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第2章 夏の麺対決!

 その髪は長く長く美しく、そして白かった。
「ワタシは……巫女」
「いや」
「そうめん寺で修行した、そうめん巫女!」
「いやいやいや、男だから」
 兄の佐々木 八雲(ささき・やくも)のツッコミなど聞いちゃいない、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)
 そうめんと化した長く白い髪の毛を振り乱し、ウイルスに立ち向かう。
 しゅるしゅるしゅる。
 そうめんが伸びる。
 ウイルスに向かって。
「ギャギャー!」
 そうめん巫女を名乗るだけあって、麺のコシは完璧。
 ウイルスたちを次々と縛り上げて行く。
「ふふふ……さすがはそうめん。最強の夏の麺!」
「聞き捨てならんな」
 恍惚と呟く弥十郎の言葉に、反論した人物がいた。
「誰だい?」
アキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)。俺の『冷死厨火』こそが究極にして至高!」
「冷やし中華?」
「いいや。『冷死厨火』だ!」
 『拘束麺』の鎧でその身を覆い、各種具材を武器にしたアキュートが弥十郎の前に立ちはだかる!
「暑い夏のはじまり。落ちた食欲を呼び覚ます。冷たく美味しいこの麺を見よ!」
「聞き捨てならないねぇ」
 アキュートの言葉に、弥十郎のそうめん魂が燃え上がる。
「さっぱりとした食感。他の麺では味わえないコシと喉越し。思わず喉が鳴るその旨さ! 白くつやつやした美しさと共にあらゆる面で素晴らしい麺こそ、そうめん!」
 ばちばちばち。
 二人の間に、火花が散った。
 さあ、どっち!!
「キー!」
 3匹のウイルスが、冷やし中華の札を上げる。
「キキー!」
 3匹のウイルスが、そうめんの札を上げる。
 引き分け!?
「っていやいやいや、そんな所で争ってないで。早くウイルスを倒そう、な、な?」
 最早ツッコミも追いつかない。
 八雲は二人の間に立って、なんとか仲裁しようとする。
 そんな彼の出で立ちは、馬刺し。
 タテガミ部分はゼラチン質でぷるぷるだ。
「そうだな。ならば倒したウイルスの総数で勝負するか?」
「望むところ」
 やっと二人が前向きな方向で合意した。

「はぁあ!」
 アキュートの体が宙に舞う。
 細切りチャーシューの翼で羽ばたいたのだ。
「くらえ、ニードルシャワー!」
「アギューッ!」
 千切りキュウリのシャワーがウイルスたちを次々と倒していく。
「ふっ……四川風辛味噌ダレの実力を見たか」
 地面に降り立ったアキュートは小さく嗤う。

「くっ……所詮は具。こちらは麺そのもので勝負」
 弥十郎の髪と同化したそうめんが、伸びる。
 ウイルスに向かって。
「む?」
「ブブブブーッ!」
 数匹のウイルスが、合体した。
 大きくなったウイルスは、弥十郎の髪の毛そうめんをキャッチ。
 髪の毛は封じられてしまった。
「どうした? 自慢の麺もその程度か?」
「まだ……ですよ!」
 弥十郎の顔がウイルスの方を向いた。
 その、眉毛が!
 弥十郎の眉毛も、そうめんと化していた。
 髪よりも細くコシが強いそれが、巨大ウイルスを縛り上げる。
 それも、たったの1本で。
「これが、真のそうめんの力です」
 ウイルスを縛り上げるのに全力を使ったため、抜け落ちた眉毛を押えたまま、弥十郎が言ってのける。
「やるな……しかし冷死厨火の真の力はこれからなのだよ」
「こちらもです」

 麺対決はまだまだ続く。

「やれやれ……私は、あそこに混ざらなくてもいいわよね」
 一部始終を見ていた月美 芽美(つきみ・めいみ)は小さくため息をつく。
 その姿は、ナポリタン……パスタ。
「私はそれより、楽しいコトしましょ」