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リアクション
『あそびのじかん』
「おにいちゃん、おうまさんになって!」
お弁当の後は、お外遊びの時間です。
海先生のお馬さんに揺られて、菊ちゃんは楽しそう。
「パカパカってちゃんというんだよ」
「パカパカパカパカ」
「きくちゃんおひめさま! おはなばたけいきまーす!」
「ヒヒーンパカパカ」
「いいなぁきくちゃん、わたしもかいせんせーとあそびたい!」
「次にお願いしてきなさいね」
雅羅先生の膝にくっついていた女の子達は、「はーい」と返事をすると滑り台に走って行きました。
先生の人手は足りているようなので、雅羅先生は全体を見渡せる水道の横に立ちます。そこにはジゼル先生も居ました。
「サクラ組の海先生は相変わらずモテモテね」
「お宅のひまわり組の副担任先生もモテモテよ」
ジゼル先生が示す先には、泉 美緒(いずみ・みお)先生が。
美緒先生は沢山の男の子のお友達にくっつかれて、歩けなくなっています。
ジゼル先生と同じく新米の美緒先生。優しげな雰囲気と笑顔も人気の理由ですが、理由はあとひとつ――
「幼児って好きよね……あれ」
「……そうね」
「せんしぇい!!」
「あら、かー君、どうしたの?」
「スコップかーしーて!」
雅羅先生は「スコップねー」というと、遊具入れから土だらけの水色のスコップを持ってきて、持ち手の部分の土を払い鴉君に渡しました。
「何を作るのかな?」
ジゼル先生が聞くと、鴉君はふふんと笑って「ひみつー!」と答えます。
そして手を頬に当てて、小声で言いました。
「あのねっひみつなんだけどねっ
ぼくぶんちゃんと、ひみつきちつくるんだ!」
「それじゃああと一つスコップが必要ね」
二人の先生は笑って、それからピンクのスコップを出してくれました。
「ルイくーん、りょうじせんせいとなにしてるの?」
涼司先生に見守られながら鉄棒に掴まるルイ君を、ボールを持った真君が不思議そうに見上げます。
「きょうこそ、あたまをてつぼうよりたかいところに、もっていくんだ!」
「そっかー、ルイくんはたくましいおとこになりたいんだもんね」
「ぼくもなりたいな」
「……みんなもいっしょにする?」
「いい! ぼくサッカーしたいんだ!」
「うん、ぼくもムキムキマッチョさんはいいや」
真君と雫澄君が手をつないで走っていきます。涼司先生は少し寂しそうなルイ君の顔を見て、肩に手を置きました。
「一緒に遊んでこなくていいのか?」
「しかたないです……にくたいかいぞうは、すといっくなセカイですからね」
「よく知ってるなそんな言葉……」
ルイ君はもう一度鉄棒を掴むとえいっと力を込めました。
いつか訪れる未来に、師匠のように強く逞しく、優しい大きな男になれるように願いを込めて。
――なんだかさっきからカーくんがみてる。
文長ちゃんの心配していた通り、満面の笑みの鴉君が手にスコップを持ってこちらに走ってきます。
「ぶんちゃんあーそーぼー!」
「……なにするの?」
「ひみつきちつくるんだよ!」
「ひみつきち?」
「ひみつのきちだよ! おとこのろまんなんだよ!」
「あたし、おとこのこじゃないもん」
「いいからつくるのー!」
鴉君はそう言うと、ピンクのスコップを文長ちゃんに渡して穴掘りを開始しました。
「どんどんどんどん
どんどんどんどん」
言いながら鴉君は地面を掘り進めます。
どのくらい掘った頃でしょうか、鴉君が突然手を止めました。
「あれー? みて、ぶんちゃん。
なんだか、おっきなあながある」
鴉君が指差す先、何かの影がありました。
「だれかひとがいるよ!
きっとひみつきちを、つくってるんだ!
いっしょにあーそーぼー!」
手を振る鴉君ですが、文長ちゃんは何か変な事に気がついた様で、目を零れんばかりに見開くと鴉君の手を取って猛ダッシュし、美緒先生の胸に抱きつきました。
「あらあら、どうしたんですの?」
突然くっついてきた文長ちゃんに、美緒先生はびっくりしていますが、文長ちゃんは何も言わずに首を振るばかり。
鴉君はおずおずと文長ちゃんに話しかけます。
「ぶんちゃん、ひみつきち……」
「もうつくらない!」
「……しかたないなぁ、ぶんちゃんはぼくがいないと
さみしくてないちゃうから、ちがうあそびするね」
「ふふ、次は何をして遊ぶんですの?」
「ぶんちゃん、つぎのおとこのろまんは
”おおうなばらにしゅっぱつ”だよ!」
鴉君はそう言うと、文長ちゃんの手を引いて走り出しました。
まだ見ぬ大海原に向かって。
「やーめーてー!」
「やーだー!」
お友達同士で争う声に、皆を見ていた雅羅先生とジゼル先生、それに美緒先生が走ります。
どうやらまた、シェスティンちゃんと雫澄君のようです。
どうやらサッカーをしようとしていたのに、ポディションの取り合いで喧嘩になってしまったみたいです。
シェスティンちゃんは、雫澄君のぬいぐるみを、お互い反対側にぐいぐい引っ張り合っています。
ぬいぐるみが千切れてしまいそう! 真君は青くなりました。
「けんかはだめぇ!
みんなでたのしくあそぶんだよ!」
二人を止めようと走る真君。ところが誰かが置きっぱなしにしたおままごとの道具に、躓いてしまいました。
「……なかないもん。なかないんだもん!」
必死に涙を堪える真君。
しかし先に泣き出してしまったのは、お友達に怪我をさせてしまった二人でした。
「うわああああああああああああああああああん!!!!!!」
*
「はい出来た、これでももう大丈夫よ」
教室で、真君の膝にヒーローの絵が描かれた絆創膏を貼るジゼル先生。
「うわーまことくんかっけー!」「うん、ばんそうこうかっけー!」
と笑い合う真君と雫澄君に、ほっと笑顔が溢れます。
「まことくん、けんかしちゃってごめんね」
「いいよ。ぼくきにしない」
「あのね。ぼくまことくんに、ひみつおしえてあげる」
雫澄君はしーっと口に人差し指を当ててから、どきどきと目を見開く真君の前でぬいぐるみを床に置きました。
するとぬいぐるみは立ち上がり、真君にぺこりと頭を下げるではありませんか!
『にゃすみのおともだち、こんにちは』
「うわっしゃべった! かっけー!」
「テコはしゃべってうごくまほうのぬいぐるみなんだよ!」
「チョーかっけー!」
「チョーかっけーでしょ! ジゼルせんせいも、だかせてあげるね!」
動いて歩く超怪しげなぬいぐるみを胸に押し付けられて、ジゼル先生は冷や汗を流しました。
ぬいぐるみが『よっ!』と手を上げて挨拶をするのに、ジゼル先生は思わず跳ねてしまいつつも、
二人の男の子の期待の眼差しに頑張って笑顔を作ります。
「か、かっけー……わね」
所変わって園庭では――。
「あれはなすみがわるいのだ!
われのめーれーはぜったいだ!
ぐみんはわれのいうポディションにつくべきなのだ!」
「シェスティンちゃん、そんな言葉を使ってはいけませんわ。
女の子が愚民だなんて」
「待って美緒先生」
雅羅先生は静かに美緒先生を制止すると、シェスティンちゃん向かって向き直ります。
「シェスティンちゃん、愚民ってどんな意味かな?」
「ぐみんのいみ? ぐみんは、おかしのグミのおともだち!」
えっへんと腕を組むシェスティンちゃんに、雅羅先生は美緒先生と顔を見合わせて「ぶっふぉ!」と吹き出してしまいました。
サクラ組のお友達が喧嘩ををしたり地底人と会合していた間、ルイ君は黙々と修行に精を出し、 菊ちゃんはまだ海先生と遊んでいました。
今も前に美緒先生に教えてもらった花輪をタンポポで作ってたところです。
菊ちゃんに促されて海先生が頭を屈めると、黒いボサボサ頭の上に黄色い可愛らしい花輪はちょこんと乗りました。
「おにいちゃん、たんぽぽにあってますよー」
「ありがとう」
「えへへー。
あのね、かえったらおかあさんと、おふろにはいるの」
「そうか、ちゃんと指の間まで綺麗に洗うんだぞ」
「うん! おにいちゃんも、いっしょにはいろうよ!」
にっこり笑顔の菊ちゃんに、海先生は横を向いて「ぶっふぉ!」と吹き出してしまいました。