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邪竜の眠る遺跡~≪アヴァス≫攻防戦~

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邪竜の眠る遺跡~≪アヴァス≫攻防戦~

リアクション

 それは予想外で、『突然の出来事』だった。

 捜索隊の物と思われる足跡を追って遺跡を進んでいた東 朱鷺(あずま・とき)
 【歴戦の生存術】のなどを駆使して罠を掻い潜り、いつの間にか最深部近くまで来ていた。
 そんな時、通路の片隅で物音がする。
「おや? もしや、捜索隊の方でしょうか?」
 朱鷺は足を止め、何らかの反応を待ってみた。
 しかし、待っても一向に返事はない。ただ、崩れた彫像の陰から音が聞こえるだけ。
 不審に思った朱鷺は、彫像を回り込むようして、できるだけ音を立てずに近づく。
 その間、聞こえてくる音は徐々に大きくなっているようだった。
「……誰も、いない?」
 だが、いざ回り込んでみても、そこには誰もいなかった。
 朱鷺は周囲を見渡してみたが、自分以外に誰かが隠れている様子もない。
 不自然に思っていると、またしても物音がした。
 朱鷺が音のした方を見やると、床の一部が下から突き上げられて動いていた。
「やっぱり、何かいるみたいですね……」
 武器を取り出し、身構える朱鷺。
 すると、邪魔だった石板を押しのけ、床下から何者かが這い上がってきた。
 異臭を放つその者は、全身にボロボロの包帯を巻きつけ、隙間から見える体は死者の物かのように腐食していた。
 その者は遺跡に住まうミイラ――≪徘徊するミイラ≫だった。
 ≪徘徊するミイラ≫がヨロヨロと立ち上がると、両手を伸ばして朱鷺に襲いかかる。
「どうやら敵ということで間違いないようです、ねっ!」
 朱鷺は裂神吹雪を剣状にすると、≪徘徊するミイラ≫の胴体を真っ二つにした。
 上半身を失った≪徘徊するミイラ≫は、数歩歩いたのち朱鷺にぶつかって倒れ、そのまま動かなくなった。
「これも『罠』なんでしょうか?」
 すると、今度はあちらこちらから物音が聞こえてくる。
「まずいですね……先を急ぎましょうか」
 朱鷺は遺跡の中を駆け出した。
 次々湧き出てくる≪徘徊するミイラ≫を切り裂き、あるいは回避して走り抜けた。
 そして、最深部にたどり着き――
「さむっ!?」
 あまりの気温の変化に身体を震わせた。
 なぜか最深部にだけ雪が積もっている。というより、雪が吹き荒れていた。
 その中で、動く生徒の姿が見えた。
「ん? やぁ、よく来たね!」
 それは≪三頭を持つ邪竜≫の心臓を回収しにきていたエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)だった。
 エースは全身についた雪を軽く掃いながら朱鷺に近づくと、どこからともなく真っ赤な薔薇を取り出した。
「よろしければ、どうぞ」
「どうも……」
 人の良い笑みを浮かべて差し出された薔薇を、朱鷺はあまり興味なさげに受け取った。
 朱鷺が視線をエースから吹雪で先の見えない最深部へ向けた。
「これはなんなんですか?」
「これ? ああ、雪のことだね。
 これはなんていうか、あれのせいかな?」
 エースが吹雪の向こうを指差す。
 朱鷺は何かあるのかと目を凝らすと、蠢く巨大な影が見えた。それはまるで――
「雪だるま……?」
「メシエの話だと、この遺跡を守るためのガーディアンらしいね。
 これがまた厄介で物理攻撃は効かないし、そこら中に雪をばら撒くから戦いにくいしさ。ほんと、困るよね」
 エースが苦笑いを浮かべながら話した。

 ガーディアンは本来機能を停止して動かないはずだった。
 しかし、何らかのスイッチが入ったおかげで起動してしまい、エース達はどうにか心臓を確保しようと、ウルディカ・ウォークライ(うるでぃか・うぉーくらい)を守りながら戦っていた。

「よかったらお手伝い願えますか?」
 エースの質問に朱鷺は首肯し、ガーディアンとの戦いに参加することになった。

******


 何らかのスイッチによって発生したのはガーディアンと、もう一つ。朱鷺が遭遇した≪徘徊するミイラ≫もそうだった。
 ≪徘徊するミイラ≫は遺跡のあちこちに出没していた。
 それは最深部に向かう生徒達を妨害するだけでなく、捜索隊を遺跡外に逃がそうとした生徒達にとっても、大きな障害になっていた。

「いやはや、結構な数ですねぇ」
 レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)は次々と向かってくる≪徘徊するミイラ≫を薙ぎ払いながら、苦笑いを浮かべていた。
「レティ、もうすぐ出口ですから頑張って!」
「了解です。もうひと踏ん張りしましょうかね!」
 レティシアはミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)から援護を受ける。
 背後では救助した捜索隊が不安そうな表情でレティシア達を見つめていた。
「ここで負けるわけにはいかないですよね……。
 北都さん、その人たちの護衛は任せましたよ!」
「いいですよぉ」
「では、あちきは勇猛果敢に突っ込ませてもらいましょうかねぇ!」
 レティシアは護衛を清泉 北都(いずみ・ほくと)に任せ、ミスティと共に≪徘徊するミイラ≫の集団へと突っ込んだ。


******


 そんなあちこちで戦闘が行われている中、ミッツ達はなぜか≪徘徊するミイラ≫と遭遇せずに最深部へとたどり着いた。
 そして――
「なんじゃ、この雪は!?」
 降りしきる雪に驚き、呆然とした。
 そんな時、吹雪の中からグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)がミッツ達の所へ走ってきた。その手には錆びついた金属製の宝箱を抱えていた。
「お、丁度いい所に来たな。
 それじゃあ、これ頼むわ」
 グラキエスは宝箱を、強引に近くにいたリネン・エルフト(りねん・えるふと)へと押し付けた。
「あの……これは?」
「心臓だよ。探してたんだろう?」
「マジか!? おい、見せてくれ!?」
 グラキエスの言葉に興奮を隠せないミッツは、目を輝かせて宝箱を見つめていた。
 すると、リネンは少し困った表情でグラキエスを見つめた。
「罠が心配?」
「ええ、まぁ……」
「安心してくれ。罠も鍵もすでに外してある」
「そうですか」
 リネンはホッと胸を撫で下ろした。
 安堵したリネンは、急かすミッツの傍に寄る。
 そして、ミッツが大粒の唾を飲みこむ中、鍵の外された宝箱をリネンがゆっくりと開いていった。
「…………」
 宝箱から魔力が溢れ、重苦しい空気が周囲を包む。感じていた寒さとは別の鳥肌が立ち、自分の物とは違う心臓の音が生徒達の頭の中に響いてきた。
 宝箱の中で人の頭ほどの心臓が、聞こえてくる鼓動と同じリズムで脈打っていた。 
 ――数秒間、開かれていた宝箱の蓋が閉められ、ミッツはいつの間にか止めていた呼吸を再開した。
「間違いない。本物だ」
 ミッツはグラキエスの目を見て頷いた。
「確認できたみたいだな。だったら先に脱出してくれ。
 ここは危険だからさ」
「危険?」
 ミッツが尋ね返した時、奥から巨大な雪だるま型のガーディアン――≪積雪のガーディアン≫がミッツ達の方へ向かってきた。
「ま、そういうことだ……」
 グラキエスはアクティースを取り出して構える。
「いいから早くいけ!」
「わ、わかった」
 ミッツ達はグラキエスにこの場を任せて、遺跡を脱出することにした。
 地図を確認しながら来た道を引き返す。
 すると、ミッツ達はそこで初めて≪徘徊するミイラ≫と遭遇した。
「今度はなんなんだよ!?」
 困惑するミッツ。
 そこへ箒に乗った遠野 歌菜(とおの・かな)が槍で≪徘徊するミイラ≫達を薙ぎ払いながら現れた。
「歌菜!」
「ミッツさんご無事で! その宝箱、例の心臓が入っているんですか?」
「そうそう。悪いだけど、脱出するの援護してくれないか?」
「いいですよ!」
 歌菜は箒から降りてミッツ達の目の前に立つと、精神を集中させた。
「いきます! 凍てつく嵐よ! 立ちふさがる者を永久の眠りへ誘え! 
 ブリザァァァァド!!
 歌菜の叫びと共に氷の嵐が、ミッツ達の進行方向にいた≪徘徊するミイラ≫達へと襲いかかり、瞬く間に氷漬けにしていく。
「羽純くん、いまよ!」
「任せろ」
 歌菜の呼びかけに答えて、箒に乗った月崎 羽純(つきざき・はすみ)が≪徘徊するミイラ≫達の中央へと舞い降りる。
 羽純が両手に槍を構えた。
「いくぞ! はぁぁぁぁぁぁ――!!」
 そして、羽純は大きく深呼吸すると、両手を振り上げ、身体を捻りながら槍を――振り下ろした。
 瞬間、槍から発生した衝撃が氷漬けになった≪徘徊するミイラ≫を打ち砕き、さらにその先にいた≪徘徊するミイラ≫も衝撃と飛び散った破片が貫いていく。
 気づけば一瞬のうちに、大量に道を塞いでいた≪徘徊するミイラ≫達がただの氷の破片へと化していた。
「道は開いた。さっさと脱出しないと次がくるぞ」
 羽純は箒に乗り直しながら、笑って言った。
「サンキュー」
 ミッツ達が出口に向かって進みだす。
 出口まではまだまだ距離があるが、皆がいればどうにかなるだろうとミッツは思っていた。
 その時、横に並んだ羽純が尋ねる。
「なぁ、ミッツ」
「なんだい?」
「あんた、そんなに足が――」
「頼むからもう放っておいてくれ……」
「?」
 ドンヨリ俯くミッツに、羽純は不思議そうに首を傾げていた。