リアクション
そこに
「美味しそうだね」
「よろしかったら、わたくしもお願いして構いませんか?」
涼介とミリィが肉じゃがに誘われてやって来た。
「待ってろ」
シンはすぐに三人分の肉じゃがを持って来た。
ローズはしっかりと味わっていた。
「ありがとう」
「いただきますわ」
涼介とミリィも美味しそうに食べた。
「オレも何か食べるか」
席に座ったシンはキスミ作のカップケーキや涼介作のモンブランやミリィ作のゼリーを口に放り込み、味を楽しんだ。
「それで料理勝負はどうなったの? 引き分け?」
ローズは料理勝負の事を思い出し、結果を訊ねた。
「……そうなるか。様子を見てると」
と、シン。どの人達も口にする感想は美味しいばかりでどちらが美味しいかは口にしてないのだ。
「美味しくて優劣はつけられないからね。両方美味しいと言うかな」
と涼介。
「ん、まぁ、それでいいか」
シンは涼介の褒め言葉に照れて少しどもりつつも料理を楽しんだ。料理勝負も大事だが、一番は幸せそうに人が食べてくれる事だから。
「このモンブランの栗とマロンクリームがなかなか美味しいな」
シンは涼介作のモンブランを食べた。それは、上に添える栗とマロンクリームに渋皮煮を使い、上から白い粉砂糖をかけた本格的な物だった。当然、最高に美味しい。
「魔法使いさんなんて大変な事になったね」
ルカルカは大好きなチョコを食べながら息を吐いた。また厄介な事が起きていると。
「相変わらずあの古城は汚いんだな」
ダリルは古城がありふれた清潔な家から離れつつある事に呆れていた。あれほど大変な大掃除を施したというのに住人本人も大変な目に遭ったと言うに繰り返そうとしているのかと。
「見た感じでは悪い事をするようには見えなかったがな」
甚五郎は眠る少女を見ての印象を語った。
「……一番の不安は住人の激しい物忘れじゃな。ササカには知らせておるが、そう毎日世話をしに行くわけにはいかんだろうし」
羽純は誰もが抱く気掛かりを言葉にした。
「……これをここに置かせて貰えないか」
幻覚茶と中和用クッキーを手に持つベルクが現れた。
「幻覚茶と中和用クッキーですね。何か悪い効果が起きましたか?」
ブリジットがポットと大皿を確認してから理由を聞いた。
「いいや、フレイが触れないようにしたくてな。処理を頼んでもいいか」
ベルクはちらりとまだ幻覚の世界にいるフレンディスの方を見てから答えた。
「いいよ。ルカが食べるから」
ルカルカは元気に言ってから早速クッキーを一つ食べてダリルに幻覚茶用意して貰っている。
用事が終わってもベルクは席に戻らず、
「で、古城の事を話してたのか」
甚五郎達とルカルカ達の話について訊ねた。
「そうだ。どうにも後味が悪くてな。事情が分かっただけでも良しなんだろうが」
甚五郎がうなずいた。確かにそれなりの措置をして戻っては来たが、それなりはそれなりにしか過ぎない。確実に解決した訳では無いのだ。収穫は情報を得た事ぐらい。
「……確か、魔法使いさんだったか。あれはやはり奴に間違い無いのか」
ベルクが“魔法使いさん”について意見を求めた。ベルクも聞いた事情通りどこぞの魔術師だと考えている。
「ルカはそう思うよ。聞いた話から考えるとね。不気味だよね」
幻覚茶を飲み干したルカルカは真剣な面持ちで自分の意見を述べた。森の騒ぎ、石ばらまきといい、相変わらず目的が分からないのが不気味だと思いながら。
「城の幽霊達が欠けた記憶を思い出せば、解決に近付くと思うが、難しいだろうな。嫌な記憶だろうし」
ベルクはウルバス夫妻を思い出していた。あの二人も記憶を思い出すのに多少時間が掛かっていたから変死となるとなかなか思い出すのは困難では無いかとベルクは思っていた。嫌な記憶ほど思い出すのは難しいだろうと。嫌であればあるほど深いところに沈められているはずだから。死者を知るソウルアベレイター(魂の逸脱者)としての意見だ。
「間違い無くそこに犠牲者となった共通点があるな。そして、魔法使いの正体も」
ダリルはもう一度話の要点をいくつか言葉にする。
「幽霊達が地下に近付かない理由と眠る少女、どう見ても関連があると見て間違いなかろう。記憶を忘れていないという事ものぅ」
羽純がダリルの言葉を続ける。
「でも覚えているのが苦しみや悲しみばかりって楽しくないね。そんな感情、悪い事をするきっかけになってしまうよ」
ルカルカはお菓子を食べながら寂しそうに言った。なぜならあまりにも悲しいから、自分達はこうして楽しい思い出を作っているというのに少女は苦しみの中に座り込んでいるから。
「……もしその時が来たら助けたらいい。それぐらいは俺達にも出来るはずだ」
「そうだね」
ダリルの救いの言葉にルカルカは明るくうなずいた。
「さてと、戻るか」
話し終えたベルクはフレンディスが目覚める前に席に戻った。
フレンディスは目覚めるなり幻覚茶が無い事にがっかりしながらも目の前に用意されたお菓子を美味しそうに食べた。何とかベルクの作戦が上手く行った。
そしてフレンディスは、
「……とても心強かったですよ」
とポチの助を褒めた。
「この優秀な忍犬たる僕にとって当然の事です!」
ポチの助は背筋をぴんと伸ばし、尻尾を振っていた。
ベルクが去った後、
「しかし、なかなかの味だな。最初から真面目に作っていれば何も問題は無かったというのにな。まぁ、幽体離脱クッキーは多少役に立ったから今日だけは二人の悪戯に強くは言えんな」
甚五郎はキスミ作の料理を食しながら幽体離脱クッキーの事を思い出し、苦笑していた。
「甚五郎、それは黙っておった方が良かろう。あまり褒めるとすぐに調子に乗るからのぅ」
羽純もキスミ作の料理を食べながら甚五郎に口止めをした。
「そうだな」
これまでに度々巻き込まれ、双子についてよく知っている甚五郎は笑いながらうなずいた。
「今のところ大人しくしていますからね。何か褒めると爆発して悪さをしそうな気配ですよ」
ブリジットは本日のお仕置きとして片付けに精を出している双子を見ていた。
グィネヴィアに楽しい思い出を作ってあげた親睦会は何とか無事に終了し、誰もが満足していた。親睦会での騒ぎは当然学校に知られたが、親睦会成功と幽体離脱クッキーが役に立ったためロズフェル兄弟へのおとがめは少しの説教で済んだ。説教の主な内容は悪戯についてだった。双子は珍しい事に浮かれ、説教後、元気に悪戯に頭を巡らしていた。
ウルバス夫妻は無事に古城に辿り着き、ミシュ一家と再会を果たす事が出来たという。
親睦会終了後、空京の外れ。
以前は大きな屋敷が建っていたと思われる場所には、草や木が生い茂り面影の一欠片は所々にある石畳ぐらいだ。
「ここが生前、生活をしていた場所ですね。ほとんど面影がありませんね」
エオリアは以前存在していただろう屋敷を想像しながら周囲を見回していた。
「……そんな事はないよ」
そう言ってエースは、立派な樹木に『人の心、草の心』で話しかけた。
「エース?」
また植物と長話を始めたのかと思いながらエオリアはエースの様子を見守っていた。
二人はウルバス夫妻への弔いのためにここを訪れたのだ。最期の場所は夫妻ともそれぞれ違うのでそれなら二人が一緒に過ごした記憶がある場所がいいだろうというエースの提案でこの地を弔いの場所として選んだのだ。
「……二人は幸せな日々をここで過ごしたようだ。彼女は二人が生きていた姿をしっかりと覚えている。彼女の下で夫妻は読書をしたり談笑をしたり時間を過ごしたと」
樹木との話が終わったエースは聞いた事をエオリアに伝えた。
「……そうですか」
エオリアはすぐにエースが話した風景がすぐに想像出来た。
「面影は彼女と記憶があるよ。何も痕跡が無いわけじゃない」
エースはほとんど何も残っていない跡地を見回してから最後に樹木に優しく触れた。
「そうですね。形がある物が痕跡とは限りませんからね」
エースの言葉にうなずき、エオリアも周囲を見回した。
「さて、持って来たこの子達を植えてあげようか」
早速、エースは持参したいくつかの丈夫で色鮮やかな花々の鉢の方に目を向けた。
エースは花束でも良いと思ったのだが、もしかしたら夫妻がここに立ち寄るんではないかと考え、花を植える事にしたのだ。そうすれば、立ち寄った時にいつでも花を見る事が出来るから。もしかしたら植えた花を中心に花畑が出来るかもしれない。殺風景な今の風景よりずっといいはずだ。
「立ち寄った時、驚くかもしれませんね」
エオリアはウルバス夫妻が立ち寄った時の事を想像し、少し嬉しくなっていた。実際、立ち寄るかは分からないのだが。
「彼女達は人の心を癒してくれるからね」
エースは笑顔で手にしている花を見た。少しでもウルバス夫妻の心の癒しになればと。
二人は、花の植え替えをした。
参加者の皆様、本当にお疲れ様でした。
愉快なアクションをありがとうございました。
少しでも親睦会の素敵な時間が皆様に伝われば幸いです。
今回、ロズフェル兄弟が少しばかり人の役に立つ事が出来ました。それでも相変わらずするべき事を忘れ悪戯をしでかしていましたが、皆様の優しくも厳しい言葉と見守りの目によって無事何とかなり、グィネヴィアも楽しめる親睦会となりました。
何より皆様のおかげで何とか無事ウルバス夫妻は古城に辿り着く事が出来ました。しかし、辿り着くも汚くなりつつある部屋や不穏なものがうずくまっているなどまだ波乱がありそうです。不穏な足音が近付いた際はどうかよろしくお願いします。