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【第一話】動き出す“蛍”

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【第一話】動き出す“蛍”

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幕間
 シャンバラ教導団本校前。
 そこには、現在三つの巨大建造物が佇んでいた。
 一つは特設対策本部として利用されている兵員輸送車。教導団が保有する中で最も大型のものを使っているだけあって、その存在感は圧巻の一言だ。まさに移動司令部と呼ぶに相応しいだろう。
 二つ目はルカルカたちの所有する機体であるヨク。ルカルカの協力者が搭乗する各機が自動撮影やセンター等から得るデータや映像は全て『指揮通信車両化』したこのイコンに自動送信され、淵達はそれをダリル指揮の分析班に自動転送する仕組みが構築されており、全施設に彼女の協力者の参加機があることを活かし、有機的連携を行うのが狙いだ。現在、この機体はルカルカの仲間であるカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)夏侯 淵(かこう・えん)の二人によって運営されている。
 加えて、データで気になる物は選択的にダリルに伝え、通信が妨害された場合はカルキのテレパシーが前線と本部を繋ぐ、また彼らは万一敵が五施設への対応で手薄になった本部に敵が侵入又は襲撃した際の防衛と警戒の役目も持つなど、防衛上の要である。
 そして三つ目は中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)と彼女の魔鎧である漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)の二人が搭乗するディノブレイカーだ。
 ヨクのコクピットに腰かけながら淵は、同じくコクピットに腰かけているカルキノスに切り出した。小柄な淵にとってコクピットは広々とした空間なのに対し、大柄なカルキノスにとっては窮屈な空間だ。存分に手足を伸ばす淵に対し、身体を縮こまらせるようにこじんまりと座るカルキノス。二人は周囲を警戒している一方、特に異常らしい異常は新たに発生しないゆえに暇なので、先程から会話をしていたのだ。
「今回の事件だけどよ」
 そう切り出した淵にカルキノスも乗ってくる。
「ん?」
「実は俺……いや、やっぱやめとくわ」
「気になるじゃねえか。言いかけたんだったら最後まで言うもんだぜ」
「なあ、これから変なこと言うかもしれないけど……怒ったり呆れたりするなよ?」
「なに、気にするな。お前みたいなちみっ子が変なことの一つや二つ言ったところで怒ったりするほど俺は子供じゃないしな」
「ちみっ子いうな!」
「悪ぃ悪ぃ。で、変なことって何だよ?」
「実は俺、さっきから思ってたんだ。このテロ……もしかすると、テロが目的じゃないかもしれない――」
「はぁ? お前何言って?」
「よくよく考えてもみろよ、連中の機体性能を考えれば、たった一機で攻めて来てもこの教導団本校に決して小さくはない損害を与えられるはずなんだ。しかも、敵機の構成はそれぞれが一つの分野に特化した仕様。得手不得手がはっきりしてる上に、様々な得意分野に各々特化した機体が五機も揃ってるんだ。そんな連中が五機で編隊を組めば、互いの苦手分野や弱点を補い合えるから、実質、その戦力は単純にイコンが五機いる以上のものになるはず。でも、連中は一向にそれをしてくる気配がない」
「まずは外堀から――っつーことで、本校以外の施設から順次潰してくって算段なんじゃないのか?」
「だとして、そこにもまた疑問が発生するんだ。仮に外堀の施設を破壊するのが目的だとして、連中の性能なら殆ど時間を要さずに壊滅的打撃を与えられるはずだし、現に五箇所の施設はいずれも甚大な被害を被っている。なのに、五機はどの機体も例外なく最初に襲った施設に留まっているんだ、悠長なことにね。もし、外堀の施設を破壊が目的だったら、もう既に壊滅的な被害は与えたんだから、すぐに別の施設なり、あるいはこの本校に攻め込んできてもいいはずだ。そうでなくても、防衛隊を壊滅させたんだから、余裕を持って撤退できるはずなのに、それもしない」
「つまりあれか、淵……お前は連中がわざと軍事的にガチじゃねえ戦法を取ってきてる――そう、言いてえわけか?」
「ああ。実際、撤退できるのにしなかったせいで、団長の命令を受けて急行した団員や他学園からの救援に補足され、攻撃されることになった。それもひとえに敵が作戦を終えたにも関わらず帰らなかったおかげで、第二陣の急行が間に合ったからだ。でも、これは『テロが目的じゃない』とすれば辻褄が合う」
「さっきから、どういうことだ? 俺にはいまいちわからんね」
「鏖殺寺院はテロリスト。これは当然だよな?」
「おいおい、どうしちまったんだ? さっきから意味不明なことを言ったかと思えば、当たり前のことを言ったり。ちなみに言やァ、鏖殺寺院の連中がテロリスト、そんなの常識だろうがよ」
「その通りだ。まさに常識なんだよ。だからこそ、そこに穴があったんだ」
「もっと解り易く頼むぜ」
「鏖殺寺院はテロリスト。だから破壊や殺害といったテロ行為を目的としている――俺たちはその先入観があった。でも、連中の目的は教導団の組織を破壊することでも、要人を殺害することでもないとしたら?」
「つまり……連中には他に目的があるってことか?」
「その可能性が高い。じゃあ、その目的は何だと思う? 既に十分な戦果は上げ、作戦も完了しているであろうというのに、撤退もせずに悠長に残っていた理由は?」
「そうだな……俺が連中の立場だったとすれば、だが……」
「おおよそ見当が付いたようだな? 聞かせてくれよ?」
「とんでもなく強え奴が襲撃かけてきて、そいつが自分らの手に負えないってんなら、教導団としてはまぁ……助けは呼ぶよな?」
「間違っていないね。それで?」
「あえて助けを呼ばせて、そんで強い奴が出てくるのを待つ――実際、ルカルカや俺らが使ってるこのヨクや、真一郎の鷹皇、白竜の枳首蛇……後は他のガッコの連中が持ってるハイエンド機やカスタム機、そういった高性能なワンオフ機が出てきたのは見ての通りだしな。そんでもって、ソイツらと戦ってブッ倒す。ま、ゲーム感覚で『おれのかんがえたさいきょおいこん』ってのを使ってバトルがしたいだけなのか、それとも何か深い意味があるのか、俺にはわからんね」
「やっぱりそう思うだろ? だから連中はテロが目的じゃないんだ。何かもっと他にある目的――テロはそれを完遂する為の単なる手段に過ぎないんだ」
「鏖殺寺院がネジが飛んだ連中の巣窟なのは今に始まったことじゃねえが、それでもやっぱしイカれてやがるぜ……。しっかし、この短期間でよくまぁ、そこまで見抜いたもんだ。大したモンだぜ。流石は軍師だな」
「ありがとよ。とにかく、この事件……俺たちが思っている以上に裏がある気がしてならないんだ」
 緊急時に際し、即座に連携が取れるように無線を繋ぎっぱなしにしていたこともあって、二人の会話が聞こえていたのだろう。綾瀬が二人の会話に入ってくる。
「お見事な戦術眼ですわね。さぞかし用兵術に長じた御方とお見受けしましたわ。でも、私の見立ては少々、違いますの――」
「お褒めいただきありがとう、って言っておくよ。それで、違うってのはどんな風に?」
「特別な力を持った強力なイコン……それも異なる五機がそれぞれ違う施設を同時に襲撃してきたとあれば、教導団としては戦力を分散してでも援軍に向かわせざるを得ませんわね……」
「ああ。確かにそうだね」
「しかし、敵の本当の目的も分からない状態で、本校……いわばシャンバラ教導団の中枢とも言えるこの場を手薄な状態にしてしまって本当に良いのでしょうか?」
「各施設に救援を向かわせず、そのすべてをここに集結させろってこと? つまるところ、何が言いたいんだ?」
「私でしたら……五機は囮、戦力を分散させた所で本命の部隊を送りこみますわ」
「なるほど。一理あるね」
「シャンバラ教導団がどうなろうか傍観者で在る私には関係のない事ですわ……ですが、あなた方の新しい技術や黒幕にはとても興味ありますの」
「なんだと……!」
「よせ、落ち着けよカルキ」
「もし、この場でシャンバラ教導団が負ければ、それらを観る機会が減ってしまいますわよね? ……ですので」
 教導団本校前で交わされる憶測。
 果たしてそのどれが正しいのだろうか?
 あるいは――。