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トキメキ仮装舞踏会

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トキメキ仮装舞踏会

リアクション


3 本音、さらさせまくります

 その頃になって、会場の一部の人の間で、本音を言わされるクッキーのことが話題になり始めました。
「なるほど、食べると本音を言わされるクッキーですか……」
 軍服姿の山南 桂(やまなみ・けい)はクッキーを手につぶやきました。
「それはいいですね。主様に食べさせていますか……」
 そして、星型クッキーをいくつか手にとると、さりげない風をよそおって神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)に近づいて行きました。
 翡翠は柱に背をもたせかけてワインを飲んでいます。
 翡翠は桂と同様、軍服着用。白の手袋をはめて、軍帽を被った軍人の仮装をしています。
「ずいぶん賑やかですねえ?」
 翡翠は言いました。
「本当に」
 桂はうなずきます。
「人も多いですけど、主殿、このお菓子食べませんか?」
「なんです? クッキーですか?」
「はい。めずらしい物のようですよ」
「珍しい……ですか。甘い物は、苦手なんですけど……せっかくだからいただきましょうか」
 そして、クッキーを受け取ると、何の疑いもなく口に放り込みます。
 食い入るようにその姿に見入る桂。
 しばらくすると翡翠の様子がおかしくなってきました。
 目がトロンとして、何か言いたげに口を動かしています。薬が効いてきたのでしょうか。
 すかさず、桂はたずねました。
「主殿? 私に隠している事有りませんか? というか。ありますよね」
「え?」
「なにしろ、主殿は隠している事多すぎなのです。
 この機会に、話して貰いましょうか、全部は、無理でしょうけど」
「ああ……」
 翡翠は何かを言いたそうですが、なかなか口を開こうとしません。
「言いにく事なんですか?」
 と桂がたずねます。
「いえ……そ……そんな事は、無いんですけど、」
 翡翠は首を振りました。
「ただ……ただ……巻き込みたく無いだけです」
「巻き込む?」
「そうです…………自分だけで、十分…………それに、あまり時間が……無い…………役目の交代が……」
「役目? 役目とはなんですか?」
「……実家の地下の龍脈の制御……です」
「龍脈の制御?」
 その言葉に、桂は驚きました。
「龍脈の制御、その役目をあなたが?」
「そうです。引き受けるともう地上には……」
 そこまで言ったとき、翡翠の体がふらつきました。
 どうやら、一緒に飲んでいたワインに酔ったようです。
「あ……れ?」
 翡翠はつぶやくと、そのまま倒れて行きます。
「危ない」
 桂は慌てて倒れて行く翡翠の体を抱きとめました。そして、
「主殿? 大丈夫ですか?」
 翡翠に呼びかけました。
 翡翠はすーすーと寝息を立てています。
「お酒、弱かったとは……知らなかったですが、はあ、重いですねえ……」
 桂は翡翠を支えながらため息をつきました。
「それにしても、龍脈の制御ですか……主殿は、優し過ぎますから、代わりに引き受けたと思いますが、まさか、弟と同じとは……」
 実は桂の弟も龍脈の制御をしていたのだが、かつて、桂の身代わりとなり死んでいたのです。
 これは、ただの偶然なのか……なにか、きな臭いものを感じます。
「これは、詳しく調べる必要有りそうですね」
 桂は考え込みました。


「どう? 似合ってるだろー?」
 フライトジャケット&軍服、頭にゴーグルをつけ、飛鳥 桜(あすか・さくら)がドヤ顔で、胸をそらします。
「仮装は軍服さ☆ 一回着てみたかったんだよね!」
 すると、同じく軍服……こちらは黒軍服を着たアルフ・グラディオス(あるふ・ぐらでぃおす)が無愛想に言いました。
「舞踏会なのに何で軍服なんだか……ぜってー浮くだろ」
 そして、広間の中央を眺めます。そこでは、華やかな人達が輪になって踊っていました。
 そのきらびやかさに、場違いな感じを抱くアルフ。
 (実は軍服の参加者は多かったのですが、アルフの目には入らなかったようです)
 深くため息をつくと、テーブルの上に目をやりました。
 こんな時は食べるのが一番です。
「はあ……菓子でも食べよ。この星型クッキーとか、うまそうだし」
 その姿をルカルカ・ルー(るかるか・るー)が怪しい笑みを浮かべて見ていました。
 その、視線に気付き……。
「なんだよ? その怪しい笑みは」
 アルフが言います。
「ううん。なんでもないよーー」
 ルカルカはどうみても、なんでもないことはないだろうという怪しい笑顔で答えます。
 実はルカルカは、本音を言わされるクッキーの噂を小耳に挟んでいたのでしたが、もちろんヒミツです。
「? 変な奴」
 アルフは首を傾げながらも二枚目のクッキーを食べようとしました。
 その時、頭がとろけてくるような気がして、おかしな気持ちになってきます。
 すかさず、かつ、とてもさりげなーい口調でルカルカがアルフに言いました。
「ところで、アルフ。やっぱり愛って素敵よねぇ。好きな人のそばにいると心が暖かくなるもんねぇ」
「うん。そうだな……って、え?」
「でさ、今までで一番嬉しかった事ってなあに?」
「嬉しい事? って……そりゃあ、桜に最高のパートナーって言われた時だよ……って、えええーーー?」
 アルフは混乱しました。
(ちょ……ちょちょちょちょ待てよ)
「え?」
 突然、自分の名前を呼ばれ、驚いた桜が振り返ります。
 明らかに動揺しています。
(そんな顔すんなよ。俺だって、驚いてるんだよーーー。でも、口が……口がかってに……)
 アルフの同様にとどめをさすように、本音が飛び出します。
「オレだって……オレだって桜が最高だあーーーーー!」
「な……なななな。なんなんだよ、と、とととと突然……」
 桜は完全にパニクっています。
 アルフはだめ押しするように言いました。
「最高なんだよおおお」
(ひーーー黙れ、俺! 何で本音なんか言ってんの、俺? 本音は見せねえのが俺だろおがああああ……!)
 桜は桜でパニック最高潮になっています。
(……こ……こここここれは、いわゆるデレって奴かい? 突然すぎて吃驚したじゃないか…!
 わ、わー……何か嬉しいけど、恥ずかしいんだぞ……ていうか、嬉しい)
 その桜に、ルカルカが何か耳打ちしました。
 すると、桜の表情が変わります、
「な……なるほど、クッキーが原因……ってね」
 桜はうなずきました。
「よし、それじゃあもう一回!……」
 そして、アルフの口にもう一枚クッキーを放り込みます。
「って、何でまた食わせr(もご」
 慌てふためくアルフに、ルカルカがリポーターのようにたずねます。
「では、アルフ君。今、君が一番やりたい事は?」
「やりたい事?……桜とキスしてぇ。……一回きりだったし……って、おい!」
「き!!?」
 桜の顔がさらに赤くなりました。
「最後に、アルフ君。君の一番の思い出は?」
「思い出……桜からいつもつけてるリボンを貰った事かな。……俺のお守りにしてる……っていい加減にしろーーーー」
「うーーーん」
 アルフの答えにルカルカはほんわりしています。
「やっぱり、愛って素敵よね!」
 しかし、アルフの方は完全にパニックです。
(何でこんなに赤裸々に答えてるんだ、俺……!? 恥ずかしすぎるぞ畜生……!!)
 そして、パニックを押し隠すように桜に向って言いました。

「……桜……聞いたからには覚悟しとけよ!」
「ひゃ!」
 桜の胸がドキンと鳴ります。
(せ……宣戦布告されてしまった……。落ち付け、クールになれ、僕……アルフがデレ(?)ただけじゃないか、いつも素直じゃないな☆ってからかっていたのはどこの誰だい。僕だろ!! だ。ダメだ。お、落ち付くなんて無理だー!)
 その時、ずっと彼らのやりとりを黙って見つめていたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が言いました。
「悪趣味な……本音を言わせるクッキーで人の恋愛話を根掘り葉掘り聞こうとは……」
 その言葉にルカルカがむむっと振り返りました。
「ダリルはそういうトコ凄く冷めてるね。特に男同士のアレソレは毛嫌いレベルだよね」
「ああ。そのとおりだが?」

「古いよダリル。愛があるなら性別なんてってのが今の世界だよ。どうして男同士だけそんなに嫌がるの?」

「嗜好の差だ」

「それだけとは思えないなあ」

「下らない話しをするなら俺は帰るぞ」
 そう言うと、ダリルは席を立とうとしました。
 すかさずルカルカがクッキーを手に襲いかかります。
「うわ! なにをす……」
 ルカルカはダリルを抑え込むと、馬乗りになって服をひんむき始めました。
「よせ! なにを……」
 抵抗するダリルの目の前にアルフが仁王立ちになります。
「本音を言うクッキーだと? ふざけんじゃねえよ」
 アルフは、背中に青白い炎を背負っています。
「そんな事で、オレはあんな恥ずかしい告白を……くそ! この恨みはらさでおくべきか……。というわけで、何か腹立ったんで、お前にも食わせようと思う」
「逆恨みだろう?」
「知った事か! さあ、素直になろうぜー?」

「ぼ……僕だって、いきなりあんな事言われて……」
 いつの間に来ていたのか桜も言います。
 その手にはクッキーが握りしめられています。
「混乱しそうなんだ……だから、混乱する前にダリルにクッキー食わせるのを手伝うんだぞ!」
「お前達、言っている事が変だぞ!」
「問答無用!」
 そう言うと桜はルカルカとともにダリルを抑えました。
「さあさあ! 君も言っちゃえよ☆」
「うわ、やめ(もご」
 桜はダリルの口にクッキーを放り込みます。
 そして、皆で協力してダリルをひん剥いていきました。
 上着が剥かれます。

「よせ! 悪乗りし過ぎだぞお前ら」

「良いではないか良いではないか♪」
 暴れるダリルをルカルカが羽交い絞めにします。

「離せパワー馬鹿!」
 ダリルは抵抗しますが、既にシャツも半脱げで絵的にヤバくなっています。
 が、ダリルの口から本音らしいものは出てきません。 
「流石はダリル、一筋縄では落ちないか……」
 ルカルカが額の汗を拭いながら言いました。そして、
「アルフ、やーっておしまい♪」
 アルフに命令します。
「御意!」
 アルフはクッキーを手に頷きました。そして、ダリルにクッキーを食べさせながら耳元で囁きます。

「抵抗しても無駄だぜ? ……話せよ」
 そして、心の中でほくそ笑みます。
(くくく…どうなる事やら……)
 まさに悪魔です。
「あ……、ぐ……っ」
 ようやくダリルの様子がおかしくなってきました。さしもの冷徹な思考機械も二枚分の薬には勝てなかったようです。
 アルフは再びダリルの耳元で囁きました。

「話せよ。話せば解放してやるぞ」
「く……」
 ダリルは眉根をひそめて話し始めます。

「知人の男性からその行為を、強制的に受けさせられた経験が有……って。どうもそれ以来、ああいった関係を見ると思い出されて……だな」
「何?」

「生殖に繋がらない不自然な行為なのは確かだろ。くそ……。もう、察しろよ!」
 さすがにこの告白にアルフは抑えていた力を緩めました。
 その隙を突いて、ダリルが逆襲しアルフを組み伏せ、服をひん剥いていきます。
「うわ! 何をす……」
「……調子に乗りすぎたわ」

「ざ……ざけんな!! 調子に乗ったのは認めるけど!? 剥かれてたまるかぁ!!」
 暴れるアルフ。
 その頃、ちゃっかりと難を逃れたルカルカと桜は……
「わー…男二人で何やってんだろうねー(ぉ ……こんなの滅多に見れないし、写メっちゃえ★」
 スマホで撮影タイムに入っています。
「お前ら、ちゃっかり撮影してんじゃねえよ」
 あばれるアルフの首を左手で鷲掴みにし、力を込めてダリルが言います。

「いいな、ここだけの話にしろ。誰かに話したら、お前を……殺す」

 目に殺気が宿っています。
「あー、悪い。マジ悪い。言わないから放せって」
 ダリルは無言でアルフの体を放しました。
 ルカと桜が寄って来て言います。
「洒落にならなかったねー」と、ルカルカ。

「分った忘れる。すぐ忘れるぞ」と、桜。

「だから嫌だと言ったろうが」
 ダリルは背中を向けて言いました。