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 第三章

 
 今回、列車を巻き込んだ事故。
 それを起こした原因であるモールドラゴンが再び目を覚ましてしまったのだ。

「そもそも何でいままで放っておいたんだよ」

 フェイミィが少し苛立ちながら長老に詰め寄る。

「そもそも武器なんてもの我々は持ち合わせていない。あのドラゴンは身体から麻痺の毒を持つ霧を吹き出してくる。下手に近付けば身体が動けなくなってそのままドラゴンの餌食になるだけじゃ」
「近寄らなくても遠くから狙えばいいじゃねぇか」
「距離を取ろうとしても素早く伸びてくるドラゴンの舌はとても長い上に枝分かれしていて、逃げ切れないんだ」

 まだ幼かった頃に鍾乳洞へ入り込んでしまい、モールドラゴンと遭遇したというドワーフが身体を震わせながら語る。
 一緒にいた他の仲間は食べられてしまったらしい。たまたまドラゴンの舌も届かない深い位置に滑り込めたことと、大きなネズミ型のモンスターたちに狙いを変えた隙に何とか逃げ出せたということだった。

「睡眠薬で眠らせていたと言っていましたが、ドラゴンを眠らせている間に退治しようとは考えなかったんですか?」

 表情もいたって普段と変わらず、語気も荒げてはいないもののリネンもほんの少しだが苛立っているようにフェイミィの目には映った。

「もちろん試した。が、皮膚を突き刺そうとしたり刺激を与えてしまうとすぐに目覚めてしまう。眠っている間に出来ることといったらより強力な睡眠薬を作って暴れる前に眠らせるくらいじゃったよ」

 その繰り返しのせいだろう、睡眠薬自体も効きが悪くなっているということだった。
 いずれ薬が効かなくなるのも時間の問題だろうと長老は語る。

「長老、やはり我々も武器を持つべきですよ!」
「そんなもの持っていたところで、我らの力ではドラゴンに傷をつけることさえ難しい。それは皆知っていることだろう」
「でも……!」

 それではただ緩やかに滅んでいくのを待っているだけなのではないだろうか。
 このまま同じようにドラゴンを眠らせていったとしても、目覚めて暴れてどこかに被害が及ぶ。それはいつか直接この村に来ないとも限らない。いつこの村の遥か上にある地面が落ちてくるとも知れないのだ。
 村の年長者たちはそれでいいと考えているものもいるが、未来ある子供たちはどうなるのだろう?
 この薄暗い機晶ランプでしか照らされない世界で、恐怖に怯えながら一生を過ごすのだろうか?

「……正直、私はこんなところで死ぬつもりはないの」

 しばらく黙ってドワーフたちのやり取りを聞いていたリネンだったが、ついに耐え切れなくなって口を開いた。

「自由に飛びまわれる空もない、頬に感じる風もない、そんなの耐えられるわけがない。あなたたちがなんと言おうが、私はドラゴンの一匹や二匹倒してさっさと地上に戻るわ。私には……空が待ってるの」

 言うだけ言うとリネンは長老の家を飛び出してしまった。
 リネンの後を追って出て行こうとしたフェイミィが扉の前で立ち止まる。

「怖いんだろ? でもな……前に進まなきゃ、取り残されるだけだぜ」

 真剣な顔で告げて静かに扉は閉められた。


「いやぁ、堂々と言ったねぇ」

 長老の家から出てきたリネンとフェイミィをエースとメシエが笑顔で迎えていた。