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THE 合戦 ~ハイナが鎧に着替えたら~

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THE 合戦 ~ハイナが鎧に着替えたら~

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「人は石垣、人は壁! 敵の歩兵は雑草よ! サクサク刈りましょ、あなたのために!」
 古代ローマの重装歩兵で固められた【シェーンハウゼン】の右翼の陣営に真っ先に斬り込んでいったのは、遠野 歌菜(とおの・かな)たちの騎馬隊だった。
 今回彼女は、夏のイベント【武将イラスト】保有参加者ということで長槍を携えた生粋の『突撃騎馬兵団』を率いて戦場にやってきていた。
 この世界に武将として登場したからには、思い切り戦う。敵の圧倒的多数にも全く怯まずに戦場に飛び込んでいったのは、先陣を切って味方の士気をあげようという意図があった。
 バグである魔王・織田信長を倒しシャンバラ軍に勝利をもたらす。その布石として、まずは目の前の敵を打ち崩すこと。
「私はシャンバラ軍所属、遠野歌菜! 畏くもシャンバラ軍大将ハイナ様のご命により、魔王・織田信長とその軍勢を征伐するために参上つかまつった! 覚悟せよ!」
 歌菜は、さっそく戦国にふさわしい仰々しい口調で名乗りを上げる。
【龍馬ラクシュ】に乗り二槍を構えた歌菜は、【超感覚】で敵の動きに注意しながらも、【歴戦の武術】で敵をなぎ払って、勢いに任せて前へ前へと突進を敢行する。
「気をつけろ。敵の長槍が狙っているぞ。油断していたら串刺しか足払いだ」
 すぐ背後の上空から、歌菜のパートナーのが月崎 羽純(つきざき・はすみ)呼びかけてくる。
 彼は【ワイルドペガサス】を操り飛行中だった。
 そう……綺麗なグラフィックだ。
 当たり判定は普通の歩兵と同じだけど。このゲームに飛行ユニットはないから、ここ大切。
 何しろ目立つ。統率の取れた歩兵がなんとか仕留めようとわっと寄ってきた。
「無問題!」
 歌菜は力強く言い放ち、獲物ごと歩兵をたたききってやる。スキルを遠慮なく発動し、固く守る歩兵をまとめて撫で斬ってみせる。
 その勇姿と武威に、歌菜の騎兵たちも勢いづく。狙ってくる長槍兵を相手に怯むことなく粘り強く攻撃を続ける。 
「……ほらほら、みんな見てるわよ。敵もせっかくやる気を出してるんだから、羽純も早く!」
「なにを?」
 面倒くさそうに、とぼける羽純。
「……」(名乗り、はよ!)
「……」(俺も名乗るのか……面倒くせぇ……)
 じっと見つめてくる歌菜の視線に耐えかねて、羽純はぽそりと呟く。
「……。……同じく、月崎羽純だ。これでいいか?」
「聞こえませんね。どれだけヤル気ないんですか、君は?」
「!!?」
 不意に、歌菜の前にイコンを装備した男が出現する。この第十一軍団には、敵の遠距離攻撃部隊や突出した無双武者などから味方を守るための壁役となるコンラート・シュタイン(こんらーと・しゅたいん)がいたのだ。
「まあいいです。ヤル気出さなくてもいいですから、そのままあの世へと行ってください」
 駆けつけてきたコンラートはのイコンイコンノルトラントは、この世界では人間サイズだ。なので乗り込むというより、武装するといった風か。
 歌菜と羽純を目標と定めたコンラートは、そのまま無言で攻撃してきた。
「望むところよ!」
 強力な武将と戦うことを望んでいた歌菜は、正面から受けて立つ。
 ガガガガガ……! と二人は打撃を交え始め、一気に乱戦状態となった。
 そこへ。
「ですが、残念ながらわたくしたちは、見世物の一騎打ちをしにきたのではありませんわ。障害物を確実に排除しに来たのです」
 すぐさま、右翼第五軍団からエリス・メリベート(えりす・めりべーと)が救援に駆けつけてきてくれる。
 彼女もまた、敵の遠距離攻撃部隊などから味方を守るために派遣されてきたのだ。装備イコンはヴィーキング
 エリスは、敵に再度の攻撃を与える隙を与えずに、歌菜との距離を詰めにかかった。壁になるのも悪くはないが、出来るならチャンスを見つけて仕留めしてやろうという腹積もりらしい。
 所属する軍団は違うが、それはあくまで戦術上でのこと。お互いが協力し合うのにやぶさかではない。
 確実に勝つ。それが【シェーンハウゼン】なのである。こういった強力な武将への対策もしっかりと立ててあるのであった。
 羽純も加わって、激しい戦いが繰り広げられる。
「お二人には感謝いたします。さて、今の内に敵の騎士団を片付けさせていただきますわ」
 ルキウス・エミリウス・パウルスは満足げに微笑む。
 彼女は、勝ちを確信していた。
 元々兵力で三倍有利な上に、シャンバラ軍の指揮官は戦闘に夢中で上手く統率が取れていない。いくらイラスト持ち『騎士団』といっても、数で押しつぶせばひとたまりもないだろう。
 後は、自軍の兵をドレだけ傷つけずに勝てるか、それだけが重要であった。
「たとえシミュレーターが作り出したプログラムであろうと、無駄に死なせて良い兵士など一人もおりませんわ。……みなさん、お気をつけて。無理だと思ったら、遠慮せずに引いてくださいね」
「ところがそうはいかないんだな、これが!」
 歌菜の騎馬隊より少し遅れて突撃してきた一団があった。
 このヴァーチャル世界に救出にやってきた辻永 翔(つじなが・しょう)が、自軍の兵力を率いて早くも参戦してきたのだ。
 平原で戦う準備をしていたのだが、シャンバラ軍の進撃を見て、いても立ってもいられなくなったらしい。やる気満々で第十一軍団の兵士たちと戦い始める。
 彼は、イコン{ICN9999998#翔専用イーグリット}を『サムライ・プラヴァー』という仕様にカスタマイズして装備していた。能力はほぼ変わらないが、カッコイイ。
「なんだかよくわからないけど、なんか面白そうだしね! もちろん真剣に頑張るよ!」
 辻永翔いるところに彼女あり。翔の恋人桐生 理知(きりゅう・りち)も当然行動を共にしているのでご同行だ。重装歩兵と軽装歩兵の混成部隊1000を率いて第十一軍団と正面から交戦を始めた。装備イコンはヒポグリフで、強敵の急襲にも対応できる。
「合戦って、サルとか臼とか出るのなら知ってるけど、この後どうするの?」
 元気いっぱいの彼女。とにかく翔についてきただけらしかった。ゲームの戦国合戦シーンが珍しいらしくキョロキョロしている。
「それはさるかに合戦でしょ。真面目にやらないと、敵の武器で斬られちゃうわよ」
 真面目に突っ込んでくれたのはパートナーの北月 智緒(きげつ・ちお)だった。今回サポート役にまわることになった彼女は、心配そうに理知に視線をやる。
「ちゃんと、作戦会議の内容覚えているんでしょうね? 遊んでると死んじゃうよ、この世界、本当に……」
「大丈夫よ。恋人の翔くんも一緒なら心強いし、阿吽の呼吸で連携ばっちりだよ」
 明るい口調で言いながらも、理知はやることだけはしっかりやっていた。
 一方向だけではなく、縦横に陣を組み立てどちらからの攻撃でもしのげる様ガッチリ固めながら敵と交戦する。
「3000対3000。これで兵力は互角だぜ。さあ、どうするよ、敵の指揮官さん!?」
 敵を打ち倒しながら言う翔に、マルクス・クラウディウス・マルケルスは微笑んだ。老練に立ち回ることの出来る男だった。
「なるほど、士気と勢いは旺盛のようですわね。少々下がらせていただきましょうか」
 各部隊の隊長たちに布陣を後方に移すように指示をすると、第十一軍団は無理せず守りを固めて粘り強く防御する構えになった。
 と……。
 翔たちが暢気にお話していられたのもそこまでだった。
「!?」
「ずいぶんとお待たせして申し訳ありませんでした」
「……」
 声の主に気付いた時、翔と理知たちもまたいつの間にか取り囲まれていた。
 激しい戦いの続く乱戦の中、激しく動き回る兵士たちの間を縫って近付いてくる少女たち。
 それは……、自身もイコンを装備している、これまたソツのないメンバーなのであった。
 敵のイコンやイレギュラーな敵と戦える人員を【シェーンハウゼン】はしっかりと用意してあったのだ。
 ハイナ軍に所属するイコンを撃破するために結成されたメンバーのリーダー役を務める島津 ヴァルナ(しまづ・う゛ぁるな)が翔と理知を交互に見て、微笑んだ。
「戦いの最中にお喋りするほど退屈だったようですわね。ですが、もうご安心を。これからは不肖わたくしたちがお相手いたしますわ」
 彼女の装備しているイコンLSSAHは汎用型だが、このゲームにおいて能力はさして問題はない。どれだけ手堅く物事を進めれるか、だ。
 そんなヴァルナと共に空中に姿を現したイコン殲滅部隊のメンバーは……。
 【シェーンハウゼン】の第九軍団所属にして茶髪ポニテの巫女姿の少女川原 亜衣(かわはら・あい)もまた、イコンホーエンシュタウフェンで武装して、戦う準備が出来ていた。
 第二軍団に所属する羽衣と薙刀を装備した和装娘の八上 麻衣(やがみ・まい)のイコンはダス・ライヒ
 第三十三軍団からはヘルムート・マーゼンシュタット(へるむーと・まーぜんしゅたっと)が駆けつけてきていた。イコンシャルルマーニュを装備し、確実に勝つための用意は整っていた。
 そしてツインテイル娘の黒岩 飛鳥(くろいわ・あすか)は、イコントーテンコップを装備して第三軍団から出張してきている。
 彼女たちは、一人で戦うのではなく、【シェーンハウゼン】のイコン殲滅部隊として合流し多数で各個撃破していく計画だった。
「総司令のご指示によりお命頂戴いたしますわ。ゆっくりお休みになってくださいませ」
 ヴァルナはこれから死にゆく者に対して少しだけ哀れみを含んだ口調で言った。集団戦法で敵のイコンを一体ずつ確実に潰していく。彼女らの表情に容赦はなかった。
「……えっと?」
 悪い娘たちには見えなかった。翔がどうしようかと様子を見ていると、イコン殲滅部隊の少女たちが一斉に襲い掛かってくる。イコンを駆使した隙のない連携攻撃だ。
「が……っ!? い、痛ててて……!」
 いきなり微塵の慈悲もない攻撃をまともに喰らい、鮮血を噴出しながら吹っ飛ぶ翔。
「ちょっと、なにするんだよ!?」
 理知が怒って割って入ってくる。その彼女に、イコン殲滅部隊の少女たちは無言で集団攻撃を仕掛けてきた。五人がかりなのに一切の油断もない。
「……!」
 あまりの殺気に理知はたじろいだ。気を抜いたら、本当に死ぬ……。緊迫感のある戦いに巻き込まれてしまうことになった。
「……大丈夫だった?」
 智緒は、傷ついた翔を手当てする。その間にも彼女らの周りでは戦いが続いていた。誰も彼もが真剣だ。
「な、なによ、これ……」
 始まるなり全員全力攻撃の状況に、彼女は息を呑んだ。

 さて、いきなりクライマックスだった。 
 戦死者続出。これから本当の、血みどろの戦争の始まりだ。

「悪く思わないでください。これも戦争なのですよ」
 ヘルムートが光条兵器を手に理知に迫る。反撃しようとしてくる彼女を、ヴァルナたち四人が力を合わせて押さえ込んだ。
「覚悟」
「き……」
「待て」
 治療も半ばに翔が飛び込んでくる。
 ドン! という衝撃音。
 理知に覆いかぶさるように間に入った翔の身体を、ヘルムートの武器がイコンごと深々と貫いていた。
「ぐ……ふっ……!」
 翔は、口から血を吐きながら、小さく優しく理知に微笑みかけた。
 そして、翔は振り向きざま、止めを差そうとしていたヘルムートに最期の渾身の一撃を放つ。
「ぐっ……!」
 大きな傷を負って、後退するヘルムート。
 だが、【シェーンハウゼン】に隙などない。翔に再度の反撃の機会を与えなかった。
「まず、一体目……!」
 飛鳥と麻衣が、背後から確実に翔に止めを刺す。イコン装備の威力は伊達ではない。
「俺……、もう退場かよ……」
 無念の苦笑を浮かべながら、翔はゆっくりと地面に倒れ伏した。そしてそのまま、息を引き取り動かなくなった。
 翔の全身はそのままぼんやりと光を放ち、テレビの画像が乱れるように輪郭がぼやけてから、プツッと消滅した。この世界から退場したのだ。
 すなわち、ゲームデータ上では死亡したということになる。この合戦ゲームにおける、戦死者第一号であった。彼が率いていた兵士たちも霧散してしまった。
 まあ、ゲームクリア後には、パラミタに普通に戻ってくるから問題はない。
「あ……、あ……」
 理知は目に涙を浮かべたまま呆然としていた。何が起こっているのかわからなかった。
「楽しいピクニックか何かと勘違いなさっておられたの? ここは戦場なのですわ」
 ヴァルナが硬直したままの理知にイコン攻撃を仕掛ける。それに呼応して亜衣と麻衣、そして飛鳥も二体目のイコンを確実に潰しにかかってきた。
「うわああああああっっ!」
 理知は咆哮した。
 どくん、と心臓が大きく高鳴り瞳孔が開いた。全身とイコンにありったけの力が集中していく。
「……」
 理知は、敵の攻撃をかわしながらも、至近距離まで迫っていた飛鳥の首筋を無言で握り締めていた。ためらうことなく力を込め、ベキリ! とへし折る。
「く……、ふぅっ……」
 飛鳥は全身を痙攣させ、絶命する。可哀想なこの少女は、一言の台詞もなくこのゲームの生贄として退場することになった。
「もう一度、力を合わせて押さえ込むのですわ!」
 地面に崩れ落ちて、翔と同じように消えていく飛鳥に辛そうに視線をやりながらも、ヴァルナは計画を中止しようとはしなかった。
「あなたの死は、無駄にいたしませんわ」
「皆殺しだよ、あんたら……」
 恋人を殺された怒りの黒いオーラを逆立てて、理知が殺戮マシーンのような反撃に出る。イコン殲滅部隊との間で一切手抜きのない攻撃がかわされた。
「や、やめて……。こんなのって、ないわよ……」
 智緒は、凄惨な戦場になすすべもなく立ち尽くしていた……。

▼辻永翔、戦士。
▼黒岩飛鳥、戦死。

◆辻永翔のデータが抹消されました。
◆黒岩飛鳥のデータが抹消されました。

  〜〜 オートセーブ中 〜〜

『セーブに失敗しました!』