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大迷惑な冒険はいかが?

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大迷惑な冒険はいかが?

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「勇者まんじゅう、勇者サブレ、勇者の愛用品もあるよ♪」
 ルカルカは声高く宣伝しながらキスミがいると思われる場所を歩いて回る。
「本日開店だよ〜! 勇者様のサイン高く買い取るよ!」
 ルカルカはチラシを撒きつつきょろきょろと周囲を見回す。ダリルも鋭く周囲を観察。
「……なかなか見つからないな……ん?」
 ダリルは見つからない事に別の策を考えようかと思った時、北都と白銀の店にキスミがいるのを発見。やはり二人の見当通りだった。
「いたね。よーし」
 ダリルと同じようにキスミを発見したルカルカは意気込み、キスミに近付こうとするが、
「待て、迂闊に近付いて逃げられたらまずい」
 ダリルがルカルカを止めた。これまでにも何度か巻き込まれ、説教もした事がある。自分達の顔を見たら逃げてしまうかもしれない。現に北都と対峙しているキスミは逃げ出したくてたまらない顔をしている。もし自分達が加われば、その隙を突いて逃げるかもしれない。

「それもそうだけど。どうする? 兜でも被って近付いてみる?」
 ダリルの話は分かるが、近付かなければ何も出来ない。そこでルカルカは販売物のフルフェイスの兜を装着して顔を隠す。
「……」
 ダリルはじっと兜姿のルカルカを見ていた。
「少し怪しいけど。勇者屋だったら大丈夫かも。ほら、ダリルも被ったら♪」
 ルカルカは明るく言い、ダリルに兜を差し出した。
「……いや、俺は」
 さすがに兜を被るのは控えたいダリルは考える。しかも二人共兜は違う意味で逃げられるかもしれないので。
 熟考の末、ダリルが手に取ったのは、
「……眼鏡。それで大丈夫なの?」
 販売品である勇者愛用の眼鏡だった。ルカルカは少し兜二人組への興味を残しながら訊ねた。
「少しパーツを加えるだけで印象は随分変わるはずだ」
 そう言ってダリルは眼鏡をかけた。
「眼鏡を取ったら実は冷徹な策士というのも面白いかもね♪」
 ルカルカは面白げな設定を口にした。しっかりとこの世界を楽しんでいる。
「……行くぞ」
 楽しむ事ではなく帰還を目的としているダリルはさっさと北都達の果物屋へ向かった。
「うん」
 ルカルカも急いだ。

「勇者屋、本日開店! 特売セールだよ! どうぞ」
 ルカルカがただの商人を装ってキスミにチラシを渡した。
「セール? 勇者のサインを買い取る?」
 チラシを確認したキスミは勇者のサインにルカルカ達の予想通り反応。
「もしやもしや勇者様?」
 わざとらしくルカルカが訊ねる。
「……そうだけど」
 キスミは変な商人だと思いながらも答える。
「これは何という幸運! こんな素敵な勇者様に出会えるなんて。是非是非、開店第一号にサインを買取させてくれないかな。もちろん、高く買うよ」
 ルカルカは嬉しそうにキスミの両手を握り、ねだって褒めてキスミを調子づかせる。
「オレのサイン?」
 自分のサインを求められて嬉しくなったキスミはルカルカ達に訊ねた。先ほどまでの北都との緊迫した空気から解放されたためか警戒が薄い。
「はい、是非!!」
 ルカルカは力強くうなずいた。

「……なぁ、北都」
「それは黙っておいた方が良さそうだよ」
 一連のやり取りを眺める事で白銀と北都は突然現れた二人組の正体はとっくに分かっていたが、あえて言わなかった。なぜなら目的が同じだと感じたからだ。

「色紙を確認の上これにサインをしてくれ」
 ダリルが色紙とペンをキスミに渡した。
「よーし」
 色紙とペンを受け取るなりキスミは浮かれた様子でサインをした。
「ほい、これでいいか」
 出来に満足しているのか自慢そうに色紙をルカルカに渡した。
「ふむふむ。なかなか素敵なサインを」
 ルカルカはサインに間違が無いかを確認。
「これで契約完了だな」
 ダリルはルカルカが確認を終えたところで種明かしを始めた。
「契約?」
 キスミは始めて登場した単語に聞き返す。確かただサインを求められただけなのではと。
「そうだよ。これで貴方は魔王を倒すサダメ」
 ルカルカは兜の奥でにこやかな表情をして言った。
「……それ、どういう事だよ」
 キスミは詳しい事情を求める。
「これは雇用及び魔王討伐の契約書だ」
 キスミに答えてダリルは色紙をキスミに突き付けた。
「はぁぁ? そんな説明どこに」
 キスミは精一杯の主張を試みる。どう見てもただの色紙にしか見えない。
「ここにきちんと書いてある。確認の有無はそちらの責任だ。俺は確認の上と言った」
 そう言ってダリルは色紙の裏をキスミに見せた。裏には事細かに契約内容が書いてあった。まさに早期帰還のためには手段を選ばない冷徹な策士。
「そんな事詳しく言わなかったぞ。詐欺じゃん」
 キスミは不満に大声を上げる。
「詐欺だなんてめっそうもない。サインしたじゃん♪」
 ルカルカはそう言って兜を外して素顔を見せた。ダリルも眼鏡を外した。
「あーーー」
 キスミはルカルカとダリルの顔を見た途端声を上げた。表情は騙されたと後悔に変わっていた。
「大丈夫! ルカ達も付いてくよ。契約の代金として支援するから」
 ルカルカは笑顔で言った。
「……何なんだよ」
 キスミは騙した二人を忌々しそうに見た。
「勇者屋は仮の姿、ルカの真の姿は神殺しの勇士! ダリルは神弾の射手!」
 ルカルカはばっと魔剣ディルヴィングを格好良く構えた。
「……」
 キスミはダメ元で北都達の方をちらりと見る。

「……結んだ契約は守らないとねぇ」
「勇者よ、街の平和のために行け」
 北都と白銀は温かい目で見守っていた。

「……」
 キスミは何とか脱出の方法を考える。
「……行く前に何か食べたいんだけど」
 キスミはそう言って少し離れた場所にある酒場に行こうとするが、その足が二歩目を歩む事は無かった。
「うわっ! 何するんだよ」
 キスミの足元にダリルが放った魔銃ケルベロスの銃弾が着地したのだ。
 当然真っ青になるキスミ。数センチずれていたら確実に足をぶち抜かれていた。
「後にしろ。魂胆は知っている」
 容赦の無いダリル。食事を理由に逃げる事は火を見るより明らかだ。この兄弟に甘い顔をしては調子づかせるだけだ。
「……本当に腹が、って、ちょ、やめろって」
 逃げたいキスミはお腹に手を当てて空腹を強調するも返答は温かいものではなく冷たい銃弾だけ。
「仮想世界も現実世界と同じように痛みを感じるか試してみるか」
 ダリルはキスミが銃弾を避けている隙に背後に移動し、酷薄な笑みと共にこめかみに銃口を押し当て問う。
「……風穴が空くと?」
 さすがのキスミもこの先の未来は分かっている。仮想世界とは言え、痛いどころでは終わらないだろうと。
「……なかなか物分かりがいいな。ならば、何が最良か分かるな」
 ダリルは、返事を聞くまで銃は突きつけたまま。
「……わ、分かった」
 こめかみに当てられてる銃の感触に心が折れたキスミは弱々しく返事をした。
「……よし」
 ダリルはゆっくりと銃口からキスミを解放した。

 それと同時にモンスター達が襲来し、囲まれてしまった。
「ダリル、モンスターだよ!」
 ルカルカはそう言うなり『シーリングランス』 からの『疾風突き』で近くにいたモンスターを一掃。ダリルはキスミに披露した銃の腕前を今度はモンスターに見せていた。
 その戦闘の隙にキスミは逃亡。

 しかし、
「北都、追うぞ」
「……全く」
 白銀と北都がキスミを追った。
 追いかけっこが始まってすぐ、終了がやって来た。

 高い建物の屋上から高らかな声が降って来たのだ。
「どうやら前回のお仕置きが甘すぎたようでありますな!!!」
 ようやくキスミを捜し当てた吹雪が腕を組んで立っていた。
「……何で高い所から」
 横にいるコルセアがツッコミを入れていた。
「……忍者か、って、何でここに」
 吹雪を見たキスミは、青くなっていた。以前、熊に変身した吹雪達に驚かせられた事を思い出したのだ。
「少しは記憶に残っているようね」
 コルセアにはキスミの表情の変化から何を考えているのかを察した。
「ゴーレム、行くでありますよ!」
 吹雪はびしっと標的であるキスミを指さし、命令。
「うぉぉぉぉ」
 スタンバイしていた鋼鉄二十二号はゴーレムらしく雄叫びを上げ、キスミにショルダータックルをしかけた。
「ふぎゃぁぁ」
 キスミは思いっきり吹き飛ばされ、壁にぶつかった。
「痛っ、ちょ、来るなよ」
 キスミは立ち上がれず、体の節々を撫でる。
 そこに
「うぉぉぉぉ」
 鋼鉄二十二号はまたショルダータックルをキスミにしかけに来た。だが、ぶつかったのはキスミではなく数センチ横の壁だった。
「うぉっ」
 自分にぶつかって来ると思っていたキスミは目を閉じていたが、ゆっくりを目を開け、胸を撫で下ろした。
「うぉぉぉぉ」
 また鋼鉄二十二号は、三度ショルダータックルをしかける。主人の命令に忠実なゴーレムである。
「ちょ、来るなって」
 かなりビビるキスミ。三撃目もぶつかったのは壁だったが、いつ攻撃されるのか冷や冷やである。
 鋼鉄二十二号が頑張っている間に吹雪とコルセアは移動し、
「ゴーレム、強烈な一撃であります!」
 吹雪はとどめを命令。
「うぉぉぉぉぉ」
 鋼鉄二十二号は雄叫びと共に最強のショルダータックルでキスミを気絶させた。
「……戦闘終了であります。戦利品を頂くでありますよ」
 鋼鉄二十二号はようやく攻撃をやめた。吹雪は気絶しているキスミから財布を取り上げ、中身を確認する。
「……吹雪、何してるの」
 コルセアは、財布の中身を確認している吹雪に言った。
「勇者としての権利を行使しているだけでありますよ。む、空っぽでありますな。代わりの戦利品となるものは……」
 取り上げた財布は空っぽだったため吹雪は代わりになる物は無いかと探り、すぐに見つけた。
「……石か」
 鋼鉄二十二号は吹雪の手の中にある数十個のカラフルな石を見た。宝石か何かだろうかと。
「綺麗でありますな。代わりにこれを貰うでありますよ。後は、教会に放り込むだけであります」
 財布を元に戻し、代わりに石達を戦利品として頂く事に決めた。
「……その必要は無いみたいよ」
 コルセアがやって来た北都と白銀の方に顔を向けながら言った。
「見事に仕留めたな」
「……これで心を入れ替えればいいんだけどねぇ。生来のものはなかなか無理だろうねぇ」
 まずは白銀と北都。北都の言葉は巻き込まれた経験からの結論である。
「無理は無理で構わないでありますよ。その度にお仕置きをするであります!」
「……吹雪、楽しんでるでしょ。面白いぐらいに良い反応が返って来たから」
 能天気な吹雪にコルセアが一言。
「これでゴーレムも悪夢の一つになったでありますよ!」
 吹雪が笑顔で気絶しているキスミを見て言った。

「キスミはどうなった?」
「捕まえたか」
 モンスターを片付け終えたルカルカとダリルもやって来た。
「捕まえたでありますよ!」
 吹雪が代表して答えた。
「……気絶してるね。どうする?」
 ルカルカが訊ねると
「起こした方が良さそうだ」
 ダリルが背後を振り返りながら言った。
「そうみたい」
 ルカルカも納得した。続々とキスミ捜索をしていた仲間達がやって来たのだ。