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【第二話】激闘! ツァンダ上空

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【第二話】激闘! ツァンダ上空

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 ヴァディーシャの説明が終わると、今までとは打って変わってイーリャがルースへと水を向けた。
「マキャフリーさん、あなたの意見も聞かせていただけませんか? 私やマルガリートゥムさんのような研究者ではなく、軍人であるあなたの意見を」
 自分も意見を求められることを予想していたのか、ルースは特に焦った風もなく、軽く頭をかきながらゆっくりと口を開いた。
「迎撃部隊、救援部隊から得た情報を移動司令部にて解析した結果からの推測でしかないんですがね――」
 そう前置きしてから、ルースはいつものように肩の力を抜いたような喋り方で語り始めた。
「――前回の戦闘の際、そして今回交戦した機体にはパイロットが乗っていない可能性が高い。少なくとも、オレはそう考えてますよ。遠隔操作なのか、はたまたAIシステムが搭載されているのか、そういったところまでは判りませんがね」
 ルースの推理を聞き終えた後、イーリャはすかさず疑問を投げかける。
「何故そうであると? もし根拠があれば聞かせてください」
 至極もっともな疑問だが、ルースは困ったような表情になって再び頭をかいた。そして、相変わらず困ったような表情をしたまま、些か躊躇いつつもイーリャに答える。
「根拠……そう言われると、実は困っちまいますな。強いて言えば――軍人の勘ってやつですかね。アカーシ博士みたいな研究者にしてみれば実感がわかないかもしれませんが、こういうことの推察には今までの戦場での経験がものをいいます。データーだけでは導き出せない、軍人の勘が導く正解ってのもあるとおもうんですよねぇ」
 その答えに納得し、イーリャは感銘を受けたように頷く。
「なるほど。数々の実戦を経験されたマキャフリーさんがそう仰るなら、一理ありますね。さて――それでは実際に禽龍を拝見しましょう。マキャフリーさん、マルガリートゥムさん、お手伝いいただけますか?」
 ルースと雪姫がイーリャの頼みに頷くと、イーリャは二人を連れて整備用のリフトに乗る。胸部付近まで上昇すると、イーリャは装甲の一部を外し、前回の戦いでヴルカーンの放ったミサイルの不発弾を検分した時に使用した内視鏡のようなカメラを装甲下へと送り込んで機体内部を検分する。
「やっぱり……! きっとあると思ってた――」
 イーリャの予想した通り、禽龍の内部には前回の戦いで回収された“ヴルカーン”のミサイルの内部に確認されたのと同一の模様――まるでプリント基板のような模様が刻まれたパーツが確かに存在していた。
「やっぱり……? ってことは、イーリャ博士はコイツにも例の妙な模様とやらが刻まれた謎パーツが組み込まれてると最初から分かってたわけで?」
「興味深いな。それに関しても聞かせてもらいたいものだ」
 ルースと雪姫の二人から問いかけられたイーリャはカメラから顔を上げ、二人に向き直った。
「ええ。予め聞いていた情報では、この機体は今まで機能停止状態だったにも関わらず、先日の教導団施設への攻撃の後、突如として再起動した……だから私はこう考えました。『この機体は前回のテロ行為に反応して再起動した』、と。そして、そんな複雑な命令を、まるで自己の意志を持っているかのように実行できる機械でありながら、機晶姫の類とも違う以上、あのミサイルと同様のテクノロジーが使用されている可能性は決して低くはない……そう、仮説を立てていたんです。それに、『特定のテロ行為に反応する』ことを前提として設計されている以上、一連のテロ行為を行っている者が設計し、自ら教導団に供与した機体なのではないかとも思えるんです」
 そこまで説明すると、イーリャは一旦言葉を切ってから続ける。
「ただ……戦闘時に確認された敵機は反応がファジー過ぎるのもまた事実なんです。もし、マキャフリーさんの仰るようにAIシステムが搭載されているにしては、随分とその……『人間臭い』というか。実際、私もAIによる無人機説をまったく考えなかったわけではありませんが、現在の技術レベルで可能なAIにあのレベルの自律思考が可能なものは存在しないんです。一方、今回の戦闘で敵機が有人機であることが確認された――少なくとも今は、焦って答えを出すのは危険だと考えています。真実を結論付けるのはもう少し情報が集まってからでも遅くはない――そんな気が、するんです」
 理路整然と説明するイーリャ。彼女の説明にルースと雪姫も納得したように頷く。説明を終えたイーリャは自分と同じくカメラの撮影映像をじっくりと検分していたヴァディーシャにも水を向ける。
「ヴァディーシャ、あなたは何か分かった? もしかして見覚えがあるとかはない?」
 するとヴァディーシャはふるふると首を振った。
「ごめんなさい、です。未来の技術かと思ったけど……まったく見たことない技術です」
 申し訳なさそうに言うヴァディーシャ。そんな彼女に向けてイーリャは優しく微笑みかける。
「いいのよ。あなたが気に病むことではないわ。むしろ、実際に見てくれたおかげで未来人の技術とは限らないという新情報が得られたわ。手伝ってくれてありがとうね」
 優しく微笑みかけながら、安心させるように言葉を選ぶその様は母性に溢れていた。ルースがそれを微笑ましげに見ていると、やがてイーリャが口を開く。
「あとは“ヴルカーン”のミサイルから採取された一般メーカー部品の分析結果待ちですね。そちらの結果が出れば、また何か新しいことがわかるかもしれません」
 床へと降りていくリフトの上で、イーリャは二人にそう告げた。