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リアクション
第10章 海で遊べる者なんか呪ってやるッ Story3
「はぁ…。やっと大人しくなりましたわね。…問題はこれからですわ、どう説得したらよいのか……」
「私に任せてもらえる?」
悪さをやめさせる方法を考えたフレデリカが言う。
「何かよいアイデアがあるようですわね」
彼女に任せてみようとエリシアはニクシーから離れる。
「フリッカ。昼間に遭ったグラッジはいないっぽいよ?」
「そこで説得しても、広めてくれるわけじゃないのね」
もう1度言うべきかと判断し、グラッジのほうに顔を向ける。
「あなたたちと同じ相手にも言ったけど。人の幸福を妬む暇があったら、少しでも自分が幸せになれるように努力すべきよ。例えばほら、とりあえず、海で遊べる人が憎くて憎くてたまらないニクシーさんたちと、一緒に海で遊んでくるとかしてみたらどうかしら?」
「(なるほど、グラッジとニクシーをくっつけてしまおうという訳ですね)」
リア充にしてしまえば、確かに人を苦しめるのをやめるかもしれないとルイーザは心の中で呟いた。
「(そういえば、グラッジやニクシーの恨みや妬みが解消されちゃったらどうなっちゃうんだろー?)」
フレデリカの話しを黙って聞いていたスクリプトは、脳内に疑問符を浮かべる。
グラッジは悪霊の魔性だし、水の魔性であるニクシーも幽霊みたいな存在かな?と考える。
ひょっとして、成仏して消えてしまうのでは…。
消えるならこのままのがいいかも…とも考えた。
「(ボクも消えるのもやだし、ずっと恨み続けるのもやだし。難しい問題だよね)」
いろいろ考えてみたものの結局、どっちがよいかと答えを見つけられなかった。
「ニクシー?ウミ、ハイレナイ」
「海に入れなくっても、その近くで遊んでみるとかね。それに、私だって出来ることなら、あなたたちと争ったりなんてしたくはないの。もしこれ以上、町の人を苦しめるのを止めないんだったら私も“それなりの方法”をとらないといけなくなっちゃう。だからお願い、エリドゥの人たちを妬んだりするのは止めてもらえないかしら?」
黙って聞いているニクシーへ視線を戻す。
グラッジとニクシーは互いに、ボソボソと小さな声音で相談し合う。
「ゥ…ン」
「人とも…近づける?」
「あなたが呪いをかけたり悪さをしなければね」
「クローリス……人といるのか」
「人間と暮らしている魔性が珍しいんですかな?」
魔性が人と共に生きる姿を、見たことがないのかというふうにガイが言う。
「暮らすのは、珍しくない。けど、協力するのは、…珍しい」
「ほう…、共存しているんですな」
「そりゃ初耳だな」
種族として確認出来る者たちが共存しているのはラルクも知っている。
クローリスやポレヴィークを召喚して協力してもらうのではなく、共存して暮らすという点は少し異なる。
術者の精神力によって呼び出し、特に用事がなければ呼び出すことは少ないだろう。
「ワタシたちも、人も。限られた者しか、行けない」
「俺たちからすれば、一緒に暮らしてるほうが珍しいんだけどな」
「……そう?ん……。海に入りたい…」
「(っと…話しがそっちに戻ったか)」
海に入れるようにしてやりたいが、さすがにそこまでは出来ない。
「やっぱ海で遊びたいってことか?」
「ムカシは、そう。今は、少し違う」
「どんな理由だ?」
言葉を考えているのか、ラルクたちは黙ったまま待ってみるが…。
やっと喋った言葉が、“帰る”の一言だった。
需要な部分の返事がなく、まるで宇宙人と会話している気分だ。
「なぁ、フレデリカ。帰しちまっていいのか?」
「うーん。でももう、悪いことはしないと思うから」
「フリッカ。グラッジがどっかに行っちゃうよ」
「そっちもきっと…大丈夫よ。(海に入りたい理由が少し違うって、どういうことかな。それに…、人に協力する魔性って、そんなに珍しいのかしら)」
ビバーチェやルルディを見て、何を考えていたんだろう…と気になってしまう。
「ノーン、毒の治療を急がねばなりませんわ」
アイデア術のモードを解除するため、一度帰還させて再召喚する。
「ビバーチェ、解毒薬を生成しなさい」
「4つでいいかしらね」
ジュース状の薬を生成し、葉のカップに注いで渡す。
治療を終えたセレアナたちに取り押さえられている者に急いで飲ませる。
「これを…。そろそろ取り除かなければ、毒がさらに進行します…」
「ありがとう、ルルディちゃん」
ルルディに作ってもらったジュースタイプの薬を受け取り、ノーンも町の住人に飲ませた。
「アタシは海上からニクシーを探したいのだけど。探知役を頼めるかしら?」
グラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)は不可視にもなれる相手に、宝石使いなしで挑むような愚か者ではない。
アークソウルを使えるレイカ・スオウ(れいか・すおう)に同行を頼む。
「別に構いませんが…」
「決まりね。私の後ろで対象の位置を伝えて」
昂翼のアネモイでついてきてもらうのもよいが、捜索中に余計な疲労をさせてしまわないように、箒に乗せることにした。
「では…後ろに失礼いたします」
グラルダの箒に乗せてもらい、アークソウルの探知能力を発動させておく。
「…シィシャ。付け焼刃とは言え、地の利は獲ったわ。アタシが弱らせ、アンタが叩く。いいわね」
パートナーの命令に、シィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)は静かに頷いた。
「ただし条件が一つ“完全に祓うな”ニクシーと交渉したい」
「グラルダ、貴方は矛盾しています」
特訓の内容を頭で反復し、問題がないことを確認した上で命令に従う仕草をした。
だが、それと異なるものではないのか、理解しがたいと訴える。
「祓うべき対象に“異なる役割を与えるなど”不可能です」
「…それを、何だと思っていた?祓うということは、完全に祓うこととは限らない」
「魔道具の使い方を、教えるだけではなかったのですか?」
「それも扱うための教えとして覚えておきなさい。完全に祓うべきものなのか、いずれは自分自身の頭で判断しなければならなくなる」
これはただの授業ではない。
祓う判断をするための訓練でもあると告げる。
「私は宝石を扱う者ですが…。ハイリヒ・バイベルを使う方々は、そういった考えも学ぶ必要があるんですね…」
「えぇ。人が人を裁くことと、同じくらい難しいことよ」
「寛大な心を持て、ということですか」
シィシャが横から口を挟む。
「広かろうが狭かろうが、そんなものは問題じゃない。要は曇った目で判断するなということよ」
「物事を総合的に考えろ…と?」
「それは自分で理解しなさい。アタシはアンタに答えをやつもりはない」
何を基準にするか、状況を把握する力を身につけろと言う。
「なかなか興味深い話だねぇ」
佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は海に落ちないように、賈思キョウ著 『斉民要術』は農業専門書に運んでもらいながら聞く。
「ねぇ、落としていい?」
「いやだよ、服が濡れちゃうじゃないか。で、なんで海上にいるわけ?」
「海上で祓うっていうし、いたほうがいいかなってね。アークソウルの鍛錬もしたいし」
黄色以外の色で識別可能にしようと執念を燃やし、“獣人は橙、魔女は緑、魔性は赤”と脳内でイメージしている。
「あっちは海からか…」
ニクシーを探しているグラルダたちを樹月 刀真(きづき・とうま)が見る。
「水人形は行動出来るのよね」
「本物は浜辺でしか行動できないやつってことだな」
「こっちも宝石使える人こないかなー」
「俺の殺気看破だけじゃ不安ってこと?」
「ん〜…?」
刀真に漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は曖昧な表現で返す。
「3人だけなのかのぅ?」
「皆、あっとゆう間に誘い合ってるからね、羽純」
「こればかりはいたしかたないことじゃな」
「気合で混ざりにゆけば問題ないだろ?」
「誰とも組んでないなら、私たちとお願い!」
月夜は宝石使いと護符使いを確保しようと誘う。
「うむ、構わぬ。それにしても、二クシーは淡水の魔性よな?なぜ、海に対しての憎しみが強いのかのぅ?ひょっとして海では人が多く来て賑やかじゃが川は人が少なくてさみしいとかそんな理由だったりしてのぅ」
「どうなのかな、…分からない」
「なんにせよ、話してみねば解らんことかの。…む、さっそく目に見えぬ者がやってきたようじゃ」
アークソウルが強く輝きを示し、不可視の存在を感知する。
「…アナタ、分かるの?」
「ほう。グラッジとは異なり、感じることが出来ると分かったようじゃのぅ」
「ずっと…こっちを見ていた。アナタ、海は好き?」
ニクシーは一方的に、草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)に話し始める。
「さぁな。妾の答えを聞いてどうする?」
「海に入れるやつ…皆、嫌い」
ニクシーは姿を見せると、水のない場所から自分そっくりな水人形を出現させる。
「どこからでも作れるのか」
水の魔性の攻撃に備えて刀真は鞘から白の剣を抜く。
「本体とまったく同じ姿か。本体はどれだ?」
玉藻 前(たまもの・まえ)が刀真に聞く。
「そんなすぐには分からないって」
「むっ、来るぞ」
「ブリザードかっ。…うわ、寒っ」
いっせいに放れた吹雪を、煉獄斬で相殺するように斬り払おうとするが…。
魔法の雪が炎で気化してしまい一瞬、視界がゼロに等しくなってしまう。
「(これじゃ何も見えない…。どこにいる…っ)」
殺気看破で気配を探す。
「そこか!」
本物かどうか素手で触れようとするが、触れた感覚がまったくなかった。
「月夜、玉藻。こいつが本物だ!」
「海で遊べるやつらなんて、皆…不幸になってしまえばいい」
ニクシーは手の平から黒い蛇を出現させ、刀真に噛みつかせる。
「―……っ!」
「ヘビが噛んだっ!?」
「…だが、すぐに消えてしまったな」
玉藻たちの前で噛みついた黒い蛇は姿を消してしまった。
「ククク、あははははっ」
本体は水人形の中へ紛れこむ。
「いかんな、呪いにかけられてしまったか。羽純、呪いを解除するんだ」
「うむっ」
フレアソウルの炎を纏い、刀真の元へ急ぐ。
「くそ、不幸になる呪いか…っ」
パートナーに財布を奪われて勝手に使われ、魔法学校の校長に風呂場を覗いていたと思われたのに。
これ以上、何の不幸が訪れるのか正直恐ろしい。
「分かった…俺がそっちに行く」
「待て、無闇に動くでない。…なっ!?」
「あっ…ぶはっ」
草薙羽純のほうへ行こうとしたが、パスファインダーの能力があるというのに、何もないところで躓き顔面から倒れてしまった。
「なんてことだ…、これが呪いの力なのか」
剣を支えに立ち上がり、口についた砂を手で拭う。
「…空から何か降ってくるような……うぁっ!」
呪術をかけられた彼の頭部を目掛け、空から雹が降り注ぐ。
「チッ、当たれば入院するくらいの不幸だったのに」
「ふ、ふざけるな!」
「くふふ…、オマエの不幸に誘われて、アイツラが来た」
「誰が…」
「気配の数が増えたな、グラッジか?」
アークソウルの探知領域に目に見えぬ者の気配が増えてしまった。
不幸にされた者を狙ってきたのだ。
「グラッジのことは私たちにお任せくださいな。リトルフロイライン、撃ちなさい」
陣たちに可視化してもらい、二丁拳銃モードにしたリトルフロイラインに撃たせる。
「不幸の起こりかたが、西洋の黒魔術のようじゃな」
「こいつの魔法は儂が防ぐ。羽純は刀真の呪いを解除してやれ」
「頼んだぞ」
ニクシーの魔法対策は夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)に頼み、草薙羽純は刀真の元へ向かう。
「ワタシの呪いを解除?…させないわ。フッ、…フフフ……」
「(…長くは持ちそうにないが、耐えるしかあるまい)」
甚五郎はオートバリアの聖なる気で、ブリザードを防ごうとする。
「(影が現れたか。さぁ、刀真から出て行くがいいっ)」
草薙羽純はホーリーソウルの気で、蛇を模した影を捕まえる。
浄化の光で捕縛したものを、刀真の身体からズルズルと引きずり出す。
「隙あらば逃げようとするとは。まるで生きているような感じじゃな」
手で握るようなイメージをし、ぎゅっと収縮させて消滅させた。
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