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リアクション
<part3 肝試し>
調査団が妖怪たちを調伏しながら山を登っている一方で、事件のことはなにも知らずふもとに集まっている者たちもいた。
「夏といったらやっぱり肝試しよね! どっちのペアが先に頂上に着くか競争よっ♪」
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は大はしゃぎで言った。
「無駄に元気がいいな……」
ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が呆れる。
「しっかりエスコートお願いね」
リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)がにっこりとダリルに微笑みかけた。
「やれやれ……」
ダリルはリリアと肩を並べ、登山道を出発する。
エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)がルカルカの顔を見やった。
「それじゃ、俺たちも行こうか」
「うん!」
ルカルカは楽しそうにうなずいた。
「その前に……これをどうぞ、お嬢さん」
エースはルカルカにミニひまわりのプチプーケをプレゼントする。
「わー、ありがと!」
「いえいえ。夜の闇でも君の明るさが道を照らしてくれるよ」
エースは上品に笑った。決して口説いているわけではなく、彼にとってはこういうのが普通の挨拶なのだ。
二人はダリルたちとは別のルートを選んで山道を進んでいく。
遠くでなにやら人の怒鳴り声が聞こえているが、二人はもちろん調査団が戦っていることなど知らない。パチパチと木の枝を踏んで、虫の鳴く森を歩いた。
さすが四つ墓山と呼ばれるだけはあって、そこかしこに主も分からぬ墓がある。道すがら、エースは古びた墓にガーベラを一輪ずつ供えていった。
それを見てルカルカがおかしそうに目をきらめかせる。
「いっぱい花持ってきてるねー。お花屋さんにでもなったら?」
「それもいいかもしれないね」
エースはそつなく返したが、普段の覇気がない。足取りにも今ひとつ力がなかった。
ルカルカは心配になる。
「どうしたの? なんか元気ないけど」
エースが弱々しい声を漏らす。
「……いや、ルカたちを見ていたら、いつも家族みたいでいいなって思ってね。俺もメシエと家族みたいになりたいのに、向こうはそんなつもりがないらしくて。どうやったらなれるのかな?」
ルカルカは首をひねった。
「うーん、どうやったらっていうか……理屈や打算でなれるものじゃないでしょ。気持ちでなるんだもん」
「打算、か。打算じゃない関係になるには信頼とかいろいろ足りないのかな。元々、メシエは俺を食糧ぐらいにしか思ってないみたいだし」
ますます凹むエース。
ルカルカは慌ててフォローする。
「で、でもほら! 大事なのは愛だよ! エースがメシエのことを好きって気持ちをずっと強く持ってれば、いつか伝わるし繋がるよ! ネバーギブアップだよ!」
「……うん、そうだね。どうしたら打算じゃない関係に変われるか、ゆっくり考えてみるよ」
エースは小さく笑った。ルカルカに話を聞いてもらったら、心の重荷が少しだけ軽くなったような気がした。
「ダリルにとってのルカちゃんって、家族なの?」
リリアは歩幅の大きいダリルの背中を見ながら尋ねた。エースがメシエについて悩んでいるから、参考にちょっと他の人の状況を聞いてみたかった。
ダリルが立ち止まって振り返る。
「さあ……な。法的には家族じゃないし……、分からん」
「あら、法律なんてただの形式でしょう。ダリルがどう思っているかっていう主観でいいのよ? 大切な人なら、家族って考えてもいいんじゃない?」
リリアは単純な質問をしただけなのに定義の話になるとは、なんともダリルらしい返答だと感じた。
ダリルは困惑して頬を掻く。
「よく分からんが……、多分そうなのだろう」
「まだ分からないのね。保留ね」
本人に気持ちの整理ができていないのなら、追求しても仕方ない。
リリアは夜空を見上げた。
月の頼もしい光はないが、星々の小さな瞬きは彼方に存在する。きっとダリルの思いも、メシエの思いも、今は小さな輝きでもいつか育っていくだろう。そう信じていようと思った。