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リアクション
★プロローグ★
四角い石が2つ。仲良く並んでそこにあった。石には名前と年月が彫られている。
「君は、私をおろかだと思うかい?」
イキモが石の前に立って、石へ向かって静かに話し始めた。愛する妻へ、報告すべきことを。
「……君のことだから、思い切り殴られそうだね」
力強い妻の姿が簡単に思い浮かび、イキモは殴られてもいないのに頬を撫でて苦笑した。殴られるようなことをする、自覚が彼にはあった。
「大勢の人たちに憎まれるだろうね。たくさんの方に迷惑をかける。私はそれだけのことをする。
それでも私は、そんな私でも、あいつに幸せになってほしいと、そう思う……おかしいのかなぁ」
首をかしげて考え込んだイキモは、「少なくとも甘い! と怒られそうだ」と再び苦笑する。
その際に胸元からかさりと音がした。紙がこすれる音だ。
イキモはそこにあるものを確かめるように手を胸に当て、目をつむった。穏やかな表情だった。
「ああ、それから……もうここに来れなくなるかもしれないから、言っておくよ。……愛しているよ、ずっと」
再び目を開けた彼は妻へと愛を告げ、彼女に背を向ける。
前をしっかりと見据えた青い瞳は、決意に彩られていた。
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