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第4章 親玉の元へ

「雅羅さん、危ないっ!」
 ぼよんっ。
 雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)の前に飛び出したのは想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)
 夢悠の体に装備された桃の実が、ウイルスの攻撃を弾き飛ばした。
「大丈夫?」
「あ、ありがとう」
 夢悠の後ろに庇われた雅羅の声が聞こえる。
(ああ、雅羅さんの役に立ってうれしいけど、出来れば後ろはあまり見ないで欲しい……)
 夢悠は、桃のシロップ漬けと合体していた。
 大きな桃の実の形の衣装。
 ズボンのお尻の部分には、大きな桃。
 しかも尻尾のように葉っぱが一枚。
 その葉っぱが今、雅羅の鼻先でひらひら。
「と、とりあえず早く戦いを終わらせなきゃ! ウイルスを操ってる親玉はどこだ!」
 慌てて雅羅に向き直る夢悠。
 周囲では、まだウイルスとの戦闘が行われている。

「イナゴー、キック!」
 背中に羽のある黒いスーツに身を包み、ウイルスと戦っているのはアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)
「よし、決まった!」
 ポーズを決めるが隣のルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)からかけられた声は。
「キショイのう……」
 何しろ、彼が合体しているのは、イナゴ。
 イナゴの佃煮。
 着ているスーツはバッタのような、イナゴスーツ。
 初めて見た時、ルシェイメアは思わず敵と間違えて攻撃をしかけてしまった程の。
 そんなルシェイメアは、寸胴な円柱系のスーツに身を包み、緑色の帽子を被っている。
 湯呑と、お茶っ葉の帽子。
 そう、彼女はお茶と合体しているのだ。
 時折隣のヨン・ナイフィード(よん・ないふぃーど)をちらちらと見ては、少し悲しげにため息をつく。
 ヨンが身につけているのは黄色と茶色の混ざったスカートに、真っ白ふわふわな帽子、ワンポイントでさくらんぼが乗っている。
 彼女が合体したのは、プリンアラモード。
 甘く女の子らしい恰好。
「えいっ、イチゴ爆弾!」
 どかーん!
「キウイ手裏剣!」
 しゅしゅしゅしゅ!
(攻撃手段も、可愛らしいのう……)
 ルシェイメアは自分の手元を見る。
 握られているのは、巨大な急須。
 これを振り回したり、お茶をかけて戦う自分。
(……いや、食べ物だけでなく、飲み物は必須。我慢、我慢じゃ)
 自分に言い聞かせるルシェイメアだった。
「……これじゃあ埒が明かない。よし、必殺、召喚!」
 大量のウイルスを前に、アキラは両手を上げた。
 ぶ……
 ぶぶ……
 どこからか、鈍い音が聞こえてきた。
 遠くから、黒い雲。
 いや、あれは雲ではない。
 イナゴだ。
 イナゴの大群が、アキラの召喚に応じてやって来たのだ。
「食らいつけー!」
「ギギギギギギギー!」
「ウギャギャギャギャー!」
 ウイルスたちに襲い掛かり、食らいつくすイナゴたち。
「うわあ……」
「まあ……」
 その光景に思わずどん引く夢悠と雅羅。
 ルシェイメアたちも思わずアキラから数歩離れる。
「ギキキキキー!」
 数匹のウイルスがイナゴから身を離し、逃げ出した。
「逃がすか! イナゴ、奴らを追跡しろ!」
 ぶぅん……と、数匹のイナゴがウイルスを追いかけた。
「よし、こっちか。奴ら、親玉の所に行った筈。追いかけるぞ!」
「お、おぉ」
「あ、うん……」
「どうした!?」
 走り出すアキラを、仕方なくといった風について行くルシェイメア達。
「雅羅さん、オレ達も行こう」
「そうね」
 夢悠と雅羅もそれを追いかけた。
「待てよ、オレも行くぜ!」
 大剣を構えたキロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)も、慌てて後を追う。


「さあ、あたしのおいしい料理で元気になるのよ!」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は、セキュリティプログラムたちに自作の料理を振る舞おうとしていた。
「え……」
「あ……」
 目の前に差し出された料理を見て、困惑するプログラム達。
 何しろそれは、先程の発酵料理の異臭とは比べ物にならない程の異臭を放ち、黒焦げを通り越してレインボーの色合いを持った食べ物。
 これが一体何なのか、作った当人でも分からないのではないだろうか。
「あー、せ、セレン! セレンのおいしい料理は、ウイルスの悪玉にこそ通用するものよ。せっかくの料理なんだもん。ボスとの対決で使いませようよ」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が、苦しい理由をでっち上げてセレンフィリティの料理を引っ込める。
 ほっとした様子のプログラムたちだが、一番ほっとしているのは惨劇を回避したセレアナだ。
「よーし、そんじゃ悪者をやっつけに行くわよー!」
「あ、ほらあれよ。あの集団がボスの所に行くらしいから、同行しましょう」
「おー!」
 セレンフィリティの気持ちが変わる前にと、急いで彼女の背中を押してアキラ達に合流するセレアナだった。