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◆第5章 再封印を完遂せよ!◆

 薄明るく光る遺跡の廊下を、疾風のごとく駆ける者たちがいた。
「随分、みんなとの距離が空いてしまったな」
 柱を蹴って宙へと身を躍らせつつ、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が呟く。本隊とはぐれてしまった隊員たちを助けながら進んでいたため、遺跡最深部へ大剣を運んでいた仲間からは、少し離れてしまっているのだ。
「急ぐしかないってことよ。あんただって皆を信じているから、離れても大丈夫だって思ったんでしょ?」
 地上を駆けるリーズ・クオルヴェル(りーず・くおるう゛ぇる)が唯斗へ言葉をかける。彼女もまた、唯斗と共に分散した隊員たちの救助を行っていた。
 “誰一人犠牲になんてさせない”。
 それが二人の目的であり、皆の願いでもあった。唯斗が皆を信じたように、他のメンバーも二人を信じたからこそ、この連携が成り立ったのだ。
 途中で卜部 泪(うらべ・るい)と合流した二人は、改めて最深部へと向かっていた。
「唯斗さん、リーズさん、遺跡を壊した犯人が捕まったみたいですよ!」
「そうか、それは良かった……とも言えないか。見込み通りだったってことは、調査隊の中にスパイが居たってことになるからな」
 唯斗の言葉は重い。今回の事件も、このまま上手く収束するという保証は何処にもないのだ。犯人を捕えたことで似たような事件は抑止できるが、また他の手口で事件を起こされる可能性は十分にあった。
「なに言っているんですか、唯斗さん。何度でも止めましょう。一人の犠牲者も出さずに、相手が嫌になるまで、何度でも何度でも!」
「そうだな、唯斗。“この手が届くかぎり、何度でも”だろう?」
「あぁ……そうだな、その通りだ!」
 二人の言葉に、唯斗は力強く頷く。そのためにも、まずは一刻も早く最深部の仲間と合流する必要があった。最初は微細だった遺跡の揺れは、だんだんと大きくなってきている。
「ッ! リーズ、泪ちゃん、敵だ!」
 三人の走る廊下の奥に、巨大な影が立ちはだかっていた。遺跡を守るガーディアンだ。一直線の通路に避けて通るスペースは無く、迂回している時間は惜しい。
「どうしますか、唯斗さん!?」
 刹那の思考を経て、唯斗は両手に闘気を纏わせることを選んだ。
 “最大威力の攻撃による、即戦即倒”である。
 戦闘態勢に入った唯斗の様子を見て、リーズは両手剣を構えた。本来であれば泪も十分な戦闘力を持つのだが、銃器を持っていない。唯斗とリーズの二人だけが、この場の戦力だ。
「唯斗、私が先にいく!」
 リーズの剣に、周囲から集められた“聖なる力”が宿り、その切れ味を上げる。
 速度を上げた赤い狼の一撃が巨人の脚部を斬り裂いた。致命傷ではないが、リーズの目的を遂げるには十分な成果だ。重心を崩した巨人の腕が、自らを支えるため廊下の壁へと伸ばされる。
「いまだ、いけっ!」
「応ッ!」
 壁を蹴り天井へ、そして更に天井を蹴り、唯斗は一陣の風となって巨人の懐へ飛び込んだ。
 両の腕に宿った闘気は凄まじい雷光と化している。それは闇夜を斬り裂く紫電の如く、残光を描いて振われた。
「我流仙術雷光発剄……『斬手』ッ!!」
 荒れ狂う稲妻が廊下を満たし、次の瞬間には、胴体を貫かれた巨人が轟と音を立てて崩れさっていた。
 唯斗もリーズも、当然とばかりに振り返ることすらしない。
 目指す先、遺跡の奥から肌を震わすほどのエネルギーが放たれていた。

 *  *  *

 遺跡の最深部。
 ドーム上の空間の中心には、直径20メートルほどに成長した球体が、凄まじいエネルギーを周囲に放出していた。黒い稲妻が龍のごとく暴れ、それに呼応するかのように、壁面の大穴から石造りの兵士たちが進み出てくる。調査隊の面々はそれらに阻まれ、なかなか中心部まで辿り着くことが出来ないでいた。
「再装填(リロード)!」
「了解(ヤー)!」
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)の言葉にコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が頷き、G.G.(グラビティガン)のトリガーを引く。
 二人は調査隊の最前列に立ち、湧いてくるガーディアンたちへと攻撃を加えていた。封印のカギと思われる巨大な剣は、慎重な輸送を必要とされる。二人は運び役を他のメンバーに委ね、前線で戦うことを選んだのだ。
「再装填(リロード)完了。続けて正面、重力攻撃であります!」
「了解。ワタシも援護するわ!」
 吹雪が正面に手を翳すと、正面に迫っていたガーディアンの動きが目に見えて遅くなる。何倍にも増した重量を地面が支えきれず、バキバキと音を立てて陥没した。そこへコルセアの重力弾が命中し、ガーディアンは自らの重みで崩壊した。
「ゴー、ゴー、ゴー! であります!」
 吹雪は大きく手を降って、後ろの仲間たちへ前進を伝える。
 進んだ距離は10メートルにも満たないが、一行は確実に向かう場所へと近づきつつあった。
「しかしキリがないでありますな! お、自分なにか極限状況で新しい商いの案が浮かびそうであります!」
「それはきっと吊り橋効果じゃないかな、って思うよ」
冷静なツッコミを入れながら、コルセアが眼前の敵へ照準を合わせ、引金を引く。なんとなく“吊り橋効果”の定義が間違っているような気がするが、そんな事を気にしている暇はない。
「標的沈黙(エネミーダウン)!」
「奥の敵も倒してから進むであります。しかし、ガーディアンは我々二人ではなく後ろを狙っているようでありますな。やはりあの出土品がカギで間違いなさそうであります」
 吹雪はそう言いつつ長大なライフルを構えた。スコープの奥に敵の頭部を収め、一射。流れるように右の敵、更に左の敵へとエネルギーの弾丸を贈呈する。
 都合3体のガーディアンが、見事な頭部射撃(ヘッドショット)を叩き込まれ、機能を停止した。
 簡単な行為に見えてしまうのは、それだけ吹雪とコルセアの技倆が卓越しているからだ。前進の速度こそ速くないとはいえ、1体たりとも彼女たちの後ろへと侵入した敵はいない。出土品に傷がつくことを恐れた故の慎重な行動ではあったが、それは今のところ功を奏していた。
「よし、これであの石碑までの場所が開けたであります! 我々が援護をするので、一気に走り抜けるであります!」
 吹雪のことばに、剣を持った仲間たちが走り出す。彼らへと降り注ごうとした黒い稲妻を重力弾とエネルギー弾が相殺し、彼らは無事に渦を巻く黒いエネルギー体の前へと到着した。
「あとは封印が完了するまで、ワタシたちが防衛すればいいわね」
「でありますな。危険は自分たちが排除するので、皆は封印に集中するであります!」
 二人はそれぞれ柱や石版を遮蔽にとり、防衛戦へと移行する。
 黒いエネルギーはその大きさを増し、最深部に龍の唸りの如き音が響きはじめていた。

 *  *  *

「やっと辿り着いたな」
レン・オズワルド(れん・おずわるど)は漆黒のエネルギーを見上げ、仲間と共に抱えてきた大剣を静かに地面へと下ろした。傍らではルカルカ・ルー(るかるか・るー)が持ってきた機材の組み立てを始めている。
「かなりエネルギーが強くなってるけど、魔法装置の起動は問題なし。外部班との通信も……うん、大丈夫だね!」
「遺物に破損はない。レンの言うとおり、慎重に運んできて良かった」
ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が大剣の状態を確認して安堵の息をつく。辺りを見回すと、周囲には無数の石版があり、床にも天井にも古王朝時代の文字がびっしりと書かれていた。
「遺跡解析チームの情報では、剣と対になる封印器があるはずだ。ダリル、ルカ、俺は壁面部の文字を撮影する。おまえたちは床と石版を頼む」
「うん、こっちはルカたちに任せて。吹雪たちが守ってくれてるけど、レンも気をつけてね! 機材の操作や画像の送信はルカがするから、ダリルは分析をお願い!」
「あぁ、任せておいてくれ」
 ルカとレンは携帯とビデオカメラを手に、危険のない範囲で撮影を始める。ダリルは端末の前に陣取って、調査隊と外部調査を担当したメンバーとのカンファレンスに入った。
 レンはエネルギー体から放たれる黒い稲妻に気をつけつつ、遺跡内を歩く。
(……たしか、鏖殺寺院が作り上げた基地だったか)
 天井は古代文字の他に、後で付け加えられたのであろう何枚かのレリーフがはめ込まれていた。戦い合う兵士たち、黒い龍、鏖殺寺院を率いたダークバルキリー……遙か昔に起こった戦争の歴史の一端が、そこには描かれていた。
 ルカが小首を傾げて言う。
「そのレリーフ、鏖殺寺院じゃなくて封印した古王朝の人たちが付け加えたものなんじゃないかな? 基地の最深部って司令室や一番重要なものを置く場所だから、普通は置かないよね」
「……そうか……! レン、ルカ、レリーフの周囲を映して映像を転送してくれ。そのレリーフが古王朝側が加えたものだとすれば、剣と封印器……“鍵”と“錠”の扱い方を残す必要があるからじゃないのか」
「あっ! じゃあ、封印のヒントや方法が書かれてるかもしれないね!」
 レンとルカは急いでレリーフの周囲を撮影し始める。ダリルは研究者や大図書館の仲間と話し合い、必要と思われる情報を送り、意見を交換し合う。
「……“龍を縫い止める剣”か。縫い止めるということは、やはり差し込む場所がある、ということだな。中核部分の周囲一帯が、後で増設された封印基盤ということか」
「角度や差し込む深さは、決っているのか?」
「あぁ、いま聞いてみる。古代文字のなかに、それらしい記述はあるか? ……“大樹の如く”か。角度は垂直で間違いなさそうだ」
 大図書館から、次々と情報が送られてくる。皆の連携が、着実に実を結ぼうとしていた。
 だが――。
「……駄目だ、肝心の剣を刺す場所を刺した記述が風化で消えている!」
 ダリルが拳を震わせる。あと一歩……封印直前で、最後のピースが消失していたのだ。剣を差し込む場所は無数にあり、下手に差し込めば二度と抜けなくなってしまう可能性すらあった。
「何とかならないのか、ダリル? 他の遺跡の情報から割り出すとか、方法はあるはずだ」
「あぁ、諦めるつもりはない。外の皆も懸命に情報を集めている……だが、間に合うか……!?」
 闇龍のエネルギーは少しずつ大きさを増し、びりびりと彼らの肌を震わす。最も近いこの場所がいつ呑み込まれてしまうのか、とても危うい状態だ。
「……ねぇ、封印を破ったのって、この場所だよね」
「あぁ、そうだろうな。それがどうかしたのか、ルカ?」
「うん。もしかしたら、分かるかも……」
ルカはそう言って、拾い上げた金属の破片を捧げるように持ち、目を閉じる。
 その欠片こそ――最初に破壊された剣の一部だ。
「お願い、教えて……!」
 ルカは剣の欠片に意識を集中する。
 その脳裏に、いくつかのイメージが浮かび上がった。
 古代の衣服をまとった神官。
 レリーフを天井へと設置する彫刻家。
 剣を担いだ屈強な戦士たち。
 それは、遙か昔に行われた封印の儀式だ。
“夜空を照らす月こそ闇の力を縫い止める力となる。月の昇る方角に、剣を大樹の如く突き立てよ”
「……っ、月の昇る方角!」
「ルカ、剣の“記憶”を読んだのか! 月の昇る方角を算出してくれ!」
 大図書館の仲間たちが、ものの数秒で答えをはじき出す。
「南東へ10度……レン、そこに差し込む箇所はあるか!?」
「あぁ、ある!」
 己の危機を悟ったか、闇の球体が一際大きく鳴動した。
「みんな、やろう! この事件を終わらせようよ!」
 最深部へ駆け込んできた仲間が、防衛に専念していた仲間が、剣の周囲に集う。
 皆の力を合わせ持ち上げられた巨大な剣は音もなく、それが自然な姿であるかのように突き立てられた。
 その瞬間、闇が――晴れた。
 遺跡全体を震わせていた不気味な鳴動は鳴り止み、ガーディアンたちが動きを止める。あれほど凶暴化していたモンスターたちは、気が付けば一匹残らず姿を消してしまっていた。
 通信機の向こうで、遺跡の各所で、歓声があがる。
 危機は去ったのだ。

◆結◆

 シャンバラ北東部で起こっていた異常気象は、何の前触れもなく唐突に消え去った。
 とんでもない危機が未然に防がれたのだとも知らず、人々の記憶からこのことはすぐ忘れ去られてしまうだろう。
「パパー、おそとはれた!」
「お、本当だ。明日は良い天気になるといいな」
「うんっ、はれますように!」
 父親に抱き上げられた子どもが無邪気に笑う。
 彼らが命をかけて護りきったものたちを、顔を出した月の光がやさしく照らしていた。

 ―――「カウント・トゥ・デストラクション」fin

担当マスターより

▼担当マスター

からすば晴

▼マスターコメント

 マスターのからすば晴です。
 みなさんの活躍で、危険な遺跡を再封印することが出来ました!
 調査や救助、戦闘や封印作業と、素晴らしい連携プレーだったと思います。周辺の被害はなく、救助隊も全員が帰還となりました。
 序と結に出て来たこどものような、たくさんの笑顔を守ったのは、他でもない皆さんです。
 こんな冒険シナリオの他にも、学園や都市を舞台とした小事件なども作っていきたいな、と思っています。よろしければ、また、シャンバラのどこかでお会いしましょう!