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リアクション
〜 第三楽章 ben marcato 〜
『つまり、ガイナスの主要のアジトの場所だけでなく、例の魔獣ショーの場所
……っていうか魔獣がどこで囲われているかって情報が溢れまくってるって事?』
「うん、実際にオークションとか魔獣関係の催しも数箇所で行われるみたい
実際に参加を表明してる組織の裏も取ってあるからガセではないって……」
場所は再び【蜜楽酒家】
アジトに突入し【ガイナス空賊団】を逮捕するべく、準備を進めている面々の一人
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)からの通信にコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が答えていた
ルカルカの隣にいたらしく、話を聞いていたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の声が
続けて通信機から聞こえてきた
『連中の組織規模なら出来なくもないか
いくらかは明らかにガセだろうが、それぞれに探りを入れる事は時間的に不可能か……
らしくない程慎重だな……どこからかブレインを雇ったか』
「とにかく、レン達がツテを辿って洗えるだけ情報を洗い出してはいる
最悪、ひとつひとつ潰す覚悟も必要かもしれない……時間は……ないけど……」
なるべく言葉に焦りを乗せないように話すコハクの声を聞き
軽い溜息と共に明るい声でルカルカが、そしてダリルが彼に言葉を送った
『ルカ達の事は気にしないで、もし戦力が分散される事になっても
みんなフリューネ達を助け出す覚悟はあるから、できる事をやるしかないなら全力でやるだけだよ!』
『こちらはいつでも動けるようにしておく、心配はするな』
「うん、ありがとう。また何かあったら連絡する」
通信を切り、コハクが再び仲間達のいる奥の客間に戻る
そこには情報を整理している漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)とメティス・ボルト(めてぃす・ぼると)を囲み
思案に暮れているパートナーの小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)達の姿があった
タシガンの酒場や闇ルートを中心に武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)や樹月 刀真(きづき・とうま)
フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)達が【ガイナス空賊団】や【魔獣】について調べ
集められた情報は巧妙に操作されたものだった
多くの闇の交易を持ち、複数に拠点を持つと言われている【ガイナス空賊団】といえど
頭領が一人でいる限り、彼を中心に事は動くのでメインのアジトというのは存在する
加えて【猛獣】よりもスキルが高い【魔獣】を商売にするのは手間も施設の規模もそれなりを要するので
例え【アジト】も【魔獣ショーの会場】もそれなりに信用された者にしか情報を伝えないにしても
せめて【魔獣】方面でコネクションを繋げ、探りを入れれば線は見つかる……そういう算段であった
しかし、フリューネが捕まった数時間後から
複数のアジトと思われる複数の拠点を繋げたラインで、一定のタイミングで【魔獣】が移動してるらしく
先程の会話のように、こまめにオークションなどのイベントが行われているようなのだ
そのどれもが個別に成立しているので、実際に足を運ぶしか確かめる手段は無い
規模の大きそうなものにアタリをつけてみたとしても確実性が高くないばかりか
オークション自体が商品のデモンストレーションを兼ねた【魔獣ショー】の場合
8割以上の情報がどれもフリューネのいる本命の可能性がある
どこから手を着けていいか判らなくなりそうな現実に
元気で前向きが看板の美羽やアニス・パラス(あにす・ぱらす)ですら無口気味で
パフューム・ディオニウス(ぱふゅーむ・でぃおにうす)は泣きながら誰ともなしに謝るしかないのだった
「ごめんなさい……ごめんなさい、あたしが捕まったりなんかしなければ!」
「もうよせ、謝って事が解決するなら頼んでるさ。だがそうじゃないんだ
今は思いつく限りの事をやるしかない、手はあるさ」
彼女の頭を撫でながらレン・オズワルド(れん・おずわるど)は自分に言い聞かせるように口を開く
今出来る事は、現在情報を交換しながら輪を広げて手がかりを探している
捕まっているフリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)に縁のある連中や
色々な手段で捜索をしている仲間達からの朗報を待つ事
そして引き続き内部へのコネクトを試みている牙竜達の経過が早く進む様祈る事しかない
そのもどかしさに匿名 某(とくな・なにがし)が誰とも無く呟いた
「早く事態が変わるといいな……フリューネだけでなく、奪われた積荷の回収もリミットがあるはずだ
確か商船側も回収の依頼があるんだよな、協力付きで」
「うん、目処が立てば船を貸してくれるって言ってた」
某の言葉に、パフュームが答える
少し落ち着いたようで、コハクの入れたココアを両手に包みながら話を続ける
「向うはあたしが探し物の為に貨物室にいた事知らないんだ
人質だった事を心配してくれてるし……なんか悪い気がするな……」
今までも【ストラトスの楽器や楽譜】を求めての失敗はあった
だがいずれも全て自分の身だけに返る事だった、それが今回は独りの命だけでなく
多くの人を巻き込む結果になった事は、相当彼女にはショックだったらしい
そんなパフュームの様子をみんなが気を使う中……ただ独り物思いにふける影があった
そんな彼……佐野 和輝(さの・かずき)の様子を不思議に感じ
隣にいたフェイ・カーライズ(ふぇい・かーらいど)が声をかけた
「……さっきから黙ってそっぽ向いているが、どうかしたのか?」
「いや、ちょっと引っかかる事があってさ」
フェイの声にようやく独りの思考をやめたらしく、和輝が彼の方に向いて答えた
「なんでガイナスはあの船を襲ったんだろうな?」
「なんでって……中のキンギンザイホーを奪うためじゃないの?」
「それは当然なんだけどさ、アニス
あの船は大層な人物も乗っていないし、積荷も無かったはずなんだよ……
まぁもちろん盗まれたら誰かが困るのは間違いなんだけどさ
パフュームの探し物があるかもって言う位しか空賊が目をつける価値は無かった筈なんだ
フリューネが迎撃しに来るリスクを考えてまで襲う事は多分普通しない
だから俺もパフューム達三姉妹に情報を送ったんだしね」
アニスの質問に和輝が答える、それを聞いてパフュームも腕を組んで記憶を呼び戻し始める
「確かに……あの時貨物室で荷物をチェックさせてもらったんだけど
普通に旅行客の貨物と、食料系の貨物しか見なかった」
「多くの商船が行き来する空峡で、ありふれた船で荷物目当ての連中がバッティングした
それが偶然とは思えないんだ……今は流れが違うけど恐らく……」
「ガイナスも【ストラトスの楽器や音符】を探していた可能性が高い……という事か」
和輝の話にレンが思い当たったように答える、その言葉に頷く和輝
「ああ。【ガイナス空賊団】と【魔獣】への情報は粗方出たし、止まっているんだ
だったら【楽器と楽譜】の線で情報を洗ってみてもいいんじゃないかな?」
今までとは違う方向からの思考……余りにも推測のみで確証がない
だが事態が行き詰まりかかっている以上、できる可能性も考えるべきでは
そう誰もが思っていた時、レンの通信機が鳴り出した
本人から遠くにあったそれを茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)が手に取り、レンのところまで渡しに来る
それを受け取り、通信元を確認する前にスピーカーから発信主の声が聞こえた
『仲間共々焦燥のようですね、声を聞かずとも空気の震えでわかりますよ【紅き瞳の英雄】君』
「……その声、アルテッツァ・ゾディアックか」
通信機から聞こえた声に、不快を露にレンが返答する
愉悦の感情からから、おおよその人間味を抜いた微かな狂気を彩られた丁寧な口調
……それはアルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)の物であった
『そう露骨に拒絶を表さなくてもいいじゃありませんか
いやなに、良い情報を手に入れたばかりなのでひとつ売ってみてもいいかと思いましてね
あなたの探し人だけでなく、そこのお転婆怪盗さんにも有益だと思いますが……どうします?』
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