませんか。
実は、あなたがここへくる直前に、BBさんが謎の解明の糸口になるかもしれない、不思議な蝶々をみつけられたんです」

自分が操作しているのに、まるで人形たちに意志があるかのごとく話す衿栖に、あなたはつい笑ってしまった。

「さすが探偵。素敵な嘘つきだな」

「は。なんのことですか。
あの、それで蝶々なんですが、BBさんが捕まえたそれを逃がしてあげて、どこへ行くかを追いかけようとしていたんです。
でも、未散さんは」

「悪いな私は虫は苦手なんだ。
虫は無視して生きていきたいタイプなんだよ。
なんだ。みんな無視かよ。
ちったぁ、笑えって」

「くす。
という感じで、私もそう得意ではないし、BBさんの説明では、この蝶の行く先には、それなりの危険もあるかもしれないそうなんで、男の方がいてくれると助かるんです」
なるほど。
BBは彼自身は危険ではあっても、緊急時に頼りになるタイプではないからな。
「しかし、蝶の後を追うのは、探偵としてはどうなのだろう。
合理的な調査とは呼べない気がするのだが」

「うるさいなッ。
つべこべ言わずにおまえは先頭を歩けばいいんだよ。
ここで俺が捕まえたこいつは、すごく、ものすっごっく珍しいてふてふなんだぞ。
こいつの名前は、黒死蝶」

「死者に群がる蝶だな。
一見、バタフライだが、屍肉を貪るその実体はフライの仲間だ。
色も黒だしね」

あなたは仕方なく一同の先頭に立って歩きだした。
しばらく、追ってみると、蝶は天井の一角に空いた小さな穴に吸い込まれるように入ってゆく。

「きみの意見が正しいのなら、この天井裏には、なにかがあるはずだな」
「だから、みにいくのがおまえの仕事じゃないか。
天井裏をたしかめてこいよっ。この役立たずが」

BBに罵声を浴びても、正直、あなたにはどうすれば天井裏へいけるのか、すぐには思い浮かばない。

「衿栖」

「未散くん」

アイドルたちに声をかけてきたのは、スーツ姿と執事服の青年二人組だった。
衿栖と未散が返事をする前に、BBが二人を怒鳴りつける。

「誰かと思えば、レオン・カシミール(れおん・かしみーる)ハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)かよ。
おまえらマネージャーが、仕事をさぼっててくるのが遅いから、エリエリとミッチーが苦労するんだよっ。
探し物はこの天井裏にあるんだ。早くなんとかしろ。バカ野郎ども」

すでになれているのか、二人はBBの剣幕は相手にせずに、アイドルたちに状況を確認すると、スーツ姿のレオンが、執事服のハルを肩車した。
上になったハルは拳で何度か天井を叩いた後、ドライバー部分を拳銃で撃ちぬき、問題の位置の天井板を外す。

「うっわわわわ。で、ございますぅ」

急に声をあげ、手足を振り回し、ハルがレオンの肩から落ちそうになった。

「ハルくん。大丈夫か」
しかし、レオンもいまにも倒れそうだ。
衿栖と未散が急いで駆けつけ、レオンを支え、ハルを無事、床におろす。
四人がどたばたと動いている間、BBとあなたはずっと天井を見上げていた。
ハルが板を外したところから廊下に飛びだしてきた黒死蝶の群れを。
あまりに大量すぎる蝶たちは、いまやこのへん一帯の廊下を埋め尽くし、羽ばたいている。

「あのてふてふがこんなにいるとこには、たくさんの死体があるはずだ」

茫然とした表情でBBがつぶやく。

「あるのは死体だけではないと思うよ」

いつの間にそこにいたのか、あなたとBBの間には、全身を白い光に包まれた、和風の着物、白い振袖を着た女性が立っていた。
日本風に髪を結い、何本もの簪をさしているその人物の体は、その場でふっと宙に浮き、天井裏へと続く穴へと消えていった。

「いまのは」

あなたの問いに誰もこたえない。
少しすると、天井裏から廊下へ今度は、人が落ちてきた。
落ちてきたのは人ではあっても、すでに死んでいる、骸骨とかしたものたちだ。
一人、二人、三人。結局、十体以上の骸骨が床に積み上げられ、最期に、さっきの和服の人物が、眠っているらしい少女を両手で抱えて、また、ふわりとおりてきた。

「あなたは何者なんだ」

「私は、天ヶ原明、とここでは名乗っていたものだ。
黄金の騎士が迎えにきたので花嫁を連れにきた。
彼女はずっと昔、ここに捕らわれ、自分を封印して眠りについた。
いまはすでに朽ち果ててしまった 護衛の者たちと一緒に。
彼女はまだ目をさまさない。でも、私は彼女を連れてここを去るよ」

☆☆☆☆☆

言い終わると、天ヶ原明、だったものは、姿を消した。腕の中の少女とともに。
あなたたちは言葉もないまま、顔を見合わせる。
一瞬後、黄金の騎士の砲撃が大気をかきけし、大地をえぐり、コリィベル1、2をもろともパタミタから消し去ったのだった。

END

3−4

パチパチパチとあなたに軽い拍手をしてみせたのは、東洋系の中肉中背の少年だった。

「きみもあまねや海松と同じジャパニーズかい」

「俺の場合、100%の純血ってわけではないけど、とりあえず名前はジャパニーズだ。
俺は、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)
あんたの意見に同意だね。
いまのままだとくるとを助けられるかどうか、俺も疑問さ。
でも、なにもしないでいる気はない。
人探しは、人数が多い方が有利だと思うんだ。
手伝って欲しいな」

アキラは右手を差しだしてきた。
あなたは、すんなり握手をする気にはなれない。

「数がいたところで、戦略がなければ成功しないんじゃないか」

「うん。それも賛成」

アキラが首を縦に振ると、隣にいる少女があなたをにらんできた。

「なにをまだらっこしい会話をしておるのじゃ。
アキラにはともかく、わしには立派な作戦がある」

魔女の短衣をまとったロングの金髪の少女は、厚紙を折り曲げたような武器でアキラをひっぱたいた。
後頭部で乾いたいい音が鳴る。

「イテテテテ。
あ、これはツッコミって、コミュニケーションの一つなんだ。
こいつは俺のパートナーで、ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)。手にしてるのは、ツッコミ用のハリセンだ」

(パイ投げ用のパイのようなものか)

「ハリセンの説明などどうでもよいわっ。
わしはサイコメトリでくるとの記憶の痕跡をたどるぞ。
いまならまだ新しい記憶がそこかしこに残っておろう」

ルシェイメアの作戦に、あなたは感心した。
ここにいる連中で具体的な捜索方法を語ったのは、彼女がはじめてだ。

「立派な作戦だ。
リチャード神父が、コリィベルで凶行を続けてきたのなら、彼のアジト付近にはこれまでの被害者たちの恐怖や絶望が残留思念として漂っているかもしれないね」

「話がわかるな。なら、わしについてこい」

ルシェイメアに先導される格好で一団は歩きだす。
まだ悩んでいたあなたに、グループの最後尾にいた少年、クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)が助言をくれた。

「リチャードの居場所についてだけど、ボクは、彼がいまだに自分は神父であり、神の代行者であると信じているのなら、礼拝堂だったり、神殿だったり、神と関係のあるところへ行くと思うんだ。
神の前で、治療を行うためにね。
ルシェイメアのサイコメトリがうまく行かなければ、ボクはみんなにこの考えを話すつもり」
あなたは

一団とルシェイメアの後に従う→2−10

クリスティーの言葉を信じ、一人でリチャードを探す→7−5

3−5

「覚悟があるなら、俺についてこい。
七尾、俺は行くぜ」
敬一は、少年を残して、歩きだした。

おもしろそうなので、敬一について行く→2−9

3−6

確実にレンの作戦を成功させるためには。
僕にできるのは。

「大石!」

あなたは、レンに渡されたナイフを手に大石の前に飛びだす。
瞬間、大石はあなたを見据え、その場で腰を落とし、太刀の柄に手をやった。
居合の構えだ。
大石の唇が楽しげに歪む。
銃声が響いた。
大石の体が揺れる。
それでもなお、あなたをにらみつけ、柄から手を離さない。
さらに数発の銃声が鳴り、大石は横倒しに倒れた。
開いたままの黒い瞳からは、光は失われている。

「なぜ、ムチャをした」

隠れていた通路の角からでてきたレンは、大石の横にかがんで首を横に振った。

「ある意味、最悪のパターンだ。
俺は、殺すつもりはなかった」

「僕は、やつを足止めして、あなたが狙いやすいようにしたかったんだ」

「そうか。おまえが斬られるを防ごうとして俺は、やりすぎてしまった」

「でも、こいつは、殺されても仕方のない悪人だろう。
レンが行なったのは、正義じゃないか」

「憎悪や報復を呼ぶような正義は、間違っている。
こいつの仲間が黙ってはいないだろう。
虐殺が始まるかもしれない」

沈痛な面持ちでレンは語る。

「だったら、そいつらも殺すしかないだろ。
罪もない人が死んじゃうなら、やるしかないよ。
レン。戦争だよ。
敵が悪いんだ。
最悪を回避するためには、どんな手段もやむをえない時がある」

レンは黙って立ち上がり、歩きだす。

「どうするの」
「俺が逃げるわけにはいかない。
できることをするまでだ」

「僕にも手伝わせてくれ。さっきの償いさ」

「余計な手出しはやめてくれ」

「わかったよ。でも、できることはする」

あなたは、これから見られるものを想像して、湧きあがる笑いを懸命に噛み殺した。
END

3−7

(わけのわからない心霊治療に付き合されるのは、ごめんだ)

二人を残してこの場をさろうとしたあなたの手首を九条がつかんだ。

「なんだ。離してくれ」

「ごめん。ようやくきみの顔を思い出したよ。

ストーンガーデンの時とは、少し違っていたからさ、気がつかなかった」

「どういう意味だ」

「こういう意味さ」

九条と意識を共有しているという天ヶ原も起き上がり、ツナギのポケットから工業用のワイヤとビニールテープをだすと、たちまちあなたの両手足を縛ってしまった。

「私がきみを確保できたということは事態は進展しているって意味だと思うんだ。
天ヶ原の意識も戻ったしね。
ごめん。口にテープを貼られたままじゃ、話せないね。
カリギュラを呼ぶよ。きみの相手は、彼の方が専門だろうし」

床に転がさられた状態で、あなたは九条をにらみつけた。
彼女は、悲しげなまなざしであなたを眺め、

「きみの心も治療できればいいのに」

あなたは九条の言葉を振り払うように、首を横に振り続けた。

END

3−8

「その白衣は。
きみは、医者か科学者、それとも薬剤師かなにかなのかな」

あなたの問いに時尾がこたえる前に、小柄な少女が駆けてきて時尾に抱きついた。

「…お母さん、ハツネの事、嫌いになったの?
ハツネ、やっとお母さんに会えたのに…こんなお別れヤダよ…」

少女の名前は、ハツネと言うらしい。
時尾をお母さんと呼んでいるので、娘なのだろうか。
だとしたら、姓は時尾と同じ斎藤で、フルネームは斎藤ハツネ(さいとう・はつね)
それにしても、ハツネのしゃべり方は奇妙だ。
無機質に話すことしかできない機械が、その機能の限界に挑戦し、むりやり感情を表現しようとしているような、とでも言えばいいのか、とにかく、ぎくしゃくとした、しかし、聞くものの心に響く震える声。

「なぁ、ハツネ。
あたしはあんたを嫌いになったわけじゃない。
あたしは…神様に命を狙われてるのさ。
…あたしはあんたを残して死にたくはない。もし、あたしを母と慕ってくれるなら…娘のあんたにこんなお願いをするのもおかしな気がするけれど、あたしを護ってくれないか?」

時尾もハツネを受け入れ、彼女を両腕で強く抱きしめた。

「…神様がお母さんを狙ってるの?
本当に?
ハツネが護ってあげたら…お母さんは、ずっと一緒に居てくれる?」

「ああ。
…そしたら、ずっと一緒に居られるさ」

「…うん、わかったの」

こうして、あなたは偶然、斎藤ハツネ(さいとう・はつね)と時尾のパートナー契約の瞬間に居合わせてしまったのだった。

この後の成り行きを見届ける→9−2 

興味はないので立ち去る→9−1

3−9

こっそり逃げようとしたあなたの前に、彼女はあらわれた。
槍とみまがうばかりの柄のある戦斧を持った少女、ホワイトベールは、いきなりその柄の端であなたの額を突こうとする。
あなたは、手の平で柄が顔にあたるのを防ぐ。

「あらあら。
あなたがあたしとコミュニケーションを取りたいって、電波を送ったからきてあげたのに、あたしの好意を素直に受けないなんて、生意気すぎるわ」

ホワイトベールの口調は真剣そのものだ。彼女はいたって本気らしい。

「あんたがBBね。
あたしに会いたかったんでしょ。
会いたかったのよね。
そう、会いたくてたまらなかったのね。
だから、きてあげたのよ。
“デッドエンドに佇む白い妖精”ホワイトベールとはあたしのこと。
あんたとよろしくしてあげるつもりはなかったんだけど、さっきから新しい電波が届いてるの」

わけのわからない話を続けるホワイトベールは置いておいて、あなたは先を急ごうとした。

「ダメ。行ってはダメなの」

「離してくれ。僕は、BBじゃない。
彼はあっちにいる。早く彼のところへ行ってあげるんだ」

「違うの。
あたしは、あなたと」

彼女はあなたの腕にすがりつく格好で全身を預けてくる。
胸のふくらみをあなたも腕に押しつけてきた。
上目遣いであなたを眺め、切なそうに吐息をもらす。
あなたにとっては、彼女の行為は迷惑以外のなにものでもない。

「やめてくれ」

「電波があなたとこうしなさいと命じてから、あたしは、あたしたちはこうするしかないのよ。
なるようになるしかないの。
お互いの体と心の隙間を埋めあいましょう」

青い瞳は潤ませ、ホワイトベールは頷きかけてきた。

「電波の指令なら、きみは」

「あたしは電波に導かれてる。
ねぇ、あたしの髪、柔らかくて、きれいでしょ。みんなにそう言われるんだ」

あなたの手をとり、自分の髪にふれさせる。
【イコンスーツ】 ホワイトベール(いこんすーつ・ほわいとべーる)を引き離したいのに、彼女はあなたの上半身に両腕をからみつかせ、太ももに足をかけ、肩口に顎をのせ、首筋に顔を預けていた。あなたと彼女は密着しすぎていて、いまやほぼ同体のていだ。

「電波はきみになんと伝えたの」

「あなたを離すな、と。
なにをしてもいいから、くっついて離してはいけないって」

彼女に抱きつかれたまま、あなたはBB殺害の容疑者として、彼の周囲にいた少女たちに身柄を確保されたのだった。

END

3−10

「こんにちは。ジョゼフィンさん」

あなたが会釈をすると彼女はいきなり尋ねてきた。

「あんたは、悪魔の存在を信じる?」

「ええ。信じます」→5−3 

「さあ。結局は、架空の存在の気がするね」→ 9−8

3−11

さまよい歩いているうちに、あなたはパーティ会場に紛れ込んでしまっていたらしい。
ぱっと眺めただけで、かなりの広さの会場に数百人単位の人が集まっている。
場内の雰囲気は暗く、これだけの人数がいるのに話し声や物音があまりしない。
照明も落とし気味らしく、あなたは海の底を歩いているような錯覚にとらわれた。
実体のない白い人影が無数に漂っている気がする。
あなたは、

スーツで正装した少女が手招きしている。彼女のところへ行ってみる。→2−12
人気のないステージ隅の暗がりで、派手な衣装の女性マジシャンが独り言をつぶやいている。彼女の隣では、花のような衣装をきた女性が、エキゾチックなダンスをしている。マジシャンに近づく。→ 8−11

コツコツとかすかな音が聞こえる。音の正体をたしかめにゆく。→ 4−11

陰鬱な空気に支配されている会場内でそこだけ、「な、なんだってぇ!?」などと奇声をあげ、盛り上がっている一団がいる。一団の様子をみにゆく。→ 9−12 

3−12

盆を手にイレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)のとこへむかった。
短く刈った髪を逆立てた大柄の白人の青年が、ステージに立ち、歌をうっている。

「ここは楽しいコリィベル〜♪  悲しいことは何もない〜♪  だって僕たち死ぬんだから〜♪  メメントモリ〜♪さあみなさんご一緒に歌いましょう!」

葬送曲を連想させる不気味でもの悲しいメロディと珍妙な歌詞。
彼が呼びかけても、追唱するものは誰もいない。

(なんだこの歌は。この男は頭がどうかしているのか。両手で大事そうに抱えた水晶玉はなんなんだ。彼が死んだ魚のような目をしているのは、なぜだ)

疑問ばかりがあなたの心に渦巻く。
あなたはイレブンの前までいき、銀の盆をさしだした。

「一人でたくさん歌われて、さぞお疲れでしょう。どうぞ、コーヒーでも飲んで一息ついてください」

「そうですね。みんなで一緒に死ぬ前に気持ちを落ち着けておく必要があります。
どこのどなたか知りませんが、ご好意に感謝します」

実際、歌い続けてのどが渇いていたのか、イレブンは疑いもせずに、カップをつかみ、一息で飲んでしまった。
そして、口から大量の血を吹きだし、仰向けに倒れる。
あなたがこっそりと混ぜておいた秘密の薬の効果は、てきめんだったようだ。
あなたは死してなお、イレブンが大事そうに抱えている水晶玉を奪とって、テーブルに置いた。
先ほどまでイレブンが使っていたマイクにむかって、大声で叫ぶ。

「イレブンが殺されたぞ。殺したのは、弁護士のステラ・ウォルコットだ。やつは、イレブンにかわって、ここにいる全員の皆殺しを狙っている。みんな、早く逃げろ!」

扇動された人々がドアへと押し押せ、突き破って外へでてゆく。
あなたは大講堂の恐慌状態を薄笑いを浮かべ、眺めていた。

END