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金の道

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金の道

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――遡ること数日前、アクリトが源鉄心たちから金の道を観光地化したいという話を聞かされた後、他にも彼に話し合いをしてきた人物がいた。

「……ふむふむ、なるほど。蛮族たちと無益な戦いを避けるため、逆に彼らを味方に引き込み、金の道の護衛に当たらせようという作戦か」

「はい、突然こんな事を言ってもすぐには了承しづらいとは思いますが……」

 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が直立不動でアクリトの前に立ち、その隣にはパートナーであるコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)がいつでも彼女を助太刀できるように待機している。
「良かろう、私からティフォン教授に話は伝えておく。前にも君たちとは少し違うが、武力で金の道を防衛すべきではないという意見を持った人間と話し合う機会があってだな。その者たちにも現在作業を行ってもらっているのだよ」

「えっ?! 本当でありますか。ありがとうございます、アクリト教授!」

 吹雪は思わず興奮してアクリトの手を握ろうとする。が、すぐにアクリトはさっと距離を離してしまった。

「お、おほん。では、君たちもすぐに作戦に移ってくれたまえ」

「教授、その前に蛮族たちとの交渉材料を揃えるために、雇用条件や警備場所についても事前に決めておきたいのですが」

 隣にいたコルセアがアクリトを引き留めようとする。しかし、

「わ、分かったのだよ。今は忙しいから、後日、人を通してやり取りをしよう」

 アクリトはそう言って、そそくさとその場から離れてしまった。


――そして、現在。

「アクリト教授の態度は一体何だったのでありますか?」

「さあ? でも、言った通り後でちゃんと雇用条件や警備場所についての連絡は来たし、気にしなくてもいいんじゃないの。それより、これからのパラ実生との話し合いに集中しようよ」

 二人は金の道付近にある、パラ実生が根城にしているという古びた洋館へと足を踏み入れようとしていた。

「なんだか、見るからに怪しい雰囲気でありますな……」

 開けるとキィイイと乾いた音がする門を開ける。通路を通ると、とうの昔に使われなくなったのか、黒く濁った池の中を何かが動くのを横目にしながら、二人は洋館の扉の前にたどり着く。屋根には何匹ものカラスが止まっており、見慣れぬ来訪者を威嚇するかのように、鳴き声をあげていた。

「じゃあ、呼び鈴を押すわよ……」

 コルセアが玄関に手をかけると、吹雪がごくりと息をのむ。

 キンコーン……キンコーン……

 チャイムの音が辺りに響き渡る。そして、洋館の二階の方から、ミシッ、ミシッと誰かが降りてくる音が聞こえ始めた……。

「お、恐ろしい怪物が出てきたらどうしようでありますか」

「だ、大丈夫だよ。ワタシもついてるし」

「そう言うコルセアも足が震えているではないですか……」

 2人は恐怖でお互いに手を取りながら待っていると――

「はいはい〜どちら様ですの?」

 セシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)が、おどろおどろしい洋館の雰囲気にはまるで似つかわしくない朗らかな声で扉を開けた。

「怖そうな人じゃなくてよかったであります……」

「ワタシも驚いたわ。何はともあれ、交渉を進めましょう」

「あ、初めましてでありますっ! 自分は葛城吹雪と申します。こちらはパートナーのコルセア・レキシントンであります。二人とも空京大学の使いとして、パラ実生の方と金の道に関する事で話し合いがしたく、お尋ねしました」

「あらそうなの、私はセシルって言うの。実は金の道に関してはこっちの方も困ってたのよね。じゃ、さっそくお入りなさい」

 セシルに連れられ、吹雪とコルセアは洋館の中に入っていく。

「おおー中は随分と綺麗に掃除されているでありますな」

「たしかに、外観からは想像出来ないくらいまともだね」

「あらあら、お見苦しい所を見せてしまって申し訳ありませんわ。今は内装を掃除中なものでして、外にまでは手が回っていないのですわ」

 セシルは微笑みながら、奥へと進んでいく。そして、洋館の大広間へとたどり着くと、そこには数十人を超えるパラ実生たちが大挙して掃除に勤しんでいた。

「はいはい、みなさん手を止めて。空京大学から金の道に関する話し合いで、使者の方が来てくれましたわよ」

 セシルが手を叩くと、先ほどまで忙しくなく動いていたパラ実生たちがピシッっと直立不動になる。

「パラ実生の皆様方、自分は葛城吹雪と申します。先ほど紹介にあったように、金の道に関する事で話し合いに参りましたであります。金の道はパラ実生の皆様方にとって、聖地として大切な場所であるというのはこちらも理解しておりますが、元々、アムリアナの聖廟としても由緒ある場所であります。どうか、双方にとって良い関係が築けるように努力したいと思っております」

 吹雪がそう言うと、パラ実生の方からも賛同の声があがる。しかし、一部では――

「そうは言っても、空京大学は最近、金の道に大量の警備を集めてるって話じゃねえか。こっちを油断させておいて、一気に主導権を奪っちまおうって狙いなんだろ?」

「その件に関しては大丈夫よ。空京大学教授のアクリト・シーカー氏と事前に話し合い、現在はパラ実生の方達を警備として雇おうという話が進んでいて、実は今回はその事で交渉に来たの」

 抜け目ないコルセアのフォローによって、大広間に集まったパラ実生たちの間から不満の声が徐々に消えていく。が、そんな中でも一人、先ほどから油断なく吹雪とコルセアを見つめる人物がいた。

「って事は今、金の道に警備はほぼいないって事でいいのか?」

 豪胆な態度で、白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)が尋ねる。

「ええ、そうよ。だから空京大学側が一方的に金の道を独占しようって考えはないの」

「はは、こりゃあいい事を聞いたぜ……」

 竜造は口角を大きく歪めてにやりと笑い、大広間から出ていこうとする。

「待ちなさい、白津さん! 一体どこに行く気なのかしら?」

 セシルが止めに入ろうとするが、竜造はそれを無視して悠々と洋館を出ていく。慌ててセシルや吹雪、コルセアが後を追うが――

「もう、消えているですって?!」

「一体、彼は何をする気なんでしょうか……」