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リアクション
「まさか、裁定委員のヤルデー君までがこの八百長事件に関係していたとは……」
途中報告を聞いて、町長のフェデリコ・テシオは顔面蒼白になっていた。この町の運営は、これまでの町での暮らしぶりや貢献度から、信頼できる人物を選りすぐってあるはずだった。それがこんなにあっさりと裏切るとは、人間不信になりそうな表情をしていた。
「残念ながら事実よ。協力者たちによる資料も、もう集まっているわ」
分厚い調査資料を町長に手渡しながらセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は最終意思確認をしていた。
彼女は、この町にやってくるなり主にレース関係者を集中的に調査していた。これだけ大掛かりな八百長が行われているとすれば、当然裁定委員や有力オーナーが既にある程度は取り込まれたとみていいだろうからと、取り込まれた関係者の洗い出しや背後関係などを調べていたのだ。
「ブックメーカーによる高倍率の配当がつけられた後、裁定委員のヤルデーはレース発送直前に自前で手塩にかけて育てていた強力なガッツ鳥を、負け濃厚の駄鳥とすりかていたのよ。チェックする役の裁定委員がスルーしているんだもの、そりゃ成功するわよ」
「そうだったのか……。仕方がない、レースの途中だが彼を追放しよう……。せっかくの記念レースにミソをつけるようで、本当に残念だ……」
苦渋の口調で町長は言った。
「すでに他の人たちが彼の元へと向かっているわ。テロリストを招き入れていたとは言え一般人だし、すぐに捕まるわよ」
後の処理は、町長に任せるといった口調でセレアナは言った。
「……で、これが、そのすりかえられる予定だった強力なガッツ鳥ね」
連れ出されて戸惑った様子のガッツ鳥を眺めていたのはセレアナのパートナーのセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)だ。
「この鳥、処分は……しないよわね? 不正していた裁定委員に飼われていたとは言え、鳥には何の罪もないわ。悪党とは言え、いえだからこそ、かしら……とても丁寧に飼われていて凄くよく走りそう……」
「実際に、これまでの八百長レースで代わりに走って勝利を収めてきた鳥だからね」
セレアナの調査記録に、セレンフィリティは満足げに頷く。
「これ……、私が乗っていいわよね。このままでは可哀想よ。今まで裏街道を歩いてきた鳥を、私が表舞台で活躍させてあげるわ」
実際のところ、飛び入りで参加したいと思っていたセレンフィリティは、勝てそうな目ぼしい鳥がいなくて困っていたのだ。八百長で使われていたためレース記録には残っていないが、裏の実績は抜群だ。今行われているレースに出しても、本命になるほどの実力を秘めているのは間違いないだろう。
「よろしく。一緒に頑張ろうね」
セレンフィリティは無名の鳥にニッコリ微笑みかける。
その意思を感じ取ったのか、鳥はくわわっっと力強く答えた。
彼女は、この鳥で今回のレースに挑むことになる……。
○
「やあ、兄弟。儲かってますか?」
見るからに怪しい……テロリストよりも目立つ格好でこの町へと遊びに来ていたエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)は、客席から少し離れた場所で事件を監視していた戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)を見つけて近寄っていった。.
「まだ予選とはいえ、結構白熱していて見ていて面白いですね」
あくまで遊びで、純粋にレースを楽しむためにやってきていたエッツェルは勝敗にこだわらない様子だった。盛り上がりの様子を見やり微笑む。
「そういえば、今日の第8レース“動く”予定だったそうですね」
不正者を捕まえるためにレースを注意深く見守っていた小次郎は、エッツェルの賭け話には乗らずに、そんなことを言った。
「裁定委員の一人が捕まったそうじゃないですか。皆さん、仕事速いですね。もうすり替え技は出来ませんし、客席から監視している人たちがたくさんいます。不正行為を行うのは難しいんじゃないですかね。彼ら、どうするつもりなんでしょうか……」
「早く捕まえないと、逃げてしまいますね……」
エッツェルは、さっきからうろうろしているローブ姿の男を客席の片隅に見止め、言った。せっかく連中を見かけるようになったのに、不正行為が起こらないのでは捕まえようがない。ただ怪しい格好をしているだけで捕まるならエッツェルなど真っ先に候補に挙がるだろう。現に、協力者たちの活躍により、すでにローブの何人かは捕まり取調べを受けている。その様子を察知した残党たちは、慎重に様子を見ているようだった。
「こちらから、“仕込め”ないでしょうか……」
少し考えて小次郎は言う。
実のところ、小次郎はこの場から監視していてテロリストたちの証拠を見つけるつもりだったのだ。フードをつけた人間が高額配当を取っているということは、彼もしくは協力者が観戦場から何らかの工作を行っている可能性が高いため、観戦場より少し離れた所から観戦し、鳥が失速した時に怪しい動きをしている人物が居ないかどうかを見極める。何レースか見続けて、荒れたレースで見かけた不審者と高額配当受け取り者が一致していたら、後ろからそっとカモフラージュで近づき、ビデオカメラで一挙手一投足を写し、証拠を押さえる、という準備を整えてあったのだ。だが、彼よりも先に動いた連中が、テロリストたちの何人かを捕らえてしまっていたのだ。警戒したテロリストの残党たちは息を潜めてしまっている。相手が動かないと、証拠も押さえようがなかった。
「相手が動きたくなるような情報を流して、炙り出してみるしかないでしょう」
小次郎は提案する。
「しかし、生半可なネタでは動かないでしょう。ボスからの指令じゃないと、彼らだって信じないんじゃないですか?」
とエッツェル。
「その、ボスを騙せばいいんです。フルベット氏……この町の大金持ち。協力者たちの調査でほぼ分かっています。後は、どう近づくか、ですけど……」
「なら、適任者がいますよ」
小次郎にエッツェルは言う。観客席をうろうろしている一人の青年を見つけて指差す。
「彼なら“やって”くれるでしょう……」
「ああ、なるほど……」
小次郎は面白そうに頷く。
さっそく、身を潜めているテロリストたちのボスを炙り出し、そしてキツーイおしおきをしてやる作戦が始まった。
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