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リアクション
第七章 幽霊夫婦の再会と親睦会再び!
「……戻ったぞ」
ヴァルドーが頭部を取り戻し、元の姿で親睦会の会場に戻って来た。彼の側には捜索に尽力した捜索者達がいた。
「あぁ、良かった。ヴァルドー、心配したわよ」
聞き覚えのある不器用な声にハナエは弾けたように勢いよく立ち上がり、夫の元に駆け寄った。
「ほら、皆にお礼を言わないと」
ハナエはさっとヴァルドーの無事を確認するなり、生前と同じように世話を焼く。
「……子供じゃあるまいに、いちいち言わなくても分かる」
ヴァルドーはハナエに不機嫌そうな顔を向ける。そんな顔をされても長年見慣れているのでハナエは全く気にしない。
そして
「……感謝する」
ヴァルドーは手短に自分達を助けてくれた会場にいる者達に礼を言った。
「……本当にごめんなさいね」
ハナエももう一度、謝った。今度は夫の不器用な感謝の様子も含めて。
「ほら、行くぞ」
ヴァルドーは背を向けミシュ一家が待つ古城へ向かおうとする。頭を忘れてしまったという失態に多少の恥ずかしさを感じ、早く離れたいと思っている。
「もう、頭を落としたぐらいで」
ハナエは呆れながらヴァルドーの背中を見ていた。妻はヴァルドーの気恥ずかしい気持ちなどお見通しなのだ。
「おじいちゃんも元気になったからもう少しいっしょにお話したいです〜。だめですか?」
ヴァーナーが残念そうな声でウルバス夫妻を引き留めた。せっかくヴァルドーの頭が戻って来たのでもう少しいたくてたまらないのだ。
「……そうねぇ。私ももう少しいたいわね。ねぇ、そうしましょう。ミエットちゃんも元気だというからもう少しだけ楽しんでからお土産話と一緒に行きましょうよ」
声をかけられ、ハナエはヴァーナーと視線を同じにしてうなずいた。ミシュ一家の無事も確認出来て急ぐ必要は無いためか明るい性格のためかこの賑やかな親睦会をもう少し楽しみたいと思っていたのだ。
「わぁ、嬉しいです〜♪」
ヴァーナーは嬉しくてハナエにハグをした。
「……それは出来ない。これ以上迷惑を掛けるような事は」
迷惑を掛けたくないヴァルドーは頭を縦に振らない。
「迷惑ではありませんよ。ヴァルドーさんとハナエさんも親睦会の参加者ですよ。僕はそう思っています。今もこうして同じ時間にいます。もう少しだけどうですか。そうしてくれと嬉しいです」
何とかヴァルドーを説得しようと弾が口を挟んだ。
「……わたくしも弾様と同じですわ。どうでしょうか。ほんの少しだけお願いします」
グィネヴィアが弾を援護した。周囲の皆も同じ気持ちで見守っていた。
するとヴァルドーはハナエの方に振り返り、
「……楽しむとはいえ、幽霊で飲食が出来ないというのに。お喋りを永遠と続けるのか」
一本調子で言った。言葉は皮肉だが、気持ちは口にしたものと違うのは明白。
「全く。本当は誘われて嬉しいんでしょう」
ハナエはからかい気味に素直じゃない夫の本心を言葉にした。
「おばあちゃん、ダンスはどうですか?」
ヴァーナーはルカルカとグィネヴィアのダンス見学中のハナエの様子を思い出し、提案した。
「……そうね。でも」
ハナエはうなずくもダンス見学中の時と同じ理由で言葉を濁らせた。
「……」
ダンスが提案されると思わなかったヴァルドーは当然沈黙している。
「ヴァルドーさん、せっかくですからどうですか? きっと良い思い出になりますよ」
ノエルが何とかヴァルドーの本心を表に出さそうとする。
「……アルティアの出番でございますわね」
出番を察したアルティアがしっとりと歌い始める。歌を流す事でダンスをする気にさせると共に逃げ道を塞ぐ作戦だ。
「あら、なかなか素敵な歌ね」
ハナエは流れる歌に喜ぶ声をヴァルドーに聞こえるように音量を上げる。少しだけわざとらしい口調だが。
「……仕方が無いな」
ヴァルドーは観念したように小さなため息をつき、ハナエの前に立ち、憮然と手を出しだした。
「……あら、素っ気ないのね。誘いの言葉は無いの。こんな年だから無しというのかしら」
ハナエは心配を掛けられたお返しとばかりに意地悪な事を言う。今日は絶対に自分の言う事を聞くと知っての事だ。
「お前は……」
ハナエにも迷惑を掛けた事を承知しているヴァルドーは、少なくとも今日は妻の頼み事を蔑ろには出来ないと思うもなかなか言葉は出ず、弱った声しか上げられない。
「……」
しばらく沈黙し、覚悟を整えるヴァルドー。
そして、
「……踊ってくれ、ハナエ」
簡潔なりも心配を掛けた妻への謝罪と想いを込めての誘い文句。
「……えぇ」
久しぶりに呼ばれた名前と共にハナエは夫の手を取り、ゆっくりと踊り出した。
「リーダー、グィネヴィアさんと仲良くなるチャンスがまた来たでふよ。きっと踊ってくれるまふ」
踊るウルバス夫妻を見たリイムはルカルカとグィネヴィアのダンス中に計画した案を実行する時が来た事を知る。踊ってくれると宵一を励ます。
「……確かに仲良くしようという話にはなったが」
宵一はリイムのお茶とお喋りに比べて大胆な案に少々戸惑う。
「きっと楽しいでふよ。グィネヴィアさんも喜ぶまふ」
リイムはそう言ってグィネヴィアの所に行った。何もかも宵一を思っての行動だ。
「……リイム」
止める事が出来なかった宵一はリイムを困った顔で見送っていた。
「せっかくの親睦会ですから楽しんだらどうですか。大丈夫ですよ」
稲穂が困っている様子の宵一に言葉をかけた。
「一緒に行くよ」
木枯が明るく励ました。
「そうだな」
宵一は木枯達と共にグィネヴィアの所に向かった。
「グィネヴィアさん、僕のリーダーが一緒に踊りたいみたいでふ。どうでふか?」
リイムはダイレクトにグィネヴィアに聞いた。
「宵一様がですか。それは楽しそうですわ。是非、お願いしますわ」
グィネヴィアは嬉しそうな表情であっさりリイムの頼みを聞いた。
「ありがとうでふ。リーダー、早く来るまふ」
交渉を終えたリイムが宵一を元気に呼んだ。
「……あぁ」
宵一は急いでリイムの所に向かった。
木枯達は邪魔をしないよう離れて見守っている。
「宵一様がダンスに誘って下さると」
グィネヴィアは楽しさで笑顔。無かった事には出来ない状況だ。
「……それでどうだろうか、一つ」
宵一は覚悟を決め、改めてダンスを¥に誘い、手を差し出した。
「はい、お願いしますわ。本当に今日は楽しい日ですわ。仲良しになれて素敵な思い出も出来るんですもの」
グィネヴィアは迷う事なく、宵一の手を握り、誘いを受けた。
宵一とグィネヴィアはウルバス夫妻と共にしっとりとしたアルティアの歌の中、ゆっくりと流れる時間に身を委ねるかのように躍っていた。
「……リーダー、良かったでふね……リーダーを助けてくれてありがとうでふ」
リイムは宵一の姿を満足そうに眺めていたが、木枯達に気付いてぺこりと頭を下げた。
「気にしなくていいですよ。困っている時はお互い様です」
「そうだよ」
稲穂と木枯は助けるのは当たり前だという感じでリイムに答え、ダンスの四人を楽しそうに見ていた。
「……無事に見つかって良かった。これが良い思い出になればいいね」
さゆみは踊る二人を満足そうに見守っていた。
「仏頂面ですけど」
アデリーヌが笑みを洩らした。ハナエは楽しそうなのだが、ヴァルドーは仏頂面で時々妻から顔を背けている。
「そうだね。せっかくだから私もお手伝いしようかな」
さゆみも笑いながらうなずいた。ヴァルドーの行動が気恥ずかしさからくるものだと分かっているから。『演奏』を持つさゆみはゆっくりと歌い始めた。
「……本当に素敵ですわ。わたくし達も……」
アデリーヌはウルバス夫妻からそっと隣で歌うさゆみの横顔を見つめていた。自分達もあの夫婦のように生きている時だけでなく死んでからも一緒にいられたらどんなに幸せだろうかと心底思っていた。
この後、アルティアとさゆみの美しいハーモニーが終わり、しばらくお喋りをしてからウルバス夫妻は古城へ向かった。別れる際、道中だけではなく古城にも十分気を付けて何かあればすぐに助けを呼ぶように注意をしてから見送った。夫婦水入らずの旅行を邪魔しないために誰も付き添わなかった。
そして、全員が揃ったところでグィネヴィアのための親睦会が改めて開催された。
食べて飲んで大騒ぎの親睦会。誰もが楽しみ愉快になる。少しだけ心配事を話したり。
ただ二人だけ愉快でない者もいた。それは、主催者であるロズフェル兄弟だった。彼らは、イグナの監視の下、使用済みの食器の片付けに追われていた。迷惑行為に対してのちょっとした罰だ。