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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 4(終)『ありがとう、母さん』

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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 4(終)『ありがとう、母さん』

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 イルミンスールの施設目指して、複数の魔族が一団となって突き進む。――直後、先頭の魔族が上空を通り過ぎた何者かに羽を切り落とされ、地面を転がる。

「完全武装! シュヴェルトライテ!」

 脚につけた刃を煌めかせ、ノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)が名乗りをあげる。
「世界樹イルミンスールを侵すならば、それを除くがザンスカールのヴァルキリーの務め。
 望、華町! さっさと片付けますわよ!」
 背後の風森 望(かぜもり・のぞみ)葦原島 華町(あしはらとう・はなまち)に言い、ノートが先陣を切る。 背中の翼、手にした剣が光を放つたび、手足や翼を切り裂かれた魔族がもがき、苦しむ。それでも数の上で優勢な魔族は怯まず、ノートの攻撃を避けて望へと向かう。丸腰の相手など鎧袖一触、そう思っていた魔族は次の瞬間、望がスカートから長大な銃を取り出すのを目の当たりにして驚愕する。
「どこにそんな武器が――」
 言葉はそれ以上紡がれず、弾丸を浴びた魔族は中身を盛大にぶちまけて吹き飛んだ。
「お引き取りくださいませ。……さもなくば、実力行使と参りますよ」
「言った傍から撃ってるというのは突っ込んだらいけないでござるか!?」
 どこまでも無慈悲に、望が弾を込め魔族を撃ち抜く。ノートも見た目は派手でいかにも戦いという有り様だが、やってることに大差はない。
(拙者、お二人ほど強くないでござるからなぁ……)
 最も後方に位置していた華町がそんなことを思うと、突如目前に一つの影が
現れる。いつの間に、と思う間もなく振るわれた必殺の一撃を、華町はほぼ無意識に回避する。
「逃したか……だが、お前は俺の敵ではない」
 それまでの魔族とは明らかに異なる雰囲気を纏う魔族に、華町は恐怖を感じながらも踏みとどまり、言い放つ。
「主殿に任されたのでござる……普段と違い、真剣な顔で、力を貸して欲しい、と」
「ほう……逃げぬか。敵わぬと分かっていてもか?」
「敵う敵わぬではござらぬ! これは拙者の信念と覚悟の問題ゆえ……退く訳にはいかぬでござる!」
 刀を抜き、構える華町。
「なるほど……敵ながら見所のある。最期にお前と合間見えたこと、嬉しく思うぞ」
 魔族も余興か、腕の刃をカタナ状にして対する。戦場の中でそこだけ、静かな風が吹く。

「……!」
 先に魔族が動く、振るわれるカタナ、返す刃を感じるままに華町が避ける。

「ノート殿直伝!
 奥義! 氷葬刃!

 華町の刀が魔族の急所を捉え、次いで生じた冷気の刃が追い撃ちをかける。
「ぐふ……見事、だ……」
 賞賛の言葉を最期に、魔族が崩れ落ち、地面に伏せる。
「……拙者など、まだまたでござるよ」
 死せる魔族に手向けの言葉を送って、華町が背を向ける――。


(娘達の帰る家を荒らそうとする馬鹿どもめ、地上から消し去ってやる……と言いたい所だが、それは教育上問題だな。
 敵は外と内とで分散している、なら、付け入る隙はいくらでもあろう)
 包囲されているというイルミンスールへの道を急ぐアルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)、背後では司馬懿 仲達(しばい・ちゅうたつ)が不安げな表情の『聖少女』たち――ミーミル・ワルプルギス(みーみる・わるぷるぎす)ヴィオラネラ――にこれからの方針を伝えていた。
「今の状況は確かに危機だが、ここは寧ろこう考えると良い。『指揮官は素人、しかも急所が丸出しだ』とな」
「そうなんか? 随分手際よくイルミンスールを囲んだと思うんやけどなあ」
「囲んだだけで、奴等は何も得とらんよ。戦力を一点に集中し一気に世界樹内部を占拠、天子……イルミンスールの場合は校長の身柄を確保してしまえば良いものを、わざわざ戦力を分散させた上、奇襲なのに変な美学か何かで時間をかけて攻めてくれとる」
「なるほど……確かに、母さんは無事だ。もし母さんを盾にでもされたら、私たちに何が出来ただろうか」
 仲達の言葉に、ヴィオラが納得したように頷く。かつて自身がクーデターを起こした時にに比べれば、今回の魔族の行動はひどく稚拙に映っただろう。
「外の敵を突き崩し、世界樹内へ向かう後続を断ってしまえば、恐らく世界樹内の敵は浮き足立って総崩れになるだろう。危機でも主力がある程度自由に動ける状態ってのは、案外悪くない状況なのだよ」
「はい、ありがとうございます。それで、私たちは具体的にどうすればいいでしょうか」
 ミーミルが尋ねた所で、エヴァ・ブラッケ(えう゛ぁ・ぶらっけ)の警告が聞こえてきた。
「魔族がこっちに気付いたみたい。群れをなして向かってくるわ」
「やれやれ、こういう時の動きは早くて厄介だな。まあ、君らは派手に暴れてくれたらいいよ。『魔法少女』という新たな敵に外の部隊が押されている、その事実は中の敵を確実に混乱させるからね。戦い方についてはシグルズ君に任せた」
 仲達に『任された』シグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)が、ミーミルたちの前に立ちつつ言う。
「任せたとは言うけど、僕から言えることは、不用意に突っ込み過ぎないこと、そのくらいかな。これが屋内での戦いなら、もっと言うべき事があるけどね。案外技術がいるんだわ」
「あー、なるほど。ちびねーさんが本気出したら、イルミンスールが壊れてまうもんな」
「そういうこと。世界樹内では君らは全力を出せない、でも外でなら話は別だ。こうして外に誘い出されたのは、全力で戦えると言う意味ではむしろ幸運なのさ。盾は僕が務める、君たちは存分にやるといい」
「よっしゃ! そういうことならねーさん、とっておきのアレ、見せたろ!」
「あ、アレをやるのか? お前はいいかもしれないが、私は結構恥ずかしいんだぞ」
「気にしたら負けやで! ほな、いくでー!」
 言ったネラの、背中から銀色の羽が伸びる。遅れてヴィオラからも同じように黒色の羽が伸びる。

「銀翼の魔法少女、ネラ!」
「こ、黒翼の魔法少女、ヴィオラ」
「白翼の魔法少女、ミーミル……えっと、銀と黒もありますけど」


『聖魔法少女ワルプルギス、行きます!』

 魔法少女な名乗りを挙げ、三人はまずアルツールの放った強烈な光に視界を奪われた魔族の一群へ攻撃を加える。
「敵だ! すぐに応戦しろ!」
「は、羽を持っていやがる! バルバトス様の配下か!?」
「だったらなんでこっちを襲うんだ! 敵に決まっているだろう!」
「お、恐ろしい……!」
「クソッ、このままじゃ全滅だ! おい、中に救援を要請しろ!」
「わ、分かりました!」
 攻撃を受けた魔族の一部が、救援を願いに戦線を離脱する。
(そう、これでいい。外で目立つ戦力によって、中の魔族が危機を抱けばこちらに戦力を振り向ける。そうなれば中の戦力は低下する。イルミンスールの蹂躙を防げる)
 抵抗線を張ろうとする魔族へ、アルツールは召喚した雷鳥を放って追い散らす。なおも逃れようとする魔族は、エヴァの生み出した光に身体を焼かれ、後方へ退いていく。
(これだけ敵が広範だと、一、二カ所をどうにかした所で大した変わりは無い……。
 もどかしいけれど、今は相手を混乱させそれをできるだけ広い範囲に広げて、内部にいるみんなが少しでも多く反撃の機会を掴める様にするしかないわね)

 彼ら、そして聖少女たちの奮闘が続く――。