空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 4(終)『ありがとう、母さん』

リアクション公開中!

終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 4(終)『ありがとう、母さん』

リアクション



「どうか、お願いします! 私と一緒に、バルバトスさんを説得してください!
 このままでは折角結ばれかけた共存の可能性が潰えてしまいます!」


 広場に避難してきた魔族の住民たちへ、遠野 歌菜(とおの・かな)月崎 羽純(つきざき・はすみ)が呼びかける。
 戦わずに共に歩むことの素敵さを、争いは怒りや憎しみの感情を生むだけだということを、大切なものをこれ以上失ってはならないことを、感謝祭に参加した皆さんなら分かる筈だ、二人は魔族にそう訴えかける。
「……。確かに俺たちは、この街で共に生きていくと決めた。大切なものを争いで失うことは悲しいとも思う。
 でも、それでも、俺たちにバルバトス様を説得することは出来ない。俺たちに言葉で、他者をどうこうすることが出来るとは思えないんだ。それが出来るのは、君たち人間だけなのだと思う」
 彼らを代表するように、エインスと名乗った男性の魔族が進み出て、口を開く。
「そんなことありません! 同じ魔族の言葉こそ、バルバトスさんにより届く筈なのです……!」
「……そうだったとしても、バルバトス様が自らの考えを曲げるとは考えられない。そんなバルバトス様はバルバトス様ではない。あの方であれば必ず、最期まで自らの考えに忠実であり続けるだろう」
 歌菜の言葉を退けたエインスが、言葉を続ける。
「もしかしたら、俺たちがこの街で人間と共に生きていく事を、バルバトス様は理解してくださるかもしれない。そして俺たちは、バルバトス様が願っていたであろう世界の実現のために殉じる事を厭わない事を、理解している。そうなればそれは『分かり合う』と表現していいのではないだろうか。
 バルバトス様に限って言えば、『分かり合う』ことと『共に歩む』ことは決して両立しない、俺たちはそう思っているんだ」

 『メイシュロット+』中枢への道を進んでいた歌菜は、広場でのエインスの言葉を思い出し、続けてぶんぶん、と首を振る。
(誰であろうと、例外なんてない……! 手を取り合って、共に歩く未来を……私は絶対に諦めない!
 いいえ、魔法少女として、絶対に諦めさせない!)
 あの後、必死に食い下がったことでエインスたち魔族は、バルバトスに自分たちの言葉を伝えることを了承してくれた。羽純が彼らの傍に付き、自分の携帯を介して言葉を届けてくれる。チャンスが完全に潰えたわけではない。
 駆ける歌菜の目の前に、数体の羽を持つ魔族が現れ、侵入者を撃退せんと槍を向ける。
「退いて! 私は絶対に、バルバトスさんの所へ辿り着かないといけないの!」
 両手に槍を持ち、鬼神の如き勢いで歌菜が魔族の集団へ飛び込んでいく――。


(……なんだって、よりにもよって、『これ』なのよっ!!)

 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)の繰り出した拳が、『メイシュロット+』の建造物を一撃の下に打ち砕く。バラバラと落ちる破片を回避しながら突撃する羽持つ魔族の攻撃を受け止め、兜を掴んで地面に叩き付ける。
(姫子君1人が悪の化身、それを倒せばめでたくハッピーエンド。……そう思えたら楽かもしれないけど、私はそうは思わない。私と同じ契約者の中にも、どう見たって犯罪者としか呼べない人がいて、けれど世界はなんとなく回っている。
 ……でも! 『これ』を持ち出して来るなんて、ひどいわ! 『これ』があるから、私は姫子君が書いた筋書き通りに、『悪の化身を滅ぼす正義』を演じなきゃいけなくなる!)
 鎧の効果を発揮させるために紡ぐ声、その声を耳にしたリカインは、我ながら酷い声だな、と思う。
(馬宿君、君には私の『声』がどう聞こえる?
 私の心の叫びが、君には聞こえるのかな?)
 多分、聞こえるのだろうな、とリカインは思う。もしかしたら聞きたくなかったのに、聞かせてしまっているのかもしれない可能性が、リカインの心をきつく縛り上げる。馬宿君の傍にいてサポートをしていたら、こんな自分は見せなくて済んだんじゃないか、そうとさえ思う。
(何を言っているの? 告白の返事を聞くのが怖くて逃げ出したのは私自身のくせに)
 そうだ、だから私はここで、声を枯らして破壊を振り撒いているんだ。
 結局私は、こういうことしか出来ないんだ――!

 悪の栄えた試しなし
 されど滅んだこともなし


 悲痛な叫びは、建物が崩れ落ちる轟音に掻き消える――。


●イナテミス

「…………」
 『イナテミス精魔塔』の天辺で、聞こえてくる『声』に耳を傾けていた飛鳥 馬宿が、沈痛な面持ちで目を伏せる。
(……たとえ魔法少女であっても、『誰もが手放しで喜ぶハッピーエンド』は満たせないことは、当の豊美ちゃんが一番良く分かっている。何かを捨てる覚悟を持っていなければ、全てを守ろうとすれば黄泉に送られるのは豊美ちゃんであり、俺なのだ)
 故に、リカインの叫びが(それはここにいる多くの者が思っていることでもあった)聞こえたとしても、豊美ちゃんに『姫子様のことはどうか、大赦を』とは言えない。それは豊美ちゃんを補佐する者の言葉ではない。
(……さりとて、全てを望む心そのものを否定は出来ん。それこそが人を限界以上に動かす力でもあるのだから)
 だから、馬宿は『願った』。魔法少女でも満たすことが出来ないハッピーエンドを、豊美ちゃんが見せてくれることを。

 悪の栄えた試しなし
 されど滅んだこともなし


 聞こえてきた『歌』を口ずさみ、馬宿はもう一つ、願う。
(リカイン、必ず、生きて帰ってこい。
 その時、俺は――)

 風が馬宿の頬を凪ぐ――。


(魔王パイモン、貴方はそこでなにを迷っているのですか……?
 守らなければいけないモノはなんですか? 大事にしなければならないものはなんですか?)

 中枢への道を守る羽持つ魔族へ沢渡 真言(さわたり・まこと)が弾幕を張り、同行するティティナ・アリセ(てぃてぃな・ありせ)三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)に攻撃が行かないように立ち振る舞う。
(ケイオース様、お言葉、とても嬉しかったですわ。
 ええ、必ず戻りますわ、その時はお互いに無事を祝い合いましょう)
 『メイシュロット+』への出発前、イナテミスを離れる事が出来ないのを残念がりながら「必ず戻ってきてくれ」と声をかけたケイオース・サイフィード(けいおーす・さいふぃーど)に感謝の気持ちを思いながら、ティティナが歌声を響かせ、呼ばれるようにやって来た幻影騎兵が魔族と対峙する。
(イナテミスで、子供達が種族に関係なく遊ぶ姿を見ました。その先の未来をどうか、守ってくれませんか?
 ……貴方は、この地を治める王でしょう!?)
 一刻も早く辿り着き、今心に抱く言葉を言いたい気持ちを抑え、真言が仲間たちと共に確実な前進を達成する。
 ……一つ、のぞみの様子が気がかりではあったが。

(一部とはいえあっさり魔族に敵対されちゃってさ、この半年何をやってたんだろうって、悲しくもなるよ。
 たそがれてる場合じゃないって分かっててもね!)
 やり場のない怒りを、どこにぶつけてやるべきかのぞみは思う。魔族にはぶつけられない、自分にぶつけられるほど自分は人間出来てない。
(戦ってからでないと話し合えないってパターンはもう済ませてるんだから、そっちの都合に魔族を巻き込まないでよね!)
 そういう次第で、のぞみは『こんな展開にした誰か』を想像して、その人物に怒りをぶつけることにした。想像の人物だから大丈夫だろう、言い訳を添えて。
(……随分とお怒りのようですね。まあ、背景は何にせよ、同族が利用されているのは決して気分は良くないですが)
 追随するロビン・ジジュ(ろびん・じじゅ)が心に思いつつ、今はのぞみのことを第一に考える。機嫌を損ねているのぞみを見ているのは、同様に気分が良くないから。
(今度は余り物ではなく、ちゃんとそれ用の花束を送りましょうか)


「陽太様、ノーン様。この先に敵魔族の集中する場所があります。さらにその先が中枢へと続いているようですが、いかがいたしますか?」
 舞花が、籠手型と銃型のハンドベルトコンピューターを駆使し、メイシュロット+内の地理を反映した地図を映し出しながら、これからの方針を陽太に尋ねる。
(一人で突っ込んでも、意味がない。中枢になるべく早く、より多くの魔法少女を向かわせるには、この先に待ち構えている近衛隊の相手をする必要がある)
 後方から迫る仲間の気配を感じつつ、頭の中で方針を組み立てた陽太が、ノーンと舞花に向き直って言う。
「二人は後方で仲間の援護を。俺は前に出て盾になります」
 あえて『俺』と強い言葉を用い、二人の制止を振り切り、陽太は前へ進む。
(無茶をしに行くわけじゃない。無事に環菜の元に帰るために行くんだ!)
 直ぐに、純白の羽を持った魔族が陽太に気付き、槍の先端から魔力弾を発射する。掲げた盾でそれらを受け止める陽太、既に脚は震え、逃げ出したい気持ちが湧いてくる。
(ここで逃げたら……俺は一生駄目人間だ……! それでいいのか、御神楽陽太!! 逃げるな、踏みとどまれ!)

 一番大切な物、それは何?
 一番大切な人、それは誰?

 誰でも知ってる 誰でも持ってる
 自分だけの宝物 マイトレジャー!

 思い出そう 大切な夢を!
 見つけ出そう 大切な人を!

 みんなで駆け出す マイジャーニー!!


 背中を支える力をくれるノーンの歌が聞こえ、次いで仲間たちが戦線に加わる。
「おにーちゃん、がんばって!」
「支援はお任せください!」
 ノーンと舞花の声援が、陽太に立ち向かう力を与える。
「俺は……負けない!」
 陽太が一歩踏み込み、槍を突き立てていた魔族を押し返す。そこに仲間の攻撃が入り、手傷を負った魔族が後退していく。